雄英剣風帖   作:剣鋭

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早く体育祭描きたいのだが……過去で轟くんとのこととか色々描くモノありすぎて死ぬぅ!


第八幕 疑念

 集客などはまったく考えていない怪しげなバー。薄暗い一室。

 そこに、真っ黒い靄が突然湧き出す。それは揺らぎながら形を整え…洋服を着込んだ靄が平然と立っていた。

 

『弔が心配かい?』

 

 一室にあるレトロなテレビから声がした。誰が点けたわけでもない、電源は勝手に入っていた。

 

「死柄木は、大丈夫でしょうか」

『問題は無いさ、あれくらいで人は死なない。ただ、落とされた手を君が持ってきてくれなければ拙かったよ。いまはドクターが手術をしているから』

 

 安心すると良い、と震えるように声は笑った。

 

『それでね、ドクターが脳無を気に掛けていたので聞くけれど、黒霧?』

 

 見られているわけでもないはずなのに、黒霧はその声の出処であるテレビ画面から顔を逸らし、やがて言葉を紡ぐ。

 

「それが、オールマイトと会敵する前に死柄木が傷を負われたので……」

『置いて来た、と?』

「死柄木の手か脳無か、どちらかの選択でした。申し訳ありません、しかし──前者を優先するのは当然と、私は判断しました」

 

 ふむ、と黒霧の返答に感心の声を上げる。

 

『正解だよ黒霧。弔の“個性”の関係上、『手指』は必要なものだ。──で、彼は誰にやられたんだい? いや、斬られた(・・・・)んだい?』

「……っ」

『あんなに綺麗に斬り落とされている。雄英の教師に斬撃系の“個性”を持つプロヒーローは居なかったはずだが……』

 

 犯人捜しではない。味方であろう人間が敵対勢力の人間に害されたにも拘わらず、その声に怒りのようなものは無かった。ある種の興味のような声色だ。

 

「……死柄木を斬ったのは、プロヒーローではありませんでした」

『へぇ……もしかして、雄英のカリキュラムを入手する際に遭遇したという生徒かい?』

「はい」

 

 黒霧の肯定に、声は息を呑むと、次いで嗤った。

 

 彼の脳裏に過るのは総髪の剣客。死柄木と自分の連携を初見で破って見せた少年。

 

『躊躇いは無かったのかな…? (ヴィラン)とはいえ、人間の手首を斬り捨てるなんて、随分と思い切りの良い金の卵なんだねぇ』

「凄まじい使い手でした。しかし、脳無には敵わなかったようで、二、三合(・・・・)打ち合った後に拘束されました」

『だのに、そこからどうして弔はその生徒にしてやられたんだい?』

 

 本題はそこだろう? と。脳無に終始拘束されていたなら死柄木が傷を負うことも無かったし、最優先目標(オールマイト)と会敵する前に撤収なんて事態にはならなかったろう。拍子抜けも良いところだ。

 

「邪魔が、入りました。死柄木がそちらに気を回し、脳無から離れた一瞬の隙を突かれ、やられました」

『……要は弔は、その生徒を無力化できたと完全に油断していたんだね。まだまだ(つたな)い』

 

 黙り込む黒霧に、まるで気を利かすように声は笑った。優し気と言えば聞こえは良いが、聞き手によっては不気味さを感じさせる笑い声だった。

 

『因果なものだよ。黒霧、僕も隻腕なのは知っているよね?』

「は…昔、失くしたものであり、いまは義手と……──! まさか?」

『いやいや、着眼点は大したものだけど違うよ。僕が片腕を失ったのは遠い昔──超常黎明期さ』

 

 “個性”が“異能”と呼ばれていた時代。声の主は腕を失ったと言う。ならばその“可能性”は有り得ない。

 人間が“個性”以外で定命の理から外れることはできないのだから。

 

『どんな“個性(ちから)”で弔を斬ったんだい? それほど切れ味の優れた斬撃系“個性”なら、僕も欲しいな』

「おそらく増強系です。しかし、死柄木弔の手を斬り落としたのは“個性”ではなく刃物。厳密に言えば、刀でした」

『と、すると、剣の技術で弔は斬られたんだ』

 

