雄英剣風帖   作:剣鋭

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みんな大好き拳藤一佳の好きな物はブラックコーヒーです。


第十四幕 御舟家

「発目さん場外! 二回戦進出、御舟くん!」

『魚釣りのごとく人を軽々と吊り上げる剛腕は圧巻だったぜぇっ! 実は御舟は剣士じゃなくて釣り名人だったかぁっ!? 対戦相手の発目を巧みに場外へ放り投げ、二回戦進出を決めたぁ!』

 

「女を釣るって……なんかエロい響きじゃね?」

「分かる」

「それ御舟に風評被害……」

 

 高志朗のA組での心象が、実況の一言でそっち方面に転びつつある。

 勝ち残り組が各々真剣な顔つきで試合場を見つめる中、そんな話を良い笑顔で頷き合う峰田と上鳴はやはり平常運転だった。

 

 場面が隣の生徒席に変わる。

 

「あれ? 拳藤じゃないか。一回戦は残念だったねぇ」

「ああ……見事に負けたよ。私もまだまだだな」

「でも惜しかったぜ拳藤!」

「ありがとな、鉄哲。でも負けは負けだ、次は勝つ! ってな」

 

 控室から自分の組の生徒席に戻って来た拳藤に、クラスメイトの労いの言葉が掛けられると、彼女はガッツポーズで返した。

 

 同性でさえときめかせそうないつもの変わらない笑顔の彼女に、一人から怪訝な声が上がった。

 

「あれあれぇ? 拳藤はA組に負けて悔しくないのかい?」

 

 物間の言葉に、彼女はむっとした。

 

「悔しいに決まってるだろ」

「じゃあどうしてそんなに笑顔なんだい!? いつもと変わらず! ほら取蔭もさ! 憎きA組を出し抜くチャンスを失ったんだよ!?」

「別に憎くないわ。私も悔しいよ、なめんな物間」

 

 取蔭が手を振って物間の奸言を一蹴した。拳藤も肩を竦める。

 

「今日は負けた、けど、体育祭(これ)だけじゃないんだよ。悔しいけど、いまは耐えなきゃな」

 

 拳藤が何を言っているのか分からない。涼しい顔で席に着く彼女を見て、物間からひねくれた笑みが抜ける。

 

「こ、これ(・・)って何さ! 皆今日この日のために鍛錬してきた! 体育館も借りて……(ヴィラン)と一度戦ったってだけで持て囃されるA組よりも、僕らB組の方が優れていると──」

「物間、私思うんだけど」

「証明するためにっっ──な、何さ?」

「その一回はデカいんじゃないか?」

 

 実戦と演習で得る経験値の差は一線を画していることを、彼女は理解していた。

 物間もB組全体の士気を上げるためなのか定かではないが、雄英体育祭が始まる前にも前述のセリフを口にしていたのだ。

 

「それと、私が頑張るのはプロに見てもらうためであって、別にA組と張り合おうだとか思っちゃいないからな」

 

 お前と一緒にすんな、と溜息を吐く拳藤に唖然とする物間。にわかに諦め、ぶつくさ言いながらも席に座った。

 

 雄英体育祭最終種目、二回戦開始。

 

 


 

 

 緑谷(バーサス)常闇。

 

 この戦いは、純粋な中距離パワー競べに持ち込まれていた。

 

「防げ、【ダークシャドウ】!」

 

 緑谷の【超パワー】による身体許容上限──通称“フルカウル”を8%。

 しかし侮ることなかれ、8%から放たれるその拳は岩をも砕く。

 

 【ダークシャドウ】は、通常日光下のため、攻撃、防御ともに約一人分の質量しか持たない。

 

『グアッ!』

「! 大丈夫か【ダークシャドウ】! おのれ緑谷、その身に合わぬ一撃。まさに剛拳よ……!」

「本体に辿り着くには、【ダークシャドウ】を撃ち続けるしかない。そして徐々に距離を詰める!」

『フミカゲノトコロニハイカセネエヨ!』

 

 吹き飛ばされたはずの【ダークシャドウ】が空中で旋廻して再び目の前に立ちはだかる。

 宿主が健在である限り、【ダークシャドウ】が消滅することはない。ゆえに、緑谷自身に【ダークシャドウ】ごと本体を攻撃する術がない限り、こうして堅実に距離を詰めていくしかない。

 

(デコピンは8%だと軽い突風が吹くだけ……。激痛を伴うリスクを負ってまで100%を使うのは、後の戦いを考慮すると現実的じゃない!)

