ちょっと長すぎたかも?
一回戦です。
『ヘイガイズ、アーユーレディ!?
色々やってきましたが! 結局これだぜガチンコ勝負!
頼れるのは己のみ!! ヒーローでなくともそんな場面ばっかりだ! 心技体に知恵知識、総動員して駆け上がれ!
一回戦第一試合、始めんぜー!!
成績の割に何だその顔、ヒーロー科緑谷出久!
騎馬戦では二位通過! その実力は未知数、普通科ぁ心操人使!』
雄英体育祭最後の種目、選ばれた者の舞台。
会場全体が盛り上がる歓声の中、遅れて現れた総髪の男子生徒が生徒専用席の階段を降りてきた。
それに気づいた上鳴電気が手を挙げて彼を呼ぶ。
「よう御舟、遅かったな。第一試合もう始まんぞ」
「こんなギリギリまで、どこ行ってたんだ?」
「野暮用と…まぁ緑谷と話しをな」
長物袋を椅子の下に横たえ、腰を落ち着けながら高志朗はそう言った。
切島が顎に手を当てた。
「へー、話? おっもしかしてアドバイスとかか!? 緑谷の相手って確か普通科の……」
「緑谷さんの今回の相手……第二種目では御舟さんと騎馬を組んでいましたわ」
「おお! てことはあの普通科の“個性”教えたのか。優しいな御舟!」
◇
レクリエーション終了後。
雄英の教師であるセメントスが試合場を【セメント】で形作っている時のことであった。
「御舟くん、良かったここに居た!」
「緑谷? どうした」
「はぁ……はぁ…その、御舟くんに教えて欲しいことがあって…」
言葉に詰まる彼に、高志朗はゆっくりで良いと息を整えさせる。
すると緑谷は、高志朗の肩に掛かった長物袋に気がついた。
「もしかして、御舟くんは武器申請の帰りかな。ごめんね!」
「そんなところだ。それよりも、教えて欲しいこととは何だ」
「ああ……えーと、こんなこと聞くなんてフェアじゃないと思われるかもしれない……けど、やっぱり相手のことは知っておきたくて」
「お前さんの一回戦の相手は……」
心操人使、普通科の男子生徒だ。確かに彼の“個性”は言われなければ分からない。究極の初見殺しだ。
「そ、そう! 普通科の心操くんなんだけど。せめて“個性”を知りたいんだ。だめ、かな……? 御舟くんが話したくないなら別に──」
「──奴の“個性”は【洗脳】。質問に対して返答をすることにより、相手の体と心を意のままに操る」
「せんっ……!?」
絶句した顔を高志朗に向かって振り仰ぐ緑谷に、目を瞑って小さく笑う。
教えてくれたことと、その“個性”の凶悪性に戦慄した緑谷の肩に手を置いた。
「時間が無い……とにかく、心操人使の言うことには一切耳を貸すな、返答もするな。真っ直ぐ突撃し、撃破しろ」
「う、うん……分かった! ありがとう御舟くん!」
「すまんなぁ、レクに出ていたからお前さんに十分な助言ができない……」
「そんなことないよ、“個性”が分かっただけでも全然違うから! でも、御舟くんは教えてくれないと思ってたから、少し意外だったなぁ」
あはは、と苦笑いしてそう零す緑谷に、高志朗は後ろを向いて歩き出す。
「戦う前に相手を研究することは何も恥ずかしいことでは無い。相手を知ることも戦いの基本だ。
お前さんが自らこうやって訊いてこなければ、俺は何も教えるつもりはなかったからな。聞いたもの勝ちだ。──勝てよ」
「あ……」
「ここまで来たら、入賞者をA組で染め上げるのも良いと思ってな。とは言え、他クラスは三人しかいない訳だが」
「……聞かれたから答えただけだ」
「因みにここで俺に教えてくれたりは?」
「無闇に他人の“個性”を明かすわけにはいかんなぁ。お前さんの対戦相手は心操ではないだろう?」
「ですよねー」
戦う相手の“個性”を裏で探る、これも立派な戦略だ。
騎馬戦では心操を味方として高志朗は接したが、舞台が変わったいまは関係無い。
それに、緑谷と心操のどちらが勝って欲しいかと聞かれたら、迷いなく同じクラスメイトである前者を高志朗は選ぶだろう。実際、あっさりと心操の“個性”を緑谷に明かした。
『レディィィィイッ────
普通に戦えば緑谷に軍配が上がる。しかし、体育祭前の教室や、騎馬戦のチーム決めでの出来事から、心操の気性はどこか濁っていると高志朗は考える。
「それに比べ、緑谷の純粋さと来たら。もしかしたら、危ういかもしれん」
「危ういって……?」
疑問符を幾つも浮かべる上鳴。
「何かご懸念が?」
続いて隣りに座っていた八百万が高志朗に訊いた、そのときだった。
『オイオイどうした大事な緒戦だ盛り上げてくれよ!?』
『緑谷、開始早々完全停止!?』
