雄英剣風帖   作:剣鋭

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一万文字を超えてしまいました。詰め込みすぎたか……


第五幕 決着

「爆豪、状況はどうだ」

『ああ!? いいからてめぇは守備してろ! 俺はいま最高にイラついてんだよ!』

「なら、聞かれたことくらいは答えてくれよ?」

 

 爆音によって戦闘が始まったと察するや、高志朗は爆豪に無線を繋いだ。

 

 どうやら、先の大爆発をオールマイトに咎められ、苛立っている様子だった。

 それを抜きにしても相変わらずの爆豪に、高志朗は無線越しに聞いた。

 

「いま、誰と戦っている?」

『…デクだよ』

「他二人は?」

『知るかボケ!』

「……承った」

 

 無線を切る。

 高志朗の考えていた当初の作戦は、爆豪の突出により既に破綻している。

 

 彼が思い描いた作戦は、爆豪とともにこの部屋に立て籠もり、入ってきた人間から随時迎撃するというものだった。

 高志朗、彼は自信家ではないが、自分の腕に覚えはあった。加えて、相方も戦闘に特化した“個性”。

 

「奴が突出したおかげで、奴の戦闘能力を把握できたのは不幸中の幸いか」

 

 爆豪勝己、“個性”【爆破】。掌の汗腺からニトロのような物を出し爆破させる。

 

「ただここで篭城するというのも味気がないな。…おい爆豪」

『なんだてめぇさっきから邪魔すんじゃねえ! 言いたいことが有るなら一度に言えや!』

「一応、確認だ。──これから、核の部屋(ここ)へ続いている階段を落とす(・・・)

『はぁ? てめ何言って──』

「勝つためだ、納得してもらうぞ」

 

 


 

 

 爆豪の奇襲により負傷したが、致命傷は避けた飯田が起き上がった。

 麗日が心配そうに気遣った。

 

「大丈夫? 飯田くん!」

「ん……ああ、何とかな。咄嗟に横に飛んだから、いくらか緩和できたよ。麗日くんこそ、ありがとう。ここからは自分の足で歩く」

 

 立ち上がり、息を整える。

 

「先ほどまで君に運ばれていた俺が言うのもなんだが、走れるか? 麗日くん」

「飯田くんが大丈夫なら、私は走れる──時間、押してる気がするもんね!」

「ああ」

 

 階段を駆け足で登りながら、飯田は口を開く。

 

「緑谷くんの言葉を信じ、我々は『核兵器』の回収に尽力しよう。ここまで走っても姿が無いということは、御舟くんは十中八九、『核』の部屋付近で待ち構えているだろう。彼について何か知っていることはあるか?」

「うーん、ごめん。私もよく分からないんだ、御舟くんは個性把握テストで凄い記録出してたけど……」

 

 飯田も頷く。

 

「緑谷くんと同様の増強型と見て良いかもしれん。どちらにしろあの“個性”は脅威だ」

「二人同時に攻め立てた方が、御舟くんの注意を引けるしね。息合わせて行かな!」

「うむ!」

 

 麗日お茶子、“個性”【無重力(ゼログラビティ)】。手で触れた物を何でも無重力にできる。飯田をいままで運んで来れた要因は、この能力のおかげでもある。

 

 飯田天哉、“個性”【エンジン】。その名の通り、速く動ける。脹脛の気筒が特徴で、個性把握テストの50m走でも高志朗に次ぐ記録保持者である。

 

「地図通りだとそろそろだね」

 

 走りながら言う麗日が、直に『核兵器』の部屋へ到達する事を示す。

 

「爆豪くんのように不意打ちが来るかもしれない。ここからは用心して進もう」

「うん!」

 

 建物内はほとんど踏破した。そのため、『核』の大体の在り処も目途がついている。

 しかし、いつになっても迎撃が来ない。走り回ってすでに5分以上経つというのにだ。

 

 二人は思う。『核』に近付けさせないためにも、何より、2対1になる可能性があると分かっているはずの高志朗が、この拓けた廊下を戦場にしないのは敵ながら悪手なのではと。

 

 ただ、その理由は次の角を曲がったところで判明した。

 

「嘘、やろ…『核』の部屋に続く階段が──」

「お、落とされている…。これは爆豪くんが予め崩しておいたのか? いや、これ程の大規模な破壊行動、爆豪くんの“個性”で破壊した場合、建物内に居れば高確率で気付くはず」

