雄英剣風帖   作:剣鋭

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今日中に、十七、十八と、二話分続けて投稿しますので、ご注意いただきますようお願いします。


第十八幕 雄英体育祭決勝戦

 二人に気付かれずにあの場を立ち去った爆豪は、廊下を大股で闊歩する。

 その顔には、苛立ちが滲み出ていた。

 

「こんなに遠いはずがねえ……!」

 

 爆豪という人間は自己肯定の権化である。しかし同時に、あのオールマイトをも超えるヒーローになると豪語する程の努力家でもあった。

 “個性”だけではない、戦いの基礎となる肉体の鍛錬もしていた……何に対しても、昔から余念が無かった。すべては、トップヒーローになるために。

 

 土台は完璧だった。中学校三年時には、もう同年代は愚か、プロヒーローともやりようによっては勝てる自信が大いにあった。そのまま雄英でも、完璧な高校生活を打ち立てるつもりでいた。

 

 万年、デクと呼んでいた幼馴染にも一度は苦渋を舐めさせられたものの次は無いと確信している。言い訳になるだろうが、あの時は油断してああなったのだ。二度と俺に土など付かせねえ。

 

 最初、無敵に見えた轟からも、この体育祭を通して付け入る隙は見えていた。問題は滅多に見せない炎熱(ひだり)だが、家庭の事情(知ったこっちゃねえが)で練度は低め。それに反して練り上げてきたこちらの【爆破】で火力勝ちか、技術勝ちできる。勝利への展望が確かにあった。

 

 しかし、いまはそんな仮想敵よりも、御舟高志朗が最大の敵だ。

 

 奴に敗けたのは……怒鳴り散らしたくなるほどムカつくことだが、敗北は素直に受け止める。

 しかし納得できないことが一つだけあった。ただ一つ……その所為でいまは爆発寸前なのだ。

 

「……」

 

 誰も居ない廊下で、爆豪は拳を痛いほど握り締めた。

 

「ざけんな……っ」

 

 それは己にぶつけた罵倒だった。

 高志朗と最後にぶつかった時、自分は勝ったと思った。あの大技はいままで編み出した技の中では最大火力だった。それを正面から受けられる奴などいない。もし耐えられたとしても、場外へぶっ飛ばされるのは必定だった。

 

 問題は、ぶつかった瞬間から医務室で起きるまでの記憶が全く無いことだった。

 それは爆豪にとって、非常に良くない敗け方だったのだ。今後の対策の立てようがない。当然、写真判定の映像も見た。だが結局、自分が覚えていなければ意味が無い。写真判定は結果論なのだから。

 

「どうして……っなんで思い出せねえんだ……!? クソが!」

 

 通路に置かれたゴミ箱を蹴り飛ばす。

 

 「クソ……! クソがっ……」

 

 


 

 

「アーッハッハッハ! ザマぁないね爆豪くん。拳藤の宣誓を遮った報いさ! これで少しは大人しくなったんじゃないかなぁ!?」

「倒したのB組(わたしら)じゃないけどな」

 

 項垂れる拳藤に、取蔭も後ろの席から顔を出した。

 

「爆豪ってのもそうだけど、御舟もなんで雄英の推薦無かったんだろね?」

「うーん」

「もうマジここまで来ると推薦入学者としてのプライドがズタボロなんですけど」

「あ」

 

 何かを思い出した拳藤。どうかしたん?と取蔭。

 

「入試のとき勉強できないってあいつ言ってたわ」

「御舟が? 嘘でしょ?」

「本当」

「い、意外な弱味が……」

 

 引きつった笑いが起こったとか起こらなかったとか。

 

 所変わって観客席。

 

「こりゃ、分からなくなってきたな」

「ああ、俺はてっきり爆豪が勝つと思ってた」

「まぁ派手=強いってわけじゃないし。それは一回戦目の普通科(心操)で証明されてんじゃん」

「つってもあの大爆発に攻撃差し込める“個性”は普通に“強個性”だろ」

 

 A組生徒席。

 

「……かっちゃんが、敗けるとは思わなかった」

「デクくん? 大丈夫?」

「あ、うん……。大丈夫、少し驚いただけだよ」

 

 あれだけ不敗を誇った幼馴染が、このような明確な舞台で敗北を喫した。その事実に、愕然とする緑谷。

 そう言う麗日の方も、気が気じゃなかった。

 

「御舟くん、結局木刀だったんや。どうやって説得したんやろ、ちょい気になる」

 