「一体……どうなってんだ?」
「緑谷……」
何のために持ち込んだのかはもはや問うまいが、峰田が持参した双眼鏡で試合場を覗いていた。
「み、緑谷の奴、何もねえとこ見つめたまま、う、動かなくなっちまった……み、御舟これっどうなってんだよ!」
「……あの馬鹿めっ」
静かに憤る高志朗。
峰田の説明で予感は的中してしまった。
緑谷は完全に心操の【洗脳】にかかってしまったと見ていい。
「場外に向かって歩き始めたぞ!」
「何らかの術中か、このままでは緑谷はまずいぞ」
腕を組みつつも、常闇からも焦燥が見て取れた。
大方、『場外まで歩いて行け』等の命令が
心操の“個性”については端的にだが緑谷に話した。
謎は多くあるが、対策を講じることはできたはず。
彼の【洗脳】にかかった経験のある高志朗は、予防策はしっかりと緑谷に打ち出していた。
(それができなかったということは、心操が無理矢理に緑谷の口を開かせたな。考えられるとするならば、思わず激昂するような言葉を叩きつけたか)
「打開策は!? お前なら知ってんだろ! 勿体付けてないで言ってくれよ御舟!」
高志朗が下を向いたまま口を開いた。
「……予防策が破られれば、後は己との戦いになる」
「そんな……それじゃデクくんはこのまま……!?」
「第三者からの物理的な接触があれば解ける」
「第三者て……っ」
麗日が愕然とした表情で試合場に顔を向けた。
試合場には緑谷、心操の選手二人と、ミッドナイトが居るのみだ。
まして、ミッドナイトは審判だ。
『従順緑谷ァ! このまま勝敗が決してしまうのか!?』
(意外と激情家だったのか! だがどちらにせよ、いま見せる場面ではないだろう、緑谷……っ!)
あと一歩で場外に踏み出してしまう、その直前────状況が一変した。
『あっ、あーっ!? 緑谷留まったァァァ!?』
崖っぷちに文字通り立たされていた緑谷が、場外のラインを前にしてその歩みを止めた。
何が起こっているのか観客席からでは分からない。しかし、間一髪で敗北を免れた緑谷を見て、いま一番驚愕しているのは対戦相手の心操だ。
そして次点でこの男、御舟高志朗である。
「まさか緑谷、お前さんも修行を積んでそこまでの精神力を……!?」
かかればアウトの心操人使の【洗脳】を、完全ではないが抗って見せたのが高志朗だ。
双眼鏡越しに試合を見ていた峰田の次の言葉で皆が得心した。
「緑谷、体操服千切れるほど自分の体抓ってたみてーだ」
「抓ったぁ!?」
「それで目覚ましたのか! スゲーじゃん緑谷!」
(違ぇ。服が破れる程抓ったってことは、そこに至るまで自力で動いたってことだ
チャンバラ野郎の情報が確かなら、あの普通科の“個性”は【洗脳】されたらそいつの命令以外の動きはできねえはずだからな)
「クソデク。やっぱまだ何か隠してやがる」
一回戦第一試合。
【洗脳】を解いた緑谷は、高志朗の助言通り直ちに真っ直ぐ突き進み、“個性”も使わず心操を場外へ押し出した。
『緒戦にしちゃ地味な戦いだったが、とりあえず両者の健闘を称えクラップユアハンズ!』
緑谷
「み、御舟くん……」
「おお緑谷か。二回戦進出やったな」
「……僕、君のアドバイスを全然活かせなかったよ」
そう肩を落としながら飯田に促されて席に着く。
「ああ見てた、見事に嵌められたな。何を言われた?」
あれ程釘を刺したにも拘わらず術中に嵌ったのは、緑谷の迂闊さもあるが、心操の話術もその要因を担っているだろう。
「……その、えと」
「どうした、悪口でも言われたか?」
「違うんだ僕じゃなくて、御舟くんのことだった」
「ほう……」
心操は、彼との戦いの最中に高志朗のことを名指しで煽ったようだ。
「御舟くんは、躊躇なくひ、人の手を斬り落とす。ヒーローじゃなくて、鬼だって……」
「そんな、酷い……」
『……』
USJ事件の高志朗の行為がこんなところにまで波紋を呼んでいた。
「そうか、あいつがそう言ったか……ふふ、ははっ!」
誰もが表情を曇らせる中、本人は堪え切れぬとばかりに腹を抱えて笑っていた。
「アッハハっそうかそうか、心操がね。まぁ一発で口開かせるにはこれ以上無い殺し文句だ。まったく……」
「御舟……くん?」
「お、俺らが言えたことじゃねえけどよ、もっと怒っていいと思うぜ?」
後ろめたい上鳴が苦笑いで言うも、高志朗は笑ったままだ。
「そんなことで俺が怒るものかよ。ほら、もう第二試合始まるぞ」
「えぇ……」
第二試合。
『白熱したバトルが予想された第一試合が渋~く終わったため、続けてフィールド使っていくぜぇぇぇっ!
