雄英剣風帖   作:剣鋭

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第四幕 意地の激突。緑谷対爆豪

「んじゃ次の例文で間違っているのは?」

 

 高志朗は勉強が嫌いだ。雄英高校に入ったのはトップヒーローになり名声を手に入れ、お家再興を図るためである。しかしヒーローになる為には勉強も必要。したくないからしない、では通らない。

 

「おらエヴィバディヘンズアップ! 盛り上がれーッ!」

 

 しかし、先日の相澤の独断授業で度肝を抜かれたA組は、雄英の自由な校風に対しておかしな耐性が付いてしまっていた。

 その所為で教室内は、“ボイスヒーロー”《プレゼント・マイク》の英語の授業が拍子抜けと言わんばかりだ。

 

「Hmm…じゃあ御舟リスナー! 何度も悪いが答えて貰おうか!」

「4番」

「お、即答!? しかも……せ、正解だ!」

 

 背筋を伸ばし回答する高志朗は見事に問いに正解する。その後真顔で着席する様は異様という他無かった。

 入学試験での彼の筆記の得点を見た教員の内の一人、《プレゼント・マイク》。

 これは本人しか知らないのだが、高志朗への指名は意図的であった。

 

 

 入学のための試験を突破したからと言って、ほぼ忖度に近い彼の雄英入学を疑問に思う者の内の一人でもあった。

 ちなみに実技の有能さは認めているが、それとこれとは話が違うということだ。

 

「大丈夫ですか! プレゼント・マイク先生!」

 

 呆気に取られていたマイクを気付かせたのは、眼鏡をかけた長身の男子生徒──飯田天哉であった。

 

「お、おう! 大丈夫だぜ!」

「あ、英語抜けとる」

「ならば御舟リスナー、次の問題だ!」

「…なんかさっきから御舟に集中砲火されてねえ?」

 

 


 

 

「あ、マイク先生の授業で集中砲火喰らってた御舟じゃん」

「ん? そう言うお前さんは…」

 

 昼食の時間。食堂で一人食事を摂っていた高志朗の前の席に誰かが着席した。

 

「そういや自己紹介まだだったな。俺、上鳴電気(かみなりでんき)

「上鳴…ああ、よろしくな。しかしご挨拶だなお前さん」

 

 そう言ってマグロの赤身をわさび醤油に少量ばかり付けて、口に運ぶ高志朗。

 

「はは、悪かったって。でもマジで、昨日の相澤先生の抜き打ちテストにゃビビったぜ。おかげで必修科目の授業が普通すぎてえらく拍子抜けしちまった」

「確かに俺らの担任は、他のヒーローとは一味違うらしい。冷徹というか、無駄な物を一切切り捨てた姿の見本だな」

 

 寝袋姿で教室に現れる、ゼリー飲料、入学式を欠席させてまで“個性”を使った体力テストを実施する。

 相澤の合理主義は瞬く間にクラス間で広がり、迂闊なことを言えない、できない教員として認識されていた。

 

「これからもああいうことが有るのかと思うとなー」

「不安か?」

「そりゃもう不安よ不安。おかげであン時は、放課後にマックに行くって言う俺の計画が台無しよぉ!」

 

 項垂れる上鳴が泣き真似をしながらテーブルを叩く。

 

「…一人でか?」

「んなわけないだろ。ちゃんと皆誘うつもりだったぜ」

「特に女子を、か?」

 

 その言葉に、箸を持ったまま固まった上鳴が、俄かに不敵な笑みを浮かべる。何か良からぬことを思いついたようだった。

 対照的に高志朗は食事を再開した。

 

「…バレてたとはね」

「本気だったのか…」

「カマかけたんかいっ!」

 

 今度は高志朗が唖然とする番だった。どうやらこの上鳴電気という男は女子に目がないらしい。確かに、言われてみれば髪型が軽薄そうに見え、高志朗も納得していた。

 

「ああそうだよ! 可愛い女の子ともっと仲良くしたいんだよ俺は!」

「気持ちは分からんでもない」

「だろ!? 御舟ならそう言ってくれると思っ…やっぱり意外だ!」

 

