中は静まり返っていた
勝負している客もいなければバニーちゃん一匹も見当たらない
内観はカジノの雰囲気を醸し出しているのだが
そこに居着く当の人達は何枚もの書類に埋もれて黙々と雑務を熟している
「賭博する場所じゃねぇのかよ まるで研究所だぜ?」
「看板通りの目的で建物を使ってないってことじゃない?」
ガノンドロフとエイミーが中を物色しているのを余所に
エイミーは近くの考古学者に話し掛けた
「あのぉ…… すみませぇん……」
「厄災ガノンの怨念に含まれる人を蝕む邪気の含有量は思ったよりも厄介だな……
一番古い歴史書物を漁っても明確な被害はあくまで憶測の範囲を出ない……
こんな状況で民に避難を呼び掛けても素直に応じる筈も無くかぁ……
そもそも今はゲルドのゼルダ姫が政権を牛耳っているのだから
不安を煽っている不逞な輩として城の牢屋にでもぶち込まれでもなったら本末転倒
折角の我らの大成も未然に阻止され 歴史上悪い印象のシーカー族として再び刻まれてしまう……」
「あのぉ!! 私達イーガ団から逃げて来た者なんですけどぉ?!」
「イーガ団?? そんな不愉快な言葉を軽々と口にしないで欲しい物だね
私は今は太古の旅に出てるんだ 上層の不穏な噂の事実確認の為にバックトゥーザパストしてるんだ!!
雑談相手が欲しいなら他を当たってくれ」
「……感じ悪っ!」
半ギレ状態で戻って来たエイミー
皆に慰めて貰っていると 離れた場所でリンクの目がとある一点に集中していた
だだっ広い空間の中央に山の様に積まれた本の中から突き出ている二本の棒っ切れ
イソギンチャクの様に生えているそれが人間の足だと分かれば急いで引っこ抜く
「うはぁ!! 死ぬかと思ったぁ!!」
「……!?」
「あれお客さん?! ここに来るのは煙たがってるイーガ団の奴等だけだと思ってたけど……」
窒息し掛けの女史は独特な作りの赤眼鏡を頭の上にずらすと 指を折り曲げて元気良く挨拶
「ハァイ♪ チェッキ~~♪」
「……」
「ノリ悪いよそこの金髪少年!! 私はここ〝レジスタンス〟自称リーダーのプルアだよ!」
「自分で自称って言っちゃうのも中々強いよね!」
クレシェン達も集まって来てさっそくこの街の内情を聞く
プルアもリンク達には優しい態度を見せ 敵だらけのコーガポリスにも希望を見出す
「ここはテルマさんっていうハイリア人のオーナーさんのお店なのよね
昔は賭場として儲けていたらしいけど イーガ団の頭領コーガがお気に召さなかった
自分の街で自分より儲かってる奴は〝ズルイズルイ嫌がらせの刑〟に処されて廃業になったのよ」
「それは中々ね……」
話を真面目に聞いているのはエイミー・デクレ・リンク
クレシェンとガノンドロフは眠っていた
「コーガが牛耳る前は別のシーカー族が治めていたと聞いていたゾ?
それが君達の事ではないのか?」
「治めていたのは私の妹の〝インパ〟 まぁ途中から私が代理で代表になってたんだけどね
何かやらなければならない事があるって言い残してさ 第一層のハイラル王国に行っちゃったんだ」
その名前を聞いて反応を見せたのはリンクだった
何故なら自分とカユを育ててくれた乳母とはインパだったのだから
「へぇ…… 上層でやることあるってまさか婚活だったのかしら??
ボーイハントとかゲルド並に行動力があるわねあのコ……
じゃぁここ十数年間 ずっと貴方達を育てていたってこと?」
リンクは数年前に村から出て行ったこともプルアに伝えた
つまりそこでインパという人物の足跡は断たれていたのである
「まぁここには帰って来ていないし 可能性としてはここの一つ上
第三層のカカリコ村って場所にいると考えるのが妥当かなぁ インパも気に入ってたし」
「……」
次の階層への目的も新しく更新されたので
さっそくプルアに上へと続く出口を尋ねると
「関所はイーガ団の手作り要塞になってるわよ?
通行人の懐から金を吸いまくる意地汚い連中よぉまったく……
お上にバレなければやりたい放題だから下層は無法地帯だとか言われちゃうのよ」
「……じゃぁどうにもならねぇのかよ? 俺達はいち早く王都に戻りてぇのによぉ」
「……もしかして厄災の事?」
リンクとガノンドロフは自分達が見てきた惨劇をプルアに伝えた
王国に厄災の影は無かったが ゼルダ姫が自分達を含めた同い年の子供達を皆殺しにして回っていた事
その惨劇の果てに二人が世界樹の滝底に落されてしまった事も
「子供の抹殺は初耳ね 思ったよりも情報網が遮断されているわ」
プルアは机に山積みにされた紙束の中から世界樹全形の地図を引っ張り出す
「私達が厄災ガノン復活の兆しに気付いたのはこれよ……
世界各地に点在している魔の瘴気がそこら中に現れているのを確認している
地上は問題ないけど上層に登るとしたらイーガ団のインチキ通行料が掛かるから
外部の仲間とは密かにワープマーカーってアイテムで連絡を取っていたの
目撃されているだけで百を超える地点で世界樹が侵されているわ」
「……王国には報告したのか?」
「当然したわよ アナタ達がまさかそんな目に遭ってるなんて想像してなかったもの
だけど今思えば当然の経過ね 上はガン無視 返事の一つも寄越して来ないんだから」
プルアはテーブルの書類を全て床に溢してその上に登ると
羽根ペンを手の平にパシパシ叩きながらリンク達へと檄を飛ばす
「これがどういう状況か分かる?? 〝国家簒奪〟転じて〝国家転覆〟の危機よ
ゼルダ様が何者かはこの際どうでもいいわ 現状目と鼻の先に居るのはイーガ団
彼らの防壁をこじ開けて邪な前兆を阻止できる距離にまで近付かないと
もしもの時に後手後手に回って手を打つ術が無くなってしまう!」