 

 あと一歩というところで、『核』の部屋へ続く階段が崩れ落ちていた。それは根元から崩されており、又高所であるため、通常の方法では『核』を視界に捉える事すらできない。

 階段を落とした本人は知ってか知らでか、『核』を回収しに来た二人の内、高所対応ができるのは【無重力(ゼログラビティ)】を持つ麗日お茶子のみ。

 

 更に麗日自身も自覚している。人一人を浮かせられるのは今はそれほど長くは保たないと。

 

(いや、やるんや! デクくん一人で頑張っとるんや、私ら二人してまごついてたら締まらへんやろ!)

 

「飯田くん、私のいまの“個性”じゃ、二人同時にっていうのは無理。けど、一人なら──」

「ああ、麗日くん。俺を最初に浮かせてくれ」

「悪いけど先に……え?」

 

 『核』の部屋へ直結する階段は崩壊している。同時に高志朗を相手取ることを考えていた二人にとって、この状況は想定外だった。

 ただ、麗日ならば、どちらか一方を先に上階に上げることができる。しかしそうなると、上がった直後に襲撃を受ける恐れがあるため、先行する人間は戦闘覚悟で飛び込む必要がある。

 

「麗日くんよりも、俺の方がある程度は戦闘に慣れている。ならば悩む必要などないだろう!」

「…分かった、飯田くん!」

 

 麗日が飯田の背中を、激励の意味も込めて強めに叩く。ゆっくりと浮遊していき、壊れた階段に手をかけて一気に登って行った。

 

「…」

 

 左右の確認は素早く、的確に。

 

「…居ない?」

 

 そこに居るはずの(ヴィラン)は居らず、更に見やるとすぐそこに最優先目標である『核兵器』の姿が視認できた。

 人は自分の求める物を視界に捉えると気が一瞬緩む。いや、“緩む”というよりも、『有った』という事実確認に思考が持って行かれる傾向がある。

 ゆえに、『なぜここに(ヴィラン)が居ないのか』の思考を放棄したことが────

 

「麗日くん、ここは大丈夫だ──」

「──本当に?」

 

 天井に突き刺さった刀で頭上に潜んでいた(ヴィラン)──御舟高志朗に襲撃を許してしまった原因だろう。

 

「上かっ!」 

「先手は俺だぞ、飯田。いや──ヒーロー!」

「ぐっ!?」

 

 飯田が反応できる最高速度での【エンジン】で加速した蹴りを、高志朗が真正面から木刀の横薙ぎで打ち返す。

 加速のベクトルを強制的に叩き返された所為で、飯田は体を半回転させられた。

 

 高志朗の目が赤く光っていることから、“個性”が行使されていることが分かる。

 

「ぼ、僕の蹴りが、しまっ──」

「ぬんっ!」

 

 振り返りざまの飯田の腹に突き技を叩き込み吹き飛ばす。

 飯田が吹き飛ばされたその先は当然、階段無き下の階だった。

 

「飯田くん!?」

「おお、やはりもう一人居たか。どうやら階段(ここ)を落としたのは正解だったようだな」

 

 言いつつも落下する飯田を追撃、空中で数発打ち据え、締めの一発で今度は麗日の方へ吹き飛ばした。

 

「きゃっ!」

「すまない…麗日くん、()ぅっ…!」

 

 フルアーマーの飯田の下敷きになってしまった麗日。この状況になった場合、二人で行動したのが仇になった。

 

「この演習、少々(ヴィラン)側に有利な設定だが──許せよ?」

「あっ…」

「なっ…」

 

 飯田は落下の際に腰を強く打ち負傷。麗日も、大の男の下敷きにされて身動きが取れず藻掻いていたその隙に、二人のヒーローは確保テープを巻かれていた。

 

 

 爆豪対緑谷。爆豪が高志朗によって『核兵器』隔離作戦を半ば一方的に言い渡された後のこと。

 

「てめぇ、そうやって俺を見下してたのか?」

「…」

「なんとか言えや、クソデク」

「そんなこと、あるわけないじゃないか!」

 

 緑谷は、この間まで“個性”を持っていなかった。現代医学上、“個性”の発現は四歳までとされ、それまでに発現しなければ“無個性”はほぼ確実とされてきた。

 中学校も一緒だった爆豪にとって、緑谷の“個性”発現には納得できなかった。

 

