雄英剣風帖   作:剣鋭

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主人公の基本装備は真剣と木刀。真剣は腰に差し、木刀は普段は長物袋に入れているが、移動し易いように背負うこともあります。

背負うって、野太刀か何かかよ……と思うかもしれませんが、気にしないでくださいお願いします(早口)


USJの変
第六幕 水面下


「1票……? 誰だ僕に入れてくれたのは……!」

「得票数が並んだぞ! この場合どうなるんだ!?」

「もう一回、今度は上位二人で投票すればいいんじゃない?」

「納得いかねぇ…!」

 

 1-A組クラス委員長及び、副委員長を選出する議題は、二名の候補者が得票数二票で並んだ。

 八百万百と御舟高志朗の二人である。

 

 自薦、他薦は問わない投票だったとは言え、皆個性溢れる生徒たちであり、我こそはという者がほとんどだ。

 

「よっしゃ、んじゃもう一回投票──」

「お待ちください、切島さん」

「そうだ、待て」

 

 投票用紙を配ろうと立ち上がった切島を止めた八百万だったが、それに乗じる形で間に入って来た高志朗を意外そうに見た。

 

「俺は八百万を委員長に推薦する」

『!?』

「御舟さんが…私を推薦?」

 

 頷く高志朗は、黒板を気怠そうに指で差す。

 

「同数だった俺が八百万に投票するんだ。これで委員長は決まりだな、そして俺が副委員長、これで良いだろう」

「いやいや、どうしていきなり辞退すんだよ、お前だってやりたかったんだろ?」

 

 二票の内一票は自薦のものと思っているらしい一同に、高志朗は逆に怪訝なものを見るような顔をした。

 

「何を言っている、俺は自薦などしていない。飯田に入れたのだからな」

「な、なんだとー! 御舟くんがぼ、僕に!? ではこの一票はっ」

 

 わなわなと打ち震える飯田。当然歓喜にだが。

 それよりも大胆すぎる高志朗の暴露にクラスは混乱していた。匿名で投票した意味が無くなってしまっている。

 

「てことは他薦で二票勝ち取ったことになるのか。 誰だ入れたの…?」

「や、やりたくないならオイラに譲ってくれよぉ!」

「俺に譲れ! チャンバラクソ野郎!」

「是非とも俺に! 親友だろ高志朗!」

「アンタいつからあいつの親友になったわけ? 上鳴」

 

 ギャーギャーと皆が好き放題に発言する喧騒の中、机を片手で強く叩いた高志朗が、立ち上がって周りを睨みつけた。一名を除いて騒ぐ者は居なくなった。

 

「喧しいぞっ。俺は確かに立候補しなかった。しかしここで簡単に辞退してしまったら、俺に票を入れてくれた人間に対して失礼に当たる。それに、推薦されたら応えるつもりだったんだ、否やは無い」

「敢えて委員長ではなく副委員長に収まろうとしたのは何でー?」

 

 明るいピンクの髪にピンクの肌、色が反転した目に、二本の黄色い角のような物が付いた少女──芦戸三奈がそう聞いて来た。

 

「意欲のある者がトップになるのに理由が要るのか? 俺と同票数ならば、委員長になる意欲の高い八百万が就任するのが適当だろう」

「うぐぐ、正論野郎め……お前なんか親友じゃねぇ…!」

 

 上鳴が悔しそうに呻く。

 こうして学級委員長、副委員長選は無事に決着を見た。

 着席した高志朗が、後ろの席の八百万に振り向く。

 

「ところでお前さんは何が言いたかったんだ?」

「い、いえ、なんでもありませんわ! (学級委員長への意気込みを演説するために教壇に立とうとしてたなんて言えませんわ! 恥ずかしいっ)」

 

 委員長──八百万百、副委員長──御舟高志朗。

 

「まぁでも、御舟は戦闘訓練で強かったもんな。……カメラ壊されて映ってなかったから詳しくは分からなかったけど!」

「八百万は講評の時がカッコ良かったしな、良いんじゃないか?」

 

 


 

 

 昼休み。

 

「御舟さん、半分は私が持ちますわ」

「大丈夫だ。こういうのは男である俺に任せてくれ。それとも、持ちたいのか?」

 

 あの後、早速担任の相澤から書類の運搬を頼まれた1-A組クラス委員長と副委員長は並んで廊下を歩いていた。

 他の生徒たちが食堂に向かう中で、早目に終わらせてしまおうという意見の一致で四限目終了後すぐに書類を職員室に運ぶことになった。

 

