私は、その嘘が余りにも痛々しくて、そして愛おしかった。
トレーナー室で資料整理をしていると、コンコンと木の扉を叩く音がした。私がどうぞ、と言う前に扉が開く。珍しく丁寧に扉を開いたのは担当ウマ娘のトウカイテイオーだった。
「ねえ、トレーナー」
「どうしたんだ? 何でも聞くけど」
テイオーは何を言うでもなく、部屋の中をフラフラと歩き回っている。落ち着かない様子だ。
そして私に背を向け続けて5分。ようやく私の隣に座った。ソファが軽く軋んで沈んだ。擦り寄せられた体重が程よく重く、そして熱い。
「……熱でもあるのか?」
「え? な、なんでそう思うの?」
私にピッタリと密着させた、テイオーの腕や足は火傷しそうな程に異様な熱を帯びていた。
「保健室に行くか?」
「ううん、違うんだ。うん、ボクは元気だから」
「そうか。じゃあ、落ち着いたら話してくれ」
「うん、ありがとう。トレーナーは……優しいね」
私が見つめるテイオーの瞳は、ガラス玉のように青く澄んでいて、そして震えている。密着した足の温度はどんどん上がっていく。
どれ位時間が経っただろうか、口をパクパクと鯉のように動かしては、また黙る。どうにも困った私はテイオーの背中をそっとさすった。これで落ち着いてくれるかと思ったが、逆効果になってしまった。耳を張り詰め、尻尾は逆立ち、明らかに驚かせてしまった。だが、これが功を奏したのかテイオーは勢いよく立ち上がった。
「ぼ、ボクね、トレーナーの事が好きなんだ!」
その告白は余りにも唐突で、余りにも以外で、私は何も反応を返す事が出来なかった。
立ち上がったのと同じ速さで座ったテイオーの体温がどんどん下がっていく。
どうしようもない時間がまた訪れた。
「テイオー……今のって……」
「え、エイプリルフールだよ! 4月バカ!」
「いや、エイプリルフールって……」
「アハハ、ゴメンゴメン! 驚かせちゃったね」
「今日は4月7日だよ」
私はつい、そう言ってしまった。自分の感情に蓋をして、いや蓋をするために。テイオーを守るために。それ以外に何も思いつかなかった。
「……ハッ……あ、そうか……今日は4月7日か……」
「テイオー……いや、違う。今日は4月1日だよ」
「あー、いいんだ。忘れて。このテイオー様が日付を間違えちゃうなんてね。本当にゴメンね」
「いや……待ってくれ! テイオー!」
部屋から出ようとするテイオーの背中は酷く冷たくて、激しく震えていて。もう二度とテイオーに会えない気がした私は、その肩を夢中で抱き寄せた。驚くほど簡単にその体は私の膝に乗った。
「だからあれは、エイプリルフールの嘘なんだ」
冷え切った体からは、髪の毛すら冷気を発して私の心を凍りつかせる。それを溶かしたくて、心は頭よりも早く私の口を動かした。
「私も君が……好きだよ」
「トレーナー……」
テイオーを抱きしめて火傷した私の腕を、熱い涙が濡らして癒やす。預けられた体重が私の心を安堵させてくれる。私は、間違えずに済んだ。
「でも……今日はエイプリルフールなんだろ?」
「トレーナーは意地悪だね」
「そうかな、確かにそうかもしれない」
「やっぱり今日は4月7日で、明日は4月8日だよ」
私は、テイオーと迎える4月8日が待ち遠しい。
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