「僕も、ヒーローになる。行くぞかっちゃん!」

「そのツラ止めろやクソナード!」

 

 紫電を纏い、緑谷は爆豪に向かって走っていく。5%とは言え、彼のスピードは中学時のそれとは比べ物にならないものだった。 

 しかし、“個性”の練度、そして戦闘センスは爆豪に一日の長がある。

 

 右手大振りを意識しすぎた緑谷の動きは爆豪に読まれ、背後を許してしまう。

 

「ホラ行くぞ! てめぇの大好きな──右の大振り!」

 

 強烈な一撃が、緑谷の肩を強打する。爆豪はその後流れるようにその腕を掴み──

 

「てめぇは俺より下だ!」

 

 一本背負いの意趣返しと言うように、緑谷を思い切り床に叩きつけた。

 

「つぁっ!」

「頭は上手く防いだかよ。小細工だけは一人前だな、デクぅ!」

 

 床に叩きつけられる瞬間、緑谷は両手で後頭部を守っていた。

 素早く体勢を立て直し、爆豪と対峙する緑谷。

 

「まだ、痛くない」

(それに、5%でこのパワーとスピード…つくづく規格外な“個性”だよ!)

 

 大爆発を無線越しのオールマイトに注意されてからというもの、爆豪は行動の制限を余儀なくされていた。戦闘の余波で意味も無く建物を破壊するのは愚策。次に再び同様のことを仕出かしたらこちらの負けとなると来たものだ。

 

 “個性”の練度、戦闘センスは先ほどの通り爆豪が上手だが、ここまで制限がかけられれば不利なのは爆豪だった。

 彼は【爆破】の推進力でスピードとパワーを補助しているに過ぎない。一方緑谷は純粋な身体能力の底上げ。

 

 いまの時点で近接戦闘において軍配が上がるのは、紙一重の差で──

 

「こいつ…! 離しやがれデクっ!」

「離さないよ、かっちゃん」

 

 緑谷が爆豪に飛び付いていた。その鯖折りの様相は、まるで相撲。そして僅かに押しているのは、紫電を体中に迸らせる緑谷だった。

 

(俺が力負けしてる、だと!?)

「ふざけんな…死ねや、オラぁ!」

「ぐっふ…!」

 

 緑谷の無防備な背中を至近距離で連続爆破させる。だが、自分の体が浮いていく感覚を覚えた爆豪は、攻撃を止め、すぐさま緑谷を引き剥がそうと力を入れようとした、が。

 

「んだとぉ…」 

 

 緑谷は、爆豪に足を着かせなかった。踏ん張る地面が無いのなら、力の入れようは無い。

 【爆破】を利用して対抗するも、そうしようとした時はすでに、緑谷が爆豪を押し飛ばしていた。

 

「ぐがっ!」

「時間が無い…。麗日さんと飯田くんは、そろそろ『核』に行き着いていていいと思うけど……!」

 

 そこで緑谷にとって、最も聴きたくない宣告が建物内に響き渡った。

 

『飯田少年、麗日少女は行動不能だ。以後、味方との連絡は控えるように!』

「…飯田くん、麗日さん……そんなっ」

 

 外に追いやった爆豪が起き上がり、こちらにゆっくり歩いて来た。絶望的な状況だ。

 

「『核』の在り処が分からない…! いまから探すなんて非現実的だ。くそ、どうすればいい。考えろ緑谷出久! 『核』へ辿り着くにはどうすれば良いか。いや、あの二人が敵わなかった御舟くんだぞ、見つけたとしても返り討ちにされる可能性がある、もし倒せるとしてもその時にはもうかっちゃんに追い付かれてるだろうし、そうなったら挟み撃ち……なら、もう一か八かこれ(・・)しか無い!」

 

 その場で自分の右手を握り締める。纏う紫電はより濃く、体中にも光の筋が浮かび上がる。

 使ったら激痛で動けなくなるであろうことは重々承知の上で、緑谷出久は捨て身になる。

 

DETROIT(デトロイト)……!」

 

 真上に(ヴィラン)が居れば確実にダメージを与えられる。居なければそれで終わり、ヒーローは負ける。

 

 だが、緑谷は諦めたくなかった──!