「あ、いえ、御舟さんにばかり書類の束を持たせていては申し訳ないと思い…」

「なら問題無い。お前さんはクラスを指揮統率してくれ、俺はその補佐をする役だ。委員長が仕事をし易い環境を整えるのも、副委員長(おれ)の役目だ」

「では、お言葉に甘えますわ」

 

 ニコリと笑い、職員室への廊下を歩いていく八百万。心無しか彼女の歩調が弾んでいるように見えた高志朗が口を開いた。

 

「我の強いクラスだが、お互いに頑張ろう」

「ええ、とても。さすがはトップヒーローを目指す方々といったところですわ。少々、品性が疑わしい方もいらっしゃいますが…」

「それも“個性”社会だ。昔のように身分の高い人間だけが優遇される世の中ではなくなっている。時に八百万……」

 

 高志朗の問いに、なんでしょう? と首を傾げる彼女。

 

「口調、佇まいから察するに、人品卑しからぬ身分と見受ける。ああいや、答えたくなければ答えなくてもいい。ただの興味だ」

 

 必修科目の授業で、結構な教師から指名を受けてしまう高志朗だが、その前に挙手をして回答をするクラスメイトが数人居た。

 

 中でも印象に残っているのが八百万だった。彼女の言葉遣いといい、敬語を崩さない落ち着いた受け応えに高志朗は感心していたのだ。

 すると、彼女は弾んでいた歩調に加えて、目を煌めかせながら高志朗に迫ってきた。

 

「お分かりになられます!? (わたくし)、八百万財閥の一人娘でして! あ、その…一応、良家に当たりますわ」

 

 興奮してはしたないと自覚したのか、途中から尻すぼみの返答となった彼女の様子に、高志朗は歯を見せて笑った。

 

「面白いなお前さん。そうか財閥か、どうりでな」

「そうおっしゃる御舟さんも、とても落ち着いていらして素敵ですわ。もしかしてあなたも…?」

 

 手を合わせて笑顔を投げかけてくる八百万に、高志朗は苦笑した。

 

「歯に衣着せん物言いをする俺が良家なわけあるかよ。ただ遊びを知らんだけだ」

「そうですか? でも、私も勉強の毎日でしたから、同じですわね」

「では似た者同士か。ははは、俺も──」

 

 稽古漬けだった──と言おうとした直後、突然警報が鳴り響いた。

 

「なんですの!?」

「…この警報は消防の物ではないな…雄英専用の防犯装置か何かか?」

『セキュリティ3が突破されました。生徒の皆さんは速やかに屋外へ避難して下さい』

 

 周りが慌ただしくなる中、職員室を勢い良く飛び出した相澤が、書類を持った二人に気付いて足を止める。

 

「八百万、御舟! この警報は気にするな、ただのマスコミだ! 書類は俺の机に適当に置いとけ!」

「承知致しましたわ!」「お疲れ様です、お気を付けて!」

 

 確かに、落ち着いて窓の外を見てみると、報道陣が大勢、校内に入り込んでいた。

 

「…」

 

 校門にはあの『雄英バリアー』こと、部外者防犯装置が聳え立つ。

 それをどうやって突破してきたのかが甚だ疑問に思った高志朗だが、そんなことよりも先に、感じ慣れた悪寒が彼の肌を撫でた。

 

 教師が出払ってしまった職員室の扉を開ける。あとは持ってきた書類を相澤の机の上に置くだけなのだが、悪寒がまだ止まない。

 

「あれ…? おい黒霧(くろぎり)。生徒だぜ」

 

 全員が出払ったはずの職員室から声がした。

 

 扉を開けると、そこに居たのは教師でも、生徒でも無かった。

 くすんだ白髪の男と、黒い靄のような物体が漂っていた。

 

「やぁ、君も職員室に用かい?」

「あ……はい、その、書類を届けに……」

「──!」

 

 八百万が近付こうとすると、白髪の男は何を思ったのか、自分の手を伸ばしてきた。

 伸ばされたそれを高志朗はすぐに払い除け、彼女の腕を掴んで後ろに退がらせる。

 

「御舟さん…?」

 

 現状に困惑する八百万に、高志朗は鋭く言った。

 

「八百万、刀作ってくれ」

「え…?」

「早くっ。こいつは雄英(ここ)の生徒じゃない。制服で騙されるな」

「あ、は、はい!」

 

 所在なさげにする振り払われた自分の手をゆっくりと眺める白髪の男。その周りに漂う黒い靄も、目のようなものを細めるように象られた。

 

「おいおい、もうバレちゃったよ。こういう場合、殺した方がいいよな黒霧?」

「構いませんが、雄英の教師は優秀なヒーローが多いと聞きます。幸いここにいるのは彼ら二人だけのようですが、マスコミもそう持ちません。応援を呼ばれればそれこそ──」

「分かってるよ、ラスボス前にゲームオーバーじゃカッコ悪い。でもさ、いいよな……?」

 

