雄英剣風帖   作:剣鋭

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第十六幕 波乱の準決勝

 会場全体を巻き込むほどの爆風が、轟、緑谷両者の間で炸裂した。

 

 セメントスが衝撃緩和のために“個性”で防壁を張るも、ステージは大破。

 一番近くに居た審判のミッドナイトは風に飛ばされる落ち葉の如く吹き飛んでしまった。

 

「威力は大きけりゃ良いってもんじゃないけど……すごいな」

「ったく……無茶…やるわよホント。二人とも……」

 

 ──が、それでもすぐに立ち上がり、両者の戦いの顛末を最後まで見届けようという彼女の気概は、間違いなく審判員の鑑であった。

 

『何いまの……? お前のクラス何なの……?』

「散々冷やされた空気が瞬間的に熱され、膨張したんだ」

『はぁ!? それでこの威力って……』

 

「さ、災害かよ……」

「こんな威力出せる奴はプロにもそうそう居ねえだろ」

「流石、NO.2(ナンバーツー)の息子ってところか……」

 

 ステージに程近い生徒席は特に惨たる有様であった。

 

「峰田が飛ばされそうになってたけど、大丈夫か!?」

「問題ない」

「ありがとよ、障子……けど、欲を言えば上手い具合に手を離して欲しかったぜ。こう、女子の胸元に゛っっ」

 

 耳郎のイヤホンジャックで耳を、蛙吹の舌でビンタを喰らわせられた峰田が崩れ落ちた。

 

「強力無比……」

「マジでこれと互角以上だったん御舟? ……ん、あれ、御舟は?」

「御舟さんなら、先ほど席をお立ちになられましたわ」

「あ、そっかあいつ次試合か」

 

 周りを見回して高志朗の姿を捜す上鳴に八百万がそう答えた。どうやらあの爆風に紛れて移動したようだった。

 

「はぁ……はぁ、くっ……」

「……────!」

 

 そして濃い煙が晴れ、勝者が決まる。

 

 爆風によって吹き飛ばされ、壁に叩き付けられる形でずるずるとダウンした緑谷。対して残ったのは────轟。

 よってこの力技対決の軍配が上がったのは、

 

『緑谷くん場外! 轟くんの勝利!』

 

 半冷半燃の──轟焦凍だった。

 

 


 

 

「邪魔だ──とは言わんのか」

「……」

炎熱(ひだり)のコントロール…ベタ踏みでまだまだ危なっかしいもんだが

 子供じみた駄々を捨ててようやくお前は、俺の上位互換となった!」

「…」

「卒業後は俺の元へ来い!! 俺が覇道を歩ませてやる!」

「捨てられるわけねえだろう」

 

 準決勝の一試合が終わり、廊下にて。

 賛辞と共に差し伸べられた父親の手を、轟は取らなかった。

 

「そんな簡単に覆るわけねえよ…ただ──」

「……?」

「ただ、あの時、炎熱(ひだり)を使ったあの一瞬は、お前を忘れた」

 

 “個性”とは血の繋がりによるものが大きい。しかしあの瞬間、轟はそれを忘却したのだ。

 継承されたはずの“個性”(もの)を、継承元の一切の情報を頭から失くし、使った。

 

 炎熱(これ)も自分なのだと。

 

 ただそれが自覚あっての行動なのかは、轟自身も定かではなかった。嫌悪する父親への、無意識下での拒絶反応である可能性はあるが。

 

「それが良いのか悪ィのか、正しいことなのか……少し、考える」

氷結(みぎ)だけでは通用しない相手も居ると、以前俺が言ったことを忘れたか……!」

 

 通り過ぎ、すれ違い背を向けたままの彼に、エンデヴァーは先ほどよりも語気を強めて言い放つ。

 

「同じ轍を踏むことは俺が許さん、焦凍!」

「……まだあいつが上がると決まったわけじゃねえだろうが」

「……! 本気で言っているのか……馬鹿者め」

 

 


 

 

「凍結直後の氷を素手で、それも直接砕くなんて、何考えてんだい!」

「す、すみません、リカバリーガール……」

「あれが岩石の類ならもっと酷くなってたよ。今度から物をよく見てから殴ることだね!」

 

