雄英剣風帖   作:剣鋭

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雄英体育祭編
第九幕 男同士の合縁奇縁


「お前が、御舟か」

「ああ、そうだ」

 

 ゴゴゴゴ…と、地鳴りのような擬音が聞こえてきそうな雰囲気で高志朗に対面してきたのは、ヒーロー科1―B組に在籍する少年だった。

 

 顔の輪郭を針金のような銀髪で波立たせている。

 広く開いた目元に反した点のような黒い瞳は、血の気の多そうな印象を対面する者に感じさせた。

 

「おっ…」

「お?」

 

 さっきの今だ。

 

 爆豪の発言によってA組を快く思わない輩が因縁を付けに来たのかもしれない。しかし、あの拳藤がそのような喧嘩の火種になるような人間を連れてくるとも思えなかった。

 

「お前っ……い、良い奴だなぁぁぁぁっ!」

「…なんだと?」

 

 少年がほろりと落涙したかと思うと、次の瞬間にはダバー、と洪水のような男泣きに変貌した。

 冷静にではあるが、身構えていた高志朗は拍子抜けとばかりにつんのめる。

 

「A組があの爆豪って奴みてぇなのばっかりだったらどうしようかと思ったけどよぉ~。お前、あれだろ?

 

 自分のクラスを守る為に一人頭ァ下げたんだよなぁ!? お前のおかげでA組を誤解せずに済んだぜおれぁ…!」

 

 あの金髪爆発頭はイケ好かねえがよぉ、と言いながらも、唖然とする高志朗を見ると慌てて肩から手を離す。

 

「わりぃ、名乗りがまだだったな!! 俺はB組の鉄哲徹鐵(てつてつてつてつ)!! こっちの拳藤と取蔭とは同じクラスだ!!」

「鉄哲相変わらずうるさいね、もうちょっとボリューム落とせないの?」

「わりぃ! なんか言ったか取蔭!!」

「はぁ……もういいわよ」

 

 心底どうでも良さそうに手を振って会話を切る取蔭。

 

 鉄哲という人間の、まるで衝動的な感激ぶりに戸惑う高志朗に、苦笑いしながらも拳藤が口を開いた。

 

「情に厚い奴なんだ、こいつ。で、お前を呼んだのはな……」

「?」

 

 咳払い後、一転して彼女の表情が真剣そのものになった。

 

「USJ、大丈夫だったか? えっと…一番やばい(ヴィラン)と一人で戦ったって話だけど」

 

 紫髪の普通科生徒も知っていたのだ、高志朗の行為はUSJ襲撃事件の報道に便乗する形で知れ渡っているのだろう。

 それでもマスコミや世間が騒がないのは、(ひとえ)に警察、そして学校側が尽力してくれたものと高志朗は捉える。

 

「問題は無い…ことはない、俺は負けた。退けはしたが……まったくの辛勝よ」

 

 お前が負けたのか、と深刻そうな拳藤に高志朗は笑って見せた。

 

「いま生きてここに居る。ならば良しだ」

「なら良いけど、さ…あまり心配かけさせんなよ。いろんな意味で」

 

 すると、拳藤はササっと周囲を見回し、手招きして耳打ちした。

 

(ヴィラン)の、その…斬ったって話、本当なのか?」

「事実だ」

「…っ」

 

 真顔で高志朗が言い放つと、息を呑んだ拳藤が言葉を継いだ。

 

「……仕方なかったのか?」

「少なくとも、俺はそう思っている」

 

 淡々とした返答に、眉を難しそうに下げた。

 彼女は、高志朗自身がこの状況に耐えられずにいたら、力になりたいと思っていた。

 

 知り合って日は浅く、この男の何を知るでもない。けれど、実技入試の時やいままでの会話からして好きでそのようなことをしたとは到底思えなかったからだ。

 だからこいつが、そういう弱さを見せたら、守ってやろうと思っていた。

 

 しかし、それは目の前の本人の雰囲気からして杞憂だったことを、拳藤一佳は確かに覚った。

 

「そっか…分かった」

 

 ドスっと、彼女が拳で高志朗の胸板を叩くと、彼は薄く微笑んだ。

 