 ゆらりと、白髪が揺れる──

 

「チュートリアルで金の卵二つ、貰っちゃっても!」

「八百万!」

「はい! 御舟さん、刀ですわ!」

 

 八百万百、“個性”【創造】あらゆる物を自身の体から創り出せる。生物以外の物であり、更に仕組みを理解してさえいれば創造可能。

 

 後ろに下がっていた八百万が自らの“個性”によって自身の体から鞘付きの刀を取り出した。

 彼女がそれを投げ渡すと、受け取った高志朗は振り返りざまに即座に抜刀──間一髪で再び、今度は鋭く忍び寄って来た掌を一閃した。

 

「痛ってぇぇぇっ! こいつ……真剣! (ヴィラン)だったら何しても許されると思ってんのかこのガキぃぃぃっ!」

 

 スパッと斬れた一筋の切り傷から血が滲み出て滴り落ちる。白髪の男は首をガリガリと搔いて苛立ちを露わにしていた。

 

「八百万、俺に構うな。表に居る先生に連絡を急げ!」

「しかし御舟さんは……!?」

 

 迷う八百万に向かって冷や汗を垂らしながらも獰猛な笑みを浮かべた高志朗。刀の鞘をその場に落とすと、ゆっくりと右足を引いて半身になった。

 正面からは刀身の長さを覚られない、脇構えで白髪の(ヴィラン)と対峙した。意気込みを表すかのようにより強く、鍔を鳴らす。

 

「こういうのには、慣れている──俺が踏み出したら同時に動け」

「ちっ黒霧、女の方逃がすな」

「かしこまりました」

 

 黒い靄から、言葉が紡がれた。それを見た高志朗は判断する、この者も(ヴィラン)。実体が無いのは異形型ゆえのことかと考察を巡らせる。

 

『──!』 

 

 しかし、次の思考に移る暇も無く一瞬にして高志朗と八百万の間に現れていた黒い靄。狙いは当然、彼女だ。

 

「増援が来ては面倒です。あなたから先に殺してしまいましょう」

「あっ…」

 

 靄から直接、何らかの攻撃が来ると思えば、それは八百万の思い違いだった。

 高志朗の目の前に居る白髪の(ヴィラン)が、その場で黒い靄に手を突っ込む。するとどうだろう、八百万と高志朗の間に居たもう一つの黒い靄から、先ほど突っ込んだ手が飛び出してきたではないか。(それ)は確実に彼女に向いていた。

 

「本命は、俺だよ──」

「──小細工」

 

 だが、高志朗は動かない。背後の黒い靄には目もくれず、目の前の白髪の(ヴィラン)に集中していたがゆえの、一撃だった。

 

「っ! いけません、死柄木弔(しがらきとむら)!」

「閃っ!」

 

 ゴっと、鈍い音がした。『死柄木弔』と呼ばれた白髪の(ヴィラン)は、脇構えからの胴斬りと思わせての、逆手斬りを二の腕に受け、更に足の裏を腹に叩き込まれたことで吹き飛んだ。

 刀を素早く正眼に構え直した高志朗が口を開く。

 

「『手』に妙な自信があるな。何にせよ八百万には指一本触れさせん」

「黒霧! ぼさっとするな、女走ったぞ! くそ、痛ぇぇクソガキが……っ!」

「いまのあなたを置いてなど行けません! この生徒……戦い慣れている、何者……!」

 

 激昂にかられたのか、黒い靄を激しく弛ませ、歪ませる(ヴィラン)に対し、体勢を再び脇構えに戻した高志朗は、目を剥いて(ヴィラン)を威圧する。

 

「お前さんらがまず名乗れ。そうすれば答えよう」

「正義ぶりやがって……この──」

「……死柄木、ここは退きましょう。目当ての物も頂いた。このようなところで感情的に動いて大局を見失ってはなりません」

 

 両手で首を掻きむしり、高志朗を睨みつける白髪の(ヴィラン)。だが、黒い靄が諌めたことで、何とか冷静さを保っていた。

 

「……送れ、黒霧」

「かしこまりました」

 

 


 

 

 八百万が事のあらましを報告してきたときは総毛立った。

 その場は根津校長たちに任せ、俺はマイクを連れて八百万とともに現場に急行した。

 

 あんなこと(・・・・・)ができる(ヴィラン)が校内に入り込んだ。生徒が遭遇したらただでは済まない。

 だが交戦しているのがあいつならば……と僅かな期待を胸に抱き、俺はそれを見た。

 