 優し気な声音から一転、無感情にそう言い切った。

 

『僕の片腕を吹っ飛ばしたのも剣術の使い手だった。脳無と数合でも打ち合えたというのも興味深い。──名は? 今度是非とも会ってみたいな、その子に』

「────」

 

 黒霧の返答に、声は一言──なるほど、と。

 

 


 

 

 雄英高校、保健室。

 

「あんた、ギリギリだったよこれ」

 

 リカバリーガール。雄英の屋台骨と呼ばれる彼女は、怒っているとしても内心では驚愕していた。

 

「あと少し衝撃を加えられてたら、頭蓋骨に罅入ってたよ。どうやったらこんな風になるのかね!」

「いやどうって……頭で地面掘ったらこんな風に──」

 

 虚空を地面に見立て、擦り付けるという妙な動きをすると睨まれたため、押し黙る高志朗。

 

「噸痴気なこと言ってんじゃないよ! 頭部強打によるたん瘤、これだけで良く済んだとあたしゃ驚いてるよ!」

 

 ベッドに座る高志朗が肩を竦めると、すかさず怒号が飛んで来た。

 

「それになんだいその壮健ぶりは。あたしの“個性”【癒し】は、対象の自己治癒能力を促進させるものさ。頭蓋骨粉砕寸前の患者が、一回の治癒で完治なんて……数えるほどしか診たことないよ」

 

 脳無による頭部への衝撃と打撃。死柄木の蹴りによる断続的な殴打。その後も“個性”を使った高速移動により、一歩間違えれば大変な大怪我に繋がっていた。

 

「ありがとうございます、リカバリーガール」

「……無理すんじゃないよ、まったく」

 

 机に座り、書類を纏めるリカバリーガール。すると、すっと部屋の引き戸が開かれた。

 

「御舟、怪我はもういいのか」

「はい、大丈夫です。頭で地面掘っただけなんで──」

「いつまでそのネタ引きずるつもりだい!」

 

 ハイ、と体を縮こませて引き退がる。気を利かせたのか、リカバリーガールは怒りながら退室していった。

 

 眉間を指で押さえながら現れたのは、高志朗の担任、相澤だった。その後ろにも、洒落たハットを被った、見覚えのある男性が居た。

 その男性も苦笑いをしながら部屋に入り、戸を閉めた。

 

「御舟くん、やはり君だったか。名前でもしかしてと思い、イレイザーヘッドから聞いて予感は的中してしまった」

「お久しぶりです、刑事さん。俺って、お祓いとかしてもらった方が良いんですか?」

「……」

 

 塚内の沈黙で、高志朗はお巫山戯を止めて目を瞑り、また開く。

 

 塚内警部、イレイザーヘッドである相澤。もう一人はミッドナイトだったが、それを除けばあの時のメンバーが集結した。

 そして塚内は、高志朗の表情を読み取り、やはり感心する。

 

 あの場の生徒で誰もが抱いていたであろう感情が、高志朗からは読み取れなかった。

 

 (ヴィラン)に対しての恐怖心。

 (ヴィラン)を倒した自負心。

 

 イレイザーヘッドから聞かされた、明らかに規格外級の(ヴィラン)を己に釘付けにし、主犯・死柄木弔を斬った影の戦績。ただ、ヒーローとしてはあまり褒められたものではない、部位切断については、斬られた本人の安否確認が済むまで保留となっている。

 塚内は困ったような顔で言った。

 

「頼むよ、御舟くん。警察(こっち)としても、君のような前途ある若者の未来を閉ざしたくはない」

「……死ぬ思いをしても、相手を殺してはならない、致命傷も然り。当然のことです。以後、気を付けます」

 

 素直に敬礼した高志朗に、塚内はほっと安心の息を吐いた。

 

「難しいことだとは思うけどね。だけど、“個性”を“武”として使用するには、相応の責任が付き纏う。それが、超人社会であり、ルールだ」

 

 殺意に対しても仏の顔で接する。それができるからこそ、ヒーローと呼ばれるのだ。

 