「お前は入試の時から行き当たりばったりな奴だったけどさ、意味もなくそういうことしないだろ?」

「ありがとうな、拳藤。だが俺は大丈夫だ」

「なら良いんだけどな、二週間後に大イベントも控えてる。そんなことでチャンスをふいにするなんて馬鹿げてるだろ?」

 

 雄英体育祭。やはりと言うべきか、彼女も、そしておそらく向こうにいる鉄哲と取蔭の二人も意気込みが他の科とは全く違うらしい。

 

 鉄哲との話を終えた取蔭が、高志朗の後ろから顔を出す。

 

「話し終わった? んじゃーなんだけどさ、御舟って放課後(いま)空いてたりする?」

「帰るが」

「即答かよ! いやいやそこはもう空いてるって言えよ! なっ、一佳?」

 

 ウケルー、と笑う取蔭が拳藤に水を向けた。

 

「これから私らB組さ、グラウンド借りて鍛錬するんだ」

「ほお」

「お前も一緒にやらないか?」

 

 難しい誘いであった。高志朗としては確かに修練は欠かせないものであると分かっているが、同時に煩わしいものでもあった。

 自クラスで先ほど、二週間ならできることはいくらでもあると言ったが、それは実戦形式の対人戦限定でのことであり、一人でするには積み重ねが物を言う。

 

 二週間ではどうにもならないことが多い。しかし、やった者とやらない者とではまず当日の意気込みが違ってくる。

 

A組(ウチ)とは違い、B組は纏まり方が違うな…)

 

 A組は各人別々で修練内容は決めているようだったため、高志朗も家で素振りなどで終わらせようと思っていた。

 

「あれあれぇ? 拳藤、そんなところで何してるんだい?」

「げっ、物間…」

「あれあれあれぇ? そこに居るのはA組の御舟くんじゃあないか? 何々? もしかして拳藤、彼を鍛錬に誘おうとしてたのかい?」

 

 あれあれあれあれうるさいのは金髪、眠たげな目元が特徴の少年だった。彼もB組の一員と見て良いだろう。

 拳藤が呆れるように手と首を振った。

 

「別に、A組の人間と鍛錬してもおかしくないだろう? それに私はお前の計画には乗ってない、勘違いすんなよ物間」

「良いのかい取蔭ぇ? 拳藤が敵に塩を送ろうとしているよ? 鍛錬と称してそこのA組のスパイに僕らB組の“個性”を余すことなく喋る気なんだ。これはもう委員長の座を僕と交代した方がいいんじゃないかなぁぁぁっ!」

「また始まった。物間のA組コンプレックス」

 

 取蔭までもが肩を竦めて、高志朗に顔を向ける。

 

(ヴィラン)と戦って実戦経験積んだってんで、対抗意識燃やしてんのよ。同じ学年でヒーロー科なのに、バカみたいでしょ?」

「ふむ、そうか…」

「ねぇねぇ御舟くん! 正直に言いなよ、拳藤や取蔭と仲良くしてんのも、僕らを出し抜く機会を伺うためなんだよねぇ!?」

 

 物間寧人(ものまねいと)。1-B組に在籍する生徒で、取蔭の言葉通りUSJ襲撃事件が起こってから彼のA組への対抗心は留まるところを知らないらしい。

 

「別クラスってことで前からこんなだったけど、事件後は更に酷くなった感じ。なんかごめん、御舟──こっちから誘っておいてなんだけど、断ってくれていいよ?」

 

 申し訳なさそうに手を合わせる取蔭。喋り口調などは軽薄さを感じさせるが、彼女は元来、細やかな気配りのできる女性なのだ。

 

「それにさぁ、御舟くんって、USJの(ヴィラン)の手を斬り落とした張本人なんだよね? あぁ怖いなぁ、僕らもドサクサで彼の斬撃に巻き込まれたら大変だぁ!」

「ちょっ物間、お前それはシャレになってないっての!」

「おふんっ」

 

 拳藤の鮮やかな手刀で、壊れたラジオのように喋り続ける彼を沈める。

 

「拳……藤ぉぉ、僕は暴力には屈さないぞ……御舟くん、君がどんな気持ちで(ヴィラン)と戦ったかは知らないけど──」

「知らないなら黙れ、バカ物間」

「ごはっ!」

 

 今度こそ物間は意識を失った。

 