 その場で一人、刀を持った男子生徒の姿を確認した。見間違えようもない、あの佇まい。二年前の“僧帽”一味との戦いで見せた気迫。

 いつもはふざけているんだか真面目なんだか分からない男が、俺たちを見ると纏っていた剣呑な空気を弛緩させた。

 

 そうして流れるように納刀した男子生徒の名は──御舟高志朗。

 八百万が駆け寄った。

 

「連れて来てくれたのか、ありがとうな」

「み、御舟さん……よくご無事で! (ヴィラン)は……?」

「逃げた。いや、逃がした。凄まじい殺意を持った男だったな。動きは読めたが、並々ならぬ憎悪を抱いていた」

 

 ──(ヴィラン)撤退。それを聞き緊張の糸が途切れたのか、泣き出しそうな八百万を御舟が慰める。

 

「ワープの“個性”を持った(ヴィラン)が、おそらくは『雄英バリアー』を突破した張本人とともにその場から姿を消しました。残念ながら……」

 

 ワープなどという“個性”が存在し、更にそれが(ヴィラン)側にいることに驚きを隠せなかったが、いまはこいつの安否確認が最優先だ。

 

「お前は大丈夫なのか、御舟」

「問題ありません。無断で“個性”を使ってしまったこと以外は…」

 

 そう言われて改めて周囲を見回すと、床や壁など所々に血痕が付着していることが確認できた。それだけで“個性”の使用を断定できないのがこいつの戦闘スタイルだが、本人がそう言うのだから使ったのだろう。変なところで嘘が付けん男だ。

 横に立つ同期兼同僚と視線を交わし、そいつが肩を竦めたことで意見の一致を覚った。

 

「グレーゾーン……と言いたいところだが、事情が事情だ」

 

 嘘だ。元はと言えばこいつらに書類を運ぶのを任せた俺が悪い。任せなければこの二人は(ヴィラン)と遭遇しなかっただろう。

 

 …八百万と御舟。前者はヒーロー科に四人在籍する推薦入学者の内の一人で、“個性”だけでなく座学も優秀。やや杓子定規なところがあるが、逆にそれが集団の規範となり、取りまとめる主軸となってくれる。

 

 後者は……大っぴらには言えないが単純に()での経験が最も豊富で、あらゆる事態にも対応出来得る存在。

 クラスの規範となる委員長である八百万が持て余した連中を黙らせる抑止力だ。

 

 上手くバランスの取れた二人だからこそ、試しに仕事を任せてしまった。

 

「まぁ、もし八百万と二人して(ヴィラン)と交戦していた時は、二人とも除籍にしていたよ。その辺は適切な判断だったな」

「素直になれよイレイザー。本当は『よくやった!』って褒めたいんだろぉぉぉいでででっ!」

「お前は黙ってろマイク」

 

 ポケットの中から着信音が鳴る。相手は根津校長だった。

 

「……はい。はい、了解しました。伝えておきます」

「校長、なんだって?」

「…(ヴィラン)侵入の件は、包み隠せと」

 

 


 

 

 校内どころか、職員室にまで侵入してきた(ヴィラン)を対処、退けた八百万、高志朗の二人にはただちに箝口令が敷かれた。校内に(ヴィラン)が侵入したことは重大な事件であるものの、いま生徒たちに知られれば、まず混乱は避けられないだろう。ヒーロー科の生徒ならまだしも、全生徒の八割以上は普通科やサポート科・経営科だ。その混乱の対処に人員を割いては、それこそ(ヴィラン)に付け入る隙を与えるようなものである。

 

 よって、単なるマスコミ侵入のお騒がせでこの件は片付けられ、(ヴィラン)侵入は世間には伏せられた。

 

「…考えなしの大胆不敵か、それとも……どちらにせよ、セキュリティの強化が必要だね。何者かに粉々にされた校門の修繕は当然のこと、各先生には空いた時間に見回りをしてもらおう」

「御舟くんが言っていた、クロギリというのはコードネームかしら。ワープなんて“個性”が(ヴィラン)側に居るなんて……」

 

 転移系の“個性”は非常に汎用性が高い能力だ。こうして集まって緊急会議をしているいまこの時も、その場に現れてもおかしくない。

 

 雄英の教師が勢揃いする中でそれは愚策だが、それ程、自由度の高い“個性”であることが分かった。

 防犯装置を作動させたのはマスコミだけだ。そうなると本当に空間を“跳”んできたのだろう。

 

「そんな“個性”を相手に物理的に守りを強化したとして防ぎきれるかは分からない……。困ったものなのさ……本当に」

 

 


 