 どっちなんだ、と含み笑う高志朗。

 男に産まれた以上、確かに同じクラスの女子と仲良くしておきたいというのは理解できた。

 

 すると突然、上鳴が高志朗の顔をまじまじと見つめた。んー? と首を捻ったと思うと、手を顎に当てた。

 

「……やっぱお前、モテるよな?」

「なんだおい、顔が近いぞやめろ。目潰すぞ、俺にそんな趣味はない」

「怖ぇって! いやでもマジで、御舟。ちょっとつかぬことを聞くけどよ──お前彼女って居たことあるか?」

「ないな」

 

 返答に、上鳴は難しい表情をした後、内心で小さくガッツポーズをした。

 

「そんじゃーよ、今度の休み、街に繰り出してみねえ? お前と俺なら結構いい線行くと思うんだけど──」

「──話中ごめんな、隣良いか?」

 

 上鳴が自分の後ろを見るや顔が緩んだため、高志朗が疑問に思い振り返った。

 

「よっ御舟」

 

 拳藤だった。彼女は料理の載ったトレイを持って、クラスメイトであろう女子を連れて高志朗の後ろに立っていた。

 

「おお拳藤、お前さんだったか。…飯か?」

 

 隣なら構わんぞ、と促すと、彼女と隣の女子も会釈して着席する。

 

「助かったよ、この時間どこも満席でさ。知ってる奴も居れば良かったんだけど、お前が居てくれてラッキーだった」

「そりゃ良かった。ランチラッシュの飯は美味いからなぁ」

 

 “クックヒーロー”《ランチラッシュ》。雄英高校の教員は全員がプロヒーローだが、食堂でも例外は無かった。

 厨房に立つ人間もプロヒーローなのである。

 

「アタシ取蔭切奈(とかげせつな)、よろしくねぇ」

「お、よろしく。俺は──」

「ミフネっしょ? …知ってる」

 

 初対面の彼女は取蔭切奈。ウェーブのかかった黒緑色の髪に、ギザ歯が特徴的な女子。所謂、ギャル系な喋り口調であった。

 

 自分の名前が登校二日目にして知られていることに疑問符を浮かべる高志朗に、彼女は笑った。

 

「一佳が話したんだよ。『実技試験で一緒に戦った凄い奴』って。アタシとしちゃ、実技がどんなだったか知らないけど主席のアンタの方が凄いって言ってやったんだけどさぁ」

「ばっ──それは言わないって約束だろ!」

 

 あの狭き門である雄英の入学試験を主席で突破する難しさは計り知れない。事実、高志朗は実技はパスしたものの、筆記で落とされそうになるという憂き目に遭っている。

 筆記、実技の両方を好成績で残したものにのみ与えられる称号である。

 

「お前さん、主席で合格したのか。おめでとうさん」

「あ、ありがとな…」

 

 へへへ、と照れくさそうに指で頬を搔く拳藤。

 その一部始終を見ていた上鳴が、高志朗の肩を強く握り締めた。

 

おい御舟っ、なんだこの可愛い子ちゃんは!

「拳藤は実技試験で知り合った。お前さんも一般だったんだろう?」

 

 ならば分かるはずだ、と訝し気にした高志朗の肩を握る力が、少しだけ強まった。

 

アホ! あんな大変な試験で出会いなんて気にしてられるか! それよりも紹介しろ、いやしてください!

「あぁそれくらいなら…なあ拳藤よ、こいつが──」

ご機嫌よう、お嬢さん方! 俺の名前は上鳴電気。この不肖の親友である高志朗(・・・)が世話になっています!

