雄英体育祭振替休日。御舟邸宅。
「その名を聞いた時にすぐに思い出したわい。八百万などという名字はそうおらぬからの」
庭での組打稽古が終わった後、件の女子生徒のことを祖父・陣七に聞かれた高志朗は、彼女との交流から共闘など大筋のことを話した。
そこで高志朗の話を聞くだけ聞いた陣七の口から出たのは、もう10数年も前から武具販売の取引先に八百万家を顧客としていることだった。
「世間は狭いものよのぅ」
「し、知らなかった……」
驚愕とまではならないのだが、少なからずその縁に高志朗は感心すら覚えていた。
「なら、
「うむ、取引の際何度か。ウチお抱えの職人も良くしてもらっているようであるしのぅ」
サポート会社の台頭で廃れているこの業界にも、お金を落としてくれる人間がいる。
「これからもその友を大事にせい」
「ああ、勿論だ。ただ意外だな、御祖父なら、『もっと仲良くなって八百万の両親から好みの品物を聞き出して来い』くらいは言われるのかと思ったが。言われても当然、断るのだがな」
「わしをなんだと思うとるのじゃ、たわけめ。これは元々大人同士の話じゃ、子供を引き込むつもりは無い。まして、商才の無い奴をどうして使おうと思う。余計なことはせず、お前はお前の道を邁進せよ」
「言われなくてもそうするさ」
親は親、子は子で別。ゆえにこの話を、高志朗はすぐに飲み込んだ。
「……」
道場を見回す。
最近はまた続々と人が入ってきているようで、場内に新しい木札が入れられているのが見えた。
「それで、まだ話は続くのじゃが…また別件での」
「ああ、なんだよ」
木札から視線を戻すと高志朗はあっ、と声にならない緊張を覚えた。
祖父のしわがれた口から、地の底で発したような声音を吐いた。
「高志朗お前……“個性”を与える“個性”があるとしたら、どう思う」
問われた高志朗が、訝し気に眉を動かす。
「“個性”を与える……血によって継承されるのではなく?」
「ではなくっ。与える──譲渡じゃ!」
──譲渡!
刀を握った手を、高志朗に向かって力強く突き出した。
例で言えば轟焦凍か。高志朗も御舟の家系であったから、いまの“個性”を持つに至った。厳密には、その《資格》を勝ち取り、《天運》を引き寄せた結果だが。
血筋ではなく、言ってしまえば赤の他人とそれをするのだ。
突き出された刀を、高志朗も片手で握り受け取る。そのままじっと見ながら、
「それは合意の上か? さらに聞くが、与えることができるというなら、奪ることもできるのか?」
「……!」
陣七の白髪眉毛がピクリと動いた。我が孫ながら察しが良いと。
「両方を可能とした人物は存在したが、もはや過去のものじゃ」
高志朗は刀を正座する自身の横に置きながら口を開いた。
「
「ああ、戦国では当たり前のことじゃ」
「……まさか、そんな“
あるから、話したんだろうな……と己の愚問に気付き、高志朗は自答する形となる。そして、ようやく質問に答えた。
「そんな“個性”があれば、世は乱れるな」
「与える“個性”は、超常黎明期からいまに至り現存する。それは代を重ねるごとに強大になり、いまが九代目」
「それで、与奪の権利を持った“個性”は?」
「与える“個性”の者が討ち取った」
高志朗は陣七の言葉を吟味すると、刀に手を掛ける。──正座から右足を這うように進ませて、前方の虚空を切り裂いた。上半身を微動だにせずに立ち上がる。
“個性”という力自体が人間には過ぎたる能力。だのに、その能力の与奪の権利を持つ者が存在した。
その内、奪う方は死亡し、与える方が存命ということは、
「歴史的な大物だな? ……オールマイトあたりか? あの人には“個性”も含めて謎が多いと聞く。その半生もな」
「その通り。名は【ワン・フォー・オール】。オールマイトは、その力で天下を獲った。これは極めて繊細で扱いの難しい大秘事である。ゆえに他言、一切罷りならぬ」
「【ワン・フォー・オール】か、覚えておこう。これを知っているのは?」
陣七は、この大秘事を胸に秘めている者たちを思い浮かべ、親指を握り拳から開けながら喋り始めた。
「近隣でこのことを知っている者はわしの友である酉野空彦、雄英校内に校長の根津、看護教諭の治与…リカバリーガール、そして────継承者の緑谷出久…お前の学友じゃ。すべてを列挙するには話が長くなるので割愛しようか」