「いつもああなのか? 彼は」

「そっ。バカでしょ? あいつもそうだけど、あいつに乗せられる他の男子も大概よ」

「クラスメイトをほぼ取り込んでいるのか? 謎のカリスマ性を持っているようだな」

「ただ単純なだけよ」

 

 物間は拳藤主導のもと鉄哲に引きずられていき、そのままB組の教室に消えて行く。

 『ごめん御舟、また今度』と申し訳なさそうにしながらも拳藤も教室に入って行った。

 

「そういえば、委員長と言っていたな。拳藤がB組の委員長なのか、さすがだな」

 

 主席に加えて更に委員長の椅子にも座ったことに高志朗は感心した。すると取蔭は、ギザ歯を覗かせてしたり顔で言った。

 

「でしょ? 最初は物間の奴が声だけデカくてさ。あいつって、対抗心燃やすのは良いんだけど、誰かの否定から入るから好きになれないんだよねぇ。

 そしたら一佳がまともなこと言って物間論破して、いまに至るわけ」

「まぁ物間、だったか? そういう輩はどこにでも居そうだがな。俺は別に気にせんから鍛錬を一緒にと思ったんだが、そういう空気でもなさそうだ」

 

 拳藤は気を利かせて物間を粛清したが、高志朗にとっては気にする程のものでは無かった。

 

 何があろうと己が道を進むのみ。周囲からの支持はヒーローとして大切だが、そこだけに頓着する必要は無い。

 ヒーローは、周囲のご機嫌伺いのために仕事をしているわけではないのだから。

 

「…へぇ」

 

 そこに興味深そうな声音を上げる取蔭に、高志朗は疑問符を浮かべる。

 

「ねぇ御舟、あたしと連絡先交換しない? もちろんあんたが良かったらだけど」

「構わんが、突然どうした」

 

 鼻で溜息を吐くと、彼女は自分の髪を弄りながら口を開く。

 

「物間って、勢いで生きてるバカっぽそうに見えるけどさ、発言は妙に核心突いてくるわけ。でもあんたさ、怒りもしなかったし、動揺も無かった、おまけに反論もしないって……もしかして、諦めの境地だったりする?」

 

 探って来るような彼女の言葉に、高志朗は首を横に振り否定の意を示した。

 

 物間の発言に怒りも、動揺も、反論もしなかったが、決して諦観でも達観でもない。そこにあるのはブレない己の心であると信じているから。

 

「俺は自分のしたことを間違いだとは思っていないし、後悔もしていない。ただまぁ、同じA組のことは省みることにしている」

 

 ズイっと距離を詰めてくる取蔭と視線を交差させる。

 

 これは高志朗の予想だが、取蔭切奈は人を見る目を養っているように思える。

 まず感じたのは視線、拳藤に連れられた彼女と食堂で話した時は観察されている感覚を覚えた。

 

 彼女はその爬虫類のような縦長の瞳で笑うと、何かの紙切れを高志朗の胸ポケットにねじ込んだ。

 

「決まり。はい私の番号とアド、返信いつでもいいから、じゃなー」

「ちょ、なんだそりゃおい──」

 

 さっさとB組(じぶん)の教室に戻っていく取蔭を見て高志朗は頭を搔いた。そして渡された紙を見て、また仕舞う。

 

「今夜にでも返信しとくか」

 

 


 

 

『君が来たってことを、世の中に知らしめて欲しい』

 

 緑谷出久は、己が師であり憧れの人物でもあるオールマイトに言われたことを思い返していた。

 

『僕が、来た?』

『体育祭……全国が注目しているビッグイベント! こうして話しているのは他でもない、次世代のオールマイト……象徴の卵が君だ。

 

 すべての科が集まり、学年ごとにおこなわれる競技で、そして勝ち抜いた先にある本選で……君には、全力で自己アピールしてもらいたい』

 

 雄英体育祭のシステムは、年毎に違う各種競技を予選で競わせ、勝ち抜いた一握りの生徒たちだけが本選に出場できる総当たり戦。

 

『緑谷少年、君は私から継いだ“個性(ちから)”──【ワン・フォー・オール】を驚くべき速度でものにしていっているよな』

『そ、それはあなたのおかげで頑張れたんです。それにまだ8%(・・)しか……そんな僕が、果たしてこの大イベントで通用するかどうか。いえ、決して欲張りを言っているわけじゃありません、いまでも十分に動けるし、授かる前よりも格段に自信も付きました。けど100%じゃないこのチカラで次世代のオールマイトを名乗っていいのかどうか……ブツブツ』

