雄英剣風帖   作:剣鋭

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第二十幕 銘打つ者たち

「御舟が固まって動かなくなったぞ!」

「大丈夫か!」

「大丈夫だって御舟、優勝者で指名数二桁行かねえのなんてザラにあるよ! 多分! な、先生!」

「傷口に塩を塗りたくってるわ、上鳴ちゃん」

「ひとまず黙れ」

 

 しんっ……

 ワントーン低い声の担任の言葉に、クラス中が沈黙に包まれた。

 

「これを踏まえ、指名の有無関係なく──いわゆる職場体験ってのに行ってもらう」

「職場……」

「体験?」

「お前らは一足先に経験してしまったが、プロの活動を実際に体験して訓練をしようってことだ」

 

 クラス全員に、USJ襲撃の日が脳裏を過る。

 すると、窓際に居る生徒の手が勢いよく挙がった。

 

「どうした御舟」

「復活が早い!」

 

 自分の指名数問題にはすでに見切りを付けた、優勝者なのに9件の男がキリっと発言した。

 

「指名の有無関係なく、と先ほど申されましたが、指名の無かった人は如何様にすれば良いのでしょうか」

「お前はあったろ、9件……ヒーロー名を考える時間を多く取りたかったが──まぁいいか」

 

 指名の無かった生徒が不安そうな顔を僅かに覗かせているのを見て、相澤は話し始める。

 

「指名のあった者は個別にリストを渡すから、その中から自分で選択しろ。指名の無かった者は、予めこちらからオファーした全国の受け入れ可能の事務所から選んでもらう。それも後で紙として渡す。さて……ミッドナイトさんお願いします」

「もっと上手く場を繋いで欲しかったわよ、相澤くん」

「時間押してるので、勘弁してください」

『ミッドナイト!!』

 

 そこに居るだけでインパクトの大きい女性ヒーロー──“18禁ヒーロー”ミッドナイトが教室に普通に入って来た。

 ほぼ半裸の黒タイツでこのスタイルは、紛う事無き18禁であった。

 

「これから君たちが付ける名が、世に認知されそのままプロ名になってる人多いから──適当なのを付けると後悔することになるわ」

「こういうわけで、その辺のセンスをミッドナイトさんに査定してもらう。将来自分がどうなるのか、名を付けることでイメージが固まりそこに近付いていく。『名は体を表す』ってやつだ──“オールマイト”とかな」

「ヒーロー名の雛形を教えてください」

「ああ、ほれ」

 

 高志朗の質問に答えた相澤が、ささっと黒板に書き記した。

 

 “〇〇ヒーロー”《〇〇〇〇》。

 

「……とは言え、型に嵌る必要は無い。各々自由に名付けろ」

 

 


 

 

 

 ──15分後。

 

「じゃ、そろそろできた人から発表してね!」

 

 ミッドナイトが見回ってくれるわけではなかったようだ。

 

「それじゃ、僕から行くよ」

 

 先鋒は青山だった。

 

「輝きヒーロー“I can not stop twinkling.”──(意訳:キラキラが止められないよ☆)」

「短文!」

「そこは『I』を取って『Can't』に省略した方が呼びやすいわ」

「それね、マドモアゼル☆」

 

 最終的に、勝手に省略されて呼ばれそうな呼称である。

 

「じゃあ次アタシね! エイリアンクイーン!!」

 

 次鋒、芦戸──“リドリーヒーロー”《エイリアンクイーン》。

 

「血が強酸性のアレを目指してるの!? やめときな!!」

 

 ミッドナイトに却下された。

 人を襲い、繁殖方法も多種多様な宇宙の怪物、地球外生命体である。せめてリプリーにしておくと良かったかもしれない。

 

(最初に変なの来たせいで、大喜利っぽい空気になったじゃねえか!!)