その角から出んの? 何か出んの!? ヒーロー科、芦戸三奈!
闇より出し黒き侍。ダークシャドウを従え地上に降り立つ! 同じくヒーロー科、常闇踏陰!
レディィィ
「ダークシャドウ!」
『あいよ!』
「速っ──」
『常闇、開幕速攻! 芦戸を攻め立てる!』
常闇踏陰の【ダークシャドウ】は質量を持った影。一定範囲内ならばどこまでもその手を伸ばす。
ゆえに彼は、予備動作を抜きにしてほぼ先制攻撃を仕掛けることができる。
体表から酸性の液体を放出することができる芦戸三奈も、常闇に負けず凶悪な“個性”だ。
そしてもう一つ特筆すべきは、影として自由に空間を行き交う【ダークシャドウ】の攻撃を生身で避け続ける並みならぬ運動神経だ。しかし──
「やっ!」
『ハッハッハァーッアタラネエ……ヨ!』
「あっ!」
【ダークシャドウ】の攻撃を避け切れず、受けに転身したのが災いした。
芦戸は攻撃を受け切れず、場外へラインアウトしてしまったのだ。
「芦戸さん、場外! 常闇くん、二回戦進出!」
『常闇踏陰、芦戸を堅実に押し出し場外決着! つかあいつ一歩も動いてねえぞSUGEEEE!』
第三試合はあまりに一方的な戦いだった。
瀬呂範太
開始早々、瀬呂の“個性”【テープ】が射出された──それは轟を見事に捕らえ、場外に投げ飛ばす。それが、彼の算段だった。
これだけなら勝機は瀬呂に傾く。これだけなら……
──【半冷半燃】。常闇と同様、その場を一歩も動かず発動することができる驚異的な“個性”。
その半身から放たれた氷山のような一撃は、巻き付いているテープ諸共、瀬呂を完全に行動不能にしてしまったのだ。力の半分を制限してもこの実力である。
「
「動けるわけないでしょっ──痛ぇ……」
「
審判のミッドナイトにまで、氷塊が侵食していた。
「なるほど、いままでとは違うということか轟」
一年前に戦った時とは、氷結の出力が格段に上がっている。高志朗は、そう思いながら無表情で轟を見ていた。
「審判を巻き込むのはどうかと思うが…」
続いて第四試合。
『スパーキングキリングボーイ! ヒーロー科、上鳴電気!
推薦入学者4人の内の一人! その実力は折り紙付きだ! ヒーロー科、八百万百!
レディッ
「悪いけど八百万、ここは速攻でやらせてもらうぜ! 無差別放電──」
(八百万の“個性”は【創造】だったけか? 騎馬戦で俺の放電を完全に防御してた──あーあれなんだっけ? 絶妙体? 絶縁体? なんでもいいが、あれを出させる暇は与えねえ!)