 

 緑谷出久という人間は、どうしても否定から入ってしまう。常に最悪を想定して動け、用心深く、堅実な人間と言えば聞こえは良いが。その歩みは亀のごとくだ。

 

『別に私の後継として大々的に名乗りを上げろと言っているわけじゃないよHAHAHA! そうだな、考え込みやすい君には分かりやすく伝えた方が手っ取り早いか……

 

 この一大イベントで、優秀な成績を収めること。要求するような形で済まないけれど、この方が君にも分かるんじゃないか?』

『────!』

 

 緑谷は目を見開いた。オールマイトに拘り過ぎていた彼は、将来を見据えることができていなかった。確かにヒーローに成りたいのは嘘偽りない本心だ。『救けたい』それが己の原動力であるのだから。

 

『常にトップを狙う者とそうでない者、その僅かな気持ちの差は、社会に出て大きく響く。

 君の土壇場での行動力、その源泉には「富」や「名声」に頓着しない「救ける」心にあることは十分分かっている。その上で敢えて君にこう発破をかけよう──上位に食い込めるぞ、いまの緑谷少年ならば!』

『僕が?』

『ああ!』

『画面の向こうでしかほとんど見たことのない雄英体育祭に、出場するだけでも僕の中では空前絶後なことなのに。更に……向こうへ?』

 

 オールマイトは、先ほどまでの細身──曰くトゥルーフォームと呼ぶらしいのだが、そこから一瞬で筋骨隆々な姿に変身し、そしてサムズアップした。

 

『そうだ、Plus Ultra(更に向こうへ)さ』

『……分かりました! 了解、オールマイト!』

 

 自信なさげな彼はもう居ない。そこにいるのはかつて海浜公園で偉業を成した緑谷出久の姿があった。

 

『ちなみに緑谷少年は、あの入試からどうやってこんなにも早く【ワン・フォー・オール】を扱えるようになったんだい? 私のおかげって君言ったけど、たぶん違うよね?』

 

 その言葉で、彼は総髪のクラスメイトを思い浮かべたのだった。

 

 


 

 

 雄英体育祭、ついに当日。

 

 一般観客はもちろん、入場検査を受けるマスメディア、警備の強化により全国各地より呼び寄せられたプロヒーローたちによって人口密度が増加する。

 

「どうやらよ、今回の1年生ステージには噂の中学──水戸練*1の卒業生が出るらしいぞ」

「ちっ、御舟か。あの中坊にゃ合同訓練のときに恥かかされたぜ。特別に訓練に入れさせてやってるってのに何が“個性”無しの稽古だから問題ない、だ。邪魔なんだよ剣バカが」

「仕方ないだろ、こっちは学校から依頼料貰ってたんだ。あんなの一人面倒見るだけで、儲けもんだったろ」

 

 


 

 

 所変わって、雄英高校1―A組控室。

 

「みなさん、もうじき入場ですわよ。準備はよろしいですか?」

「よろしくないよヤオモモ! 緊張で死にそう!」

 

 委員長である八百万の主導で、皆各々の思い、目的を胸に、大舞台へ臨むのだ。

 高志朗は頬杖を突いたまま言った。

 

「死んだつもりで臨めばなんとかなるものだ。逃げ場は無いぞ上鳴」

「俺死ぬの!? 死ぬのは嫌だ!」

「緑谷」

 

 上鳴と同様、絶賛緊張中の彼に意外な人物から声がかかった。

 

 そこには緊張などする方がおかしいと言うが如く、轟焦凍(とどろきしょうと)が堂々と緑谷を真っ直ぐ見つめて言った。

 

「客観的に見ても、実力は俺の方が上だと思う。

 

 けどお前、オールマイトに目ぇかけられてるよな────お前には勝つぞ」

「クラス最強が宣戦布告!?」

「急に喧嘩腰でどうした!? 直前にやめろって…」

 

 切島の仲介を腕で遮る轟。

 

「仲良しごっこじゃねえんだ、なんだって良いだろ」

 