 

「はいどうぞ御舟くん」

「はっ」

 

 教壇に高志朗が上がる。この大喜利の出し物的空気を打破してくれると、皆信じていた。

 トンっ、とミニボードを立てて口を開く。

 

「“辻斬りヒーロー”《テンチュー》」

(完全に幕末の暗殺者じゃん!)

(怖ぇよ!)

 

 この男も大喜利の波に乗っかってしまった。

 

 辻斬り。意味としては、武芸の腕を試すため、刀の切れ味を実証するためなど、その辺の人間を斬り付ける。もはやテロ行為だ。

 

「《テンチュー》はともかく、辻斬りは良くないわよ。ヒーローらしくない」

(ヴィラン)限定の辻斬りです」

「なに自信満々に言ってるの。貴方の為よ、やめときな」

「くっ無念だ」

 

 対(ヴィラン)テロが認められずとぼとぼと席に戻っていく高志朗。

 

「じゃあ次、私いいかしら」

「梅雨ちゃん!」

 

 ケロっと挙手したのは、蛙吹梅雨。

 

「小学生の時から決めてたの。フロッピー」

 

 “梅雨入りヒーロー”《フロッピー》。

 

『!!』

「可愛い! 親しみやすくて良いわ! 皆から愛されるお手本のようなネーミングね!」

「おぉ……」

「ありがとうフロッピー!!」

 

 フロッピーコールがクラス中に起こった。

 前三人が引き起こした大喜利の波は見事に返され、平穏が戻ったのだ。

 

「んじゃ俺! 烈怒頼雄斗(レッドライオット)!!」

 

 “剛健ヒーロー”《烈怒頼雄斗(レッドライオット)》。

 

「『赤の狂騒』! これはアレね!? “漢気ヒーロー”《紅頼雄斗(クリムゾンライオット)》のリスペクトね!」

「そっッス! だいぶ古いけど、俺の目指すヒーロー像は“(クリムゾン)”そのものなんス」

「憧れの名を背負うからには、相応の重圧が付いて回るわよ」

「覚悟の上っス!」

 

『お、お前さんにはお前さんの未来のビジョンがあるだろう? 無理に合わせんでもいいんだぞ……ありがたいが』

 

(ヒーローを全力で支えることができ、自分の身も自分で守ることのできるヒーローに……。圧倒的不利な状況でも前に出る気概のあるヒーローに、私はなりたい)

 

 八百万が、一人目を瞑って息を吐く。

 

 守るべき対象──民間人がいない状況に限り、ヒーローは初めて自衛を考えることを許される。しかし、現代のヒーロー社会には、不利な現場には初めから(・・・・)行かないヒーローが多くいるらしい。ついこの間報道されていた、ヘドロ事件は記憶に新しい。

 現場の状況を見極め、足手纏いにならないように敢えてそうした行動を取っている可能性もあるが、それは言ってしまえば保身と受け取られるのだ。不利な相手に突っ込むのは蛮勇、そういう世の中になっている。

 

 しかしトップヒーローたちは、どんな状況にも対応できるスーパーヒーローばかり。自分がなるべきヒーロー像は、やはりそれに尽きる。

 

 物を創り出す時間を待ってくれる(ヴィラン)などいない。冷静さを欠けば【創造】は止まってしまう。そうなれば自分には何も残らない、何もできない。

 

(何が推薦入学者……)

 

「爆殺王」

「そういうのはやめた方が良いわね」

「なんでだよ!」

「文字が暴力的すぎるわ。もうっ、“辻斬り”が却下だったのよ?」

「あんなんよりこっちの方が潔いだろが!」

「とにかくダメ、再考ね爆豪くん」

「クソがぁ……!」

 

 ヒーロー名は考えていた。幼い頃からずっと温めていた。名乗るならきっとこれにしよう、そう思っていた。

 

 

 ────本物の戦いを知る、あの日までは。たった数分が、永遠に感じられたあの……

 

「はい、八百万さん」

 

 ミッドナイトが手を挙げた彼女を指名した。

 

「……」

 

