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迷っていた方針を一本に絞り、複数客狙いはセットメニューや大皿でのお得感とした。
それに合わせて一部メニューの切り方を工夫したり、追加メニューの味を調整してみる。その上で改めて豊に相談してみる事となった。
「確か前の段階でセットや大皿限定にするとか言ってなかったっけ?」
「そうなんだが色々試した結果で出戻った感じだな」
豊としては既に出た結論であり、今回はソレを出発点に改良された物が出てくると思っていた。
それが改めての品評からやらさると思ってみなかったに違いない。この味で良いかなど専門の料理人である、健と美琴の二人で十分に決められる物だからだ。
料理そのものは美味しい。時間の掛かるトンポーローやパエリアがあるのも判る。餃子のサイズも専門店で見ないものだ。
しかし何の点で相談したいかを言われなかった為、尋ねてみるしかないのであった。
「俺に喰わせたって美味いとかこれならイケる以外に言葉が出てくるわけねえだろ。何を相談したいんだよ。別に俺へ奢りたかったわけでもないだろ?」
「そこなんだがな。……ダチと呑みに行きたいほどのメニューか気になってな」
要するに複数客を呼ぶに値するメニューかどうかが心配になったわけである。
三品でセットの量を減らして四品にする場合と違って、お得なメニューがウリになるかどうかがいまいち不安であった。
この店に来ている客ならば、お得を感じてくれるかもしれない。いつも選べないメニューに心惹かれるかもしれない。しかしながら呼びたいのは来ていない人であり、今までの客に新しい満足を与えるのは二次的な目標である。
「また面倒くさい悩みを……。言われてみりゃあ再び赤字続きになったお前さんを連れてまで、『こういう店ができた』とかいって誘うかと聞かれたら悩むが」
「だろ? 自分で言うのもなんだが、妥当以上じゃないんだ」
小鉢三つで1000円、これに瓶ビールかワインで二人が愉しめる。
料理の内容もビールならビールに合わせた物を選ぶことが出来て、ワインにはワインにあった料理が選べはする。しかしながらソレはいつもの延長であり、いつもと違ってメニューが増えているなど常連でもなければ気が付かないだろう。
はっきり言うと答えの出ない問いである。
このメニューを見て魅力的に思うかどうかなど、当人たちに聞かねば判らない事なのだ。食べてもらいさえすれば、酒を合わせて1500~2000円で満足できる内容だとは思われる。一人頭1000円前後の晩餐であれば悪くないし、足りないだけならもう一品・二品足したところで一人あたりは大したことはない。
「……ま、俺ならこうするかな」
「メニューを二つに?」
豊は並んでいるメニューを二つ手に取り、判り易くカウンターの上に並べた。
一冊は今まで通りだと言わんばかりに開いておき、もう一冊にメモ帳を挟む。
「こっちはいつも通りのメニュー表。できるだけ判り易く、一目でウリが分かるように作る。こっちは複数客向けで、表にもそうだな……直球で書いちまおう。日本人のよくやる婉曲的な表現ってのは伝わり難いからな」
「それはそうだが……改めて書く事か?」
豊はもう一冊のメニューの上に新しいメモ用紙を張り付けると、上から文字を付け加え始めた。
それも単刀直入に『二人で呑む為のお得メニュー』と書いてしまったのだ。判り易い事は判り易いが、ここまで直球でも良いのか不明であった。
「いつもの方はシンプルにすべきだから余計な事は書かねえ。だけどこっちは色々増えた部分を載せるからな。このくらい書かねえと判らねよ。特にお前さんが断念した四品のセットだっけ? あっちもあった方が確実だからな」
そう言って二つのメニューはいつも外に出しているテーブル席の上に置いた。
代わりに持って帰る為のチラシは少し離れた位置にズラしておく。
「基本的にはアレを外に出しておいて、同じものを目立つようにテーブル席なり小上りに置いとけばいい。いつものお客さんでも欲しい人とか、大量に食べたい人だっているだろ?」
「そりゃまあな。複数客じゃなければ駄目って事はないさ」
メニューを二つにするだけなら別に健も反対はしなかった。
それだけならばチェーン店に行けば良くあることだからだ。場合によっては下敷きのような一枚物のパンフレットを用意している方が多いだろうか?
だがしかし、メニューが増えただけの内容で『二人の為』と号するのはどうかと思ってしまう。
「あのな。俺の尊敬する人の言葉にこんなのがある。『良い物だから売れるなどと、センチメンタルな考えは捨てろ』ってよ。人は知らなきゃ選びもしねーんだよ」
「それは……鮮烈な言葉だな」
要するに料理だけで行けるかと考えるのは思い上がりだという事だ。
ポップを工夫しメニューを改良し、お品書きで判り易く推していく。場合によってはどうして良い物なのかも説明し、二次元には記載するが言葉で押し付けない程度の引き際。そのくらいで丁度良いのだと豊は告げたのだ。
「まあこの位なら気に入らねえ奴は見なきゃ済むだけの話さ。見ただけで出ていく奴はいねえよ。その上で今より来客数が多少でも増えるか、リピーターが増えりゃ御の字だろ」
「それもそうか。……ひとまず俺は次のフェアでも考えながら細部調整することにするよ」
豊は不安ならば写真か絵を付属させ、カップルでスペイン料理を食べ、友人たちが中華をつつくシーンでも入れれば良いと付け加えた。
こうして複数客対策はこのままの路線で行くとして、並行作業である煮物フェアとポテトフェアの準備を始めることになる。
という訳で豊くんの助言は『直球で宣伝する』でした。
もはやメニューを微妙に良くしているだけなので、そう口にしないと伝わらない。
だけれども『二人で2000円前後出せば美味しい晩餐が食べられる』と判れば
十分に客が増えるのだと判断した感じになります。
なお豊くんが尊敬するのはラーメンハゲ。