「……驚いた。では九代目は緑谷か!」
最後の人物の名に愕然とし、高志朗は持っていた刀を取り落としそうになった。
緑谷出久。“個性”は【超パワー】と伺っているが、それはすべて偽り。
何時か、オールマイトが緑谷を呼び出し、二人で何処かに立ち去る場面を何度か目にしていたことを思い出した。
「無関係とは言えんことだぁな…」
陣七はそのまま話し続ける。
「酉野空彦は、ヒーロー名グラントリノ。学生時代のオールマイトの担任教師であり、戦友であり実力者じゃ」
「その酉野さんは現役ヒーローなのか?」
「酉野
知らぬ名を出されたため、とりあえずそう呼称すると、陣七は噴き出しそうな笑いを堪え始めた。
「くっくく……悪かった。まぁお前はまだまったく小僧の時分じゃったからの。覚えていないのも無理ないわい」
「前に会っていた……? ならどう呼べば良い」
そうさのぅ、と顎髭を弄りながら、
「あいつはわしと同期よ。己が年寄りと自覚してるからなのか、妙にわざとらしくすっ呆ける時があるから、お前の好きに呼べばええ。おうおう、因みに──」
話すことが多すぎて忘れそうになっていたのか、胡坐を掻いた膝に肘を突いてこそっと口を開いた。
「職場体験、お前を指名するそうじゃ。考えておくが良い」
「指名? 職場体験? あっ……体育祭の後の、プロ指名か!」
陣七は頷いた。
「そう。あの試合ぶりからして、お前にはろくすっぽ指名は来ぬだろうからな」
「はっははは、優勝者に指名をしないプロなど居ないだろう」
「はっははは、お前の戦う姿を見て戦慄する者は居ても、共に仕事をしたいと思うような者はきっとおらぬわ」
気持ちよく笑い飛ばす陣七に、額に血管を浮かび上がらせて引きつった笑いを浮かべる高志朗がガンを飛ばした。同じ笑いでも、こうも性質が違うとこうなる。
息を吐くと。気を取り直して姿勢を正した。
「まぁ、それは休み明けに明らかになることだ、いまは良いか……。
国家機密だろうに、そんな多くの大事を御祖父が知っているということは、関わっていたんだな? 御舟は、平和の象徴と」
オールマイトの師、その秘密を共有する者たち、代替わりするごとに強大化する、譲渡する“個性”。その譲渡先である学友。
「うむ、わしは“無個性”ゆえ最前線からは外された。オールマイトを大将に据え、“奪う”者と戦をして勝利した──その際、オールマイトは内臓に重傷を負った」
「…たまに持ってくる弁当が女子のもののように小さかったが……そう聞くと胃袋もダメにされたか」
オールマイトは最近よく教室に訪れ、ある特定の生徒と昼食に出掛ける光景を見かけていたのを思い出した。その際、オールマイトは極端に小さな弁当箱を持参している。大木のごとき威容を誇りながらあの箱の小ささと来たら、違和感しかなかった。
「“奪う”者とは、オールマイト以前からわしらの先祖が幾度も干戈を交えておる。が、この話はお前がさらに剣腕に磨きを掛けたら、またいずれな」
大秘事の奥にさらに秘奥があることを示唆され、高志朗は目を見開いた
「オールマイト以前があるのか……!?」
「当然じゃろうが。むしろわしらの世代よりも、御舟の最盛期は超常黎明の初期から中期にかかる。国盗り戦の只中よ」
刀を鞘に納めた高志朗は、溜息を吐きながら刀掛けに戻す。
「おいおい、じゃあ何か、超常黎明期というのは本当に当時の戦国乱世を体現したものだったのか?」
「いや、それほど細分化していなかったと伝え聞くし、当然飛び交っていたのは銃弾や弓槍ではなく、“異能”だった」
力が物を言う時代なのは変わらぬものの、唐突に現れ出た“異能”と言う武力は、当時在ったはずの地位や出自に関係なく人々に可能性を与えた。良くも、悪くも。
「しかし、どうしていまこの話を?」
「────
「!」
あのオールマイトの師が、高志朗を指名した理由は、単純明快だった。
「始めはお前に稽古を付けてくれるならと快諾したが、【ワン・フォー・オール】継承者・緑谷出久とも引き会わせると言いよる。それじゃお前、
「ああ。それであちらはすべてを知っているのか?」
「どこまで話しているのかは知らん。そういう事も有り、お前にも話半分にしておいた。オールマイト以前の日本など、話していたら日が暮れるどころでは済まぬわい」