 飯田が拳を握って、かつての対戦相手に思いを馳せた。

 

「爆豪くんのあの激しい攻めにも動じず対処してみせるとはな。さすがにもうダメかと思ったが!」

「燃えとるね、飯田くん」

 

 興奮気味に話す飯田に、麗日が若干引きつった笑いで問いかけた。

 

「当然さ。どうせなら自分に勝った人に勝ってもらいたいからな!」

「そういうもの?」

「ああ、麗日くんは違うのかいいいいいいっ……!」

 

 携帯のバイブレーションと完全に同調した飯田に一瞬周りがドン引いた。

 

「何どうしたん!?」

「電話だ」

「電話か」

「すまない出てくる」

 

 席を立ち、その場を離れて画面を見る。着信先は……母親だった。

 試合結果のことだろうと思い、飯田は電話に出た。

 

「もしもし。負けてしまいました母さん…不甲斐ないです……」

『違うの! その事じゃなくて……ごめんなさいね天哉』

「?」

『落ち着いて聞いて……天晴が……

 

 兄さんが(ヴィラン)に……!!』

「なん……だって!!?」

 

 


 

 

「お前らは気づきもしない。

 偽善と虚栄で覆われた…ハァ…歪な社会。ヒーローと呼ばれる者ども……

 

 俺が、気づかせてやる。偽りの正義を」

 

「────探しましたよ『ヒーロー殺し』ステイン」

 

 その声の主に、歪に象られた刀剣を背後に振り下ろし、ピタリと止める。しかし、手応えがないことに気付き、ステインはそちらに目を向けた。

 

「落ち着いてください、我々は同類。悪名高い貴方に、是非とも会いたかった」

 

 底知れぬ闇が平坦にそう答えた。────黒霧。(ヴィラン)連合の主力であり、希少なる転移能力【ワープ】の“個性”を持った重要人物。

 

「お時間、少々よろしいでしょうか」

「断る、と言えば?」

「あなたは断れない。なぜなら、我々(・・)もこの社会を憂う者。ただ暴れるだけが、(ヴィラン)ではないことを証明したいのです」

「……その言葉、真実から言っているのか?」

「それは、来ていただければお解り頂けると思います」

 

 ──では見極めてみよう。

 ステインは、黒い靄に入っていった。

 

 


 

 

『さァ、お待ちかね! 雄英一年の頂点がここで決まる!

 いわゆるっ──決 勝 戦! 御舟高志朗 (バーサス) 轟焦凍! いずれもヒーロー科!!』

 

「行くぞ、御舟──俺の右側(こおり)は、ここから始める」

「そうか。あー…俺さ、いまさっき準備運動(・・・・)してきたから、暖まってるんだ(・・・・・・・)。氷結だけで来るなら、本気で来てくれなければこの躰、中々冷めんぞ」

 

『ラストバトル! START(スタート)!!』

 

「……!!」

 

 開始直後に、轟が手と足を地面に這わせた。より速く、より強大に、(それ)は高志朗に襲い掛かる。

 

「いけない!!」

 

 危険を察したセメントスが、椅子から転がり落ちるように高志朗側の観客席の前に向かって、コンクリートを捻り出していた

 

 極寒にて自然生成される氷山から、自由に動き回れる手足が生えたかのような脅威だった。

 まさに、氷山の魔物。その魔物は、高志朗を喰らうべくその食指を伸ばし────遂には覆い尽くしてしまった。

 

「“穿天氷壁”……!」

 

『瀬呂戦で見せた大氷壁が出現! いや、それよりもデカくねえか!?』

 

「お、俺の時よりも滅茶苦茶エグくないか!? 受けた側だから分からんけども!」

「いや、間違ってないよ瀬呂くん。これは初戦の時の比じゃない!」

 

「危ない……観客に当たる軌道だったよ、これは……ふぅ」

 

 氷山の一撃は、観客を守るように張られたコンクリートで押し留められていた。

 

『サンキューセメントス! いや危なかったけど、戦闘は続行……と言いたいところだが……?』

 

 観客席からも、轟側からも、実況側からも見えない高志朗の安否。氷の中に閉じ込められて身動きが取れないのでは、と思う者も少なくなかった。

 

『音沙汰が……無いな』

『中で氷漬けになってたら、救助よろしく割とマジで』

 

 ────その瞬間、巨大氷山がに割れた。

 それはまるで、モーセの海割りのごとく。罅は大きく伝染していき、左右に分かれるように崩れていったのだ。

 

『……』

『マイク、口開いてるぞ』

 