 

 上鳴を彼女たちに紹介しようとすると、このナンパな男は高志朗を押し退けて拳藤、取蔭の二人に迫っていた。

 肩を竦め、再び好物の刺身料理に舌鼓を打ち始める高志朗を尻目に、上鳴は言う。

 

「今度一緒にご飯行かない?」

「ご~めんいきなりそういうのは」

「ていうか親友って。ホント?」

 

 拳藤に視線を送られた高志朗は、首を横に振る。

 

食堂(ここ)で初めて会話した」

「裏切り者ー!」

 

 上鳴の慟哭にどっと笑いが起こる。普段なら面白味の無い会話だが、新しい仲間、新しい学友、そして最高峰の環境のおかげで、この四人は良い意味で酔い痴れていた。

 

 そして高志朗も、二人目になる──どちらかというと悪友のような友達ができたことに、過去と現在の差異を改めて認識したのだった。

 

 


 

 

わーたーしーがー!」

 

 午後の授業はヒーロー基礎学。

 それを担当するのは、NO.1ヒーローに君臨するオールマイトである。

 

普通にドアから来たー!

 

 世曰く、大災害から千人以上を一人で救い出した。

 学生時で既に渡米し、異例の速度で躍進した最強、最高のスーパーヒーロー。

 

 オールマイトが、教室に降臨した。そう、降臨である。

 その威風堂々とした登場に、クラスが熱狂する。

 

「オールマイトだ! 本当に先生やってんだ!」

「あれって、銀時代(シルバーエイジ)のコスチュームね!」

「これが、オールマイト…」

「午後はヒーロー基礎学! ヒーローの素地をつくる為、様々な訓練を行う課目だ!」

 

 単位数も最も多いとされるようだ。

 

「早速だが今日はこれ!! 戦闘訓練!」

「戦闘…」

「く、訓練…!」

 

 オールマイトが“BATTLE”と記されたプレートを出すと、更に反対の手に持ったリモコン操作で教室の壁が迫り出してきた。

 

「それに伴い、入学前に送ってもらって要望に沿ってあつらえた…戦闘服(コスチューム)!!」

 

 迫り出す壁は止まる。これは、21人に渡る戦闘服(コスチューム)が入ったケース。ヒーロー活動をする際に欠かせない、いわば仕事服。

 

「着替え終わったら順次、グラウンドβ(ベータ)に集合だ!」

『はい!』

 

 被服控除

 

 入学前に『個性届』『身体情報』を提出すると、学校専属のサポート会社がコスチュームを用意してくれる。

 どんな要望にも応えてくれ、様々な機能も搭載してくれる、まさに夢のような衣装である。

 とは言うものの……。

 

 皆が皆、該当する番号の記されているケースを手に取って更衣室に向かう中、オールマイトは高志朗に近付いた。

 

「御舟少年、君は『個性届』と『身体情報』を提出していなかった為、サポート会社への戦闘服(コスチューム)発注も為されていないが、本当に良かったのかい?」

「はい、オールマイト先生。俺が入学前に提出したのは、御舟家(うち)で扱っている衣装。これで十分です」

 

 “20”と記されたケースを手に取った高志朗。皆と同じ外見のケースだが、これは高志朗が家から持ってきた衣装を学校側に送り、詰め込んでもらっただけの物だ。

 

「そうかい? 雄英(うち)のサポート会社は、出来上がった後の調整なども行っている。何か足りないもの、又やっぱり戦闘服(コスチューム)が欲しくなったら、すぐに言うんだぞ!」

「ご丁寧にありがとうございます、では」

「うむ!」

 

 


 

 

 雄英高校入学一か月前。

 

「黒の長着に藍染の袴、薄手で紋付の羽織。雪駄、そして黒塗りの浪人笠。──おやじさん、ここまでの逸品を揃えてくれて、どうもありがとうございます」

 

 高志朗は、いつも贔屓にしている武道具店で作らせた和装一式を並べて頭を下げる。

 扇に月丸の家紋。少しでも御舟の名を広めるために、お家のシンボルとなる家紋は絶対条件だ。

 

「いいんだ、ウチももう大口はお宅くらいしか居ないからよ。貰ってやってくれ」

「そんな悪い。代金なら持ってきた、払いますよ…」

 

 ここも例に漏れず、超常社会現出から廃れた老舗の武道具店。

 ヒーロー専門のサポート会社の台頭により、他の武道具店が軒並み畳まれていく中、大口の取引を御舟家としているため何とか生き残っている店だ。

 