時間は戻り、ここは雄英高校の仮眠室。
「御舟少年の師匠であり、お
「え……!? どうしてそこで御舟くんの名前が? そ、それに御舟くんのおじいさん? 何が何だか……」
「その方もワン・フォー・オールを存じ上げている。私も最近知ったんだ……!」
緑谷も困惑の色を滲ませつつも、理解しようと努めていることが傍から観てもよく分かった。オールマイトすらも冷や汗を滲ませていた。
彼に至っては、二人の内の片方の師であるグラントリノで情報が止まっており、体育祭で偶然居合わせなければ知らず仕舞いだったという有様である。なれば、後継者の緑谷出久の驚愕ぶりも推して知るべし。
「オールマイトもご存じ無かったんですか!?」
叫んだ後、緑谷はハッと自分の口を塞いだ。生徒は通常立ち入れない密室とは言え、情報が漏れると拙い。声量を努めて減らし、また低く続けた。
「御舟くん本人も、やっぱり知っているんですか?」
「御舟のご老公は、嫡孫である御舟少年には己が道を進んでもらいたい気持ちが大きいようで、我々と繋がっていた事実は極力封じておきたいご様子だった…!」
「ほっ……」
緑谷が安堵の息を吐く。
過去のしがらみに縛られることなく、己が剣の道を進んで欲しいと語っていた御舟家現当主の言葉に嘘は無い。
「しかしだよ。ご老公と御舟少年の望みが、全く異なった所在にあるならば、話は一気に変わって来る」
「…御舟くんの望み?」
──不意に、扉が叩かれる。ぞわりと、緊張が走った。
「まさか…」
「HAHAHA! …きっと校長か誰かさ、ここには基本生徒は立ち入れないからね。私が出よう」
会話内容にしても、いまのオールマイトの姿を考えてもことごとく機運が悪い状況。
楽観と不安に駆られつつも、抜き足、差し足、忍び足で叩かれた扉に近付いてみた。すると、扉の隙間に一枚の紙が差し込まれた。
「……」
未だに誰か分からぬ気配を扉越しに感じつつも、オールマイトは差し込まれた紙をそっと抜き出して広げてみせた。
「────ッ」
オファー御舟宛1/1
エンデヴァーヒーロー事務所
ジーニアスOFFICE
ギャングオフィス
ヨロイムシャ大名屋敷
ホークス事務所
御庭番衆
クラストヒーロー事務所
ミルコ
グラントリノ
「回りくどくて申し訳ありません」
「……!」
「ただいつまでもここには居られぬので、これ以上は」
この指名書と、そして声は高志朗だ。人通りは多くない廊下とは言え、部屋の前で立ち尽くすのは不自然。ゆえにそれを鑑みた発言に聞こえた。
扉を隔てたまま、オールマイトは言葉を絞り出す。
「すまない、今は……!」
「は…」
門前払いを受けたと分かると、すぐに立ち去る足音が聞こえてやがて居なくなった。この、迅速で淀みの無い行動に、オールマイトはある種感心した。
「尾けていたか、御舟少年。まったく気付けなかったよ」
「オールマイト……!」
緑谷が駆け寄ったのは、オールマイトがマッスルフォーム…
「迷ってしまった…」
「え……?」
そう言うと、息を吐くと同時に
トゥルーフォームに戻ったオールマイトがソファーに座り直す。
「だが、軽率に
御舟少年は確かに強い。プロになれる実力もすでに具わっている。しかし、それだけでは教えられない──すでに全てを識っていたとしても!」
それもこれも、いまの今まで話してくれなかった
先程扉越しに差し込まれた紙──高志朗の指名書をテーブルに置いた。緑谷はそれを食い入るように見つめ、俄かに驚愕する。
「グラントリノさんの名前、御舟くんにも…! でも他のヒーロー事務所は、手書きで横線を引かれて……」
「御舟少年が気を利かせてくれたのだと思う。誰が聞いているかも分からない場所で【ワン・フォー・オール】のことを口にはできない。だから、わざわざグラントリノ以外のヒーローを線で消したこの紙を私に……」
すなわち、
「つまり、御舟少年はある程度のことは知ったとみるべきか」
ワン・フォー・オールのことを、祖父から聞かされたのだと。
「初めはグラントリノに任せる形になってしまう。いや、そのためにこの子らを指名したと思いたい……!」
弟子の成長速度はかなり順調なものとなっているため、指導不足とは取られていないだろう。ただ、雄英に入ってからは弟子が自分で勝手に強くなっていることに、少々の焦りを感じている。