 医務室。

 包帯だらけの両手でベッドに寝かせられている緑谷に、そう叱咤するリカバリーガール。

 そこに、見舞いに来ていたオールマイトが意外そうに、しかし控えめに口を開く。

 

「え、それだけ……?」

「なんだい。もっと言って欲しいならいくらでも言ってやるけどね!」

 

 怪我についての小言を延々と言われる覚悟をしていたが、そんな雰囲気は無い。むしろ気になった言葉が一つ。

 

『今度から物をよく見てから殴ることだね!』

 

「……多少の怪我ならあたしが何とかできるから良いよ。けどね、緑谷」

「は、はい」

「一発目から、あんたあの氷を骨も折らずにやり切れる自信はあったかい?」

「う……」

 

 言葉に詰まる緑谷。

 確かに、轟の出す氷は有り得ないくらい堅固だった。一発目でキツイと感じていた時点で、他の策を講じるべきだったのだ。

 しかしそんな気の利いたものがポンと出てくればこのような苦労も無くて……。

 

 ()の超過使用で自滅することは無かったとはいえ、一発で拳にひびが入る強度の氷塊を幾度も殴り続けた。

 緑谷の武器はその圧倒的な膂力だ、切島や鉄哲のように自身の身体硬度を高める芸当はできない。使用者の筋骨の強度が砕く対象の硬度を上回っていれば問題は無かったが、今回はそうではなかった。

 

 喩えれば岩と鉄。岩が緑谷の拳で、鉄が轟の氷。

 

「無かったのなら、もっと考えなさい。プロになる前に体壊したら本末転倒だよ」

「……! はいっ」

「あたしも極力サポートするよ。贔屓感は否めないがね……」

「リカバリーガール……!」

 

 ありがとうございます。と、オールマイトが頭を下げた。

 

「……この子を見てると、重なるね、あの子に」

「え……?」

 

 リカバリーガールのつぶやきをもう一度聞き返そうとしたが、そのとき扉を勢いよく開けて入って来た者たちが居た。

 

「緑谷くん!」

「デクくん!」

「緑谷」

「緑谷さん、大丈夫ですか?」

 

 飯田、麗日と、耳郎に八百万であった。

 

「みんな……わざわざありがとう、来てくれたんだ」

 

 みっともない姿だからあまり見られたくないなぁ、と緑谷は苦笑い。

 しかし戦闘訓練にUSJと、共に闘った面子が見舞いに来てくれたことが嬉しかった。

 

「……次の試合は?」

「御舟さんと…爆豪さんの試合ですわ。ですが、ステージ大崩壊の為、いまは補修タイムに入りました」

「次……かっちゃんと御舟くんの試合……み、見なきゃ」

 

 起き上がろうとする緑谷を、飯田を始め、皆止めようとした。

 

 幼少の頃から一際眩しい光を放っていた幼馴染と、クラス屈指の実力を持つ副委員長の戦い。それも準決勝。

 見なければならないと強く思った。

 

「ちょっあんた動いて大丈夫なの?」

「そうだよデクくん。安静にしてなきゃ!」

「セメントス先生も補修に20分程かかると言っていた。そう急くものではないぞ緑谷くん」

 

 上体を起こそうとした緑谷をその場の全員が制止する。飯田も諭すようにそう言ってきた。

 するとリカバリーガールが、

 

「手術の必要は無いけれど、あたしの“個性”で治したから疲労は後から来るよ」

 

 対象の体力を消費し、対象の負傷を回復するのが彼女の“個性”だ。【癒し】たら疲労感が一気に襲う。

 

「ほら、この子に試合見せたいんだったら出て行きな。少し休憩すれば平気になるだろうから」

 

 


 

 

『さあステージ補修も終わったことだし、次の試合行ってみようか!

 この戦いで決勝の舞台が整う!

 ヒーロー科、爆豪勝己!