 

 心操戦では洗脳中、手近にあった足の腿を100%でつねってしまい、危うく引き千切る大惨事になるところであった。

 

『ダークシャドウ、不屈の精神で常闇を守る! だが、少しづつ──!』

SMASH(スマッシュ)!」

『グェッ! ク、クソッフミカゲ!』

「ぬぅっうっ──」

「──SMASH(スマッシュ)!」

 

 殴っても殴っても縦横無尽に襲ってくる影──【ダークシャドウ】の横っ面を、殴って殴って殴りまくる緑谷が一歩一歩着実に、本体への距離を縮めていく。そして、ついに常闇の懐へ入る。

 

(後ろ……は、もう、場外か!!)

「はぁぁぁぁっSMASH(スマッシュ)ゥゥゥゥッ!!」

「ぐはっ……!」

 

 常闇の土手っ腹に、緑谷の拳が突き刺さる。同時に場外へ吹き飛ぶ常闇は、その意識をゆっくりと手放す。

 

『フミカ、ゲ……』

 

 そして【ダークシャドウ】も、宿主の意識と共に強制的に引っ込んだのだった。

 

「常闇くん、戦闘不能! 緑谷くんの勝利! 三回戦進出!」

『近接の緑谷、【ダークシャドウ】を駆る常闇を正面から堂々撃破!!』

『場外線を気にした常闇の一瞬の隙を突いたか……。とはいえ、あの状態では【ダークシャドウ】の防御も間に合わなかっただろう』

 

「緑谷くーん!」

 

 生徒席では、飯田が大手を振るって友の勝利を喜んでいた。

 

「鉄壁とも思えた常闇の防御を破るとは……見事だ緑谷」

「常闇が正面突破されたー、なんでー!? ねー御舟なんでー! 私納得いかないよー!」

「揺らすな芦戸。いまの試合を見ると、常闇は根負けしたな」

 

 鉄壁とは過大な評価なのだろうが、【ダークシャドウ】への攻撃が本体へフィードバックしないのは大きな利点だ。そのため常闇は何回でも【ダークシャドウ】を動かすことができる。

 しかし今回、正面から【ダークシャドウ】を撥ね退けることのできるパワーを持った緑谷が相手に回ったのが、常闇踏陰の運の尽きだったと言えるだろう。

 

「緑谷のパンチが常闇の【ダークシャドウ】ぶっ飛ばしてたし、パワーも半端じゃねえってことか」

「デクくん、やっぱり凄い」

 

 


 

 

「掴んできたな、緑谷少年」

 

「オールマイト……!」

 

「手数の多い常闇少年相手に、よく退かなかったよ」

 

「正直、ギリギリでした。あんなに連発したのは初めてで、咄嗟の調整(・・)が間に合わなかったら骨折していたかもしれません」

 

「hmm……キミは多古場よりも以前から体を作っていたから、このタイミングで出力を10%くらいに上げても良いのではと進言しようと思ったが、やはりそうもいかないか」

 

「すみません。僕にもっと度胸があれば……」

 

「いいさ緑谷少年。キミのペースで成長してくれ、だからこそ雄英に居るのだから。あと、余り無理して大怪我すると、私が怒られてしまうのでね!!」

 

「り、リカバリーガールですか?」

 

「一回、USJで御舟少年が負った怪我を治癒したときに、えらくご立腹だったと聞いてね。

 緑谷少年、入試で一度彼女に世話になっているだろう?」

 

「は、はい……骨折一歩手前の激痛を治してもらいました」

 

「『自分の孫くらいの年齢の子がこうも引っ切り無しに運ばれてくると心配になってくるよ』って私も怒られてしまってね」

 

「へぇ……」

 

「リカバリーガールは大ベテランさ。より酷い怪我も見てきた彼女が急にそんなことを言い出した。少し吃驚したけど、納得もした。

 だから緑谷少年も無理せずにな!」

 

 


 

 

『轟(バーサス)八百万! 半冷半燃と創造! 推薦入学者同士の対決だ、さぁどうなる!