そう悶々と考えていると、緑谷が口を開いた。
「──僕、グラントリノさんの所に行きたいです」
「えぇっ!? でも君には他のヒーローからも指名が来ているのに……無理しなくてもいいんだぞ?」
緑谷の唐突な宣言に狼狽えるオールマイト。
しかし少年は、拳を握り締めた。
「ほぼ決めていたことなんです。さっき、オールマイトからグラントリノさんのことを聞いてから……。確かに、他のヒーローも気になります。けれど、僕が一番憧れていた他ならぬオールマイトの師匠に出会える。そんなチャンス、いまを逃したらもう無いかもしれませんし!」
「少年……。分かった──行ってきなさい、御舟少年と」
職場体験当日。雄英高校の最寄り駅でクラス全員が集合し、各々の職場体験場所に向かって散らばった。
ここでは、二人の生徒が対面で新幹線に揺られていた。行先は山梨県。静岡から1時間弱。
「いつ買ったの……?」
通り過ぎる外の景色を背景に、朝飯の駅弁をかっ喰らっている高志朗を見て目を点にする緑谷。
「集合前にな…富士の名産突っ込んだ駅弁だ。前にも食べたんだが、美味いぞ」
「あはは…行動力!」
くぅっ、と緑谷は自分のことは棚に上げてその積極性に感心した。
職場体験は、文字通りとは言えプロの仕事を間近で見て、学ぶ行事だ。さらに、本来ならば着用厳禁のヒーローコスチュームを持参させている。これは、有事の際には、担当ヒーローの指示下でのみだが“個性”を行使して構わないということだ。
学校行事とは言え、非常に責任の伴うものだ。解散の際に、同じことを何度も言うことが嫌いなはずの担任の相澤も、口を酸っぱくして言っていたことだ。
すると、高志朗が食べながら聞いて来た。
「…飯田と何話してたんだ? 兄貴のことか?」
「! それは……うん」
解散前、緑谷と麗日は、飯田に声をかけている。それは、彼の兄──インゲニウムに手を掛けた犯人のことだ。同様のヒーロー業に従事する者たちが幾人も殺害されたり、存続も不可能になるほどの重傷を負わされた。
その凶悪犯──ヒーロー殺し、
(飯田くんは、何も言ってくれなかった……)
「仇討ちは不毛だと世の人は言うが、それは当事者ではないから言えることだと思う」
話が飛んだ。インゲニウムが倒れて以来、口数も減っていたことから飯田自身に余裕がもう無くなっていることを察したからだ。
「いきなり仇討ちって、そんな物騒なこと……。それに、僕はただ飯田くんが思い詰めていないか心配で」
「ああ、俺も心配だ。親族をやられた人間は何をするか分からないからな。ましてや実兄、堪えられん。ただ、変な言い方かもしれんが、そこまで踏み込んで口出し出来るほど俺たちはあいつと仲良くない。だから考えても、仕方ない」
「うん…」
「自分たちには関係ない」、そんな突き放すような言い方の割に、沈痛な面持ちの高志朗に緑谷は小さく頷いた。
────仇討ちか。
高志朗は、飯田の置かれたいまの境遇を過去に重ねていた。
『やるのかぁ? 俺を殺したら同じ人殺しになるぞ! それでもいいのか、えぇ!?』
『……仇を討つのに理由が要るのか?』
『ぁ…?』
現代には到底有り得ない非現実的な価値観が、御舟家には長年に渡って受け継がれてきた。
親類縁者のみならず、恩師に兄弟子、弟弟子、果てには親しい隣人──身も蓋もない言い方をすれば、血の繋がりの無い赤の他人のために憤怒する。
『ヒーローに成れなくなるぞ、いいのか坊主? はは、そんなの嫌だよなぁ? ──分かったらさっさと退けや』
なんてことは無い、ヒーローの多い都心を避け、山奥の田舎で強盗に強姦、殺人などで出所と投獄を繰り返す芋
“個性”は【惑乱】。冷静さを失わせ、乱す精神系の“個性”。大人数相手には効果が薄いが、田舎という何もかもが過疎化した環境を最大限に利用した移動潜伏するタイプの犯罪者。
『そうか判った。────では素っ首刎ねてくれる……!』
『は? なっ、なんでそうなるんだよ……?』
そんな
『……』
『はっははは、言うな坊主! 面白ぇよ、出来もしねえくせに」
『……』
『……出来るわけがねぇ……出来るわけが!! ヒーロー目指してるガキにそんなこと出来るわけ……っ!
