新定番への道
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酒粕を手に入れたことでメニューにバリエーションが増えた。
出汁や醤油をベースにしていた物に、風味は違いながらも相性の良いものを加えた感じだ。
「山賊焼き、魚の煮つけ、だし巻き卵、出汁入りコロッケ、茹で野菜とチーズ、チョリソ。……うん、こんなもんか」
健は増やしたメニューを大学ノートに文字を書きつけ、バリエーションを書き出していった。
一番多いのはだし巻き卵で、カニカマを入れたカニ卵もどき等も考慮すれば豊富なメニューを用意できる。流石に卵は汎用性が広い。
「しかし、こうして眺めると最初に作った鶏が一番原価が高いというのも笑えて来るな」
卵は当然安いが、コロッケに使うポテトやチョリソに使う豚も形状やサイズは無意味なので安い。また魚市でアルバイトして現物支給という手が使えるので煮つけは案外安く収まるのも大きかった。特にこだわりはなく安価で美味しい魚を狙っているからという理由もあるが……。
逆の意味で鶏を使った山賊焼きは部位指定があるからコストが固定化されている。
鶏もも肉で小さかったり輸入品で安いのを仕入れるとしても限界はある。怪しげな所だと物凄く安いらしいが、流石に何十年も倉庫で凍っていた鶏肉を買う気はない。美琴が売ろうと考えている弁当を考慮しても、それほど量産するわけでは無いからだ。
「鶏で何かできないかと考えたのは忠告に従ったからだが……。こいつが筆頭って事は本当に経済的だな。もう少し安価なのを考えてみるか」
健はノータイムで鶏肉の余った部位を叩き始めた。
軟骨も取り出して砕き、他の材料と共に混ぜると団子状や棒状にして固める。
「豚はチョリソにすればいいんだが……。こっちでも作ってみるか」
こちらも余った部位を叩くが少し粗い。
豚の軟骨を砕いて混ぜ合わせるのだが、これは鳥の軟骨よりも硬いのだ。そこで叩き方を少し荒くしたのである。最初からミンチに練った物ではなく叩いて作っているから可能な話だ。これは肉汁が多いので塩コショウで味付ける方は少し強めに、照り煮の方はみりんを増やすことにした。
「豚の方が味も強いがやはり微妙だな。使い道があるのに鶏と両方用意する意味がないし……注文が無ければ作らなくてもいいか」
最初にコンサルの豊かへ相談した時に並べたレシピを沢山省かれた。
中には自信作もあったのだがまとめてサイドメニュー送りにされたのだ。だが定番商品と見比べてみると健にも判る。例え美味しくともなくても良い商品というのはあるものだ。つくねは鶏をメインにしておいて『もっと味の強い
「このまま定番の品を高めつつ、色々なバリエーションを用意。季節感に関しては……魚の煮つけと刺身くらいか」
豊や美琴からもらった改善点は少しずつ昇華している。
料理の腕を上げたり、今のように『同じ材料』に絞ったバリエーションやサイドメニューを充実。地味ながら宣伝をして店舗は清潔感を維持している。今のところの課題は季節感の演出が多少弱いくらいだろうか?
「茹で野菜は茹でている分だけ、季節感の演出には遠いしな」
定番とは重ねられてきたからこそ陳腐になるとも言われる王道である。
それを繰り返すだけで深みが生じる反面、マンネリが生じると途端に飽きられてしまうとか手抜きだと思われるのだ。隠し味を改良したりトッピングを追加する程度では心もとない。新定番がいきなり増えるはずもなく、どうしても季節感を演出する方が早くなってしまうのだ。
「しかし魚の煮つけや刺身に匹敵する季節感ねえ。飯物は出すなと言われてるし少し難しいな……」
そういってまずはタマネギ、そして旬が春で調整されている大根。
その中から大きなものを用意して、可能な限り大きくスライスした。とはいえ原価を下げるためにあまり立派ではない物を選んでいるので、どうしても小振りになる。
「野菜ステーキというには少し小さいな。いっそのこと姿煮にでもするか?」
醤油や
良く焼いたタマネギはそれだけで甘さを持つが、醤油や
「いっそのこと摺り下ろして真薯やテリーヌみたいに固める? いかんな迷走してる」
横目で先ほど作った
アレと一緒に摺り下ろした物を何かの器に入れて固めてみるとか。しかしそれでは季節感が無いし、それならまだ茶碗蒸しなどに入れた方がまだ良いだろう。今の時代ならば家庭用のスチーマーでもあるのではないか……と思いかけたところで、それでは家庭でできる味に収まるだろうと思い直した。
「すべての季節に対応する必要はないんだ。無難なのを出すくらいなら、美味しくてインパクトがある方がいい。その上で味付けを考える」
結局、野菜ステーキや姿煮の路線が無難ではないかと思い直したのである。
キノコのホイル焼きにアヒージョ、タマネギのステーキに姿煮込み。そういった物を用意して器にチーズと共に入れたグラタン風や、カレー風などの味付けの変化を愉しむくらいが良いのではないだろうか?
もっと判り易くて美味しい料理を思い付いたら入れ替えれば良い。
作り上げたレシピをサイドメニューの欄に放り込みながら、精進が足りないなと溜息を吐くのであった。
という訳で、功夫が足りないことを自覚した所です。
このままいけば一人なら経営危機は脱出できそうだけど、アルバイト込みだと足りない。
全体的には赤字対策ありきで黒字には程遠い。
そんな中で全体を見直して料理を見つめ直す。
定番と季節のメニューが存在して安心して飲め、頼めば自分が好きな味付けに修正してくれる店。
その途中で自分はまだまだだなと実感した感じですね。