 二回戦第二試合──START(スタート)!!』

 

「──創造!」

「!!」

 

 開始の合図とともに放たれる氷結。轟は先の八百万の試合を見、彼女に“個性”を使う暇を与えないつもりでいた。

 

 妙に創造速度が早いことには触れなかった。単に八百万の“個性”の練度が上がったのだと轟は考えていたのだが……

 

「轟さんがお使いになられないのなら、私が先に使わせていただきます!」

「──なんだと」

 

 まただ。上鳴戦同様、ほぼノータイムで八百万は【創造】を完了していた。

 

『なんだぁ!? やけに仰々しい物を創り出した八百万! しかしもうすぐそこまで氷の魔の手が地を這い迫り来る!』

 

「──火炎放射器ですわ」

 

 ──迸る熱風と炎は、迫る轟の氷を喰らい尽くした。

 

 バックパック式火炎放射器。燃料を背負い、“ガン”と呼ばれる発射口からは“火の付いた燃料”が放出される。

 立派な戦争兵器だ。

 

『うわぁぁぁっ! なんと、火炎放射器だぁ!? た、確かに氷には炎と相場は決まっているが! 取り扱いは大丈夫か!?』

 

「説明書は読みましたの!」

「ちっ……意外と大胆だな、お前」

「ご心配無く、当てませんわ!」

 

 八百万は、目前の氷の山をある程度まで溶かすと発射口を上げた。

 

 瀬呂戦ほど大規模では無いものの、轟の氷結を止めたことに客席も大いに沸いていた。

 No.2(ナンバーツー)の息子もやはり人の子かと、失望にも、または安堵にも捉えることのできる言葉がぽつりと出た、その瞬間だった。

 

「……当てねえんだな?」

 

 打ち立てられる氷の山。しかし、今度は氷よりも先行したのは轟だった。

 

「……一気に、距離を詰める」

「!!」

 

 轟を押し出すように氷が伸びていた。

 

 厳密に言えば、轟は氷結で自らの乗る足場を前進させているのだ。

 

『轟! 物凄いスピードで接敵していく! そして火炎放射器にも臆さない嘘だろ!?』

 

(轟さんの乗る氷の足場を中間で溶かす! そうすれば彼の前進は止まる!)

 

「──て思ってんだろ。けど、遅いぜ」

「しまっ──!」

 

 八百万が火炎放射器を作動する前に、轟が氷を踏み台に跳躍する。

 無人の氷道を溶かしても意味は無く、八百万は背後から迫る轟に反応できずに触れられた。

 

 火炎放射器を筆頭にして氷結に侵食されていく。こうなってしまっては、八百万百の勝機は消える。

 

「くっ……」

「俺に対して炎とはな……当てつけか?」

「…そのようなことは断じてありませんわ。轟さんの氷結に私が対抗するには、これしか思いつきませんでしたの──まいりましたわ」

「……」

 

「八百万さん行動不能! 轟くんの勝利!」

『火炎放射器も物ともしない!! 轟、堂々と三回戦へ進出したぁ!』

『八百万が炎を当てないと踏んであそこまで接近。判断力の高さは轟が一枚上手だったな』

 

 一方その頃、いまの試合を見てガクガクと震えている男がいた。

 

「……オイラ、もう八百万にセクハラすんの止めようかな」

「している自覚はあったのね、峰田ちゃん」

「今度あいつ怒らしたらオイラ消し炭にされるかもぉっ!! 怖ぇよ上鳴ぃ!」

 