第二種目の騎馬戦では、八百万が上鳴と同じチームになった際、感電の自滅を防ぐために電撃を通さない絶縁体シートを【創造】して使っていた。
そのため、他のチームメイトの轟、飯田へのフレンドリーファイアを免れていたのだ。
「130万
八百万の【創造】の欠点は、大きなものほど創るのに時間がかかることだ。いまの彼女の頭には、絶縁体以外で上鳴の【帯電】による電撃を防ぐことができる術は持ち合わせていない。
しかし、上鳴は放電の直前に驚愕した。
「申し訳ありません、上鳴さん」
「う、うぇ……?」
目の前に、人一人覆い隠せるほどの大きさの絶縁体シートが展開されていたのだ。
上鳴がしまった、と思った時にはすでに放電を始めてしまっていた──よりにもよって、最大出力でだ。
『あーっと!? こ、これは!!』
八百万を亀のように覆う絶縁体シートを電撃は突破できないまま、出し切ってしまった。
上鳴の放電が止んだことを確認すると、八百万は素早く樫木の六角棒を創り出し──
「ハァッ!」
「うぐふぇっ!?」
接近し、上鳴を肩から薙ぎ倒した。
「……。上鳴くん、気絶! 八百万さんの勝利!」
『推薦入学者の面目躍如! 八百万百、二回戦進出決定だー! つか、棒使いの達人か!? 様になってたな~』
『おそらく、武術だな。棒術か、薙刀術か。だが、それ以前に放電を防げたのが大きかったな。上鳴のバッテリー切れを確認した後の動きも迅速だった』
『ヒューっ、イレイザーから誉め言葉なんて珍しいなおい!』
『俺は思ったことを言ってるだけだ……創造速度がいつもより早かったな、八百万』
「上鳴ちゃん、USJの時と同じになっちゃったわね、ケロ……」
「くっそ~、上鳴の放電が決まってたら、もしかしたら八百万の服が破けたりしていい感じになったかもしれねえのに……! ま、まぁ背中が露わになってたから良しとするぶぇっ!」
「最低」
「クソかよ」
「そういうとこだぞ峰田」
『さぁさぁ、やっとあったまってきたぜ! 一回戦後半!
中学からちょっとした有名人! 堅気の顔じゃねえ。ヒーロー科、爆豪勝己!
漢気一筋ド根性! 【硬化】! 切島鋭児郎!』
「お」
「あっ御舟さん……」
「──良かったな」
「! ……はい!」
小休憩のための手洗い帰りに高志朗は、一回戦を終えた八百万と廊下で出会わせた。
嬉しそうにはにかむ彼女はしかし、切なそうな笑顔で高志朗に向く。
「御舟さん私、
「ずる?」
自分の腕を抱いた彼女はふと、そう零した。
「実は、上鳴さんとの戦いの場に出る前から、あの絶縁体シートを頭の中で構築していましたの。そして、開始直後、一気に……」
彼女の“個性”は素材を頭に想像し、体外に創造する。絶縁体を作るための材料を予め脳内で羅列させていれば、そのようなことも可能らしい。
「一気にひり出したか」
「ひり──っも、もうっそのような表現は止めてくださいましっ。いくら御舟さんでも怒りますわよ!」
小さく頬を膨らませて腰に手を当てて拗ねるように怒る八百万に、高志朗は悪戯っぽく、わはは、と笑った。
「あー悪かった。しかしそれはずるじゃないぜ?」
「でも──」
「本番は開始の合図なんて無い。これくらいは許容範囲じゃないか? だから、相澤先生は【抹消】しなかったんじゃないのか」
「────!」
そうだ、あの時点で八百万の試合前“個性”使用に相澤が気付いていれば、消すことはできた。
「相澤先生は、気付いていらしたのですか!?」
「その可能性があるってだけだ。詳しくは知らんが……俺個人としては、実用性のある戦闘だったと思うぞ。さすが頭も切れるうちの組長八百万だ」
そうやってお道化る彼の腕を、八百万が撫でるように叩いた。
「委員長です! ……でも、ありがとうございます。少し、胸の内が晴れました」
「まだ一回戦だ。満足するのは早いんじゃないか? お前さん、次は轟だろ」
不敵に笑う高志朗だったが、八百万も口に手を当てて悪戯っぽく笑った。
「あら、まだ一試合もしていないあなたが他人の心配なんてしていてよろしいのですか?」
「あー……それもそうだな。悪い、出過ぎたよ」
「いえ、御舟さんはお優しいだけですわ」
面と向かってそんなことを言われた高志朗は、照れくさそうに頭を搔いた。
彼女はにこにこしていて、非常に落ち着かなかった。珍しく形勢逆転であった。
「お、御舟じゃん」
「拳藤……」
「拳藤さん、いまから控室に?」
「まぁな。いやー緊張すんなさすがに」
捲られた袖とズボンの裾。その男らしい女子の名は拳藤一佳。B組委員長であり、最終種目出場者だ。
