流行らない居酒屋の話【本編完】オマケ中   作:ノイラーテム

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カイゼン

 縁が二色で彩られた真新しい紙にメニューを書き記す。

 柿渋をイメージした赤茶色の枠と、ジーンズのようなインディゴ・ブルーの枠。

 そこに記載するのは新しいオススメであるローストビーフだ。

 グレイビーソースと和風のソースの二つの味が楽しめると締めくくった。

 

「これでよしっと。本当はお通しで新メニューを試すことも書きたいんだが……」

「んな事したら内容が取っ散らかるだろ。好評だと判ってからメニューを書き直せ。こういうのは具体的で、マメさが伝わる方がいいんだよ」

 健が書き記したメニューに日付を追加してクリア・ファイルに入れる。

 バインダーの新しい場所に放り込み、古いお勧めは別のバインダーに移動させた。

「もう少し客が増えたら、表に小さい方の机を置いてメニューを置いとくぞ」

「今からやっても同じことじゃないのか? どうせなら早い方が……」

 店主である健の友人、コンサルをやってる月見里・豊(やまなし・ゆたか)は首を振って人のいない寂れた通りを顎でしゃくった。

 

「誰も通らない時に近くの中坊が『うちの中学舐めんな!』とか言って振り回しても責任取れるか? まあそんな馬鹿は今時いないと思うがね。机も客を呼び込むギミックさ。見る奴もいないのに置いて置くほどの意味はねえな」

 豊が言うには机が突き出て目を引いて、その上にあるメニューへ視線が移るとか。

 しかし人が通りもしない、それが当たり前の状態ではゴミにしか見えない。場合によっては視線を反らしすらする。だが時折客が訪れて、目を通していく光景が当たり前になってからなら意味があるという。

「そんなもんかねえ。……取りあえず食ってくだろ?」

「そりゃな。せっかくだしローストビーフを和風ソースで。もう一つはコロッケを頼むわ」

「あいよ」

 指定されたローストビーフとコロッケを用意し、オススメとしては茹で野菜とチーズを用意する。

 フライングではあるが、オススメであるローストビーフを指定したのだ。

 あえてこうなるように頼んでくれたのだろう。

 

 大き目の平皿にレタス・ポテト・オリーブ・茹で卵・黒ニンニクで輪を描くようにチョコチョコと盛っていく。その真ん中から少し逸れるようにローストビーフを載せておいた。そして二つある小鉢の片方に溶かしたチーズを入れて、もう片方には和風ソースを入れる。

 最初はワインのグラスを取り出しかけたが、次に取り掛かるのはコロッケだ。ビールの方が良いかと思い出してジョキを取り出した。

 

「茹で野菜とチーズ、ローストービーフになります。コロッケは後ほど出しますね」

「おう! 美味い所を頼んだぜ!」

 芋を潰して作るコロッケに美味い場所などあるはずもないが、健の作るコロッケには存在した。

 正確には中に入れる出汁の影響だと言えるだろう。

 健がいつも作るのはポテトコロッケなのだが、出汁を入れることで甘さを加えている。

 魚市場で食べたコロッケを真似て、芋も衣に使うパン粉も荒く挽いて歯応えを演出していた。

(……チーズに和風ソースを混ぜんな! って言いたいところだが、こればっかりは客の勝手だからなあ。しかし同じ野菜でも好みがあるんだろうな。カッパさんにはレタスじゃなくて春キャベツを入れてみるか。後はアスパラガスとか)

 豊の様子を眺めているとチーズにソースを混ぜて独自の味付けに替え始めた。

 オマケに黒ニンニクを潰してチーズへ混るほどで、確かにそういう食べ方もあるのだが、先に言ってくれればこちらでやるのに……と思わなくもなかった。

 しかし茹で野菜自体は気に入ってくれたようで、自分好みの味付けてパクパクとやっている。

 その後はローストビーフを食べたり、野菜と重ねたりしながらビールを楽しんでいた。

 

 その頃には油が温まり始めたので、コロッケを二つばかり投入して片方は実験に使う。せっかく融通の聞く友人がいるのだ、試しておいて損はないだろう。そして奥の方から買っておいた秘密兵器……ちょっとした玩具を持って来る。

 

「お待ちどうさまです、コロッケを用意しました。もう片方は試作品の無償提供ですので、ご賞味いただければ幸いです」

「……お? スポイド!?」

 どちらも出汁を利かせたポテトコロッケには違いない。

 だが片方にはスポイトを突き刺し、中に秘密兵器を入れておいたのだ。

「中に入ってるのは出汁だよ。黄色い方は辛子を混ぜてある。好みで調整しとくれ」

「あー。前に漫画でみたアレか!」

 出汁が染みた方が好きな客の為に、ちょっとした思い付きを試してみたのだ。

 豊が言う通りとある漫画で見た手法で、スポイトの中には出汁が入っている。

 これを突き刺して行う事で、コロッケの皮を湿らせさせず、また量産したコロッケの味を変えずに自分好みの調整ができるようになっているのだ。

 

「おもしれえなあ。……なあ、これってチーズは?」

「無理。もう試したけど流石にコントロールできねえよ。上手く調整できるなら使い捨てにしても良いんだけどな」

 スポイトの中に入れるモノは、ビネガーやらソースやらいろいろ試してみた。

 しかしながら溶かしたチーズを入れて、上手くコントロールすることは難しい。

 それこそ熱したチーズと、熱に弱いプラスチックの仲は犬猿の仲だ。温度が低ければ注入できず、かといって高ければプラスチックも溶けかねない。なかなか上手く行かないものである。




 という訳で友人の名前が決まりました。
月見里と書いて『やまなし』と読み、演技良さそうな感じで豊。
きっと先祖は平原部の農村にでも住んでいたのでしょうか。

ローストビーフや茹で野菜とチーズは前回の話で出したので、今回はポテトコロッケを追加。
芋とタマネギのみで作ったコロッケに、出汁を染み込ませた物になります。
万能のジャガイモを中心に使いつつ、出汁は他の料理に使う物なので原価はお安いのに、独自性が出せる感じ。
今回はとある漫画で出て来た手法をパク……オマージュすることにしました。
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