 オールマイトと雄英のプロヒーローたちの働きによって、侵入者は二人を除いて全員が逮捕された。

 脳無はイレイザーヘッドの出した捕縛布で簀巻きにされていたところを確保され、他の跳ばされた生徒たちも無事に各災害地帯を切り抜けた。

 

 塚内率いる警察も到着し、全員が保護された。

 

 しかし、これで終わりではない事は、誰もが感じ取っていた。

 特に大人たちは、戦闘力による凶悪さではなく、ヒーロー養成校として最高峰の雄英高等学校に堂々と宣戦を布告した(ヴィラン)の大胆さに着目していた。思いついたとしても、やろうとは誰も思わない事を、堂々と。

 

 高志朗は、塚内に促されるでもなく言葉を紡ぎ始めた。

 

「脳が剥き出しの(ヴィラン)──主犯・死柄木弔の言うには『脳無』と言うらしいのですが。俺は、そいつにまったく歯が立ちませんでした。

 学生の俺が敵わない(ヴィラン)なんていくらでも居るとは思っていましたが、あれ程とは」

 

 立て掛けてある、自分の得物を撫でながら、歯を軋ませた。

 

「成す術も無かった自分が情けない。オールマイトなら、容易に倒せていたんですかね?」

「オールマイトと比べてはいけないよ。彼はトップヒーローだ、君はよくやったよ、御舟くん」

「はい……」

 

 高志朗も、どこかで己の力を過信していた。反省しなくてはならないことが山ほどある。

 

「それで、主犯である死柄木や、黒霧の“個性”。性格なども覚えている限りで良いから教えてくれないか? イレイザーヘッドと生徒たちからの聴取は終えたんだ。あとは御舟くん、君だけだ」

「死柄木は、あの大胆な作戦には不釣り合いな性格でした。とても自分で発案したとは思えない。それと──」

 

 


 

 

「御舟の奴、そんなことしたんか……」

(ヴィラン)の手、斬り落とすって……ギリギリじゃないそれ?」

 

 USJ襲撃事件後の1―A組の教室では、一人保健室に連行された高志朗のことが話題に上がっていた。

 

「相手の(ヴィラン)もマジで焦ってたぜ。出血がどうとかで、必死に自分の仲間を救けようとしてたんだよ」

(ヴィラン)にも仲間意識はあるってことか……あー! なんつーか、複雑な気持ちになるな」

 

 現場に居た上鳴の言葉に、切島が頭を乱暴に搔いて困惑していた。

 ヒーローが仲間や国民に向けるものと同じように、(ヴィラン)・黒霧にも同じような感情が存在していたということ。死柄木を優先した辺り、他の雑兵同然の(ヴィラン)にはそのような感情は持ち合わせていないようだったが。

 

「でも上鳴ちゃん、あそこで御舟ちゃんが動かなければ、私たちどうなってたか分からないわよ。救けようとして、救けられたのよ私たち……ケロっ、驚きはしたけれど」

 

 蛙吹が高志朗を弁明するようにそう言った。あの場に居た蛙吹、上鳴、峰田の三人は、脳無に拘束されていた高志朗を救けようと飛び出した。その時狙いを自分たちに変えて向かってきたのが、無数の手を頭部に張り付けた不気味な(ヴィラン)──死柄木弔だった。

 

「確かにそうだけどよぉ…。俺、(ヴィラン)じゃなくて御舟の気迫にビビっちまって、一瞬だけど体が動かなかったんだよ」

「味方ビビらすのはなぁ……チームアップのとき難しいなそれ」

 

 砂藤が腕を組んでそう言った。

 上鳴が語りの所為で、皆が高志朗のヒーローとしての心構えに疑念が湧き始めている。

 

 打撃、衝撃、拘束など、比較的殺傷力を調整できる近接戦闘系の“個性”はヒーローに適している。ただ高志朗に関しては、真剣で(ヴィラン)に挑むため、他の“個性”よりも手加減が困難である。

 