 (バーサス)

 同じくヒーロー科、御舟高志朗!』

 

 御舟高志朗、爆豪勝己がそれぞれ反対側からステージに入場し、開始線を踏んだ。

 

「……」

「……ちっ」

 

 高志朗はゆっくりと腰の木太刀(・・・)に手を掛け、右足を這わせながら僅かに前に出す。

 ここで爆豪の視線は高志朗の腰の得物に移った。

 

「舐めやがって……クソ侍」

 

 緑谷対轟戦、開始直前。

 

 廊下にて、高志朗の持つ木太刀を爆豪が破壊できれば、真剣使用を考慮する約束を交わし、その場で敢行した直後のことだ。

 爆豪の握った木太刀からは白煙が上り、【爆破】による高志朗の得物破壊が行われたことを如実に表していた。

 

『!? ……っ!』

 

 しかし、白煙が晴れ、そこにあったのは無傷の木太刀。

 ────爆豪は、歯を食い縛った。

 

『レディ! START(スタート)!』

 

「ぶっ殺す!!」

「!」

 

 両手からの【爆破】の推進力で飛び跳ね、高志朗との距離を詰めていく爆豪。最高速度は飯田に劣るも、初速は確実にそれを凌駕している。

 

『爆豪、開幕接近! 御舟に肉薄! いま一足で飛んでったぞスゲーな!』

 

「! 逃げんな!」

 

 高志朗はそれに対して、ただちに後退しつつ木太刀を抜いた。その時点で完全に出遅れているため、その後繰り出される【爆破】を伴った横薙ぎの攻撃は、十分距離を取って躱す他は無い。

 ただ後退にももちろん限度はある。それは場外負けだ。

 

「ふー……──っ」

 

 一際大きく爆豪から距離を取り、流れるように正眼の構えを取った。先ほどと同じように再び距離を詰めようとしてくる彼の──ちょうど目線に向けて構えた。

 

 観客席のプロヒーローがその戦況を分析する。

 

「さすがに退がりすぎじゃないか?」

「剣術家って言っても、“個性”相手じゃ分が悪いだろ。超人相手に、ルールは通用しない」

「でも、彼にも“個性”はある。それをどう使うかだが……“個性”が判然としない以上、評価のしようが無いな」

 

 

『追い詰められる形でステージ端に追いやられる御舟! 後が無いぞどうすんだ!』

 

 その実況に、相澤の解説も入る。

 

『爆豪の距離の詰め方がまともじゃない。間合い管理が大切な御舟にとって、奴に先制を許したのは痛手だったな』

 

「喰らえやっ!」

「……やむを得ない」

 

 高志朗は、稽古の日々を、僅かに思い起こす。それは祖父であり、師の言葉。

 

『相手を突きに行く(・・・・・)ときは首を狙って体全体を使って行け。後は踏み込みの強さによって威力が変わる。

 だが、突進してくる相手を迎え撃つ(・・・・)ときは、下腹に力を入れ、構えは崩さずここぞというときに剣先を相手の目線から──喉から下へ移せ。それだけで、成立する』

 

 

 瞬間、爆豪のあれだけあった勢いが止まった。

 

「!? ──ぐぅっ!?」

 

『ああっと!? 爆豪ぉぉっ!?』

『っ!』

 

「っ────せいぃいっ!!」

 

 視界がブレる。

 腹を突かれたことで爆豪の勢いは死に、そのまま胴体を吊り上げられるように持ち上げられ──開始線へと突き返された。

 

「ぐっげほっ──アアァっ!!」

「! ……軽くしたか」 

 

 爆豪は自身が吹っ飛ばされる瞬間、【爆破】を吹っ飛ばされる方向へ推進させた。これで突きの衝撃は軽減したことになる。

 空中で立て直し、よろめきつつも降り立つ。ステージ端からこちらに歩いてくる高志朗を睨みつけた。

 

「迎え突き*1は俺も嫌いだ。だが、これを完全に受けておいてよく咄嗟に後ろに飛んだな」

「このクソ野郎……!」

 

『なんだ今……何が起こったんだぁ!? 爆豪が御舟を追い詰めたと思ったら爆豪が吹き飛ばされて……?』

『……距離を取った後のあの一瞬で、万全な構えの御舟に爆豪が突撃していった』

『──でなんで爆豪の方が吹き飛ばされんだよ!? 押してたじゃん!?』

 

 遠目という理由もあるが、実況、解説席でもいまの出来事は理解が追い付かないほどの攻防だった。説明を求める会場の雰囲気に、相澤はよく思案したあと口を開く。

 

『……御舟は、爆豪の“中心”をあの一瞬で奪った。奪われた時点で爆豪は御舟には近づけない────そういう仕組み……いや、剣法の妙か』

 