 中心に居るのは、御舟高志朗。

 八相の構えより若干の位置が高めである。と言っても、燃え盛る火の位と云われる上段の構えとも違う。

 

 だが分かったことは、その者が一本の木太刀で氷山を叩き割ったことだった。

 砕き割られバラバラとなった氷の塊を、高志朗はゆっくり跨いで避けていく。

 

「……!」

「かつて九州に、凄まじい威力と攻撃速度を持つ剛剣が燻ぶっていた」

 

 いまはもう、廃れて断絶してしまっているが。と付け加えた。

 

 この剣法も、高志朗が武者修行で会得した剣法。しかし、威力、速度ともに未完成であるため“技”に昇華できていない。

 ()の九州剣法は習得が非常に困難だった。

 

「そういう、いまは失われつつある古流剣法を各地で復活させることも、俺の野望だ」

「野望……」

「──さぁ近付くぞ(・・・・)、轟!」

「ちっ!」

 

 地面を蹴った高志朗は、歩み足で轟との距離を詰めていく。

 

 しかし大氷壁を打ち砕いた弊害で、障害物となる氷塊が所々に散乱しているため高志朗の移動速度はそれ程でもない。

 

 相手の足を止めようと地面を凍結させていく轟。それを正面から叩き割っていく高志朗。

 

 正面、袈裟、胴。

 

『轟が氷結を連発! 御舟、それを打ち砕いて徐々に前進していくが──』

 

「ふぅっ──!」

 

 轟が強く踏み込むと、地を這う氷結が二手に別れ、同時に別方向から高志朗を攻め立てる。

 

 その一方を横一文字に叩き割り、もう一方は後退して木太刀を氷に突き立てて砕く。

 

「むっ」

 

 しかし突き立てた木太刀が氷に捕まりそうになったため、地面から引き抜き後退した。

 降り立った高志朗は、困った顔で頭を搔いた。

 

『御舟近付けない!! 轟の鉄壁の防御を崩せない!』

『轟が出す氷の強度が、おそらく尋常じゃない。それをああも何度も砕く御舟も大概だが、距離が空きすぎているな』

 

「これは苦しいな、御舟」

「轟くんは、御舟くんを近付けたくないんだと思うよ」

「だから開幕ぶっぱで勝負付けようとしたんか!」

 

 寒がりながらそう言う上鳴。

 轟が氷結ばかり使っているため、会場が冷蔵庫と化しているのだ。

 

「でも、それは轟くんも同じはず……!」

 

 緑谷も、轟と準決勝を長期戦で争った関係だ。ゆえに身に染みて分かっている。

 

(左の炎で補完できるはず。それをしないのは、やっぱり轟くん……!)

 

『以前の緑谷戦と打って変わり、今度は相手を近付けさせない轟!』

 

「キェアアァァっ!!」

 

 耳をつんざくような金切り声とともに繰り出される剛剣の連撃。

 木太刀を握った手を右耳に添え、そのまま振り下ろす。振り下ろした木太刀を今度は反対の左耳に返す動き。

 

 八相の構えから木太刀を高速で振っていく切り返しの技。

 

 迫り来る氷を打ち砕き続ける高志朗に、攻め手は緩めず轟は考える。

 

(緑谷も返り討ちにできる俺の氷を、あんな棒切れで叩き割るのか……)

 

 あの危険な切り返しを避けるため、足元を狙うために敢えて薄氷で的を小さくしたが、高志朗はまるで、這う蛇を仕留めるが如く薄氷の末端を正確に突き崩してくる。

 

 当然、崩されれば凍結は一瞬止まってしまうため、高志朗に距離を詰められてしまう。

 

 轟は臍を噛んだ。

 

(遠距離からは捕まえられねぇ。だからと言って、あいつの体に触りに行くのは……賭けだ)

 

「くそっ……やっぱり、左側(・・)を使うしかねえのか」

 

 未だ過去に囚われる轟。

 

(けどそれで勝ったとしても、過去の御舟(あいつ)に勝ったことにはならねぇ。氷結(みぎ)で勝って、初めて俺は……!)