 蛙吹に続きこれ以降、十人十色のヒーロー名が発表された。残るのは再考の高志朗と爆豪、未発表の緑谷、飯田の四名。

 

「この名に追い付く働きを──アルス・マグナ」

 

 “万象ヒーロー”《アルス・マグナ》…自分にとっての黄金(ヒーロー)を求める──

 

「……」

「滅茶苦茶カッコいいじゃん!」

「荘厳」

「あ……」

 

 芦戸、常闇に賛辞を受ける。

 

 頬が、緩む。

 するとミッドナイトが八百万の肩に手を置いた。

 

「“追い付く”その心は?」

「自分を追い込むためにそう名付けました──いまの私では実力不足。しかし必ずこの名に相応しいヒーローになってみせます」

「あ……」

「あ?」

「青い!! 良いわぁ今のは凄く!! ぐっと来たわよ八百万さん!」

「あ、ありがとうございます」

 

 ミッドナイトからも賛辞が投げられる。鼻息が床に付かんばかりの興奮状態だ。

 

「じゃあこの調子で未発表者と再考組もどうかしら!?」

「……」

 

 すると、高志朗がゆっくりと立ち上がった。

 八百万とすれ違いに教壇に立ち、ミニボードを片手で立てる。

 

 《剣客・御舟(みふね)

 

「轟くんも名前だったけれど……これは名字よね? 良いの?」

 

 ミッドナイトが横で高志朗のミニボードを手に取ってそう言った。

 

「これが良いんです」

「ちなみに“けんかく”と“けんきゃく”呼び方はどっちなの?」

「それはどちらでも。皆、呼びやすい方を選べば良いかと」

 

 意味が同じならば、読み方など些細なこと。御舟輩出の剣客として名が売れればそれで良い。

 

 その後、続々と残りの生徒が自分のヒーロー名を発表していく。

 

 緑谷は、幼少期に爆豪から付けられた蔑称である《デク》を名乗った。事情を知らない者たちには理解し難いヒーロー名なのだが、わざわざこのような名を採用するのは彼の思う《デク》が彼らの《木偶》とはまったく違う意味合いがあるゆえであろう。

 

 飯田に関しては、終始思い悩んでいたようだが、轟と同様、自分の名前に落ち着いていた。彼の脳裏に浮かぶのはいまもなお入院中の兄・インゲニウムだった。

 

 


 

 

 一日前。振替休日の日。

 相澤が職員室でプロからの指名書類を整理している時だった。

 

「お、やってるね相澤くん」

「オールマイトさん」

 

 トゥルーフォームのオールマイトが後ろからひょこりと顔を覗かせた。

 

「集計、私も手伝おうか?」

「……暇なんですかオールマイトさん、結構です。これは俺の仕事なんで」

「まぁそう言わずに」

 

 手の付けられていないであろう書類を手に取ると、流し読みを始めて集計し始めた──すると相澤がジト目で言葉を投げた。

 

「……また緑谷ですか?」

「ギクッ!」

「まぁいいですけど、贔屓も程々にしてくださいよ」

 

 休日の学校でも、過保護師匠オールマイトは存在した。とは言え、手に取った書類は他の生徒の指名書類だったため、相澤もこれ以上の追及はせずに黙々と整理を始めた。

 

「よし、大体纏まった、けど……うーん、例年より指名件数が個々に集中したね」

「そうですね」

「ハッハッハ、集中していると紙が沢山有って読むのが大変なんだなこれが!!」

「当時のあなたなら、経験してそうですね」

「まぁ、ね」

 

 オールマイトも雄英高校の卒業生のため当然だろう。

 書類をめくり続ける。

 

「1,000件超える生徒は特にねぇ。しかし何だろうか……」

「何か、気になることでも?」

「うん、優勝者の…御舟少年の指名書類がこっちに一枚も無いんだけど、全部相澤くんの方かな?」

「……」

 

 すると、相澤が書類を一枚手に取り、無言でオールマイトに渡した。

 