 様々な技術の機能を搭載する衣装などが市場に出回る中で、この店は、和装の粋を一心に突き詰めた高品質な品を扱っている。

 

「ウチもサポート会社の資格を取ったが駄目だ、どうしても。ヒーロー専門のサポート会社は、品質こそウチより劣るが、機能性に優れている。

 だけどよ、俺はそんなことできねえや。袴や道着にヘンテコな機械を付けるのはよ…」

「おやじさん…」

 

 先の衣装を袋にまとめて彼は言う。

 

「話、逸れちまったけどよ。別にただでってわけじゃねえ。聞いたぜ高志朗。ヒーローになって、道場に人、入れるんだって?」

「…ええ、必ず」

「もしおたくがそれを着て偉大(グレイトフル)なヒーローになれば、ウチも立て直せるかもしれねえ。そのときまで……」

 

 


 

 

「使わせて貰います、おやじさん」

「──その生地、とても高品質な物を使っていらっしゃいますのね」

 

 かけられた声に振り向くと、そこに居るのはへそから首元までがぱっくりと空いた大胆な衣装を着た女子だった。

 

「痴女か?」

「わっ(わたくし)のこのコスチュームは、合理性を追求して作ってもらった物ですわ! 断じて痴女などではありませんわよ!」

 

 胸元が開き、下の丈も非常に短い。少しでも屈めば見えるのではというくらいに。

 彼女──八百万百(やおよろずもも)は腰に手を当てて高志朗の発言にむくれていた。

 

「悪いな、つい反射で」

 

 


 

 

「くしゅんっ!」

「大丈夫ですか、ミッドナイトさん? やっぱり薄着すぎるんじゃ…」

「いや、これは誰かが私の噂をしてるのね。ふっ…罪な女」

「はぁ…」

 

 


 

 

「それなりの所へ発注して作ってもらったからな。おまけに動きやすい」

「まぁっ、御舟さんは雄英経由で作ってもらった物ではありませんの?」

 

 口に手を当てて聞いて来る八百万に、高志朗は編笠を片手でクイっと上げる。

 

「がちゃがちゃした物はあまり好きじゃない。あと、色が明るすぎる物もな。

 昨今のサポート会社じゃ派手さと機能性を重視してるだろう? 俺には合わん」

「目立つことも、ヒーロー活動の一環ですのよ?」

「そうとも言うが…だからと言って青少年の性癖を捻じ曲げようとしてくるコスチュームはどうかと思うぜ俺は」

 

 じっと八百万の恰好を見つめる。なまじ彼女のスタイルが良いせいで目に毒だ。特に、豊かに膨らんだ胸が、である。

 すると彼女は不安そうに眉尻を下げた。

 

「そ、そんなに、ですの?」

「ああ、せめて胸下からへそまでは隠した方が──」

さぁ、始めようか有精卵共! 戦闘訓練のお時間だ!

 

 その場に全員が揃ったため、オールマイトがこれからの時間の説明を始めてしまった。高志朗は八百万に謝る仕草をすると、説明に耳を傾ける。

 

「先生! ここは入試の演習場ですが、また市街地演習を行うのでしょうか!?」

 

 白を基調としたフルアーマー──飯田がオールマイトに質問を投げた。

 大小様々な建物が点在しているこの地は、確かに実技試験で使用された会場だった。

 

「いいや、もう二歩先に踏み込む! 屋内での対人戦闘訓練さ! (ヴィラン)退治は主に屋外で見られるが、屋内の方が、実は凶悪(ヴィラン)出現率は高い。

 君らにはこれから、『(ヴィラン)組』と『ヒーロー組』に分かれて、2対2、もしくは、2対3の屋内戦を行ってもらう!」

 

 クラスは全員で21人。余った一人がどこかのチームに入ることになる。

 

「ではこれより、状況設定をするから、しっかり聞いておいてくれ!」

 

 説明によると、『(ヴィラン)』がアジトに『核兵器』を隠しており、『ヒーロー』は、それを安全に処理しようとしている。『ヒーロー』は制限時間内に『(ヴィラン)』を全員捕まえるか『核兵器』を回収する事。『(ヴィラン)』は制限時間まで『核兵器』を守るか、『ヒーロー』を全員捕まえる事。