 

「考え事か」

「しまっ──」

 

 それは、轟の注意散漫だった。

 氷の防壁をすべて破って来た高志朗の接近を許し、右手を木太刀で引っ叩かれた。決定打にはならないものの、自身の氷結によってかじかんだ手には痛打の一撃だった。

 

「ぐっ、がぁぁぁっ!!」

 

『いでぇぇえぇ!! 極寒の中であの一撃は痛すぎる!!』

『お前が痛がってどうする。だが、いまのは地味に効く攻撃だ』

 

「くそっ……」

「ようやっと近付けたな」

「ちっ」

「逃がさん!」

 

 轟と高志朗の間に両者を隔てる分厚い氷壁が現れた。高志朗はすぐさまそれを横切りで打ち砕き、氷壁を跳躍で飛び越え、後退する轟に張り付いていく。

 

『視界を塞ぐような氷の壁!! だが御舟はそれを粉砕して追い縋る!!』

『もう、御舟は轟を逃がさないつもりだろう……そういう攻めだあれは』

『よ、容赦ねぇ……!!』

 

「焦凍ぉぉぉぉぉっ! 炎熱(ひだり)を使え!!」

『おん?』

 

 マイクも要らない声量でそう叫んだのは、観客席に居るNo.2(ナンバーツー)ヒーロー・エンデヴァーだった。血走った目で、客席から身を乗り出している。

 ステージの端にまで追い詰められた轟は、舌を大きく打つ。高志朗は木太刀を足元まで下げ……息を吐いた。

 

「揺れてるな? はぁ……お前さんは初めから【炎熱】を使うべきだったんだ」

「うるせぇ、俺は……!」

 

 緑谷戦で炎熱(ひだり)を使う意志を見せたが、未だ吹っ切れずにいる轟は、高志朗にも勝たなければならないという義務感と板挟みになっている。

 

 父親の歪んだ野望を打ち砕くために、右側(こおり)だけで優勝すると決めたこと。

 

 過去、高志朗に右側(こおり)だけで勝てるとタカを括って敗けた。ゆえにこの借りは、同じ条件で返さなければならないこと。しかしこのままでは、確実に敗ける。

 

 この二つの事柄に、轟は押し潰されそうになっている。

 

「意地なら張り通せよ。こんな試合(ところ)で…しかも言葉だけで揺れるような意地なら張るな」

「────まさか、御舟お前」

 

 轟は寒さに震えながら顔を上げた。緑谷とも、爆豪とも違う意味の言葉を掛けられたことに、逆に驚愕していた。

 高志朗はゆっくり頷いた。

 

「ああ、俺は別に、お前さんが炎熱(ひだり)を使わなかったところで気にはしないぞ……いまに至ってはな」

「……!」

 

 彼は、父親に何度も炎熱(ひだり)を鍛えろと指図をされてきた。

 

 準決勝で緑谷の熱意にあてられ、炎熱(ひだり)を使ったが、それは一重に父親(エンデヴァー)を一瞬忘れることができたから使えた。

 

 だが高志朗相手となると思い入れの強さが違った。轟にとって悪い意味で、エンデヴァーを忘れられないでいるのだ。

 いままで、この男に勝つために氷結(みぎ)だけを鍛えてきた。ここで(ひだり)を使ったら、勝っても負けても悔いが残る。だからと言って、(みぎ)だけでは勝てない。

 

「クソっ……()の次は、お前に囚われるのかよ、御舟……!」

「人間、他人(ひと)から諭されて辞めるより、やるだけやって満足して辞めた方が良い時もあるんだぜ? それが、いままでのお前さん自身への弔いだと俺は思ってる」

「とむ…らい──」

 

 要するに──

 

「ここで敗けておけ、轟焦凍」

「────」

 

 轟が息を呑む。

 緑谷が轟の中に燻ぶる(ひだり)を引き出したというのなら、

 

「俺は、(みぎ)への未練を断ち切らせる。ああ、緑谷は本当にいい奴だよ。本来俺がやるべきことを、先にやられてしまった」

 

 戦意を漲らせた高志朗が、正眼に構えた。その表情には、笑みが浮かんでいた。

 震える体を意地で止め、轟も冷気を纏って相手と対峙する。

 

『両者、睨み合ったまま動かない……』

『……っ』

 

「……」

「……」

「…──!」

 

 高志朗が、目を見開いた。“鬼の眼”が現れる。

 

『動いた……!』

 

 ()が動いた。

 

 地面を蹴り、轟との距離を詰めた高志朗は、頭上にまで木太刀を振り上げた。いや、ただ振り上げたのではない。

 

 振り上げた木太刀を額の少し上に付け、不動の構え。それは、火の位…上段の構えだった。

 

うおしゃあぁぁッ!!