 未だ理解の追い付かない観客席とは裏腹に、喰らった張本人は気づいていた。

 

「ちっ……要は突っかえ棒かよ…! 死ねやァ!」

 

 その罵倒は、気付けなかった自分に対しての言葉だということに、彼以外気付くことは無い。

 

「――なら、てめえの正面に立たなきゃいいだけだろうが!!」

「……俺に対して中心の取り合いを避けるのか? それもいい」

 

 やはり急接近してくる爆豪に、剣先を置く(・・)高志朗。

 

 しかし同じような徹は踏まない。爆豪は宣言通り、剣先が届くギリギリのところで、高志朗の正面から急遽方向転換──彼の真横に【爆破】で移動した。

 

「うらぁっ!!」

「むっ」

 

 すぐに爆豪を捕捉しようと高志朗も方向を変えるが間に合わず。死角から襲い来る【爆破】を、木太刀の中腹で受け、直撃は免れる。

 

「へっ──掴んだぞボケが」

「いかん!」

 

 しかしその場の爆破による熱と突風は、高志朗の目元を掠り視界を狭める。

 その隙を逃さず、爆豪は彼の木太刀を掴み取り──もう片方の手を小さく包み込むような形にして相手の顔に寄せた、その瞬間。

 

閃光弾(スタングレネード)!!」

「くっ!」

 

 【爆破】の応用技。瞬間的なまばゆい光を手元から発生させ、至近距離の相手の目を奪い、その爆音によって耳にもダメージを与える技、“閃光弾(スタングレネード)

 

 両手の方が最大威力を出すには効率的だが、いまの爆豪にそのような考えは無かった。

 威力大の技は、本当に大きな隙を突いて出すことに決めたのだ。

 

(こいつに大技は、逆にこっちの隙を与えることになる。予備動作の少ねぇ技でダメージを蓄積させて隙を作る!!)

 

「オラぁっ!!」

「っ!」

 

 高志朗の腹に打撃が加わる。

 

『爆豪の拳が今度こそ御舟に有効打を与えたぁ! しかし速いなあいつ、技の出が!』

『隙の少ない手数の多い技で御舟の体力を削る戦法に出たな。確かに、緻密な攻めをしてくる御舟には、大技は隙を与えてしまい逆に命取りになると考えたからだろう』

『目には目をってことね!』

 

「ぐっ──ふっァァっ!」

「ちっ」

 

 高志朗は、目を潰されても行動を止めなかった。

 掴まれた木太刀を手元で鋭く回転させて、爆豪の手から無理矢理抜き取ったのだ。

 その直後、懐で右手から左手に木太刀を握り換える。

 

「……!!」

 

 再び正面から死角の…今度は先ほどとは逆の右側に回る爆豪。しかしそこにすかさず、低い体勢からの高志朗の左片手突きが飛んで来た。脇腹にその一撃が加わる

 

「あぁ゛……どすどすと、ど突きまわしやがって……」

「爆発の発光を利用した目潰しか……憎らしい奴め。おまけに喧しいと来た」

 

 目を擦り、半目から徐々に覚醒していく高志朗もそう毒づいた。大して効いていなさそうな相手の様子に、爆豪の舌打ちが鳴る。

 

 これまでを思い起こしてみれば、戦いにおける駆け引きをこれほどまでに要する相手は初めてだった。

 

 爆豪の一回戦目は麗日だった。彼女は格上であろう自分へ捨て身で向かってきた。

 もともと正面からなら負ける気がしなかったが、それが誘いだったことに終盤まで気付けず、まんまと相手の策を完成させてしまったのは、自分の落ち度だと思っている。ただ、最終的には半ば力技でこれを撃破している。

 

 二回戦目は切島。彼は単純で、愚直なまでの近接タイプだった。

 耐久力もあり、相応に攻めあぐねはしたが『硬化中は気を張り続ける』ことを見破った。

 持久力はこちらが勝っており、種が割れれば後は絨毯爆撃で畳み掛けるだけだった。勝利後も、余力は十分残っていた。

 

 爆豪勝己は、強力な“個性”と戦闘センスを持っている。

 