「あいつ、あの時木刀背負ってたろ? あれ使ってたらそんなことにならずに済んだんじゃねぇか?」

「確かに……」

「──てめぇらアホか」

 

 突然、後ろの席から罵倒の言葉が飛んで来た。この言葉遣いは他でもない、爆豪勝己だ。相変わらず机に足を乗っけて踏ん反り返った体勢だが、どこかが違った……いや、違くなかった、いつものように額に青筋を立たせていた。

 

「あんな棒っきれじゃ通用しねぇと分かってたから、あのチャンバラ野郎は真剣(マジ)の剣術使ってたんじゃねえのか? 実際てめぇら救けようとして救けられてんだろ? バカか! 責める方間違ってんだよ、(ヴィラン)(ヴィラン)救けるの見て称賛するヒーローが居るかボケ!」

「バカとはなんだバカとはぁ爆豪! 相変わらずクソ煮込みっ!」

「うっせアホ面! 手ぇ斬り落としたかなんだか知らねえが、警察(サツ)があの野郎をしょっ引いてねぇ時点で気付けや!」

 

 現在中々のグレーゾーンの高志朗だが、そんなことは知る由もない爆豪である。

 上鳴が爆豪の言葉に反応する。

 

「感謝してるよ、責めてもいねえ……なぁ峰田」

「確かにあん時の御舟は怖かったが、救けられたのは確かだぜ。だから俺も、あいつの無事を喜んだんだ」

「……御舟ちゃんも、あの場はあれが最善だと判断した結果だと思うわ。──もうやめましょ、この話。私たち学生が、ヒーローと(ヴィラン)の境界線を決めつけちゃ駄目だと思う」

 

 この超人社会で未だに課題になっている、正当防衛の線引き。どこまでが正当で、どこからが過剰なのか。

 

 敵の強さ? 罪の重さ?

 

 私的感情で害することが論外であることは法で定められている。親兄弟を殺された、親友を、恋人を……どんな理由があれ、そこに私情が混じれば“個性”使用の正当性が消滅する。飽くまでも、救けるためにヒーローはいるのだから。

 八百万が立ち上がる。

 

 (八百万が居なければ、俺は死んでいたかもしれん)

 

 (俺は刀が無いと戦えん役立たずだ──お前さんには救けられたんだぜ? 誇れよ)

 

「私、御舟さんにプリントをお渡ししてきます」

「ヤオモモ!?」

 

 


 

 

「御舟さん!」

「うん? 八百万、お前さんか」

 

 丁度、御舟さんは保健室を出たところでした。荷物を持っていないところを見ると、教室に戻るつもりなのでしょう。

 いまのあそこに、御舟さんが入ったらどうなるか……火を見るより明らか。決して良い方向には向かないと思います。

 

 その前に訊かなければならないと思っていました。御舟さんは何を思って、死柄木という(ヴィラン)の手を斬ったのか。

 山岳ゾーンに居た私には想像もできないことですが、せめて本人の口から、訊きたい……!

 

 蛙吹さん、上鳴さん、峰田さん。このお三方を救けるための行いなら、私も委員長として大手を振るって皆さんの説得に当たれる……最悪、あの日のことを話してでも……。

 

 ですが、ただ敵を倒すためにそうしたのだとしたら……私は……どうするの?

 

「どうした、そんな息せき切って。ああ、プリントか? 教室に戻ろうと思っていたところだ、そこでも構わんだろう」

「あ、あの……」

 

 拙いですわ! 倒すために剣を振るったなんて明かされたら私……そこまで考えてませんでしたわ、考えるより先に体が動いていましたわ!

 すると、まごつく私を見かねた御舟さんが、何やら閃いたような顔をして口を開きました。

 

「さては、俺が(ヴィラン)の手をぶった斬ったんで、クラスの連中が戦々恐々としているのか?」

 

 ず、図星……。ええい、ままですわ!