「!!」

 

 真っ向からぶつかり合う瞬間、轟は振り下ろされた木太刀を左手で受けた。落雷のごとく圧し掛かる諸手正面打ちに、轟は歯を食いしばる。

 

「~~~っ!!」

 

 声にならぬ激痛に、観客も青ざめる。

 轟の左手がへし折れた。だがこれこそが狙いだった。

 

「いまは左なんかどうでもいい(・・・・・・)。気を失ってないなら、それで良い! ────行くぞ、御舟!」

「なるほど、誘いか!!」

 

 一瞬でも高志朗の勢いが弱まればそれで良かった。狙いは初めから、高志朗に対して右手で触りに行くことだった。

 

『あぁぁぁっ!! 轟が右手で触れたぁぁ!! 御舟が手から氷漬けにされていく!!』

『勝負、あったな』

 

「けっ、洒落臭いなぁぁぁぁっ!!」

「何っ!?」

 

『なんと!?』

『あの状態で動けるのか、御舟……!』

 

 氷漬けにされながら高志朗は、轟の体を地面に押し倒していた。

 

 上段からの一撃、その勢いは死んでいない。

 燃え盛る炎のごとく、逆にその力を増していく。

 

 地面が罅割れ、破壊されていく。一際強く体がめり込んだことで、轟が吐血した。

 

「がはっ……クソっ、お前……もう半分凍ってんだろ……マジかよ……!!」

「まだだぁぁぁっ!! この程度で凍えてたら、上段に構えた意味が無いだろうが!!」

 

 


 

 

『ただ上から振り下ろすだけでは、それは上段とは言えん。

 上段の構えとは古来より、火の(くらい)の構えと云われてきた。

 

 胴を曝け出し、喉元も剥き出しとなる。防御面においては下位の構えじゃが……そもそも上段は攻めの構え。何にも動じない攻撃的気力。

 どんな相手でも、攻めの心を忘れてはならぬ。

 

 恐怖心に打ち克つことが、上段を構える絶対条件』

『恐怖心……』

『己の中にある恐怖心に打ち克て。そうすれば、誰も寄り付けぬ炎のごとき鎧を纏える』

 

「うぉぉおおおおッ!!」

「ぐぅぅぅぅぁっ!」

 

 轟を中心に、地面が陥没して砂煙が噴出した。

 粉砕されたコンクリートの屑が、ステージ外にまで舞い落ちる。

 

『煙幕で視界悪ィィィ!全然見えねえぞ! 二人はどうなった!?』

 

「けほっけほっ。状況は──」

 

 ミッドナイトが、煙幕の中で人影を目撃した。砂煙で咳き込みながら近づいて行くと、人影が鮮明になっていく。

 影は、木太刀を持っていなかった。

 

「と……轟くん?」

 

 その直後、ミッドナイトは息を呑んだ。

 

 木太刀が、地面にめり込んだ轟の肩口を抉る形で取り残されていたのだ。

 

「……」

 

 ではあとはもう、煙が晴れるのを待つまでも無い。

 横に立つ人影は、大きく息を吐き、轟にめり込んだ木太刀を外し、収めた。

 

 一瞬、会場が静まり返る。ミッドナイトが判定する。

 

「轟くん、気絶!! よって御舟くんの勝ち!

 

 以上で全ての競技が終了!! 今年度雄英体育祭一年優勝は────…A組、御舟高志朗!!!」

 

 


 

 

 終了後、轟は意識が飛んでいたため、俺の凍った半身をどうするか少し不安だった。

 どうしようかしばらく考えていたが、すぐに駆け寄って来たミッドナイト先生とセメントス先生にお湯をぶっかけられまくった。適温とはいえ、ステージのど真ん中で濡れ鼠にされるのは少し堪えた。まぁ、熱くなっていた体には丁度いい水浴びだったから良しとする。

 

 その後の表彰式は、ミッドナイト先生進行のもと、突如空から飛び降りてきたオールマイト先生によるメダル授与がおこなわれた。

 

 三位、緑谷・爆豪

 

 準優勝、轟。

 

 優勝、俺こと御舟高志朗。という成績となった。

 

 ミッドナイト先生との息の合わない漫才のようなやり取りに、オールマイト先生のソロ活動に少しだけ納得した。

 この世の黄金律の一形態にピラミッドというものがあるが。その頂点には、『誰も隣に居ない』ということを改めて実感した。

 

 爆豪は、表彰台の上で同率三位の緑谷を、唸る猛獣のように威嚇していた。なぜ台座を隣り同士にしたか分からない。周りもドン引いていた。

 だが、全身を拘束されていたため、掴みかかる恐れは無かった。

 