「おぉ、ありがとうどれどれ……え゛っ……こ、これはっ……」

 

 holy shit! と片手で頭を抱えた。

 初めに驚いたのは御舟高志朗の指名件数の少なさだった。

 

「9件って……マジかよ、御舟少年」

「狙ってやったんなら大したものですね」

「これ、前代未聞なんじゃ……」

 

 雄英体育祭優勝者、指名件数9件。驚きの少なさである。

 

「轟少年も爆豪少年も…緑谷少年も、素晴らしい戦いを見せてくれた。しかし彼ほど冷静な試合運びをした選手は居ない。間合いの攻防も、プロのレベルを軽く凌駕していたが……なぜ?」

「現代ヒーローに、奴はウケなかった。それに尽きるでしょうね」

 

 武器を携帯する。奇声を発する。そして、

 

「非常に原始的な戦いをする生徒です。必要性を見出せなかったのかもしれません、それか、怖気付いたかですが。……この9つのヒーローを除いて」

 

 9件の詳細──それを見て、オールマイトは息を呑んだ。

 

「こ、この方はっ!! そんな馬鹿な!」

「この方? ……まぁ俺に驚きはありません。あいつはUSJの時から周りと何か違っていた」

「違っていた? ていうか待って、二重の意味で腰抜けそう……」

「? どうしたんです」

 

 腰が抜けるほど柔ではないオールマイトだが、表情は完全に腰が抜けた人のそれだった。どこか解釈の食い違いがあったことを察し、相澤は口を閉ざした。

 

(いや、考えられた!)

 

 雄英体育祭を物見遊山の気分で訪れた老体、否、老練の人物二人を、オールマイトは思い出す。

 

(しかし、御舟少年は何も知らないはず。まさか、話すおつもりか、あんな大事(OFA)を……!?)

 

 そこでさらに、OFA(ワンフォーオール)を継承した他ならぬ己が弟子のことを連想した。

 

「相澤くん、緑谷少年の指名書を見せて貰って良いかい!?」

「最初からそれが見たかったんじゃないんですか?」

「すまない!」

 

 オールマイトが凄い速度で緑谷の指名書に目を通している横で、相澤は再度高志朗の指名書を見た。

 

「……」

 

 指名元の半数以上はエンデヴァーを始めとし全国に名を馳せている実力派揃いであった。

 オールマイトが先述したが、今回は例年と異なり指名票が数人に集中したため、一人一人の指名元について流し読みする程度で集計していた。

 

 しかし今回相澤は、戦績と見合っていない少数指名を理由にして、御舟高志朗を目に留めたというこの9件のヒーローたちを吟味していた。

 

オファー御舟宛1/1

 

エンデヴァーヒーロー事務所

ジーニアスOFFICE

ギャングオフィス

ヨロイムシャ大名屋敷

ホークス事務所

御庭番衆

クラストヒーロー事務所

ミルコ

グラントリノ

 

 

 

「どれも一線級だな……」

 

(だがグラントリノ…聞いたことの無い名だが、HN(ヒーローネットワーク)の情報ではかなりのご老体……)

 

 他が有名だからというよりも、これだけ指名の少ない高志朗を指名する《グラントリノ》なるプロヒーローに、相澤は首を傾げた。

 

(こう言っちゃなんだが、持て余してしまわないか心配だ)

 

 それは本人の選択次第であるため詮無いことを、相澤も分かっていた。

 

 ただ彼はまだ知らない。そのまだ見ぬ老人ヒーローが、歴史に埋もれた類稀なる経歴と、老獪の傑物であることに。

 

 


 

 

 クラス全員のヒーロー名が決定したその授業後、高志朗は自分の指名書を流し読みする。

 

(量より質とは言ったものだが…少し絞られすぎではないか。まぁ、どのヒーロー事務所でも結局は自分次第であることだし悩むこともあるまい)

 

 他の皆の様子は様々で、一人で考え込む者、級友と指名元ヒーローについて協議する者、即決したのかペンを動かす者などがいた。

 