 思い返されるのはヒーロー基礎学、戦闘訓練。

 緑谷、轟二人の戦績の違いは一目瞭然、確かにいまの彼が轟焦凍に届くとは、誰も思ってはいなかった。()以外は。

 緑谷は拳を握り、轟を見つめ返す。

 

「──轟くんが何を思って僕に勝つって言ってるのか……は分かんないけど……僕も勝ちに行くつもりだ」

 

 高志朗が、爆豪の肩をちょいちょいと叩く。

 

「俺も勝つぞ、爆豪。ほら、蚊帳の外だからって落ち込むな」

「うっせぇてめぇチャンバラぁぁ…! 俺が何時そんなツラしたか言ってみろやぁぁぁぁ……!」

 

 まるで猛獣が唸るような声で、図星な己を隠そうと高志朗を威嚇する。

 

「轟がお前さんではなく緑谷に宣戦布告したことが納得いかんツラしてるぞ。鏡見ろ、すごいぞほれ」

「その鏡はどっから出したこの野郎!」

「私ですわ!」

「ポニテこのヤロっ……」

 

 八百万に頼んで作ってもらった鏡を爆豪に向けて映す高志朗。

 向けられた鏡をテーブル上で倒すように乱暴に閉じると、目の前の素っ頓狂を睨みつける。

 

「──ぜってぇにぶっ殺してやるぞ御舟。だからてめえもマジに来いや。その緩んでんだか締まってんだか分かんねえネジ山ぶっ叩いてやるよ……!」

「──ああ、来てみろ爆豪。楽しもう」

「今度は爆豪が御舟に変なところで宣戦布告してる!? なに、それブームなのいま!?」

 

 そんな上鳴の困惑を余所に、雄英体育祭は開催されたのだった。

 

 


 

 

『選手宣誓!! 選手代表──1―B拳藤一佳!』

「はい!」

 

 1年生ステージの主審は“18禁ヒーロー”ミッドナイト。そして選手宣誓に選ばれたのはヒーロー科の、特に実技試験でポイント総合トップに着いた彼女だった。

 

『我々、私たち選手一同は、日頃の練習の成果を十分に発揮し、先生、保護者の方々に感謝の気持ちを忘れず、正々堂々戦い抜くことを誓います!

 雄英高等学校ヒーロー科、1ーB組、拳藤一佳!』

「いいよ拳藤、もっと言ってしまってくれよぉぉ!」

「ちょ、物間」

 

 しかし、そこに横槍を入れる者現る。

 自分がやっていたならばこんな『普通』では終わらせない。この会場に居る人間全員に宣戦布告をぶち上げてやっていたと言わんばかりに金髪はあらぬ場面で暴発する。

 

「つまんねえ宣誓だな。やっぱモブか」

「ちょっ──かっちゃんー!?」

「女の子にもとりあえずモブって言うのやめなよ!」

 

 無理が通れば道理引っ込む。神聖な選手宣誓の場でこんなことができるのは、心臓に毛が生えた人間か、自分をとことんまでに追い込むストイックな者かどちらかだ……

 

『……』

 

 宣誓をぶち壊された──のに、拳藤一佳は不敵に笑っていた。高志朗が怪訝なものに表情を変える。

 

「──拳藤?」

『──爆豪っ!』

「あ?」

 

 息を吸い込み、胸を膨らませる。

 

『ここに居る全員が、1―A組に挑んでやる! 多勢に無勢だなんて思うなよ──敵を作ったのは、お前自身なんだからな! 以上!』

「…面白ぇ、かかって来いよ端役どもがぁっ!」

「端役だとてめぇ!」「調子乗んじゃねえ!」「ヘドロヤローコノヤロー!」「ドロドロになりやがれ!」「拳藤って子、可愛くね?」

 

 沸き立つすべての選手に捧げる、年に一度の大舞台の幕は王道とは行かずとも、会場に熱気という大炎を巻き起こす。

 

『いーい宣戦布告だったわね! A組は物量に押し潰されないように気を付けなさい!

 

 

 そして、早速第一種目の発表するわよ! いわゆる予選! 毎年ここで多くの者が涙を飲むわ!』

 

 浮かび上がった巨大な掲示板が、スロットのように回転し──そして止まる。

 

 予選第一種目──障害物競走

 

『計11クラスでの総当たりレースよ。コースはこのスタジアムの外周約4km!