 

「──SMASH(スマッシュ)っ!」

 

 突き上げた拳の衝撃波によって、天井を壊し抜いたのであった。

 

 


 

 

「今戦のベストは、誰か分かる人!」

「ハイ、オールマイト先生」

「うむ、八百万少女!」

 

 結果だけを見れば、時間切れによる(ヴィラン)チームの勝利でこの戦いは幕を閉じた。

 

「御舟さんです、次点で飯田さんと麗日さん」

「爆豪と緑谷の戦いは熱かっただろ!? なんで!」

「戦いは見栄えの良し悪しで決まるものではありませんわ。如何に目的を達成するかが、この戦闘訓練の肝かと」

 

 切島が疑問を呈するも、八百万が正論で黙らせた。オールマイトも彼女の言葉に大きく頷く。

 

「爆豪さんは見る限り私怨丸出しの行動が目立ちました。屋内での大規模攻撃も、オールマイト先生が注意した通り、愚策でした。

 緑谷さんは途中までは良かったのですが、最後の大破壊が、爆豪さんと同様の理由でよろしくなかったかと」

「破壊なら御舟もやってたぜ、それは良いのかよ?」

 

 上鳴が今戦のベストへの苦言を呈した。皆の視線が高志朗に向くが、彼は頭を搔きながら編笠の下で笑った。

 

「それ程でもない」

「いや褒めてねえから!」

 

 八百万が続ける。

 

「確かに、御舟さんも守るべき牙城を損壊させました。しかし、あれは無意味な行動ではありませんでしたわ」

「ヒーローたちに『核』へ辿り着かせないためにも、あの破壊は合理的な判断だったというのか?」

 

 常闇の発言に、彼女は頷く。

 

「それもありますが、まず彼は二人同時に相手取ることを嫌った。階段を破壊すれば、高所に対応できるヒーローは麗日さんしかいらっしゃいませんでしたから、一時的な分断も目的だったのではありませんか? それを証拠に、飯田さんが一人上階に登った一瞬の隙を突いて、一気に二人を行動不能にさせました、これは称賛に値しますわ」

「おい八百万、お前さん……」

 

 高志朗が八百万の肩を叩く。

 

「なんですの、御舟さん?」

「恥ずかしいから、もう止めて」

 

 それに、と高志朗は編笠を取った。

 

「あれはヒーロー側の“個性”を知っていたからできたこと。麗日のような“個性”を持ったヒーローが二人以上居たならば、俺は二人以上のヒーローを同時に相手をしなければならなかった──これは単なる訓練。実戦ではそうはいかんと思うな」

「御舟少年の言う通りだ。訓練を本気で取り組むことも大事だが、実戦でも同じような動きができるヒーローはプロでも少ない! 今回のヒーロー基礎学は、君ら少年少女が各々持つ“個性”で自分が何ができて何ができないのかを把握してもらうためでもある!」

 

 なぜかオールマイトにサムズアップされた高志朗は、首を傾げていた。

 そして、爆豪は。 

 

「…」

 

 勝者とは思えない、浮かない顔をしていたのを、緑谷は見ていた。

 

 その後、残った各チームによる戦闘訓練が順次行われた。

 

 その中でも皆の目を引いたのがBチームとIチーム──轟、障子チームと尾白、葉隠チームの戦いである。

 轟の“個性”【半冷半燃】による、(ヴィラン)アジト全域に亘る凍結で、そのチームの訓練は物の数分で決着が着いてしまった。

 

 『核』を傷つける事無く、尚且つ二人の(ヴィラン)を、物理的に行動不能にした力は凄まじいの一言であった。

 

「元気出しなよ、尾白よ」

「くっ…同じ武道家として、自分が情けない! ごめん御舟!」

「いや俺に謝らんでもいいよ…」

 

 尾白猿夫(おじろましらお)、“個性”【尻尾】。頑丈でしなやかな長い尻尾を自在に操ることができる。高志朗と同様、武道家であり近接戦闘を得意とする。

 尾白の労をねぎらう高志朗は、チラリと葉隠の方も見て言った。

 

「葉隠がなぁ」

「な、なによ、御舟くん! 私だって全力だったんだからね!」

「裸足にさえならなければまだ勝機はあったかもしれんのに……素っ裸になるんだからなぁ……」

「仕方ないじゃん! あんなことになるとは思わなかったんだもん、バカー!」

 