 座ったまま後ろを振り向くと、自分の用紙と睨めっこをしていた八百万がちょうど顔を上げて来て目が合った。

 

「…御舟さんはどこの事務所か決まりまして?」

「とりあえず落ち着いたら決めようと思っているが、お前さんは即決…ではなさそうだな」

 

 緩く固めた手を口元に当てた八百万は、もう目に見えて悩んでいた。

 

「313件だったか? そんなにあると迷うのは当然か」

「二日しかありませんのに…指名をしてくださったプロヒーローの方のことを何も存じ上げません」

「ふぅん、そうか。見ても良いか?」

(わたくし)ので良ければ」

「ありがとう。代わりと言っちゃなんだが、俺のも見せようか?」

「良いのですか!?」

 

 食い気味にぐんっと顔を近付けて来た彼女に呆気に取られるも、すぐに苦笑で返した。

 ただし9件の自分のものと参考になるかも分からないが、と付け足した。

 

「御舟さんを指名するプロならば、きっと名の有る方々に相違ありませんわ!」

「買い被るなぁ」

 

 八百万の指名書の束と、ぺらっぺらした一枚の指名書を交換する。

 

(……どれも知らないヒーローばかりだな)

 

 一枚一枚めくりながら読み、高志朗は心中でそう思う。しかしすると、ふと見覚えのあるヒーロー名が滑っていた目を止めた。

 

「スライディン・ゴー…どこかで聞いた名だ」

 

 あ、とすぐに思い出した。

 

 それは、高志朗の中学校時代に出会った受け入れ先のヒーローの名だった。

 

 彼の母校、水戸練兵舘中学校…超常黎明期以降に創設された、自身の“個性”にコンプレックスがある者や“無個性”が在学する分校(・・)。人間的な成長と共に、肉体鍛錬を目的として、生徒一人一人に強化遠征を“推奨”している。

 強化遠征とは、不特定多数のプロヒーローのもとへ行き、職場での話を聞いたり、さらに先方から許可があれば軽い手合わせができるといった特殊な学校だった。*1

 

 中学一年時の高志朗が、一番最初に手合わせの許可を貰ったのがこのヒーローだった。そのとき油断か、はたまた中坊のひよっこ相手に花を持たせてくれたのか、木刀でさんざんに打ちのめしてしまったことが記憶に残っている。

 

 閑話休題。そのヒーローを皮切りに、所々見知ったヒーロー名が散見された。高志朗は笑った。

 

「別段おかしいことではないか…おーい八百万、そろそろ」

 

 もう一度八百万の席に振り向くと、いつの間にか人が集まっていた。

 何事かと唖然としていると、申し訳なさそうにこちらに向けて手を合わせている八百万がいた。

 

「すみません御舟さん!」

「ん、別に良いが、群がってどうしたお前さんたちは」

「いや、群がるだろ。お前一位だし」

 

 クラスメイト数人が集まっていたわけは、八百万が見ていた自分の指名書であることを知った。彼女は本人の知らないところで他人に見られたことを謝っているようだった。

 

「9件て逆に気になったから見せて貰ったぜ」

「別に良いが。すぐ見終わっただろう?」

「おいおい、お前な──」

 

 あっけらかんとのたまう高志朗。

 すると何か言いたげにしていた上鳴を押し退け、ちょこんと峰田が出てきた。

 

「嬉しくねぇのかよ? もしかして、ヒーローにあんまり詳しくねえのか?」

「そんなことは無いが…」

 

 腕を組み、目を瞑って考える素振りをする。

 

「分かった。質問を変えるぜ……好きなヒーローは? ちなみに俺はミッドナイト。今だとMt(マウント).レディだ!」

「いない」

 

 高志朗の即答三文字に困り顔で肩を竦める峰田。

 

「…これだぜ上鳴」

「このスーパーネームの羅列にテンション上がらねえ奴がいるとはねぇ」

「他にもトップレベルのヒーローから指名を貰った奴はいるだろう。俺だけではない」

 