現在対戦中の爆豪と切島の次の対戦が彼女と──
「うひゃっ何か集まってる思ったら、八百万さんと、御舟くん……と、拳藤、さん」
「麗日か、こうして話すのは初めてだな。よろしく頼む」
「お、おー……(眩しい笑顔! この人女子なのにイケメン入っとる!)こちらこそ、よろしく!」
麗日と拳藤。次の対戦者同士が、廊下でばったりと鉢合わせた。
「……」
「……」
「お二人とも?」
長い沈黙を、八百万が破った。麗日が口を開く。
「私、もう行くよ。拳藤さん、試合よろしくね、じゃ!」
「おう、よろしく麗日!」
がちがちに強張った麗日がその場を去っていく。それを見送っていた高志朗も、鼻で息を吐いた。
「……俺らもそろそろ生徒席に戻るか。頑張れよ、拳藤」
「……ああ、お前もな」
「頑張ってください、拳藤さん」
拳藤も麗日と同じ方向へ歩き出した。反対の生徒席へと二人で並んで歩いていると、先の妙な雰囲気を感じた八百万がつぶやいた。
「戦う者同士とはいえ、お二人とも緊張されているご様子でしたね」
「これだけの大舞台だ、無理も無い。轟すらも力んで大技を出していたしな」
「あれは力んでいたのですか?」
「まぁ派手さもプロへのアピールになるから、合理的ではあるんじゃないか」
瀬呂一人のために大氷壁を打ち放った轟も、武者震いの要領であのような大技を出したのかもしれない。
(まぁ8割方、
「……これから益々寒くなるな」
「いまは春。これからは夏が来ますのよ?」
「ああ、まぁ……そう、だな。うん」
『切島、カウンター!』
爆豪対切島戦は拮抗の様相を呈していた。
爆豪が【爆破】で切島を攻め立てるも、切島は【硬化】によってその肉体硬度を高めることで完璧に防御していた。
「何発喰らっているんだ、切島は……」
「あの体操服の破れ具合から見て、もうかなりの数を撃たれているのではありませんか?
切島さん、“個性”もそうですが、何より凄まじい気迫を感じますわ。……あ、御舟さん、双眼鏡をお使いになりますか?」
「違いない。あの爆豪が防戦とは恐れ入る……ありがとう、借りるぞ」
【創造】によって創り出された双眼鏡は、生徒席で峰田が使っている物よりかなりの高精度の物だった。それを拝借した高志朗は、試合場に向ける。
抜き身の刃のような佇まいを持っている爆豪が、攻撃ではなく回避に専念し始めている。
しかし、高志朗から見た彼は、何か機を待っているように思えた。
「爆豪あいつ……回避にはそれほど体力を使っていないな」
「と、言うと?」
手を顎に添えた彼女が、試合場に目を向けたまま高志朗に訊いた。
「反射神経が良いのもあるのだろうが、奴め、切島の拳の向きで攻撃方向を読んでいるように思う」
「それはまた……」
「奴も轟と同様、天賦の才があるのだろうよ。そこに更に努力が積まれたら……対戦相手としては堪らんなぁ」
微笑を含んだ震え声に、八百万は唾を呑む。
それが畏れから出た笑いか、はたまた違う理由から出た笑いなのかは分からなかった。
『おっと!? 爆豪、再び切島を爆破!』
『……切島の様子がおかしいな』
「固ぇけど……脆ぇ!」
「ぶわっぐぅぅっぅうおっ!?」
『無効と思われた爆豪の爆破が、切島を怯ませたぁっ!? おいおいなんだぁ? 効いてるぞ!』
「全身ガチガチに気張り続けてんだろてめえ! オンオフしねえってのも考えもんだな! ウルァァァァっ!」
「こ、こいつ……!」
防戦一方かと思われた爆豪と切島の立場がここで一気に逆転した。
試合開始から十数分経ったここに来て爆破の猛襲。切島鋭児郎の鉄壁は、綻びから抉じ開けられていく。
まるで絨毯爆撃。
逃げ場の無い戦場のような攻勢が、爆豪勝己という男を体現していた。
「まァ、俺と持久戦やらねえってのも分かるけどな!」
「切島くん、戦闘不能! 爆豪くんの勝利!」
『一回戦中一番燃えた戦いだったんじゃねえのか!? 爆豪、二回戦進出だァァァッ!』
『まだ一回戦終わってねえよ』
爆豪勝己、二回戦進出。
『続いて第六試合だ!
一般入試の主席エリート!! 騎馬戦ではA組&普通科の混合チームで二位通過! B組のまとめ役! ヒーロー科、拳藤一佳!
可愛い顔してアクロバティックな動きが目立った騎馬戦。何を隠そう立役者! ヒーロー科、麗日お茶子!』
(麗日の“個性”の発動条件がほぼ分からない。騎馬戦では自分の騎馬ごと浮かしてた──要注意だ)
(御舟くんとよく居るB組の……しかもあの入試で主席て、めちゃ強いやん!)