 そして精神性。誰にも負けない。負けるはずがないという自負がある。

 どんなに強い“個性”でも、頭を使えば必ず綻びは見えてくると信じている。

 

 しかし、その自尊心にひびが入る事件が起こった。

 

『こっからだ! こっから俺は、一番になってやる!』

 

 路傍の石(デク)に躓いて大怪我を負った。

 

 その時自分に誓った。これ以上誰にも負けない、超えてやると。

 だから、こんな奴に苦戦している場合ではない。それが、たとえ(ヴィラン)を半殺しにするような苛烈な相手でも。

 

「てめぇが邪魔だ!」

「……」

 

 木太刀を片手に担ぎ(・・)、横に一回転する高志朗。狙いは爆豪の側頭部。

 

「遅ぇっ!」

 

 掌を火花で散らせる爆豪はそれを片手で受け止める。

 

「けっ、大振りたぁしくったなチャンバラぁ!」

 

 これで木太刀の動きは抑えた。この場でもう一度、高志朗の攻撃手段を失くしてしまえば、攻勢に出ることができるのは爆豪だ。

 しかし、掴み取った木太刀がピクリとも動かない。それどころか、両手にしなければ(・・・・・・・・)抑え込めない力に急変した。

 

(!? こいつ、急に力が上がって!?)

 

 相手の力の変化に気付いた爆豪が顔を上げると、ちょうど高志朗と目が合った。その彼の様相に目を見開く。

 瞳の奥──瞳孔が赤く光っていた。

 

「てめぇ……っ!!」

「? ああこれか。これは“個性”を発動させるとこうなる」

 

 そう言いつつ更に赤光が強くなった。

 

「……!」

 

 爆豪が押されている。両手が、片手に押し負けている。

 

「確定した予備動作だからな、隠しているつもりは無かったが……俺の()を知っている人間は皆こう呼ぶよ」

 

 ────“鬼の眼”と。

 

 完全に押し負けると判断して後ろに飛び退いた爆豪の首に、逃がさぬと言わんばかりの剣先が掠る。

 

「づっ!? …クソが──っ!?」

 

 そして、後ろに退がれば相手の追い打ちを受けるのは必定。

 退く爆豪に追い縋る高志朗が、耳の横に木太刀を寄せる。八相の構えで────そのまま打ち下ろした。

 

 開始直後とは真逆の構図に、観客もどよめく。

 受けは間に合わず、爆豪の交差した両腕に木太刀が直撃した。──遅れて嫌な音も鳴る。

 

「っっあぁ゛っ!!」

「……」

 

 どよめいた観客の中に、青ざめる者もいた。

 緑谷は己で砕いた氷に拳を砕かれたが、高志朗は容赦なく相手を叩きのめし、少なくともいま、片腕は砕いている。両者とも、痛々しい試合というのは変わりはなかった。

 

「うわ、いまモロじゃん……」

「す、すげえ強打だったぞ。骨……イッたんじゃねえか……?」

 

 生徒席では、切島が驚愕して思わず席を立った。

 

「俺の硬化でぶん殴っても平気な顔してたあいつが……!」

 

『御舟の剛剣が炸裂!! こ、これは……』

 

「~~~っがっ……あぁぁぁあぁっ……!」

 

 激痛による声を押し殺し、眼前の敵手と向き合う爆豪。

 脂汗が止まらない。

 

「両腕は潰れたぞ、どうする」

「余裕……はぁ……かましてんじゃねえ…! ムカつくんだよっ!!」

「……そうか」

 

 ──さもありなんと言外に語る。お前さんはそう言う奴だと思っていた、と。

 勝利に執着する完璧主義者。

 

 爆豪の不屈の態度に、高志朗は無表情に頷き、正眼に構える。

 

「……一位だ。完膚無きまでの一位だ、俺が獲るのは。これくらい(・・・・・)クソ余裕なんだよ……!」

「……!」

 

 未だ激痛は走るだろうに、爆豪は高志朗から“個性”で距離を取った。そして、両腕の【爆破】で空高く跳躍した。

 

「まだやんのか!?」

「あの爆豪っての……顔は怖えけど、根性有るな……」

 

 腕を交差させ両手をそれぞれ体の外側へ、しかし交互に爆破する。少しずつ勢いをつける。

 それを上空で、何度もおこなうことで、爆煙が使用者を包み始めた。

 ただ直進するのではなく、円を描くように回転しながら、突貫していく。

 