 高志朗の背中をぽかぽかと叩くのは葉隠透(はがくれとおる)。“個性”は【透明化】の常時発動型透明人間。戦闘服(コスチューム)はブーツと手袋のみ。

 訓練中、その少ない衣服すら脱ぎ捨てて本気度合いをアピールするも、前述の轟の攻撃により、足と床を直に凍り付かせられ制圧される。

 

 結果論だが、もしも彼女がブーツを履いたままでいれば、油断して『核』の部屋に入ってきた轟を確保テープで捕らえるなりできたかもしれない。

 

「御舟くんて、結構ズバズバ言ってくるよね。クールかと思ったら、意外と喋るんだ」

「オンオフの切り替えが激しいとは言われるな。しかし意外なのはこっちだ。葉隠は“個性”の通り大人しい人間かと思ったんだが…」

「だが…なに?」

 

 むーんと、少し立腹しているのか、顔を近づけて来ていることが分かるほど彼女の圧がそこにあった。

 

「…明るいな」

「よし!」

 

 葉隠透という少女は、その“個性”の特性上誰からも気づいてもらえないことに対して、身振り手振りや、明るくよく喋ることでカバーしようとしているのだろう。

 プロヒーローも人気商売のような側面を持っているため、そのようなこともするのも否めない。

 

 こうして、すべての組み合わせが訓練を終え、放課後──教室。

 

「反省会?」

 

 帰り支度をする高志朗に、席に近寄って来た切島がそう提案して来た。

 

「そう!今回の組み合わせ関係無く、戦闘訓練の反省会を皆でやろうと思ってんだ」

「御舟も反省するとこあるだろぉ? 特にチームワークとか!」

 

 上鳴が厭らしい笑みを浮かべて机に手を置くと、高志朗は頬杖を突く。

 

「爆豪は他人の意見は聴かん人間だ、チームワークは成り立たない」

「でもよー、結構途中まで無線で会話してたよな。何話してたんだ?」

「あ、それウチも気になる。あんなキツそうなのとどうやって話繋げたの?」

 

 無線で結構会話…と反芻する高志朗は、すぐに手を叩く。

 

「会話らしい会話はしていないな。大きい爆発があっただろう? その時にな、いま戦っている相手と、他の二人がどうしたかを聞いただけだ。爆豪が緑谷を狙っているのは分かっていたから、あとはもう消去法で、俺が本陣を守ればいいと判断した。作戦なんてあってないような物だ。

 緑谷を取り逃がす可能性があったのかもしれんが、ま、その辺は賭けだな」

「2対1になるって分かってて『核』の部屋に詰めてたのかよ……強気だなぁお前」

 

 上鳴の言葉に、高志朗は肩を竦める。

 

「どうだかな。少なくとも2対1になるのが嫌だから、俺は階段を斬り落としたわけだしな。そうだおい爆豪、チームワークの大切さを一緒に学ぼう、いい機会だ」

「…」

 

 早々に帰路に着こうと教室を出ていく爆豪に気付き話し掛けるも、何も言わず出て行ってしまった。

 緑谷がそれを追おうとしているのを見て、高志朗は低い声で呼び止める。

 

「どこに行くつもりだ、緑谷」

「どこって…かっちゃんを追いかけようと──行かなきゃ」

「会って何を話すというんだ?」

 

 その問いに緑谷が言葉を詰まらせる。

 

「お前さんたちの関係は幼馴染だという以外知らないが、いまは話すだけ無駄だと思うが?」

「無駄って…御舟くんに、何が分かるのさ……!」

「おいお前ら…?」

 

 高志朗の言葉に、緑谷は語尾に怒気を含ませて反論する。険悪な雰囲気に、切島が立ち上がる。

 

「いままで格下だと散々見下していた奴に善戦されて、更にそいつが、励ますのだか話だか知らんが、わざわざ追いかけて顔突き合わせて来たとする、そしたら、なあおい──お前さんならどう思う? 緑谷よ」

「かっちゃんと君は勝ったじゃないか! 負けた僕が追いかけて話しても、かっちゃんは何とも思わないよ……!」

 

 今度は高志朗が立ち上がった。

 

「分からん奴だな。勝ち負けじゃない。余裕で勝てると思っていた相手に食い下がられた! それだけで惨めになるのはどちらかと聞いているっ!」

「でも、僕は言わなきゃならないことがあるんだ!」

 