 

 我が校は自由さが売り文句! コースさえ守れば何をしたって構わないわ! さぁ、位置に着きまくりなさい!』

 

 全員が位置に着く。

 しかしだ、位置とは言うものの、先ほど入場時に出てきた一角を使っている。

 

 そこに11クラスからなる1学年全員が集結すればどうなるかは、火を見るよりも明らかだった。

 

「狭いな」

 

 ゆえに、後方の拓けた位置に着く者も当然居た。スタートダッシュが完全に遅れるため、ごく少数ではあるが。

 

「御舟、前行かないの?」

 

 高志朗はそのごく少数を見回して目を細める。

 ──B組がやけに多いことに違和感を覚えつつも、話し掛けてきた本人たちの一人にストレッチをしながら答える。

 

「取蔭か。ここが一番、大勢(たいせい)がよく見えるんだ──お前さんらは、何か謀を巡らせているようだな」

「……悪いね」

(いくさ)に謀略は付き物だ。好きにしろ」

 

『スタート!』

 

俺の“個性(たましい)”よ。剣を執らずに使う己を赦し給え

 

 この狭い空間で全員が無事にスタート出来る保障は残念ながら無い。そのため、やはり最初の篩はこの──

 

「スタート直後というわけだ。間引き方が残酷だぞ、雄英」

 

 直後、高志朗は前方から感じる冷気に目を向ける。

 地に足を付けて移動する人間では逃れられない、地を這う氷だ。

 

 まるで高さの無い津波のような氷。凍結速度は尋常ではなく、近くの者たちの足を地面ごと強制的に凍らせ、縛り付ける。

 

 轟焦凍。

 

 閉所に加え、この人為的妨害ですでに何人もの選手たちが、ミッドナイトの言葉通り──涙を飲んだ。

 

「容赦が無いな、轟は」

 

 しかし、その轟の地面凍結を予め看破したのはA組の者たちだ。

 

 戦闘訓練で苦杯を舐めさせられた者。

 それを見て警戒していた者。

 

 それぞれがそれぞれの方法でこの範囲妨害の対策を講じ、突破していった。

 

 そしてそれは、後方スタートの高志朗も同じことだった。

 こちらは異常な速度で疾走し、前方で凍らされて動けない大勢の選手たちを弾き飛ばしていた。

 

 暴走列車のように、触れた者すべてを轢殺するような馬力と速度をもって──

 

『うわぁぁぁぁっ! 実況して行こうと思った矢先に大事件発生だ! A組御舟、動けない選手を何と体当たりで吹き飛ばしながら進撃していく!! 怪我人大丈夫かこれ、結構吹き飛んでるぞ!?』

『大丈夫だろ』

 

 実況のプレゼント・マイクと解説のイレイザーヘッドの言葉により、凍結地獄を抜け出たA組の面々も思わず後ろを振り向いた。

 

「御舟さん──来ましたわね!」

「マジかよ、御舟の奴後方で大人しいと思ったらそんなことしてんのか──ってもう来てる!?」

 

 打ち上げられ、舞い上がる人、人、人。

 ただ走っているだけの人間が、速度を維持しつつ障害物(ひと)を弾き飛ばしていく。

 

「……あ、あいつの通った地面──抉れてんぞ。どんな脚力してんだ」

 

 轟により凍らされた地面を踏み砕きながらコースを走破していく。通常の地面に変わると、それは顕著に表れていた。

 踏み込む大地は掘ったように抉り取られ、近くに居る者には地鳴りすら聞こえてくる。

 

 すると、高志朗の進行方向に立ちはだかる様に向き合った者が居た。

 

「御舟ぇぇ! お前だけは許羨(ゆるせん)からなぁぁ!!」

 

 頭に盛られた紫色の瘤のような物体を自らもぎ取り、構えた者。それは峰田実だった。

 

 “個性”、【もぎもぎ】頭から粘着力の高い物質を無限に生み出す。

 粘着力は体調に左右され、調子の良い時には一日中くっついたまま。自身にはくっつかずプニプニと跳ねる。もぎりすぎると出血する。

 

「委員長と副委員長の関係を良いことにヤオヨロッパイを毎日視姦してんだろ……!?」

 