 対する高志朗は微動だにせず、正眼に構えたままだ。

 

「“榴弾砲(ハウザー)”……!!」

「──荒舟一刀流(あらふねいっとうりゅう)剣術……!」

 

 一族をしてそう称され、己もそう自負する赤い眼光、通称“鬼の眼”を垣間見せる。

 

 荒舟一刀流は剣術道場“鋭心舘”の主流剣術。

 

 御舟高志朗をここまで鍛え上げた古流武術の一つ。

 

「“着弾(インパクト)”!!」

 

 なるほど理解した、やはりこれは避けられない。激突は免れない。

 

 しかし、いままさにぶつかるという直前に、伸びてきた爆豪の手を、高志朗は瞬間的に見開いた目で捉える。“鬼の眼”も酷使により血走った。

 

 ────瞬間、ステージ中心で大爆発が起こった。

 

『あぁぁぁっ! 麗日戦で見せた特大火力に、回転と勢いを加えた──まさに人間榴弾!!

 御舟は終始構えを崩さなかったが、何かをしたようにも見えなかった!! つか爆煙で何も見えねー! 二人はどうなった!?』

 

 煙が晴れていくと、ステージに居たのは──

 

「……御舟が、場外でぶっ倒れてるぞ!」

「ってことは、爆豪の勝ち!?」

「いや見ろ!!」

 

 ラインの外へ吹っ飛ばされ、倒れていた高志朗はすぐにむくり、と立ち上がっていた。

 

「……切落(きりおとし)。やはり技名は最中に口にするものではないな……げほっ」

 

 ステージに残っていたのは爆豪。

 しかし。ミッドナイトが彼の様子を見て息を呑んだ。

 

「……!」

 

 すでに気絶した爆豪がそこに居る。

 その顔面には、高志朗の物であろう木太刀が打ち付けられる形でめり込んでいた。

 

「……爆豪くん?」

 

 ミッドナイトの呼びかけにも返事は無い。

 

『え、ちょっと待て? この場合ってどうなるんだ!?

 御舟は場外、爆豪は気絶! おいおい審判!』

 

 マイクが狼狽気味に審判であるミッドナイトに訊くと、彼女は首を横に振った。セメントスも難しい顔をして立っている。

 すると、解説の相澤が口を開く。

 

『────この場合、写真判定とする』

 

「写真判定!?」

「ハイスピードカメラかー」

「いやでも、それで何を判定するんだよ!?」

 

 1-Aの生徒席に居た数人は、あっと何かに気づいたように声を上げた。

 

「かっちゃんが……気絶……。あ!」

「御舟さんが場外に出るのと、爆豪さんが気絶したのと、どちらが早かったかを判定するようですわね」

 

 とある観客席では。

 

「お前の孫、本当に高校生か? 陣七よ。あの爆発は直撃すりゃ俺でもすぐにゃ立ち上がれねえ。タフな小僧だな」

「そうか? 空彦なら避けた上で一撃加えられるじゃろ」

 

 老体が二人。酒をかっ喰らいながら話していた。

 

「しかし高志朗め、“個性”を使っても避けられなんだわ、けしからん。弛んでるのぉ。うぅむ、やはり一人暮らしなぞさせるのではなかったわ」

 

 そう言って、酒をちびっと啜った。

 

『さあさあ判定、出たぜ!!』

 

 スクリーンに撮影された映像が映し出された。

 

「おいおい、マジかよ」

「あの一瞬で……」

 

『……伸ばされた爆豪の手を打ち落とし、その後に爆豪の正面を打っている。技の発動は阻止できなかったようだがな』

『審判! 判定は!?』

 

 ミッドナイトが────高志朗に向けて手を挙げた。

 

「二人が接触した直後に、御舟くんの一連の行動によって爆豪くんは意識を失ったものとします。

 よって────爆豪くん気絶! 御舟くんの勝利!」

 

 会場は、静まり返っていた。

*1
迎え突き。剣術、剣道に関する用語。相手の構えを崩しもせず、正中線を取れていない状態で突進してくる相手に使われる剣法。稽古において特に喉への迎え突きは危険とされる




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