 緑谷はそう言い放ち、教室の扉を乱暴に閉めて爆豪を追いかけて行った。

 椅子にドカリと勢いよく座り溜息を吐く高志朗。

 

「なぁ上鳴、いまのは余計なお世話だったか?」

「ちょっと踏み込みすぎじゃね? あの二人にしか分かんねぇ事情だってあったかもしれねーし」

「……全部爆豪が悪い。これでこの話は終わりだな」

「いきなり責任転嫁かよ!?」

「御舟って、自由人だよな、色々と」

 

 幼少の頃から家が隣だった緑谷と爆豪。爆豪は緑谷を自分より下だと馬鹿にし、緑谷は馬鹿にされつつも彼を羨望する。この二人の関係は、奇妙と言う他無い。

 

 


 

 

 真に賢しい(ヴィラン)は闇に潜む。そう言ったのは誰だったか。

 

 オールマイト、雄英の教師に。

 この報は、闇の住人たちにも知れ渡っていた。

 

「教師だってさ。なァ、どうなると思う? 平和の象徴が……(ヴィラン)に殺されたらさ?」

 

 


 

 

 翌日、雄英高、校門前。

 オールマイトにコメントを貰うべく、大勢の報道陣が校門に張り込んでいた。

 入校していく人、又雄英の制服を着ている生徒を狙ってマイクやボイスレコーダーを持ち寄っていた。

 

 その中で、奇縁ともいうべき再会を果たしてしまった二人が居た。

 

「オールマイトの授業はどうですかって……君はっ!」

「仕事、大変ですね。それじゃ」

「ちょーっとちょっと待ってって!」

 

 約二年前に起きた『東京都立て籠もり事件』で高志朗に詰め寄って来た女性記者と、再び顔を合わせてしまった。歩き去ろうとする高志朗の行く手を、両手を広げて遮る女性記者。

 

「なんですか、記者さん。始業もうすぐなんですが」

「そんなこと言わないでさ。オールマイトがどんな教師なのか教えて欲しいなって…」

 

 すると女性記者は何か閃いたのか、自分の髪を少し整え、マイクも下ろして高志朗に近寄った。

 

「あの時は本当にごめんね。もういい加減数字出さないと私もヤバくって……一言だけでいいから、ね? 私と君の仲じゃない」

 

 猫撫で声でしな垂れかかって来る女性記者。高志朗は頭を搔いて言った。

 

「あなたと俺の仲って何なんですか……。まぁ、ヒーローのお仕事と学校の教師、勝手が違うのか、少しぎこちなさを感じたってところくらいですかね」

「んー! もう一声! もう一言くれたらお姉さん帰るから!」

 

 全員が帰るとは言わないのが、この女性記者の抜け目のない性格が伺えた。

 

「もう言うことなんて何も……うおっと!?」

 

 突然、何かに腕を掴まれて引き寄せられた。「ちょっと、まだもう一言ー!」と叫ぶ女性記者が小さくなっていく。

 

「お前乗せられすぎ、さっさと行くぞ、御舟!」

「拳藤だったか、悪いな」

「…別に」

 

 高志朗の腕を掴んで校門をくぐったのは、オレンジ色のサイドテールが印象的な少女──拳藤一佳だった。彼女は少しむっとして彼の腕を強引に引っ張っている。

 

「あそこで止めるつもりだったんだ。ちょうど良かった」

「……知り合い、だったのか?」

「うん?」

「あの女記者と知り合いだったのかって聞いてるんだよっ」

 

 その場で立ち止まる。

 

「まぁ、知り合いと言えば知り合いだが…」

「結構、綺麗な人だったな。大人の女性って感じで」

「……悪かった」

 

 理由のない謝罪ほど響かないものはない。彼女は少しばかり口を尖らせる。

 

「別に謝って欲しくて言ったわけじゃないし……」

「そうか、だが一つ言っておくぞ」

 

 拳藤が高志朗の腕を離すが、今度は逆に、高志朗が拳藤の腕を掴んだ。

 

「お前さんの方が、綺麗だぞ。だから心配するな」

 

 その言葉に、拳藤は面食らった表情と真っ赤な顔で後退る。余程予想外だったのか、口もパクパクと魚のようになっている。

 