 轟は、何か憑き物が落ちたような表情…入学時や、戦闘訓練、体育祭中盤までの時のような刺々しい雰囲気が和らいだような気がする。オールマイト先生もそれに気付いたのか、優しく抱擁していた。

 勿論、あんなもので氷結(みぎ)への未練を断ち切ってやれたとは思わない。結局、己で切り開いていかなくてはならない問題だから。

 

 俺はと言えば、何か言いたげなオールマイト先生から普通にメダルを貰って終わった。俺にも何かアドバイスが欲しかった。優勝がこの扱いかい。

 

 …雄英体育祭はすべて終わり、教室に戻って来た。

 帰りのHR(ホームルーム)で、明日、明後日は休校。休み明けに、プロヒーローからの指名が発表されるらしい。

 正直、指名数はいいから実力のあるプロの方たちに揉んで貰いたいと強く思った。

 

 …体育祭の終了後、飯田の姿が見えないから緑谷に訊いてみたら、家の事情で実家に帰っていたことを知った。

 それも、(ヴィラン)に兄がやられたそうだ。

 

 あのインゲニウムが倒されたということは、(ヴィラン)は相当の手練れだろう。

 

「仇討ち……は、流石に無いか。冷静な飯田に限って」

 

 俺なら行ってしまうだろう。家族を害されれば、その仇を討つ。

 殺されれば、殺してやるくらいには思っている。

 

「ヒーローらしくないな。まずいまずい」

 

 ひとまず、二日間あるので実家の茨城に帰ろう。

 かくして、雄英体育祭は幕を閉じたのである。

 

 


 

 《原作外登場人物紹介》

 

 御舟高志朗(みふねこうしろう)


【性別】男

 

【容姿】黒髪をやや後ろで束ねた侍風の髪型。ツリ目で三白眼の悪人面。

 

【座右の銘】「乾坤一擲」

 

【出身地】茨城県

 

【出身校】水戸練兵舘中学校(実家から越境)

 

【趣味】竹刀や木刀、刀の手入れ 温泉 乗馬

 

【好きな物】日本茶 刺身 剣術

 

【嫌いな物】食事を妨げる人間 剣の稽古 勉強

 

【苦手な物】空腹 勉強

 

“個性”【剣気】

 

 真剣による修練を積むことによって、“個性”である剣気力を“溜め”る。その“溜め”たものは、身体機能を飛躍的に上昇させる高エネルギー体を纏う、または使うことが可能。

 具体的には、瞬発力や膂力の上昇、反射神経などの神経系の鋭敏化が可能。

 

 無刀、または度が過ぎた動き(高速移動、大跳躍)、要は常人以上の動き等は“溜め”たエネルギーを消費することになる。枯渇すれば“個性”を使えない状態となる。

 ただ、剣の理合いに基づき、尚且つ技として完成された剣技は、エネルギーの消費が無い。それどころか、従来の剣技を超越した技を繰り出せる。“切落”、“斬鉄”など。

 

 

 かつては常陸国(いまの茨城県)を中心に五百年以上の歴史を持つ由緒ある武家だったが、現代は“個性”の出現によって衰退。

 

 “天然記念物”と称されるようになり、他の剣術流派とともに“個性”の歴史に埋もれていった。

 

 祖父である御舟陣七が館長を務める実家の剣術道場は、超常黎明期以降に門下生が激減。ついに高志朗と他、高齢剣士たちだけとなり、事実上の閉館となった。

 

 ヒーローになる目的は、御舟の名を広め、道場に人を集めること。

 

 日本剣術を世に広め、あらゆる流派を復興させたいと願っている。それゆえ、高志朗の学ぶ“荒舟一刀流”は各流派の技を幾つか取り入れており、畏敬の念を持って重宝している。

 


 御舟陣七(みふねじんしち)


 白くなった短髪を後ろで小さく束ねた老人。

 

 今作の主人公である御舟高志朗の祖父であり、剣の師。無個性。

 

 “個性”抜きでやれば、高志朗などまだまだ足元にも及ばない使い手。

 

 かつて武装勢力を率いてオールマイトを支援した功労者。

 当の本人は知らなかったが、歳の近かったグラントリノや他一名には明かしている。いまはグラントリノと名を呼び合う程の酒飲み仲間。

 

 高志朗にはこのことを話していない。




二話分投稿したんだから暇なんやろ?て思います?
盆休みなんてないんだよ!

そんな哀れな社会人に感想、評価くれたらすごく嬉しい。

毎日が日曜日になればいいんだよ
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