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女性客か複数客か、ある程度迷った所で健は複数客に目を向ける。
その上で豊に相談した所、用意されたのは二種類の晩酌だった。
「友人や家族連れを狙う場合に一番のライバルは宅呑みだ。普段はこっちでちょっと贅沢したい時はこっちな」
一つはファーストフードの牛丼に発泡酒という安価な組み合わせ。
もう一つは生ハムにチーズとワインが並ぶ少しだけ贅沢な組み合わせである。
「牛丼の方はよくあるファーストフードだが安く済む。スパゲッティの詰め合わせみたいなコンビニ弁当でも良いけどな。酒の方は大瓶の焼酎でも良い」
「まあ、流石にこの組み合わせと比べる気はないさ。相手が悪い」
食べる物が牛丼だろうとスパゲッティだろうと、飲む物が発泡酒でだろうが焼酎だろうが関係ない。こちら組み合わせに関しては最初から予算を使わないことを念頭に置いている為、最初から居酒屋に来て呑む気はない。
もちろん普段から節約して何か欲しい物を買うとか貯金するとかした後で、残りの金で偶の贅沢として呑みに行くことはあり得る。呼び込むならその時に引き込むくらいだろう。
「それじゃあこっちだな。二人でワインを一瓶か二瓶空けるとして、生ハムなりチーズを買うのも業務用スーパーまで行けば、ブランドの端っこに引掛かってるレベルのを適当な値段で買う事もできる」
生ハムはコンビニで売っているより量が多く、それでいて美味しそうだ。
よく見れば量が多いのではなく二種類用意されており、サッパリとしているが塩味の強いハムと、ねっとりとした触感と薄い塩味のハムがある。そのまま食べたりフルーツに合わせても良い。ただ家庭で上手く組み合わせるならばフルーツよりも、バゲットやクラッカーのような物を用意する方が簡単だろう。これにチーズを組み合わせれば、お洒落でありながら程ほどの金額で済む。
「4000円弱……いや3000円強というところか?」
「酒をどのくらい飲むかにもよるけどな。まあ二人で割ればこんなもんさ。人数居るなら鍋の方が安上がりじゃあるんだが」
せっかくなので生ハムを食べ比べてみようと二種類用意されていたが、つまみなら別にナッツ等でも良い。ひとまず800円くらいのつまみを三種類で2000円前後。これに2000円前後のワインを一瓶付けるか、1000円前後の安い物を二瓶くらいというところだろう。市販の物をそのまま買えば4000円はしそうだが、最近は業務用スーパーもあるので侮れなかった。
ちなみに鍋の場合は鶏の水炊きや魚介類で済ませれば、四・五人前でも3000円いかずに作れたりする。プチ贅沢したい場合は合鴨や冷凍のカニ脚ポーションという手もあるだろう。この場合は酒はチャンポンになり易いので、日本酒かワインを一瓶にビールが一人二本くらいと考えると判り易い。いずれにせよ人数で割れば、かなり安く済ませられるのが宅呑みである。
「安く済ませようと思えばもっと安くなるし、良い物を目指せばキリがない。とはいえこの位がお前さんの店のライバルってとこだな」
「ああ……。このレベルだと、単純に不景気だから宅呑みと考えたら危ないな」
ブランド物は品質保証されているからブランド物なので、買って来たつまみでも生ハムは美味しい。それはチーズも似たような物であり、夫婦で安価に試せるとしたらこういうのも悪くないと思う家庭も出て来るだろう。もちろん学生が鍋パーティというのは定番で、こちらは味の保証はないがそれでも一人1000円ちょっとで痛飲できるのは脅威であった。
「……で、どうよ。何とかなりそうか?」
「一応は見えてきたような気がする」
まず大前提で高価な物や珍しい物で推すのは不可能だ。
不景気なのもあるが一点物に絞れば、業務用スーパーなり通販などで一流どころが購入できてしまう。逆に安価に抑え過ぎると、安かろう悪かろうになってしまい『これならもう二度と行かない』という選択肢にされてしまうだろう。
その上で生ハムや鍋の例をアイデアとして分離してみる。
前者は単品でありバリエーションが余りにもないし、同時に他の料理を試すには向かない。後者に至っては技術が居る料理は難しいし、鍋と酒で1000円だというならこの店は小鉢のセットで1000円という比較になる。酒の分だけ負けているとも言えるが、逆に言えば選べる料理の種類という意味では勝るだろう。
「リーズナブルで素人には出来ない料理? いや、それだけだと前と同じだ。……この場合は小分けし易い料理かな」
人を呼べる料理を目指して来たので、今の不景気の中でも対応はしている。
だがそれだけならばもっと人は来ていたはずだ。今まで来ていない複数客を呼びたいのだから、その筋に対応した料理を増やすべきだろう。
「でもよ、そういうのは腹が太りそうだぜ?」
「大皿限定やセット限定にするとかだろうな。元から量はサービスくらいのつもりで盛ってるし、食いながら愉しんでくれればいう事はないよ」
困るのは費用の共食いになってしまい、酒が出なくなるのでは意味がない。
極論を言うと腹が膨れるタイプの小鉢一つを分け合われて料理が出なくとも、客がそれをつまみに酒をグビグビ呑むのは問題ないのだ。分け合う事を前提に複数の客が複数の酒を飲むことは考慮から除外して良い。
だから実際に問題なのは、比較的利益率の悪い酒類が僅かにしか出ないことだろう。
腹の太る料理を盛った小鉢一つを分け合って、ジョッキのビール二杯よりも安い瓶ビールを分け合うといった事だけを警戒しておけば問題ないのだ。
「そもそも複数客が来てくれれば、今までよりも客が増えるって事だからな。多少安く済ませられても構わないさ」
「お前さんが納得してるんなら良いと思うぜ」
そもそもこの居酒屋は満席になったことはないし、この間になってようやくその可能性が見えた程度だ。一人一人の間取りを取るのを重視するなら、封印している小上りを元に戻すのも躊躇われるくらいである。今増やすならば提案通り外にテラス席という方がまだあり得たくらいである。
こうして徐々に複数客を呼ぶための努力が始まったのである。
という訳で複数客を呼ぶための話に入ります。
女性客に対する反応は、複数客を呼ぶことで入り難くならない程度で。
今回で発案、次回で料理、その次でセット・サービス価格の考慮ですかね。
それとは別に、十一月は煮物フェアとポテトフェアを並行する感じで行きます。
鍋フェアは十二月の予定ですが、複数客対策の話でチラっと出ては来ると思います。
●豊さんの懸念はセコくない?
腐ってもコンサルなので、一番困るところから警戒してる感じです。