「な、な、なな何言ってんだ突然、ば、馬鹿じゃないのかお前……!」

「──というのは冗談にして、始業もうすぐだから行くぞ拳藤」

 

 真っ赤な顔を両手で押さえる拳藤を余所に、高志朗は歩き出す。

 ──彼女の背後に宿る般若にも気づかずに。

 

「……」

「拳藤?」

「ぶっ殺す!」

A組(うち)の爆豪の口調うつってる!? 何でだ!」

 

 


 

 

「昨日の戦闘訓練お疲れ。Vと成績見させてもらった」

 

 朝の教室での担任の第一声は先日の戦闘訓練の話だった。

 

「爆豪、お前もうガキみてえなマネするな。能力あるんだから」

「…分かってる」

 

 爆豪は昨日の今日で立ち直ったようだった。

 それについて、爆豪の居ないHR(ホームルーム)前に高志朗は少しだけ緑谷と話した。

 

『昨日はごめん御舟くん!』

『お前さんが謝ることではない。少々お節介を焼いてしまった俺の落ち度だ──すまなかったな』

 

 聞けば、どうやら爆豪はあの後すぐに立ち直ったらしく、緑谷に対し啖呵を切ったとか。その際何故か高志朗も標的になっていたという。

 

「あと緑谷、お前、“個性”の制御が不安定すぎる。そんな中であんな博打みたいなことは実戦ではやるな」

 

 緑谷のあの怪我は、雄英保険医であるリカバリーガールの診断によると、『凄く痛い即効性の筋肉痛』のよう、とのことである。あれ以上酷使していたら、骨折は免れなかったらしい。

 

「御舟、お前は爆豪ともう少しコミュニケーションを取れば良かった」

「取り付く島も無かったんです、先生」

「んだとコラっ!」

「……お前ならできる」

 

 何を根拠に!? と口を開けて固まる高志朗だった。

 

「さて、昨日の話は終わりだ。ここからがHR(ホームルーム)の本題だ。急で悪いが今日は君らに……学級委員長を決めてもらう」

学校っぽいの来たー!

 

 集団を導くというトップヒーローの素地を鍛える役。それが学級委員長と、副委員長。

 

「委員長!! やりたいですソレ俺!」

「ウチもやりたいス」

「ボクの為にあるヤツ☆」

(わたくし)も立候補致しますわ!」

「リーダーやるやる!」

 

 高志朗は特にやる気も無かったため、窓の外を眺めて時が経つのを待っていた。

 嫌、という程ではないが、これ程立候補者が出るのならば、やりたい人間にやらせればいいという判断だった。

 

「静粛にしたまえ! これは多を牽引する責任重大な仕事だ。『やりたい者』がやれるモノではないだろう!」

 

 長身の眼鏡──飯田天哉がクラスの喧騒を一喝で鎮めた。

 

「周囲からの信頼あってこそ務まる聖務…! 民主主義に則り、真のリーダーを皆で決めるというのなら…」

 

 そして、手を高々聳え立たせた。

 

「これは投票で決めるべき議案!」

「日も浅いのに信頼もクソもないわ飯田ちゃん」

「クソて」

「そんなん皆自分に入れらぁ!」

「え…」

 

 蛙のような少女──蛙吹梅雨(あすいつゆ)の『クソ』発言よりも、切島の言葉に高志朗は立ち上がる。

 

「どした御舟?」

「お、お前さんら……投票で自分に入れるのか?」

 

 言うと、クラスは何らおかしいことではないという風に肩を竦めていた。

 

「そういうものか」

 

 実は高志朗、中学校の頃は三年連続学級委員長だった。とはいうものの、ヒーロー科(ここ)のように立候補者が大勢居たわけではなく、むしろ逆。半ば押し付けで任命されたものだった。

 

「ここで複数票を獲った者こそが、真に相応しい人間ということにならないか!? どうでしょうか先生!」

「時間内に決めりゃ何でも良いよ」

 

 飯田の発案で投票は流れていき、開票。

 高志朗は、この議会を最初に発案した飯田に投票した。

 

(結局は理屈ではなく、自然になるものだ、大将というものは)

 

「八百万二票! 御舟二票!」

「──なんだと?」

 

 高志朗にとっての、全くの予想外の出来事が起こってしまった。




あの女性記者、結構いいデザインしてると思うんです。
次はUSJかぁ……戦闘描写大変そうだなぁ。
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