 

「御舟さんの行いに、皆さん困惑していらっしゃいます。守るためだったのか、倒すためだったのか…と」

「死柄木はあの三人を狙った。それを阻止するための止むを得ん仕儀となった」

 

 伏し目がちに、私に言いました。

 

「怖がらせたことは悪いと思っているが、後悔はしていない。あの一瞬が最後のチャンスだった」

 

 あれを逃したら、俺は死んでたな。その後は想像に難くない、最悪の結果が待っていた。と、御舟さんは自嘲気味に。

 

「俺の名誉に傷が付く。そんなことでその場が収まるのなら、喜んで引き受けてやる。救けたかったんだ、俺のために飛び出した、あいつらをな」

「あ──」

 

 この時、私たちや御舟さんの、あの場での価値観の違いに気付きました。

 

 各災害地帯に跳ばされた私たちが戦った(ヴィラン)たちと、セントラル広場に居た(ヴィラン)連合の主力の、その圧倒的な凶悪性の違いも。

 私たちに宛がわれたのはただの兵士だったのだと。

 

 御舟さん以外の方の話を聞く限りだと、戦闘に特化した“個性”をお持ちの方々は、容易に切り抜けられたそうです。私の居た山岳ゾーンでは、最後に気を抜いてあのような事態になってしまいましたが。

 

 私たちは、相手の(ヴィラン)を逆に必要以上に傷つけてはならないと意識していました。

 御舟さんの居た戦場は、そんな考えも回らない程、過酷なものだったと……。変な話、彼がもっと、その……入院してしまうような重傷を負っていれば、クラスの雰囲気も、彼を心配するものに変わっていたのかもしれません。

 

 


 

 

 翌日は臨時休校となり、全校生徒が自宅待機となった。

 

 休みが明けると、高志朗に対するクラスの不信感は解消されていた。ただ、すっきりとはいかない。

 何人かは、彼に苦手意識を持つようになっていた。

 

「雄英体育祭が迫っている」

クソ学校っぽいの来たぁぁ!!

 

 しかしそれはそれ、これはこれ。いま少年少女たちは、年に一度の大イベントに向けて頭がいっぱいなのだ。

 

(ヴィラン)に侵入されたばっかなのに大丈夫なんですか!?」

「逆に開催することで雄英の危機管理体制が盤石だと示す……って考えらしい。

 警備は例年の五倍に強化するそうだ」

 

 何より、と相澤が続ける。

 

雄英(ウチ)の体育祭は、最大のチャンスであり日本のビッグイベントの一つ。かつてはオリンピックがスポーツの祭典と呼ばれ全国が熱狂した。いまは規模も人口も縮小し、形骸化したが……それに代わるのが、雄英体育祭だ──準備は怠るなよ? ヒーローを志すならな」

 

 オリンピックは世界中からも選手が集まって鎬を削ったが、雄英体育祭は国内どころか学校内でおこなわれる大会。

 校内戦と言ってしまえばむしろ規模が小さくなったように感じるが、雄英高校は日本国内は勿論、世界にも認められるヒーロー養成校。

 

 その中で優秀な成績を収めることができれば、トップヒーローの目にも留まるため、将来相棒(サイドキック)加入や事務所立ち上げの際に有利な、高い話題性を獲得できる行事である。

 

 昼休み。雄英体育祭の話で盛り上がっている教室から一人出た高志朗は、飯田に引き止められる。

 

「御舟くん、お昼一緒に行かないか?」

「珍しいな、お前さんからとは」

 

 飯田の後ろには緑谷と麗日が居り、真剣な面持ちで高志朗を見ていた。

 

 廊下を歩きながら、飯田が手をカクカクと、ロボットのように高志朗に差し出した。

 

「八百万くんから詳しい話を聞いて、居ても立っても居られなかった。御舟くんは、守るために剣を振るったのだと。セントラル広場は他よりも過酷な状況にあったのだと解った」

「話したのか。あいつめ……」

 

 噂半分で聞いていた自分が恥ずかしい、と飯田は腕を組んだ。

 

「お前さんのところも、13号先生が行動不能にされて修羅場だったそうじゃないか。応援を呼びに行くのも、立派なヒーローの為すべきことだ」

「うむ…いや、一人では為し得なかった。俺がもっと速く走れていれば、あの(ヴィラン)ももっと簡単に振り切れていただろう」

 