『レディィィ
「……」
「……」
『両者、対峙したまま動かない。もしかして第一試合の再来か!?』
『動けないんじゃない、動かないんだ』
『What!?』
拳藤が円を描くように横に歩き出す。しかし、当然視線は対戦相手の麗日に絞っている。
『二人とも、機を狙っている。お互いあまり“個性”を見せ合っていないから、情報が少ないんだろう』
(来ない……じゃあ、遠慮なく行くか)
「シっ!」
『拳藤動いた! おお!』
麗日に向かって走り出すと同時、拳藤は“個性”を発動する。
【大拳】両の手を巨大化させることができる彼女の“個性”はシンプルに強い。片手だけでも人を捕縛することができる。
「ハァァァっ!」
「あぐぅっ!!」
『こ、これはぁ……く、クリーンヒットぉっ! 拳藤の【大拳】の一撃が麗日に直撃!? 痛そぉぉぉっ!』
『いやこれは……!』
「いっつぅぅぅ……意識、飛びそうや……けど──! 耐える!」
「くっ──こいつ、私の手を掴んで!?」
“掴んで”自分で口にしたこのフレーズで、拳藤に怖気が走った。
麗日の“個性”によって拳藤の足が地面から離れていく。
彼女の“個性”を知らなければ、その光景を見た第三者はこう思うだろう────
『麗日、拳藤をまるで風船を持つように場外へ駆け出していく! マジかこれぇ!?』
女の子が片手で軽々と人を持ち上げている、と。
“個性”【
警戒はしていた。だから拳藤は、渾身の一撃で麗日の意識を奪い去ろうとした。
「耐えられた……クソ! こんなところで!」
『拳藤、もう片方の手も巨大化させ、暴れる! しかし────!』
『無重力で満足に動けないのは当然だ。それこそ、宇宙飛行士でもなければ、あの状態で体のコントロールは困難だ』
「だぁぁぁぁぁッ!!!」
「くっ!」
場外へ、拳藤の体が投げ飛ばされた。ラインから完全に出たことを確認すると、麗日は己の“個性”のトリガーともなる両手の指を合わせた。
「────っっ解除!」
「あぐっ!」
「拳藤さん、場外! 麗日さんの勝利!」
『決まったァァァァァっ! こんな熱いキャットファイトあるか!? 場外により、麗日が二回戦への切符を手にしたぁぁっ!』
「う……ずびばせん、ミッドナイト。私もうっ」
「二人とも、医務室に運んで。麗日さんは先にお手洗いに!」
「拳藤か……?」
「私、天狗になってたのかもなぁ」
八百万と別れた後、一回戦最終戦に向けて控室に足を運んだ高志朗は、そこで麗日との試合を終えた拳藤と顔を合わせた。
と思えば、急にそんなことを口走った彼女を怪訝そうに伺いながら高志朗も席に着く。
会場ではすでに飯田
「私の中学さ、
いまも、B組の委員長なんかやって……リーダーシップ取ってる気になって、さ……」
「……」
「中学の時も、三年間委員長でさ。……っそれなりに自信持って生きてきたんだよ……っ!」
「……」
「それが…いけなかったのかなぁ! 宣誓であんなこと言った手前……私っ──」
彼女の震える声は、高志朗を沈黙させる。目を細めるだけの彼は、いまの拳藤にどんな言葉をかけて良いか見当も付かなかった。
「勝ちへの執念は、麗日に一歩先を行かれてた感じかなぁ、なぁ御舟」
呼ばれて初めて、高志朗はかける言葉をやっとの思いでひねり出す。瞑っていた目をゆっくり開いた。
「……耐えろよ、拳藤。耐え忍べば敗北は糧にできる」
「御舟……ぅっ」
真剣な眼差しで拳藤を見つめる高志朗は、話を続ける。
「敗北は、勝利よりも人を成長させるんだ。だから拳藤、
「ああ……ああ! 分かってる、ごめっ……なんか私……っ」
机に突っ伏す彼女の背を軽く叩いた。
いつもの男勝りな彼女はそこになく、ただただ、敗北への悔しさに震える一人の少女がいた。
敗けて笑っていられる人間など、この本戦には居ない。
全員、本気でこの体育祭を勝ち抜こうとしている。そこに貴賤など無い、本気で戦って勝った者が最後に笑うのだ。
「前から思ってたんだけどさ。お前……何でそんなに落ち着いていられるんだ?」
「ん?」
「入試の時も、騎馬戦でも。……
「……さぁな」
「さぁなってお前……」
自分のことだろ…、と突っ伏した顔を上げた拳藤が口を尖らした。
高志朗は背もたれに寄りかかって、言った。
「体育祭は本番じゃないからかもしれないな」
「本番って……はぁ? お前冗談──」
『騎馬戦でも見せた超必殺技が炸裂! 飯田天哉、場外へ取蔭を放り出したーッ!』
