流行らない居酒屋の話【本編完】オマケ中   作:ノイラーテム

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お代わり

 狙ってない時に妙な当たり方をするものである。

 健はクラフトビールを探して右往左往する時に、妙な物を手に入れた。

 ダメもとで普段はいかない酒屋に顔を出し、とあるブツを手に入れたのである。

 

「甘いけどトウモロコシじゃないですね……何の香りでしょう」

 土曜日に訪れた例のアメリカ人の女性客が訪れたので、さっそくチョリソを丸一本出した。

 その時に赤いサルサの他に、黄色い物を用意したのだがこれはトウモロコシを使用していない。

「多分、酒粕じゃないかしら? 珍しい組み合わせね」

「御名答。クラフトビールを探している時に、とある酒屋が分けてくれたんです」

 日本酒の酒造メーカーがついでにビールを作っていることもある。

 そこであちこち顔を出してみたら、その内の一つがこれを分けてくれたのだ。もちろん気に入ったら継続購入してくれという事だった。

 

 そこでそれほど多くは無いが定期購入させてもらい、色々な料理で試している。

 今までの料理の中でも、幾つか変更した物があった。偶に買う程度ではこうはいかない。

 

「そのままじゃあ少し合わないので、味を繋ぐのにバターと味噌を使っています」

「これが日本酒のサケカスですか。廃棄処分の滓ではなく、独特の商品?」

「そうよ。あそこで食べてる『もろみ』と似たような物ね」

 視線の先にはいつも通りキュウリを食べているカッパさん。

 話題に上っても我関せずとポリポリ食べながら酒を呑んでいる。

 見渡すと常連しか居ないこともあり、せっかくなのでお通しの実験用という名目でサービスしておくことにした。

「少しずつですが、みなさんどうぞ。普通に焙ったものと、砂糖をまぶしたものです」

 二種の味を試すための器に盛り、砂糖をまぶした方を少なめにしておく。

 甘いのもいける者もいるが、あえて甘味を多くする必要はあるまい。

 

「これで何か作ってくれ」

「いいわね。私もお願いするわ」

 それはそれとして関心を覚えたのか、女性客もカッパさんも何か作ってくれと返して来た。

 おそらくはサービス料の代わりに小鉢を追加することでソレに替えたのであろう。

「ではタケノコの酒粕煮と、煮つけの酒粕バージョンを用意しますね。少々お待ちください」

 カッパさんは歯応えがある物が好きなので、タケノコを酒粕で煮込んで味を付ける。

 逆に女性客の方は、真っ黒で地味なイメージの魚の煮つけを酒粕を使ったお洒落な色合いに替えてみた。

 もちろん両方とも練習して問題なく造れることは判っている。酒粕の定期購入を決めた時点で、バリエーションとして再構築した料理だった。

「こちらにも何かお願いします。そうですね……コレと同じような、似てる物は作れますか? 二品でOkです」

「……? あ、ああ。トウモロコシのソースとさっきの酒粕ソースみたいな感じですね。ちょっとお待ちください」

 色々作る為に鍋を面倒見ていると、アメリカ人の御客が悪戯っ子ポイ顔で提案して来た。

 最初は何のことか良く判らなかったが、よく似ている料理で別物は作れないかというジョークだろう。

 

 普段ならば少し考えるところだったが、どっちを用意するか悩むことがあったので丁度良い。朝の魚市で貝が安く手に入ったので何を作るかの候補が絞れてなかったのだ。

 

「この香りはオリーブオイル……片方はアヒージョですか?」

「はい。もう片方は酒蒸しにします。付け合わせのパンの方は一つだけならサービスにしときますね」

 アヒージョというのはオイル煮のことである。

 たっぷりのニンニクを一緒に煮込んで強烈なパンチを効かせて食べるのだ。キノコの他に色々な魚介類を使うので、その日に安く手に入る物を選んで放り込むには向いている料理である。

「いいですね! ではパンも小鉢としてください。チョリソのお代わりも」

「……わ、判りました。ご注文ありがとうございます。チョリソはスライスしますが、一本で欲しい場合は言ってください」

 まるで今から食べ始めるかのような分量だ。

 うちは後から三皿になってもサービス料金にしているが、まさか二巡目が来るとは思いもしなかった。とはいえチョリソも頼むという事は、パンに挟んで食べもするのだろうと今回はスライスしておくことにする。

 

 この日はこうして好評のうちに終わり、後日もお客によっては直接に酒粕を楽しむ人も出て来た。意外だったのは、妹の美琴がチーズケーキに混ぜたことである。とにもかくにも、今は面白い食材が手に入るようになったと喜んでおこう。




という訳で、思いついたのでもう一回分。
やはり一回が身近いのと、エピソードを混ぜると作り易いので輪数が増えますね。
まあ長い話を作れば良いのでしょうけど。

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