 USJ出入口の戦いは、(ヴィラン)・黒霧によって13号が背中を損傷、行動不能にされた。その後満身創痍の13号の必死の指示に従い、飯田が学校への伝令兵として急行することとなった。

 麗日、芦戸、瀬呂、砂藤、障子の影の尽力もあり、伝令阻止を目的とした(ヴィラン)・黒霧を逆に阻止。見事に飯田が役目を全うした。

 

「……俺も完敗だった。もっと強くならなければな」

「ああ!」

「二週間後に体育祭もあるが、この経験が活きれば、襲われた甲斐もあるというものだ」

「で、できることなら二度と襲われたくはないんやけどねぇ……」

 

 遠慮がちに麗日がそう言った。

 

「そういえば、麗日さんはさ、どうして雄英に……えと、ヒーローになろうと思ったの?」

「デクくん!? 急に何聞くん!?」

「あ、いや、雄英体育祭の話があってから、麗日さん、凄く張り切ってるからさ」

 

 確かに、担任の相澤から雄英体育祭の話を聞かされてから、目に見えて気炎を上げた張り切りぶりを見せている麗日。

 

「お金……かなぁ?」

「お金!?」

「究極的に言えば」

 

 麗日は恥ずかしそうに手で自分の顔を覆っていた。

 彼女の“個性”は【無重力(ゼログラビティ)】。使いようによってはヒーローでなくとも引く手数多だろう。

 

「ウチ、建設会社やってるんだけど、全っ然仕事なくってスカンピンなの……

 重い物運んだり、私の“個性”なら手伝えることたくさんあるって、父にも言ったけど、やんわり断られちゃってさ」

「それは、歯痒いことだ……」

 

 自分にできることがあるにも関わらず、頼りにされないというのは中々に堪えるのだろう。

 

「だから、私はヒーローになってお金稼いで、父ちゃん母ちゃんに楽させたげるんだ」

 

 決意の籠った顔だ。彼女のヒーロー像は、成ることだけでなく、その先も見据えたものであるということ。

 現実を見据えた夢ほど、はっきりとした道筋を自分で作れる。

 

 高志朗もそうだ、名声と富を求め、ヒーローになろうとしている。見ようによっては不純と謗られることもあろう。

 

「良い話を聞かせて貰った、麗日」

「……御舟くん?」

 

 いやな、と顎に手を添えた高志朗が、口元をにやけさせた。

 

「ヒーローになりたいからヒーローになる人間も居れば、何かがしたいからヒーローになる人間も居る。千差万別だ。

 麗日のように究極的には金銭に行き着くとしても、その過程が純粋だ。俺は好きだな、同じような目的を持つ身としては」

「同じ? 御舟くんもお金欲しいん?」

 

 首を傾げる麗日に、高志朗は顎下から手を動かす。

 

「喉から手が出るほどな」

「そんなに!? 意外や!」

「むむ、それは確かに俺も意外だったぞ……」

 

 高志朗の守銭奴的発言に、坊ちゃん飯田も驚きを隠せないようだった。

 

 なんでもそうだが、剣術道場を運営していくには、指導者・金銭・広告のための話題性などが必要不可欠なのである。

 

「麗日がヒーローになれば、金だけではなく、その建設会社にお前さんがいるという広告塔にもなる。いい仕事だぜ?」

 

 ニッとサムズアップして見せる高志朗に、指をズビシィっと麗日がハイテンションで差してきた。

 

「それや! うぉぉぉぉっ、また燃えてきたぁぁぁ!!」

「その麗らかじゃないのは男性ファン減るかも分からんがな」

「いや、ギャップでいけるかも、御舟くん!」

「緑谷の謎の麗日推しはなんなんだ……まぁいいがな」

 

 突然、廊下の角から残像が現れたと思うと、それはオールマイトだった。

 

おお! 緑谷少年が、いた!