「「!」」
プレゼント・マイクの実況がここまで響いて来た。それは、拳藤のクラスメイト──高志朗の友でもある取蔭切奈が敗北したことの報せだった。
「切奈……っ」
「……」
机に立てかけてある長物袋を、高志朗は手に取った。
中身は得物。
アカガシを使った本赤樫。それを少々太めに削った鍔無しの木太刀(木刀)。
滑り止めに黒い柄巻がしっかりと“握り”を保護している。
立ち上がり、選手入場口まで歩みを進めようと────
「あだ!」
──したが、背中を思い切り叩かれてつんのめった。
「なぁにカッコつけてんだよバーカ」
「いつつ……さっきまでのしょげたお前さんはどうした。いつ復活した!?」
「うっさい。ほら行けよ、負けたら大笑いしてやる」
「酷い、もう拳藤にコーヒー奢ってやらないぞ」
「いつも奢ってもらってなんかねえよ! てか、いつ私がコーヒー好きだって知った!?」
「昼飯食べた後いつも飲んでいるじゃないか」
「……っ」
拳藤の顔がみるみる内に真っ赤に染まっていくのを見ると、高志朗は手を振りながらその場を後にした。
『一回戦第八試合を始めるぜ! まずはこちら!
サポートアイテムでフル装備! 周りがほぼヒーロー科で固まる中、唯一のサポート科からの参戦だ! 発目明!
3位、2位と好成績! 奇しくもこっちも武装して登場だ! ヒーロー科、御舟高志朗!!』
「サポートアイテム……じゃないよね? あれ」
「ヒーロー科が武装って……“個性”に自信が無いのか? それともそれが無ければ“個性”発動に支障を来すとか?」
「いやでもあいつ、障害物競走でも騎馬戦でも、素手で滅茶苦茶な動きしてたぞ」
「ただの木刀じゃねえだろたぶん」
観客の一部で声が上がった。
するとミッドナイトは、試合場では最も客席に近い中央にどっしり座るセメントスから目配せを受けると、審判旗を高志朗に鋭く向けて言い放つ。
「ヒーロー科の
◆雄英体育祭、武器申請規則
・持参のサポートアイテムは、競技開始前に学校側に申請すること。
・ヒーロー科のサポートアイテム使用は原則禁止。しかし“個性”の使用に支障を来す場合は、雄英体育祭運営『サポートアイテム係』に要相談。
・ヒーロー科はサポートアイテムではない物でも、上記の『サポートアイテム係』に申請すること。但し、一見して度が過ぎる物は許可は下りないものとする。(刃物、金属類等)
「ただの木刀か」
「
「な。余程の達人でも無い限り変わらないぜ」
「予選でも十分動けてたのに……何がしたいんだヒーロー科の御舟って……」
『Hum……色々言われてるが! まぁ許可申請下りてて審判もOK出してんなら────このまま始めようかぁっ!
発目
「さて、どうなるかねえ。普通なら御舟だろうけど」
「発目って普通科の子のサポートアイテムがどれほどの性能かで勝敗別れて来るんじゃねえか?」
「オイラは御舟! USJでのあいつを見れば一目瞭然だぜ!」
「飯田はどう見るんだ? お前戦闘訓練であいつとやり合ったろ?」
切島が訊くと、「ふむ」と飯田が手を顎に添えた。
「彼は……御舟くんは何と言うか、戦い方が派手に見えない」
「派手に見えない? なんだそれ」
「すまない上鳴くん! しかしそのため、勝ち筋がいくらでも見えてしまう」
御舟高志朗の戦い方は剣術だ。得物を手放せば第一第二種目のような派手な演出もするのだろうが、こと対人となると不気味なほど静かになる。
「いいじゃねえか、勝機が複数あるってことだろ?」
「だから質が悪いんだ。どの勝ち筋を選んでも、次々潰される。こちらが気付いた時には、やられているんだ」
高志朗は、流れるように歩き始めると、帯刀する左腰から無造作に木太刀を抜いていく。
『おいおいおい、抜刀しただけで構えもせず相手に近付いていくぞ!?』
『雄英体育祭規定の開始線は、剣術家の御舟にとって遠すぎるんだろう。躍りかからないのは、相手の動きを見るためでもあるんだろうが……にしても慎重だな』
ゆっくりと歩を進めながら、高志朗は組み合わせ決定直後の発目との会話を思い出す。
『私の発明したサポートアイテムを使って欲しいのです。そして対等に、私と戦ってください!』
『断らせてもらう』
『なぜですか!? もしかして、お気に召しませんでしたか!? あなたの噂は聞いていますよ。あっそう警戒しないでください!