 こんなことを口で言ってはいるが、その性は己で止めることは無いのだろう。それがこの峰田実という男だ。

 

「八百万ちゃんはそんなことしないと思うわ」

「最初の戦闘訓練ではあんな物騒なモン創ってなかったのに!! 誰だよあいつに戦いを教えた奴はぁ!!」

 

 八百万百が戦いに“個性”を使うことはいままでほぼ無かった。したとしても、自身も嗜む護身術に近い武術に必要な長物のみ。

 

 おそらくは蝶よ花よと愛でられ育てられた八百万財閥の一人娘に、あのような好戦的且つ破壊的な兵器を創造させたのは一体誰であるのか。無論、判断したのは彼女であるのだが。

 

 それがある日を境に迷い、そしていまこの体育祭の最終種目。

 プロの間では密かに優勝候補と目されている、氷のように冷たい男──轟焦凍を対戦相手に当てられた彼女は、ヒーローはこういった強かさも必要であると思い知ったのだ。ゆえに火炎放射器。

 

「轟と八百万の対戦が終わったから次は……」

 

 峰田を横目に、上鳴がステージ上に映されたモニターに目を向ける。

 飯田がその言葉に答えた。

 

「爆豪くんと麗日くんだな……」

「ウチ、余り見たくないなぁ」

「ある意味で不穏な組ね」

「修羅と乙女」

「うぉっ、常闇戻ったのか。残念だったな二回戦!」

 

 生徒席の階段をゆっくりと降りながら会話に割って入ったのは常闇だった。切島が労いの言葉をかけると、席に着いた常闇は腕を組む。

 

「これもまた運命(さだめ)。精進していく所存」

 

 次の対戦カードは、爆豪勝己(バーサス)麗日お茶子。

 

「御舟とサポート科の子が戦った時もウチひやひやしたけど、意外と紳士で安心した。でも爆豪は何て言うか……」

「な、あいつはすげえ容赦無さそう」

「いままでインパクトのある行動一番してんのは御舟なのに、爆豪の方が危なっかしいと思うのはなんでだろうな」

「まーた俺の前で俺の噂してる」

 

 二回戦初戦終了後に戻って来ていた高志朗が苦笑いでそう言った。

 

 


 

 

 二回戦第三試合。爆豪と麗日が準決勝への切符を争う。

 

 いままでの爆豪の素行から、プロヒーローの集う観客席からは色眼鏡で今試合を観る者が多かった。

 そうなると耳郎の先ほどの言葉にも間違いはない。

 

 この試合に不穏なものを、皆感じているのだ。

 そんな観客が居る中に、客席の見回り巡回をしている者がいた。

 

 USJ事件や、秘匿されたがその前哨戦ともなる事件。御舟高志朗と八百万百が対処した校内への(ヴィラン)侵入。

 これに付けて、根津校長は外部のプロヒーローの警備強化の他に、雄英に在籍するプロヒーロー、つまりは教師陣にも、手の空いた者に限り見回りを義務化するという策も打ち出していた。

 

「これだけのプロヒーローを警備に雇っておいて、尚私たちまで動員するとは……根津校長も本気だな」

 

 呟く男は、当然雄英の教師である。およそプロのヒーローに相応しくない、痩せこけた体を半ば引き摺る様に歩いていた。

 

「すみません、お手洗いの場所を教えていただけますか?」

「ああ、それは、あそこを突き当たったところを右に曲がるといい」

「ありがとうございます!」

「気を付けるんだよ」

 

 にっこりと笑いかけてその子を見送る痩せこけた男。

 すると、自分の隣でまた誰かの人影が立ち止まったことに気付くと、振り返って再び笑顔を向けた。

 

「やぁ、迷子かい? 大丈夫──」

「何やってんだ俊典」

 

 笑顔を向けた相手は、その男にとっては予想外だったらしく、徐々に、そして終いには顎が外れそうなほどに口が開いていった。

 

「あ、あ、あ……あなたは……グラントぶほ──!」

「誰が迷子の子供に見えたこの野郎!! ん?……誰がチビだコラぁ!」

「そ、そこまでは言ってません、い、痛い……!」

 