 

 出てきたオールマイトは、小さな包みを小出しにして言った。

 

「ごはん……一緒に食べよ?」

「乙女や!」

 

 


 

 

 放課後。

 

 USJ襲撃事件後、色々な意味で話題性に富む1―A組の教室は、大勢の雄英生で見事にごった返していた。

 そしてこれまた見事に、出入口を人海という壁で封鎖され、教室からは一人も脱出できない状態に陥っていた。まさに肉壁である。

 

「お前さんなら足元すり抜けられるのではないか? 行ってみてくれ、GOだ峰田」

「御舟、いまオイラを遠回しにチビだと言ったな?」

「そんな馬鹿な」

「正直に言えこの高身長野郎がぁぁぁぁぁっ!」

 

 あっけらかんと葡萄頭を弄った高志朗に、持ち主が胸倉に飛び付く。よしよし、と飛び付いた彼の頭を撫でたが、どうやら神経の方を逆撫でしてしまっていた。

 

「敵情視察だろ」

 

 そう鋭く言い放ち、人海の前に正面から向き合ったのは爆豪だった。

 

(ヴィラン)の襲撃を耐え抜いた連中だもんなぁ。戦いの前に見ときてぇんだろ。意味ねえから帰れ、モブ共」

「知らない人のこととりあえずモブって言うのやめなよ!!」

「────噂のA組、どんなものかと見に来たが、ずいぶん偉そうだな。ヒーロー科に在籍する奴は皆こんななのかい?」

 

 爆豪のモブ発言に、苦言を呈する者現る。彼の口の悪さは、クラス内ではもはや定例のものとなっているが、他クラスにまでは浸透していなかったため、反論をしてくる人間が居たのは皆の想定外だった。

 当の爆豪も、あ゛?などとドスの利いた声音で喧嘩を売るように──いや、喧嘩を売っていた。

 

「こういうの見ちゃうとちょっと幻滅するなぁ」

 

 逆立った紫の髪。爆豪や切島の(もの)程尖ってはいないが、ゆらりとしている分、その姿は大きく見えた。

 

「普通科とか、他の科って、ヒーロー科落ちたから入ったって奴、結構居るんだよ──知ってた?

 

 体育祭のリザルトによっちゃ、ヒーロー科編入も検討してくれるんだって。その逆もまた然りらしいよ……」

 

 つまり、ヒーロー科から落ちる事も有り得るということか。

 

「敵情視察? 少なくとも普通科(おれ)は────調子乗ってっと足元ゴッソリ掬っちゃうぞっつー、宣戦布告しにきたつもり」

 

 まさに大胆不敵。さすがの曲者揃い(爆豪一人)のA組も、舌を巻かざるを得なかった。すると、その曲者の後頭部に消しゴムがコツンと当たる。

 

「あぁっ!? 誰だ投げたの!」

「痛くないだろう、許せ爆豪」

「~~っチャンバラクソカス野郎ぉぉ……! 最近大人しいと思ったらてめぇ!」

「俺はいつも大人しいだろう?」

 

 まぁ黙ってくれ、と高志朗が爆豪より前に出る。

 

「見ての通り、こいつはこんなだ。どうせお前さんの言葉にも、上に上がってくれば関係ないとでも思っているんだろう。頭は良いんだが、言葉足らずというかな」

「……あんたは?」

「御舟という。一応、このクラスの副委員長を務めさせてもらっている」

 

 総髪を揺らす高志朗に、紫髪の少年が目を細めた。

 

「あんたが、(ヴィラン)の手を斬り落としたっつうアブナイ奴か?」

「……否定はせん」

「はっ…」

「いまはその話はどうでもいい」

 

 涼しい顔で高志朗は更に前に一歩出る。威圧感は無い。

 

「爆豪の言葉に気に障ったのなら謝る。すまん」

「あぁ!? てめ頼んでもいねぇ頭をぽんぽん下げてんじゃねぇコラ! 俺は謝らねえぞゴラ──」

「はいはい、爆豪はこっち来ような、いまA組(ウチ)の若頭が場を収めようとしてるから」

 

 上鳴が爆豪を羽交い絞めにして引き退がらせる。

 頭を下げ、謝られた紫髪の少年は毒気を抜かれたように首元を搔いた。

 

「だがよ、お前さん──」

「っ……なんだよ」

 