 何言ってるんだお前、と小馬鹿にした風に高志朗は薄笑った。

 

「9件のお前の反応が見たかったの!! そしたら復活はえーし!」

「初めは落胆したものだが、結局一つしか選べないならこれで良くないか?」

「合理的すぎる奴……」

「つまらんつまらん御舟の反応がつまらん!」

 

 駄々っ子のように言う上鳴を見て、思わず高志朗は噴き出しながら、

 

「喧しいわ」

 

 よくよく考えてみれば、星の数ほどあるヒーロー事務所から指名が殺到したとして、悦に浸れるのはその指名数からたった一つに絞らなければならないと分かった時までだろう。

 

「そういうことでお前さんの思惑には乗らん、上鳴。あと八百万、これは返す。参考になったぞ、ありがとな」

「あ、はい。御舟さんのも、お返し致しますわ」

「おう」

 

 


 

 

 放課後。

 

「わわ私が独特の姿勢で来た!!」

 

 靴底が擦り切れそうな横滑りで現れたのは、お馴染みオールマイトだった。もちろん、用があるのは緑髪の、

 

「ど…どうしたんですか? そんなに慌てて…」

「ちょっとおいで」

 

 何やらただ事ならない雰囲気のオールマイトに、緑谷も素直に従った。

 

「緑谷少年の指名書は前日、相澤くんと拝見させて貰ったよ。駆け出しは上々と言ったところだと思う」

「はい! オールマイトのお陰です!」

「それでなんだが…指名書には目を通したかい?」

「はい、なんとか。でもまだ決まらなくて……」

 

 1,000件以上の指名。

 ヒーローが憧れだった緑谷にとっては嬉しい悲鳴だ。照れ笑いをする弟子に、オールマイトがむぅと唸る。

 

「《グラントリノ》。かつて私の師だった方が、君を指名している。でも、最終的な判断はもちろん緑谷少年の自由だ」

 

 師匠が弟子を、先生が生徒を縛るわけにはいかない。他に多くのヒーロー事務所から指名が来ている以上、本人の意思が優先されるべきとして、オールマイトは当たり障りのない発言をしたつもりだった。

 

「オールマイトの師匠!? でも確かに《グラントリノ》…見慣れないヒーロー名だから、逆に印象に残っていました」

「ああ、ワン・フォー・オールの件もご存知だ。むしろその事で君に声をかけたのだろう」

「そんな凄い方が……! ていうか“個性”の件知っている人がまだいたんですね」

 

 師匠の師匠の出現に、緑谷は興奮気味に手を動かした。オールマイトは頷く。

 

「グラントリノは先代の盟友…とうの昔に隠居なさっていたのでカウントし忘れていたよ……。実は体育祭で、ある方とともに観戦しにいらしていてね、偶然ながらそこで何年ぶりかの再会をしたのだが……」

 

 ────纏う気迫は昔とまったく変わっていなかった。

 

「雄英体育祭にいらしてたんですね、でもある方って……?」

 

 本題はそこなんだ、とオールマイトは咳払いを一つした。

 

「御舟少年の師匠であり、お祖父(じい)さまに当たる方のことだ……!」

 

 御舟家とワン・フォー・オールが、繋がろうとしていた。

*1
第一幕を参照




エンデヴァー…一度ならず二度までもウチの最高傑作を倒した。見どころがある
ベストジーニスト…爆豪と並べて矯正してみたい
ギャングオルカ…周りからヴィランっぽい評価を下されて不憫に思った
ヨロイムシャ…似てる
ホークス…淡々としたところなどが見どころあり
エッジショット…忍者が侍を従えるのも悪くない
クラスト…実は熱い漢に違いない
ミルコ…蹴っ飛ばせるか試してみたい
グラントリノ…親友の弟子であり孫、気になる。現代ヒーローとは一線を画した精神性にも目を付ける。
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