 彼を腹パンで出迎えたのは迷子の子供……では断じてなく、杖を突いた小さな老人だった。

 

「お、お久しぶりですグラントリノ。まさかいらしていたとは……」

「なんだ、来ちゃ悪いか」

「いえいえ、とんでもありません!」

 

 身長差とは裏腹の、完全なる上下関係をこの二人は築いていた。

 

「お前が雄英の教師になったって聞いて、ちょっとどんなもんか見に来たんだ。そしたら丁度、このイベントにかち合ってな。

 ついでにチケット取って暇つぶしにダチと飲みながら観戦しようってことよ」

「ダチ……?」

「俺にもダチくらい居らぁ……まぁ、お前には話してねえから紹介しとくか」

 

 杖を突く小さな老人──グラントリノの後ろには、もう一人老体が居た。

 相方と違い、杖も無く、背筋も伸びた壮健そうな和装の老人だった。

 

「この男が、お前さんの言っていた最初で最後の弟子、オールマイトかい。あのナチュラルボーンヒーローが、様変わりしたものじゃな。八木俊典……」

「……! グラントリノ!?」

 

 オールマイトはNO.1(ナンバーワン)ヒーロー、平和の象徴。筋骨隆々の大男だ。間違ってもこのような痩せこけた男ではない。と、一般人が見ればそう思うのが普通。しかし、そうではない。

 

 彼は、事情あっていまの姿に扮している。紛うことなき、オールマイトだ。そのことを知っているのは雄英に在籍する教員たちと、一部の人間のみ。

 

「この喧騒じゃ誰にも聞こえやしねえ。それに、俺だって別に洩らしたわけじゃねえ。こいつは知ってたんだよ、お前のことも……俺や、志村のこともな」

「なんと……!」

「けれど、顔を合わせるのは初めてだわい」

 

 老人が、オールマイトと向き合う。

 

「御舟陣七と言う。空彦とは飲み仲間でな」

「御舟……!」

 

 驚愕に震えるオールマイトが、眉間を指で押さえて唸る。

 

「言いたいこと、聞きたいことが山ほどありますが、御仁。なにゆえ私やお師匠のことを知って……?」

 

 陣七の代わりに、グラントリノが間に入った。

 

()と俺らが戦っている時期(とき)だ。陣七は、俺らやお前が戦い易いように、(ヴィラン)の勢力圏を荒らし回っていた。まぁ蛮族よ、ははは」

「おい空彦、蛮族とは聞き捨てならぬわ。代々続く常陸の武家に何たる言い様」

「当時はこの国全員がそうだったろが。勢力を拡大していくのが生き甲斐だったんだろ? 超常黎明の一時期は関東圏を手中に治めていたと聞くぞ。常陸守護が聞いて呆れる野心の高さよ」

「……!」

 

 脳が理解を拒んでいる。己の知る意外にも、奴──巨悪を知る者がまだ生きていたという事実に。

 さらに、グラントリノの本名は酉野空彦(とりのそらひこ)だが、自身の師である彼とも名で呼び合う仲になっているなど、にわかに信じられずにいた。

 

 そして、間接的にではあるがこの老人──御舟陣七とその本家も盟友ということになる。 

 

「……お巫山戯では、なさそうだ」

「本当ならわしも空彦や他の盟友の列に加わる心算じゃったが、御舟の“個性”は発現が非常に困難。

 当時は運も絡んで来ており、わしは敢え無く“無個性”と相成った。数少ない譜代の同志たちとともに、お前さんたちに敵対する(ヴィラン)を始末することしかできなんだわ……

 

 まぁ続きは飲みながらでも良かろうて。孫が上手くやっているかも見ておきたい」

「いや、私は職務が……! ってもうくつろぎモード!?」

 

 暖簾に腕押し。オールマイトの質問に、話半分で席に座ろうとする陣七。

 グラントリノは既に座っている。

 すると陣七が、行われている試合をぱっと観ると、口を開いた。

 