 頭をゆっくりと上げる高志朗に、紫髪の少年は身構える。

 

「ほとんど無傷で帰って来れたとはいえ、(ヴィラン)たちの本物の殺意を向けられた人間に対して掛ける言葉じゃあないよな」

「っ!」

 

 上の世界を肌で感じた者。恐怖を植え付けられた者。中にはものともせずに跳ね返した強者もいるだろうが、それだけではないことを知って欲しい、と。

 

「将来トップヒーローになろうとしている奴が何を言う、と思うだろうが──言葉を選べ。宣戦布告もいいが、自分もヒーローであることを忘れるなよ?」

「……!」

 

 空気が張り詰める。波打っていた人の海も、いつの間にか静寂に支配されていた。

 紫髪の少年から、溜息が吐かれる。

 

「……俺も言い過ぎたよ。──悪かった。

 あんまりにも、その……」

 

 目を伏せて首を掻く彼に、高志朗はカラっと笑った。

 

「まぁやっぱり爆豪が悪いんだよな。それは本当にすまなかった」

「……! ────頭冷やしてくる」

「爆豪も一緒に行けば?」

「行くかカス!」

 

 嵐は去った。クラスの面々がほっとすると、高志朗が更に他の野次馬たちにシッシッと手を振った。

 

「ほら、俺らが帰れんから散った散った。他人(ひと)のことより自分のこと気にしたらどうだ、二週間だぞ? 二週間? うん──結構、あるな?」

「いやぁ意外とあっちゅー間よぉ、御舟」

 

 高志朗の背を叩いた上鳴。ようやく出入口も通れるようになったところで彼も帰り支度を始める。

 

「二週間ならやれることは山ほどあるだろう。九州あたり遠征行ったりな」

「いや遠いわ! 学校あるの忘れんな御舟!」

 

 あっ……という顔を上鳴に向ける。

 

「何その『あ、そうだった』みたいな顔本気でしてんの。中学でどういう学校生活送って来たんだお前!?」

「道場破り」

「アウトロー! いやレトロかこの場合」

 

 嘘は言っていない。

 

「御舟ー、ちょっと、こっち」

 

 唐突に名前を呼ばれた高志朗が教室の入り口に視線を移した。

 

 サイドテールが特徴の少女、拳藤と、手招きをするのは黒緑色のウェーブ、悪戯っぽいギザ歯が特徴的な取蔭。その後ろに、先ほどの喧騒に紛れていたであろう同じくB組の少年が居た。

 

「荷物纏めるから少し待ってくれ。しかし何の用だ……?」

「出た……! 御舟のよく分からんモテオーラ。前世でどんな徳積みゃあんな美少女とお近づきになれるんだちくしょーめ!」

 

 くぅっ、と拳を机に打ち付ける上鳴に、葡萄頭が目の色を変えた。

 

「は? あいついつの間にB組女子に呼び出されるような仲になってんの? 身長? やっぱり身長なのか?」

「凄い……! 交流が広いんだ御舟くんは。社会に出ても輪を広げられるヒーローは、同じヒーローとも親密になれるし、会話も多い分チームアップのときも連携を取りやすくなる。たくさんの事務所からチームアップの申し出があればその分仕事も増えて知名度も上がるし! ブツブツブツブツ……」

「デクぅ! ワンブレスでナード言葉垂れ流してんじゃねえ! 殺すぞ!」

 

 雄英体育祭まで、二週間。




身長は179cm。痩せ型。
背の順なら飯田と同じくらいです。

髪型は、前髪を若干残した総髪。でも後ろで縛った髪は垂れていません。サムライっ


ちなみに主人公の名前の由来は、三船敏郎。ミフネトシロウ、ミフネコウシロウ。なんか似てません?似てないか。

席順が、奇しくもヤオモモの前の席だったので、ちょっぴり嬉しかったりする。エロ葡萄から女神を護るんや……

主人公はたまに前の席の葡萄頭をちぎって遊んだりしてます。


次話で障害物競争くらいまでは書きたい。


歩みが遅くて、本当にすみません。感想、待ってます。
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