 

「まず、こちらの21番まであるくじを私が引き、余る人を決定する。次にアルファベットの付いたボールが10個あるので、その中からコンビを決める。そして余った一人には最後にもう一度引いてもらい、該当したコンビに加わってもらう、いいね?」

『はい!』

「では早速──」

 

 オールマイトが自ら引いた番号は──

 

「出席番号18番! 緑谷少年だ!」

「僕、余り…オールマイトに…余りって……」

「な、なんかこの世の終わりみたいな顔してる!」

「大丈夫だぞ緑谷! 最後にちゃんと組み込まれんだからよ!」

「……」

 

 緑谷が最後にボールを引くこととなった。

 そうして全員が次々と引いていき、三人組(トリオ)になるチームも問題なく決まった。

 

Aチーム
麗日 お茶子
飯田 天哉
緑谷 出久
Bチーム
轟 焦凍
障子 目蔵
Cチーム
峰田 実
八百万 百
Dチーム
爆豪 勝己
御舟 高志朗
Eチーム
青山 優雅
芦戸 三奈
Fチーム
口田 甲司
砂藤 力道
Gチーム
上鳴 電気
耳郎 響香
Hチーム
蛙吹 梅雨
常闇 踏陰
Iチーム
尾白 猿夫
葉隠 透
Jチーム
切島 鋭児郎
瀬呂 範太

 

「さて続いて最初の対戦カードは……こいつらだ!」

『おお!』

「Aチームが『ヒーロー』! Dチームが(ヴィラン)だ! (ヴィラン)チームは先に入ってセッティングを! 5分後にヒーローチームが潜入でスタートとする」

 

 いきなりの3対2という数的差のある対戦カードとなった。

 建物に入り、『核兵器』を確認した高志朗は腰に刀を差し、長物袋に入れた木刀を手に持って爆豪の方へ歩いていく。

 

「よろしく頼むぞ、爆豪」

「気安く話しかけんな、チャンバラ野郎」

「おお、仲が悪い(ヴィラン)の役か? 精が出るな」

「うるっせぇ! 下らん事言ってねぇで、てめぇは『核』守ってろ!」

 

 取り付く島もない、と肩を竦めた高志朗は、周りを見回して言う。

 

「あちらは三人だ、まさかとは思うがお前さん、緑谷を潰しに行く気か?」

 

 すると、獰猛な眼で爆豪は拳を鳴らした。

 

「デクだけじゃねぇ、他の二人もぶっ殺して完全勝利だ。てめぇの出番は無ぇから安心しろ…!」

「…言っても止まらんらしいな、まぁいい──健闘を祈ってるぞ」

「…けっ」

 

 一方、Aチーム。

 

「よろしく頼むぞ、二人とも!」

「うん、飯田くん、よ、よろしく」

「頑張ろうね、デクくん!」

 

 ヒーローチーム三名ということもあり、団結をより強く、チームワークを活かし、当面の内はひとかたまりになって進むことになった。

 緑谷は口を開いた。

 

「かっちゃんは、当然ながら強いよ。嫌な奴だけど、凄いんだよ…。目標も自信も…体力も…“個性”も」

「爆豪くんは、やたらと君に突っかかるから気になっていたが。口が悪いだけではないのだな彼は…」

「爆豪くん、あの気性で頭の回転も良いってこと? 凄くない? それ…」

 

 だからこそ、緑谷の中で目覚めた。“負けん気”という感情。

 

「凄い奴だけど、負けたくないって今は思う。でも、今回はかっちゃんだけじゃないよ…」

 

 思い返す、個性把握テストでのこと。緑谷は、高志朗の助言で己の“個性”を何とかマトモに使えるようになったのだ。

 まだ5%だが、それでも一度使ったら激痛でしばらくは動けなくなる副作用は克服した。

 

「御舟くんか…確かに、ぼ……俺も、あの時はまさか同年代にタイムを抜かれるとは思わなかった…」

「もしかしたら、ある程度動きが分かるかっちゃんよりも、もう片方の御舟くんの方が厄介かもしれない」

 