虚勢の脅しだ、出来るわけがない。しかし、嘲笑は徐々に不安に変わり、最後にその薄ら笑いは恐怖に染まった。
世の正義など知らない、己の正義に従うのだ。
奇しくも、【剣気】を発現するに至った最後の引き金となる出来事だった。
(飯田め、つまらないことを思い出させおって……やる気か知らんが、死ぬんじゃないぞ)
「DNA検査? 脳無の?」
「捜査協力を依頼しているわけではないし、情報漏洩になるが…君には伝えなくちゃと思ってね」
USJでの授業中に襲撃してきた
警視庁警部──塚内は、雄英校内の仮眠室でオールマイトと内密な相談をしていた。というのも、USJ襲撃の日から警察は雄英高校と連携しており、こうして情報の共有をしている。
現場にいたプロヒーローの相澤や13号にも度々調書を取らせてもらっているが、この塚内警部こと、塚内直正は目の前にいるオールマイトとは旧知の間柄であり、なんとあのワン・フォー・オールを知る関係者なのだ。二人きりでしか話せない事もある。
しかし、オールマイトは難しそうな顔をした。
「わざわざありがとうな塚内くん。…しかし、実際戦ったの御舟少年だしなぁ」
「君の“個性”に関わることかもしれない」
「なんだって……?」
オールマイトが到着した頃には、
「それに、その御舟くんだって、何もできないまま脳無に組み伏せられたという話だ。君が戦えば或いは止められたかもしれないけどね」
「うっそれを言わないで欲しいな。それについては凄く反省しているんだ私は……!」
「ああ、分かってるよ。まぁ余談はさておきだ……」
胃の辺りを押さえて身悶えるオールマイトが居住まいを正した。
「あれから色々試したんだが…奴は口が利けないとかじゃない。何をしても無反応…文字通り思考停止状態だった。御舟くんの情報によると、主犯格の死柄木に手首切断の重傷を負わせると、それとほぼ同時点でパタリと動かなくなったとのことだ」
「すると、脳無には指揮系統が存在し…死柄木弔がそれだったと?」
世には“指示待ち人間”という不名誉な言葉があるが、脳無のそれだけを聞くとまさにそう思える。
「それで、深く調べてみたところ……複数のDNAが発見された。傷害・恐喝の前科持ちのチンピラだよ。奴の身体には全く別人のDNAが少なくとも4つ以上混在していることが分かった」
写真を見ても、頭皮だけをそのまま剥がしたような、脳みそらしき部位が剥き出しになった薄気味の悪い
オールマイトは冷や汗を浮かべつつ、その二枚の写真をテーブルに置いた。
「……人間かそれ?」
「全身薬物等でいじくり回されているそうだ。安っぽい言い方をすれば『複数の“個性”に見合う身体』にされた改造人間。しかし、本題はDNA──個性の複数持ちの方だ。
DNAを取り入れたって“馴染み浸透する”特性でもない限り、“個性”の複数持ちなんてことになりはしない。【ワン・フォー・オール】を持った君なら分かるだろう……恐らく、“個性”を与える“個性”がいる」
「……っ」
「おう、よく来たな。ほれこっち来いや」
山梨県某所にあるグラントリノ宅は、長い年月を経て老朽化した建物で、周りの建造物との築年数差もあり非常に浮いていた。
「は、初めまして、雄英高校から来ました緑谷出久です!」
「同じく初めまして御舟高志朗です、よろしくお願いします!」
劣化した扉を軋ませながら入室すると、高志朗は出会い頭に軽く叩かれた。痛くは無い。
「忘れてんのかよ。聞かなかったんか!?」
「いえ、そのようなことは。しかし覚えていない物は覚えておらず……あ、お初にお目にかかります」
今度は下げた頭を叩かれる。多少痛かった。
「ワザとか、二度も言わんでええわ。ボケとらんわ、お前ンとこのジジイのせいでな」
全身黄色のヒーローコスチュームのこの老人こそが、グラントリノ。オールマイトの学生時代の担任教師であり、第2の師匠だった人物。
「それで……」
高志朗から視線を緑谷に移した。
「【ワン・フォー・オール】九代目継承者がお前か」
「あ……は、はい!!」
一瞬、緑谷が高志朗の方を気にした。当然だ、こうして改めて秘密を共有するのは、この二人は初めてだった。
(本当に、御舟くんは【ワン・フォー・オール】を知って……。ならやっぱり、まずは御舟くんと改めて話を……ていうかこの二人初見じゃない!? どうなってるんだ、御舟くんの交流関係が広すぎて頭が追い付かない!?)
「とりあえず、ヒーローコスチュームに着替えろ。すぐ出掛けんぞ!」
「え……えぇぇぇぇぇぇ!?」
「
「おう……ふっ良いぜ」
「えぇぇぇぇぇぇぇえっ!!??」
本当に不定期ですみません。