私はあなたがヒーロー科の人間である限り、そのようなことは全く気にしません!』
『そういうわけでは……』
『ほらこれ! これはエレクトロシューズと言いまして、左右の靴を電磁誘導で反発させ、瞬間的な回避行動を可能にします!
あとこれ! このレッグパーツは着用者の動きをフォローしてくれるため、普段より足が軽く上がること請け合いです!』
『お前さんのような売り込み根性逞しいサポート科が居るんだな。将来のサポート業界は安泰だ』
『もしかして、こちらをお望みですか!?』
こちらの誉め言葉を一顧だにせず、そう言って出してきたのは一振りの木刀だった。
一見すると普通の木刀だが、発目が一つボタンを押すと中程で折れ曲がり、その先から対
『遠距離攻撃もこれで可能になります!』
『すごいなおい……』
『どうですか!?』
『ああすごい……すごいが、やはり断る』
『ぬぐ……!』
『俺は、御舟の剣術を世に広めるためにヒーローになりたいんだ。だから、
『一つだけでも……』
潤んだ瞳で懇願してくる彼女に、高志朗はたじろぐ。
障害物競走や騎馬戦では分からなかったが、彼女も相当に整った顔立ちをしているため、こう近付かれると気恥ずかしくなる。
『お前さんにも、譲れない何かがあるはずだ』
『分かりました、では』
すると、興味をなくしたように彼女は踵を返して行ってしまった。
『すまんな……』
間合いまでの距離が縮まっていくに連れ、高志朗の前進が機敏になっていく。
「っ!」
「そこっ!」
歩みから走りに切り替え、高志朗が地を蹴った──その瞬間、発目が拳銃のようなものを取り出して、間髪入れずに撃ち出して来た。
それは網。対
しかし、網は対象を絡め獲ることも無く、パサリと力無く落ちていく。
「驚いたぞ、そんなものまで持っていたとはな」
【剣気】を足に帯び、爆発的な脚力で高速移動をおこなった赤い目の高志朗は、彼女の背後に迫る。
「! いつの間に後ろに!? しかし、それもこの油圧式アタッチメントバーで避けられます!」
「……人感センサー付きか」
発目は、背後を取られたにも拘わらず、サポートアイテムでそれを余裕で回避。
彼女の足が急激に伸びたその感覚の正体は、まるで竹馬のようなサポートアイテムだった。
しかし、背後からの接近を察知したセンサーも超反応だが、高志朗はその直前に足を止め、すでに次の行動に移っていた。
「ふんっ!」
掛け声と共に高志朗は目の前に展開されたサポートアイテムの一部を袈裟斬りで打ち折った。
「べ……ベイビーが……あっ!」
彼女を支えていたバーが完全に中から折られたことでバランスを崩すと、地面に叩きつけられるように倒れ込む。
「あいたたた……まさか私のベイビーが破壊されるなんて──っっ」
「俺としては、お前さんには降参して欲しいが……」
発目の眼前に突き付けられる切っ先。
この時、間合いなど考えるまでも無く、彼女はすでに高志朗の打突圏内に入っていた。
「私にも、譲れない物はあります」
「そうか、なら──」
彼女に屈服の意志無しと見た高志朗は、狙いは外さず腕を引いて構えた。さしもの発目も、衝撃に備えて反射的に目を瞑る。
『おいおい、そんな距離でそんなもんで突いたら……! あら?』
「……!」
一瞬の浮遊感、直後に発目は場外へ放り出されていた。
「うっ!」
高志朗は、彼女の装備していたサポートアイテムの一部分を木太刀に引っ掛け、場外へ投げ飛ばしていたのだ。
「発目さん場外! 二回戦進出、御舟くん!」
長く更新停止していた手前憚られますが……評価、感想をどうぞよろしくお願いします!
派手な戦いじゃないから書きづらいです(言い訳
あとギャグセンスが欲しいです。