 

 『マスコミ侵入騒動』から数日が経過しました。私──八百万百は、午後のヒーロー基礎学の授業のため、クラスの皆さんと送迎バスに揺られていました。

 学校から3k程先にある訓練施設への移動の道中のことでした。

 

 談笑する皆さんを余所に、窓際で静かに外を眺めている方を見かけました。

 

 ──御舟高志朗さん。総髪で、剣術の達人。普段は物静かですが、寡黙というほどではないと最近になって分かってきました。

 あれから私たちは、二人だけの秘密として、何事も無かったかのように学校生活を過ごしてきました。

 

 (ヴィラン)の侵入。混乱を防ぐためとは言え、隠蔽が本当に最善だったのか未だに私の中に疑問が残っています。とはいうものの、一生徒の私がどうにかできることでも無いと、ここ数日自分に言い聞かせていましたわ。

 思い切って御舟さんにそれを打ち明けると、窓の外を眺めながらおっしゃいました。

 

「あのとき逆に世間に公表したとしても、学校が防戦を強いられている以上後手に回るのは確実だ。相手の“個性”ゆえに何時何処から来るかまったく分からないのだからな」

「そう……ですわね」

「だが、やるしかないだろう?」

 

 俯きかけた私に、御舟さんは不敵な笑みを向けてきました。またこの目ですわ。この方は、戦いを楽しむ傾向があることも最近になって分かってきたことの一つです。

 

「八百万が居なければ、俺は死んでいたかもしれん。常在戦場とはよく言うが、俺は刀が無いと戦えん役立たずだ──お前さんには救けられたんだぜ? 誇れよ」

「……御舟さんはあの時、怖くありませんでしたの?」

「俺はまぁ、諸々の事情で慣れている。不気味だったのは黒い靄の(ヴィラン)だったが」

 

 あの(ヴィラン)は普通ではありませんでした。雲のような、文字通り掴みどころの無い人物。

 情けなくも私はあの時棒立ちでした。御舟さんに腕を引いてもらわなければ、何か大変な災厄に見舞われていたかもしれません。

 

 あの後彼に戦いの一部始終をかいつまんで伺いましたが、やはり触れる事で発動する類の“個性”の(ヴィラン)のようでした。触れられなかったので確信は無いとのことでしたが……。

 

「御舟さんは、あの黒い(ヴィラン)が直接攻撃する術を持たないと分かっていたのですか?」

 

 その場を離脱しようとした私の前に立ちはだかった黒い靄の(ヴィラン)は、同じく(ヴィラン)と思しき白髪の男性の『手』を、靄を介して私に触れさせようとしてきました。

 しかし、御舟さんはこちらに一切振り向かず、私を狙うことに集中していた白髪の男性に攻撃を加えました。

 

「目の前で俺を無視して手探りなどしているから斬り付けただけだ。それが偶然、お前さんを結果的に救けたようだな。謎だと言ったろう、あの黒い靄は」

「いえ、偶然でも、本当に助かりましたわ」

 

 彼は昨今のヒーローには稀に見る、刀に重きを置く戦闘スタイルの持ち主。刀が折れたり、刃毀れを起こした際はどうするのか少し心配な方です。

 あら? もしかしたら、私が御舟さんの相棒(サイドキック)になればその問題は解決するのでは!?

 

「お、お前さんにはお前さんの未来のビジョンがあるだろう? 無理に合わせんでもいいんだぞ……ありがたいが」

 

 苦笑で返してくる御舟さん。考えてみれば、いま、何気なく凄いことを口走ってしまったのでは(わたくし)

 

 そうやって二人で冗談を言って笑い合う。ここのところ思い詰めてばかりでしたから、明るい話はとても気分が良くなりますわ。

 

 しかしそんな楽しい時間も束の間……御舟さんの懸念は、的中してしまいました。

 奇しくも、人の命を救う人命救助(レスキュー)訓練の授業で。

 

 先日遭遇した白髪の(ヴィラン)と、黒い靄の(ヴィラン)。そして──

 

「なんだよ……こんなに大衆引き連れてわざわざ来たってのに、居ないのか、オールマイト──平和の象徴」

 

 人相のよろしくなさそうな者たちが、大勢その場に現れたのです。──目的地に到着して、すぐのことでした。




読了、ありがとうございます!
ちなみに今回緑谷くんの得票数は麗日さんからの一票のみになっています。
そして主人公の一喝で黙らなかった一名は爆豪くんです。まぁそうなるよね……。


そ、そろそろ……評価が欲しい。枯れ死にそうだ……よ……。




ストックも無いしね!完全に見切り発車のツケなんだよね分かってます!



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