 窓から建物に潜入する。見るからに脆そうな構造で、所々ひび割れも起こしている不安定な建物だった。

 

「死角が多いから気を付けよう…」

「…緑谷くん」

「どうしたの、飯田くん?」

 

 忍び足で廊下を歩く二人に、飯田は小声で呼びかける。

 

「やはり、俺が先に行って偵察してきた方が良いのではないか? 無線で何かあれば連絡できる──」

 

 すると突然、先行しようとしていた飯田が爆破で横に吹き飛ばされた。容赦のない攻撃、これは──

 

「かっちゃん!」

「まずは一人かぁ…デク、次はてめぇだ」

 

 同時刻、モニタールーム。参加者以外は全員、この地下に集合し、アジト内の至る所に設置されているカメラを通して映像を見学できる作りになっている。

 葡萄頭の少年──峰田が、爆豪の行動に戦慄していた。

 

「いきなり奇襲!?」

「爆豪ズッケぇ!! 奇襲なんて男らしくねえ!!」

「ていうか飯田、大丈夫なのか? いまモロに喰らってたぜ……」

 

 怖っ、と上鳴が肩を震わせる。

 

「奇襲も戦略の内さ! 彼らはいま、実戦の最中なんだぜ!」

「おっ緑谷動いたぞ!」

「フルカウル…5%!」

「何っ!?」

 

 昨日の個性把握テストの時とは違う動き。

 50m走までには間に合わなかったため、記録自体は伸びなかった。

 だが逆にそのため、移動速度においてその場の誰もが意表を突かれていた。

 

 オールマイトですらも…

 

(緑谷少年…入試の時は一発放てば体中が激痛に苛まれたと言っていた。だがなんだ? 昨日の今日で…)

 

 爆豪の右手大振りの攻撃を危なげなく避けると、懐に入り込んだ緑谷が見事な一本背負いを決めた。

 

「ぐはっデクコノヤロっ…」

「まだ、やっぱり調整が難しい…少しでも力めば痛いし!」

 

 爆豪もまた、油断をしていた。それゆえ、投げられたのだ。

 

「麗日さん、飯田くん連れてここから離れて! テープを巻かれたらお終いだ、僕がかっちゃんを引き付けてる隙に、早く!」

「デクくん一人で!?」

「僕は…大丈夫!」

 

 全身に紫電をうならせ、麗日に進むことを促す緑谷。

 

 “確保テープ”。これを相手に巻き付けると、その場で捕らえたことにできる。戦闘に不向きな“個性”持ちへの救済措置だと考えても良い。

 それにより、格下でも格上を倒せるルールになっている。飽くまでも、“訓練”ということだ。

 

「かっちゃん。君は確かに凄いよ、そして強い。でも、僕だってここまで来たんだ…」

「ビビりながらよぉ……そういうとこが!」

「いつまでも“雑魚で出来損ないのデク”じゃないぞ! 僕は……“『頑張れ!』って感じのデク”だ!」

 

 この二人、家が近所だったため、幼馴染という間柄だ。

 やれば何でも出来るタイプの爆豪は、不器用だった緑谷を見下していた。そして“個性”が発現し、いまの性格になった。

 

 これは、環境によるものでもある。爆豪に勝る才能が、周りには皆無だったこと。注意する大人も然りだったのだろう。

 緑谷が齢四歳にして知った社会の現実。不平等の社会。“個性”がすべての……

 

ムカつくなぁ!

 

 二人の溝は、いまは決して埋まることは無い。

 

 


 

 

「アイツ何話してんだ? 定点カメラで音声無いと分かんねえな」

 

 赤髪が特徴的な男子──切島が、モニタールームでそう呟いた。

 

「お、麗日が負傷した飯田を連れて進んでったな」

「ヒーロー側が数的に有利なのもあり、爆豪さんに二人でかかるより、足止めに一人置いて『核』を回収しに向かった方が理に適っていますしね」

 

 峰田、八百万が戦況の解説、分析をする。上鳴が腕を組む。

 