 もぎもぎを投げる、避けられる。

 

「その上B組の女子とも仲良さそうにキャイキャイと……!」

 

 再び投げる、避けられる。

 

「納得はした! でもな、それとこれとは話が違えぇんだよ!」

 

 今度は弾幕だったが、高志朗はその隙間を縫うようにしてもぎもぎの嵐を華麗に避けていく──そして、接触事故は起こってしまった。

 

「どふっ!?」

 

 峰田がまるで木っ端のように吹き飛ばされた、しかし高志朗にではない。

 横合いから鉄の塊が文字通り横槍を入れて来ていたのだ。見覚えのあるこのフォルム──それは、巨大仮想(ヴィラン)だった。

 

『ハプニングは有ったが気ィ入れ直していこうZE! 第一関門は──ロボ・インフェルノ!!』

「入試の時の0P敵(ゼロポイントヴィラン)じゃねえか!!」

「マジか、ヒーロー科あんなんと戦ったの!?」

「多すぎて通れねえ!」

 

 所狭しと鎮座する巨躯の鉄塊は、やはり人間に対して反応し、攻撃してくる。峰田はこれにやられたのだと、先頭の者たちは察知した。

 これはさすがにA組も立ち止まる。どう打開しようか思案するが、それも束の間──一番に行動を再開した者は二人居た。

 

(もっとスゲェの用意してもらいてえもんだな)

 

 手を──地面に触れ、滑るように撫で上げる。極大の冷気がぶわりと舞い上がった。

 

 この超自然能力の気配は他でもない、轟だ。

 

「クソ親父が……見てんだから」

 

 一瞬にして、巨大仮想(ヴィラン)は氷漬けにされ、その動きを停止する。

 

 その、完全に空いた隙間を悠々と走り抜ける轟に後続が我先にと踏み出していた、…が。

 

「やめとけ、不安定な体勢ん時に凍らしたから……倒れるぞ」

「──なら、倒れる前に駆け抜ければ良いだけだ」

「! …御舟」

『攻略と妨害の轟! そして便乗する暴走列車御舟が同時に第一関門を抜けるーっ! つか轟もズリぃけど御舟はもっとズリぃっ!』

 

 開始直後の走り方とは一転していた。

 

 踏み込む力は最小限に、速度重視の超前傾姿勢走法に切り替える。

 凍結された巨大鉄塊の群れを難なくすり抜け、轟に張り付くことに成功していた。

 

 並走してきた高志朗に、轟が舌打ちをする。

 

「さっきまでの異常な踏み込みは、体当たりのパワーを上げるためのものかよ──上手くすり抜けてきたみてぇだな、御舟!」

「──っ!?」

『ああっと!? ここで先頭二名、轟が御舟に仕掛けたぁっ! 血の気が多いぞぉっ!?』

 

 轟の持つ冷気を纏った右手が高志朗の腕を僅かに掠った。それだけでも分かる、【半冷半燃】の右側──絶対零度の能力は高志朗をヒヤリとさせる。

 

「本気で凍らせようとしてきたか。忘れてるとばかり思っていたが」

 

 走りながら言う高志朗。

 

「ふざけてんなよ。俺はオールマイトの前にてめぇを超えなきゃなンねえ」

「緑谷に宣戦布告してたじゃないの、あれどうした?」

 

 右目で、高志朗を睨みつける。

 

「──あいつも超える、そしててめぇも超えて、俺はNO1(ナンバーワン)になるんだよ」

「──()を使わずに、か? 変わらんな、轟焦凍」

「何があろうと…左は使わねえ! 舐めんな御舟! 昨年(あのとき)より俺の右は──凍え上がってんぞ!」

 

 因縁の二人が、トップの座を奪い合う。

*1
水戸練兵舘中学校。高志朗の母校の略名




次回、轟くんの過去を織り交ぜての障害物競走決着。
騎馬戦まで食い込みたいが、まだ誰と組ませようか決まっていないので、更新滞ると思います。すみません!

特殊タグでトーナメント表作れない、よね? どうしよ、表作るのは結構楽しいんだが。

誤字あったらすみません。ちなみに今更ですが、作者は原作コミックしか持ってません。すまっしゅ、ヴィジランテは知識皆無。
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