「……ままごとのような戦いじゃな。そう思わぬか、天下人」

「何を……」

「ああすまぬ、子供らのことではないわ。いまのヒーロー体制よ。

 ヒーローも(ヴィラン)も、昔と比べ温すぎる、ヒーローとしての精神も、戦闘技術も」

 

 オールマイトは目を剥いた。

 いきなり出て来て現代ヒーローを扱き下ろす目の前の老人に、現役NO.1(ナンバーワン)に良い気が起きるはずもない。

 

「……皆、命がけでヒーロー業に従事しています。ヒーローでも無い貴方が、そのようなお言葉……他方で言えば顰蹙を買いますぞ」

「果たして反論できるヒーローが何人居るかの」

「……」

「……かっかっか!! 冗談じゃわい」

「た、試したのですか!?」

 

 戸惑うオールマイトを受け流し、片手を顔に擦り付けて大笑を漏らす陣七。

 ひとしきり笑うと、よっこらしょ、とグラントリノの隣の席に座る。

 

「ここで同調して来ようものなら平和の象徴とは呼ばれておらぬわな。しかし考えてみると良い。

 もしかしたら、明日にでも平和は崩れ、超常黎明期が再来するかもしれん。こうして皆が笑顔で居られるのが今日までだとしたら、果たして何人のヒーローが、我こそはと(いくさ)の渦中に残留できるかを……」

「貴方は、一体……?」

「おい陣七、お前の孫、出るようだぞ」

 

 グラントリノが酒を片手に試合場を指差すとその通り、木太刀を携えた総髪の少年が入場して来ていた。

 前の試合で破壊されたステージの舗装が終わり、再開されるようだった。

 

「おうやっとか高志朗め。今日までここ何週間かは毎日同じ得物(・・・・)で打ち込み続け、“繋がり”を強くしておったからなぁ。どうなることやら……」

「……御じっ、御舟殿。このこと、お孫さんにはどこまで……?」

 

 このような国家級の機密事項が自分の与り知らぬところで露見していた。露見というよりは、居るべくして居たというべきか。

 ともかく、オールマイトは知っておかなければならないと焦燥に駆られていた。

 もし件の話を高志朗も熟知していたなら、今度膝を交えて話をせねばならない。

 

「……っ」

 

 自分を慕ってくれている()とも、いずれは改めて引き会わせなければなるまい、と決心したときだった。

 陣七は、雪のような自分の白髭を掴んで撫でて、ゆるりと口を開いた。

 

「……話しておらぬわ。お前さんのことも、空彦のことも……御舟と()との因縁も」

「!」

()はお前さんが討ち取った。それで話は終わりじゃい」

 

 


 

 

『オーディエンス共! 前の試合で瓦礫の雨が降ったんで、ステージの補強やら掃除やらでお待たせしたぜ二回戦第四試合!

 

 騎馬戦で見せた神足! そろそろ開帳なるか!? ヒーロー科、飯田天哉!!

 

 (バーサス)

 

 現代剣客!! ヒーロー科、御舟高志朗!!』

 

「飯田の速度に御舟がどう対応するのか俺ちょっと楽しみ」

 

 騎馬戦では飯田とチームだった上鳴がそわそわしつつも試合場を見つめる。

 

「でも戦闘訓練では御舟圧勝だったじゃん!」

「あのときはなぁ……不意打ちっぽかったから今度は分からねえと俺は思うぞ」

 

 芦戸の意見に、切島が物申す。

 

「御舟くんは、飯田くんの騎馬戦での活躍を見ていないから、それをどう上手く使うかが肝かな」

「御舟さんも飯田さんも、今大会ではほぼ互角の戦績ですわ」

 

 飯田の【エンジン】と高志朗の【剣気】。どちらも違う性質の能力。速度と技術だ。

 

『レディィィィSTART(スタート)!!』

 

「レシプロ──」

 

 脚部からせり出す高速移動の源泉が、飯田天哉のエンジンを蒸かし始める。

 唸る獣のような音を排気筒(マフラー)より沸き立たせ、開始線より少し離れたところで2速に入った。

 

『速ぁぁぁぁいっ! 飯田、一気に御舟との間合いを詰め、背後を取ったぁっ!』

 

 3速まで入る寸前で高志朗を通り過ぎた飯田は思考を巡らせる。

 すれ違いざまに仕掛けなかったのは、攻撃のタイミングを合わせられることを避けるため。

 

(御舟くんはまだ振り返らない……よし、ここで獲る!!)

