●
フェアの最中でも中々に満席になる事はない。
だがこの日は珍しく満席近くまで人で賑わった。いつもこのくらい居れば良いのにと思わなくもないが、美琴たちがテーブル席を予約してなければあり得なかったのでまだまだ遠い日の話だろう。
「おや、満席とは珍しいわね」
「妹が友達を連れて予約してまして。狭かったら言ってください。奥の小上りを解放しますんで」
常連の女性客とその連れであるアメリカ人女性がやって来た。
一つにしているテーブル席をいつもは使用しているのだが、カウンターを使うかそれとも封印している二つの席を使うかという選択肢も存在はする。
奥の小上りは座敷というには小さい畳間で、小さなテブルと間仕切りをおくか、それとも大きなテーブルを一つかできる。それとは別に表のメニュー置き場にしている小さなテーブルを使うのもアリだろう。
「まだ大丈夫ですね。それと別に外でテラスというのも良いですよ?」
「それをやるにはもう少し飾り立てが必要でしょうね。一応考えてはみますよ」
「その時は言ってくださいねー。あたしはちゃちゃっと縫ったげますから!」
表に置いているテーブル席には二つの意味がある。
一つは確かにメニューを置くことだが、傷んだ表口やら足元の恥隠しでもあった。近頃に成って周囲に知られて、ようやく市民権を得て昼間からテーブルを置いてもよさそうな雰囲気ではあった。しかしまだまだその辺りを改装するほどの余裕はない。
もう少し売れ行きが上がってくれればその余裕が出るのにと思いつつ、美琴のアルバイト代の賃上げも含めてまだまだその余裕はないとも言える。もしその辺りを投資して客が増えると見込みが出るのであれば、投資として割り切れなくもないのだろうが。
「お通しのクオパーはライスバゲットというべきもので、そのままで食べられますがチョリソを載せたりスープに入れたりできますよ」
「私はそうね……お醤油を塗って焼いてくれる? 焼きおにぎりとか御煎餅みたいに。あといつものを」
「私はお勧めに従ってチョリソを。それとクラムチャウダーか何かをお願いします」
現時点での収益ラインは既に限界と言えるだろう。
この二人は割りと頼んでいるペアだが、常連の女性客は小鉢の三つのセットに洋酒類を二杯で2000円ほど、土曜日のみのアメリカ人のお客さんはそれに加えて気分が載れば小鉢をもう幾つか頼んだり、大皿で頼んだりしてくれる。
その他のお客は流石にここまで頼むことはあまりなく、常時埋まる席は一~二席が精々。むしろ時間単位で2000円行くと仮定すれば、割りと計算し易いのではないかと思える程度の客入りでしかない。以前はもっと少なかったがフェアで平均を保ち、今ではようやくフェアを含めずにそこまで来たかというレベルなのだ。
(少しずつ増えて来た客も固定されて来たし、単独客では残念ながらここまでだな。となると新しい客層の開拓か)
一人でフラっとやって来る客ばかりだが、その顔もだいぶ覚えて来た。
常連という程に頻繁には来ないが、近所で『偶には外で呑むか』と思うような客にはおおよそ覚えてもらったという事だろう。それ自体は良い事なのだが、それでも経営が微妙なままだという事は、単独客メインのままでは収益が上がらないという事だ。
(一つは女性客だな。今のまま女性が来てもおかしくない雰囲気を保っていろいろ手を打っていく)
そう思いながら女性陣の顔ぶれを失礼でない程度に眺める。
基本的にこのメンバー以外に女性客はあまり居ない、常連と呼べるのはここに居る者たちだけだ。それも美琴の友人たちは全員が全員寄るわけではない。
(後は友人や夫婦連れなどの複数客の呼び込み……かな?)
この女性陣は複数客の枠でもある。
一人の客に比べて料理や酒が出る量が多いし、一人が一人だけ連れてくるという訳でもない。この周囲の客だけに限らないってのも大きいだろう。アメリカ人客などその一人だし、美琴の友人の中でも黒江は離れた場所人間らしい。さかにゃの娘や花屋さんの娘が偶に寄るのに比べてあまり見ないのはその為だ。
女性客向けのメニューと店構え、そして複数客向けのメニューと店構え。
考えることは多いなと思いつつ、封印している席を開放するか、それとも本格的に外にテラス席でも作るかと悩み始める健であった。
という訳で順調ながらも上を見ればキリが無いという段階です。
まあ女性客が入り易い状態にして、複数客を狙うという所だと思いますが。