「爆豪、(なり)からして滅茶苦茶戦闘タイプだもんなぁ。緑谷はよく分からんし、飯田は負傷しちまったし、麗日は明らかに戦闘苦手だろ?」

「制限時間も(ヴィラン)側に有利な設定だ。より迅速に、数的に上回っていることを利用して任務を達成しなければな」

 

 カラスに類似した顔形の男子、常闇が冷静な発言をしたことで、誰もがヒーロー側の不利を覚った。

 肘の関節がテープの芯のようになっている男子、瀬呂が口を開いた。

 

「ていうか普通に考えて、爆豪は私情で動いてるだろ。ヒーロー側三人、(ヴィラン)側二人なら、(ヴィラン)チームは『核』の置いてある部屋に留まるか、二人で出て確実にヒーローを捕らえるっていう短期決戦を考えるだろ?」

「個性把握テストでもあったけど、爆豪は緑谷絡むと性格やばくなるみたいだからな…」

「俺としちゃ絡まなくてもヤバイ奴だと思うけどな」

 

 すでに爆豪の性格がクラス間で認知されようとしていた。昨日の今日でも、インパクトの強い出来事が多すぎるとこうなる、無理も無い。

 

「爆豪…手を前に向けて何してんだ?」

「あれは──」

「爆豪少年、ストップだ! 殺す気か!」

「当たんなきゃ死なねぇよ!」

 

 爆豪がそう叫んだのが、オールマイトのインカムを叩いた。

 ──そして爆音。建物を揺るがすほどの爆発が、緑谷を襲っていた。

 

「じゅ、授業だぞこれ!?」

「『核兵器』の存在を忘れていますわね、完全に。それよりも、戦線を離脱した方々と、『核』の部屋に留まった御舟さんは何をなさっているのでしょうか?」

「もうこれ、爆豪一人で三人倒しちまうだろ!? 今更篭城してる奴見て何になるんだ…?」

 

 爆豪の圧倒的な火力を前に、切島が対戦相手の緑谷に同情する。

 クラスの雰囲気が戦闘の熱気に飲まれる中、八百万は溜息を吐いて一人高志朗の居る『核』の部屋のモニターに目を向けた。

 

「八百万は、御舟が気になるみてぇだな」

 

 声の主は、轟だった。八百万と同じ、雄英高校、推薦入学者の一人。

 

「轟さんも、ですの?」

「…」

 

 彼女の問いに、轟は答えなかった。しかし、この時の彼の表情に、八百万は何かを感じ取っていた。

 何かに挑むような、鋭い目つき。

 

「何を…」

「…御舟が動いたぞ」

『!』

 

 麗日は、いつの間にか復活した飯田とともに建物内を疾走していたが、まだ到着していない。

 

 相手も居ないのに何を動くってんだ? という誰かの呟きで、全員が高志朗の映るモニターに目を向けた。

 常闇が、彼の次の行動に訝し気に目を細める。

 

「抜刀した? 何を──」

 

 その瞬間、カメラが一瞬ブレた(・・・)。同時に、先ほどの爆破程ではないが、尋常ではない崩落の音色が響き渡っていた。

 

「あいつ今、何した!?」

「やりやがった、見ろ」

『!?』

 

 刀の鯉口をゆっくり合わせて納刀した直後、崩落音とともに『核』の部屋付近に設置された定点カメラが一斉にシャットダウンした。

 

「カメラぶっ壊したのか! 何のために!?」

「違う、それが狙いってわけじゃねえだろう」

「マジかよ、御舟の奴……やることねぇからって限度があんだろ!」

 

 頭を抱える上鳴。

 

 そこには、崩壊した階段が映っていた。辛うじて残ったカメラがそれを映していたのだ。

 モニターを見たその場の全員が息を呑む。驚愕半分、困惑半分の感情が混ざっている。

 

 『核』の部屋へと続く上階への階段が、下の階を圧し潰す形で崩れ落ちていた。

 

『核兵器』の置いてある部屋への階段を、斬り落としたぁぁぁぁっ!?

 

 味方である爆豪の退路を断つという、周りから見ればわけの分からないことを、高志朗はやっていた。




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