 

 急カーブによって巻き起こる煙も、背後攻撃側の飯田にとっては好都合であった。

 

「これもう決まったろ!!」

「飯田速すぎだ!」

 

 

 賢明な人間ならば、強者を相手に幾重も網を張り巡らせるものである。

 ゆえにすれ違い、反転して背後から確実に蹴りを撃つ。

 

 逆にすれ違いざまに相手が攻撃を仕掛けて来たなら、全力でいなすまで。

 ここまでは飯田の予測範囲内。

 

「────バースト!」

 

 吹き荒ぶ突風とともに飯田の蹴りが高志朗の後頭部へ炸裂した。

 

『入ったぁぁぁぁぁぁ! ……あれ?』

 

「────やはり、目では追えんな」

「!?」

 

 騎馬戦で彼に向けて誰かが言ったであろう言葉を、飯田天哉は思い出し──

 ──生徒席の帯電する金髪の少年も同じく呟いたのだ。

 

「やっぱあいつ、後ろに目ぇ付いてんだろ」

 

 高志朗は、木太刀を己の背後に翻すことによって飯田の蹴りを防いでいたのだ。体は前を向いたまま、無論のこと目線もだ。

 握りは右片手。刃筋もこの体勢で良く立っている。

 

『決まったと思ったら!! あの体勢タイミングで飯田の神速の蹴りをガードっ!! 魅せる御舟!!』

 

 いまも尚押し込もうとして来る【エンジン】の膂力に抗しつつ、握りを両手に戻しながら弾かれるように距離を取らせた。

 

「決まったと思った……よもや防がれるとは、キミはつくづく!!」

「おいおい、飯田。いまのが最速か?」

「何……?」

 

 正眼に構え、右足を地面に這わせながら饒舌に話す高志朗。

 

「別に何でもいいが────」

「────っ!!!」

 

 赤く灯る瞳とともに、呆ける飯田に正面打ちが跳んで来る。大上段から振り上げ、そして打ち下ろす。

 

「この戦い、すぐに終わってしまうぞっ」

「くっ、レシプロ・バースト!!」

 

 横に体を逃がすことで、それを間一髪で躱す。飯田は吹っ飛ばされるように転がっていくも、すぐに体勢を立て直す。そうでもしなければ次の手がやってくるからだ。

 

「────」

 

 掛け声は無い。その代わりやってくるのは先と同様いや、それ以上の破壊力を持った打ち込みだった。

 風切り音は、一番前の客席に断続的な突風を届ける。

 

「おい、あいつの踏み込んだ跡見ろよ」

「あれ、コンクリートだろ……」

 

 規格外の膂力で踏み込まれた地面は、蜘蛛の巣状に罅割れいまも悲鳴を上げていた。

 剣術では、踏み込みの程度で打ちの強さが変わるが、これはそれ以前の力だった。

 

『あーあーあー!! 一打一打!!! 御舟が技を出していく度に地面がぶっ壊れていくっ!! ごめーんセメントス後でまたよろしく!!』

「まぁ良いけど。しかしああなるもんかね……」

 

(背面を取ったあれがチャンスだった!! 防がれたいまはどうすべきだ、飯田天哉!

 正面での駆け引きは御舟くんには正直勝てるビジョンが浮かばない! ……やはり、出すしか)

 

「レシプロ・バースト!!」

「それじゃ抜いてくださいと────!」

「なっ、しま────!」

「言っているようなものだぞ!!」

 

 甘えで出したレシプロによる加速。それは、すれ違いざまに胴を打ち抜かれるという失態を引き起こした。

 初手で飯田が自分で警戒したはずのものだった。それが遅れてやってくるとは、確かに何たる甘えであろうか。

 

「車は、急に止まれないだろう?」

「ぐがっ────」

 

『生々しいの入ったぁぁぁぁぁっ!!』

 

 打たれ、抜かれた胴辺りの骨に嫌な感触と痛みが全身を駆け巡る。

 打ち捨てられるように転がる飯田は、この時点ですでに決意していた。

 

(兄さん……!)

 

 彼は飯田天哉。飯田家の次男。

 現役プロヒーロー“インゲニウム”を兄に持つ誇り高きヒーロー一家。

 

 強い者たちばかりだった。入試では救出(レスキュー)(ポイント)の存在を看破した緑谷の洞察力に驚かされ、相澤の除籍宣言に騙され、最初の戦闘訓練では高志朗に大敗した。

 

「恥ずかしい姿は見せられん」

「行くぞ、飯田」

 

 自慢できる兄だ。その弟がこのザマでは恥ずかしくて顔向けできない。

 

「俺が愚かだったよ、後のことを考え過ぎていた……」

「また、凡速か飯田」

「凡速か……耳が痛いな。確かに俺は遅かった」

「なんだと……?」

 

 飯田の雰囲気が変わっていくことに高志朗は目を見開いて再び正眼に構える。

 必殺の気配が、飯田を取り包んでいく。

 

 高志朗は気配等の察知にも優れた人間だが、このときばかりは追い付かなかった。

 

「トルクオーバー……レシプロ・バーストぉぉぉっ!!!」

「ぬんっ!?」

 

 彼の排気筒(マフラー)から巻きあがる黒煙は使用超過の証。飯田の“個性”【エンジン】は人の反応速度を置き去りにした加速を可能とする。

 

 急加速と言う表現も陳腐に思える本物の神速技こそ、“トルクオーバー・レシプロ・バースト”。本人は間違った使い方だと断ずるが。

 

 しかし、飯田は次の瞬間に驚愕に顔を歪めた。

 

「これも……防ぐのかっ!!」

「己の身を削る一撃こそ、本当の“奥義”だな。ああ、身に染みたよさすがだ飯田……!」

 

 木太刀の柄先で、飯田渾身の一撃が止められていた。上がる煙は、木太刀の柄と神速の蹴りがせめぎ合った証拠だ。

 まさに鍔際の防御。少しでも、ほんの数センチでもズレていたら、飯田の放った重い蹴りが高志朗の胸部に炸裂していただろう。変則ガードにはそういったリスクがある。

 

『おおう……マジかよえぇ……? なんであれが見えんの?』

『……』

 

 実況の自慢の【ヴォイス】も尻すぼみ。盛り上げ殺しの高志朗は、空気を読まずに飯田天哉を攻略する。

 

(まだトルクは回せる!! もう一撃この至近距離で!! 決める!)

 

「まだ────」

 

 そう戦意を見せた、その瞬間────右の肩が木太刀に叩き撃たれていた。

 胴を抜かれたときに入った骨のヒビはこれで完全に砕かれることになる。

 

「かは……っ」

 

 上から巨大なハンマーで殴られたが如く、飯田はその場に崩れ落ちた。

 

「兄さ……ん」

「……」

 

 高志朗は木太刀をその場で納刀して会釈──身を翻した。

 

「……飯田くん戦闘不能!! 御舟くんの勝利、三回戦進出!」

『勝利……へ? おお……御舟、三回戦に進出したぁぁぁぁっ!!

 

 これでベスト4が出揃ったYEAHー!!』

『歯切れ悪いぞマイク、大丈夫か?』




超常黎明期は原作も本当に不鮮明だから好き勝手やらせてもらいます。

グラントリノしか御舟の家のことはご存知ではありません。
オールマイト、及び作者の性癖を狂わせたお師匠は何も知りません。

リカバリーガールとも繋がりがあったらもっと面白いかなと思って勝手に妄想してます。実はじいちゃんがバツイチだったりとか。


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