──(脳筋)ウサミミ(拳闘士)占術師
エイプリルフール用。いつかは消します。
ちゃんと準備はしようね!
初めは、ちょっとした違和感でした。
あれは……そう、【ライセン大迷宮】を攻略し、【ブルックの街】に帰ってきた時のことです。
「ユエさんユエさん、次はこっちはどうですか!?」
「ん、いいかも」
その時私は、ユエさん(私の師匠及び大親友)と一緒に、買い物を楽しんでいました。
大迷宮を攻略し、あとちょっとで次の街に出る、という時分で、呉服屋のクリスタベルさん(モンスター
ハジメさん、という私が狙っている男性のため、ユエさんと二人がかりで誘惑しようと画策していた時でした。
「……っ!? んぐっ」
ユエさんがいきなり、口元を押さえかがみ込んでしまったんです。
もちろん、私は駆け寄って背中をさすって、クリスタベルさんにお水を持ってきていただきました。
「大丈夫ですか、ユエさん?」
「…………ん、大丈夫」
その時はすぐに治ったので、あまり大ごとにはなりませんでしたし、ハジメさんに話すこともありませんでした。
思えば、これが始まりだったのでしょう。それからちらほらと、おかしなことが起こり始めたんです。
【北の山脈地帯】での事です。
私達は貴族の方ウィルさんの捜索の依頼を受け、【北の山脈地帯】に行ったんです。その時はハジメさんの恩師の方と、同郷の方々を連れて。
その時、ティオさん(何もなければいい人)と戦ったんです。その時、ティオさんは洗脳されていて、ハジメさんと私たち三人で応戦したんです。
ご同郷の方々に力を見せつけるための戦いでもあったのですが……その時、事件が起こったんです。
ユエさんが先制に魔法を放った時、それは起きたんです。
「“禍天”」
その
ですが、何も起こりませんでした。
私たちももちろん驚いていましたが、一番驚いていたのはユエさんだったと思います。当然、そんな隙を晒せば相手が放っておくわけないもので、ユエさんは格好のマトになっていました。
そうはさせじとハジメさんがティオさんの側頭部を撃ち抜いて、なんとか標的をハジメさんに向けさせたうちに、驚愕に顔を呆けさせたユエさんを抱え、なんとか離脱させることができました。
その後、ティオさんの変態が発覚して帰路に立つ時、虚空に闇色の玉が現れ、空に向かって飛んでいくのが見えました。どうやら、先程放った魔法が遅れて発動したそうです。
あの時は「調子が悪かったんだな」とハジメさんに撫でられ、ご満悦なユエさんに「わざとやったのでは?」とか、嫉妬の感情が芽生えたものですが……一体、何が原因だったのか、その時はわかりませんでした。
最後は、フューレンに戻る道のりでの事でした。
洗脳が解け、ハジメさんの奴隷となった(例えですけど、本気で思っているので)ティオさんの歓迎会を開いたんです。
ハジメさんやユエさんは乗り気ではなかったのですが、せっかくですし、ということで私が腕によりをかけてご飯を作ったんです。
ウルの街で頂いたお米をどう調理しようか、と考えながら、ご飯を炊いていた時です。その時ふと、ユエさんが様子を見にきたんです。どうやら、お腹がとても空いていたそうで、私は小腹に挟む程度なら、とお菓子を渡しておいたんです。ちょっと酸っぱめな飴玉なんですけど。
それを美味しそうに食べる
その瞬間、ユエさんが一気に青ざめました。
まるで、何か気持ちの悪いものを口に入れたような顔をして、走っていったんです。その時はちょっとショックでしたね。なにせ、自分の料理にあんな顔をされるとは思いませんでしたし……ええ、本当に。
その時は飴玉が不味かったんですかねぇ、と自分を納得させました。結局、作り終えた後は食べてくれたみたいですし。
まあ、流石に……それで気づかないわけがなかったんですが。
そして、今日。
私──シア・ハウリアは、今までのことを思い出して、空を見上げた。
思い出せば、兆候はありました。
最初は少しの違和感でも、たくさん。一回限りは偶然でも、何回も起こればそれは必然になる、なんてことも忘れて。
ユエさんは今日、どこかおかしかった。
朝からソワソワ。昼にはオロオロ。そしてどこかへふらっと行ったと思えば、ドキドキした様子で忙しない。
これからハジメさんのご同郷の方々に会いに行くというのに、ユエさんは朝から落ち着きがなかったんです。まるで、秘密を隠す乙女のように、じっとしていなかったんです。
「のう、シアや。これはどうするんじゃ?」
「あっ、ティオさん。それは持っていってもらっても大丈夫ですよ」
もう日が落ちかけていた頃。ティオさんに手伝ってもらいながら、夕飯の準備をしていたところです。
いつも通り、自製アーティファクトの手入れや創作を行なっているハジメさんに、ユエさんが近づいて行ったんです。
「ハジメ」
「お、どうした。ユエ」
ハジメさんはユエさんを(いつものように)抱き寄せ、膝に座らせていました。
「ちょっとハジメさん! もう、ユエさんばっかり抱きしめて!」
「羨ましいのぅ、ハジメや。妾も……」
そんなハジメさんに構ってもらおうと、ティオさんと共に這い寄った時です。
「ハジメ」
空気が変わった。そう感じました。
明らかにいつものユエさんじゃない。
あからさまに雰囲気が異なるユエさんに、ハジメさんは気圧されたようでした。そんなハジメさんの腕を押し除け(本当に珍しいことに)立ち上がりました。
呆然とするハジメさんをよそに、ユエさんは懐から一枚の紙を取り出し──
それは、私たちが知っていたものだったからです。
むしろそれは、
女ならば、知らないはずがないもので──!
それが何を意味するかわからないハジメさんに、ユエさんはにっこり笑いかけて、こう言いました。
「──できちゃった♪」
──空気が、凪いだ。
道理とか、真理とか、これからとか、そんなものを置き去りに落とされた最強の
「ぱふぉあ」
断末魔をあげて、崩れ落ちた。
──デスヨネー……
私の想いよ、闇夜に届け。
引き攣った顔を隠すように、そう、思った。
エイプリルフール用だったのに、なぜ一週間も遅れるのか。
・シア
今回の語り手。薄々勘づいてた。
・ハジメ
まったく気づいてなかった。
17歳、パパになる(ガチ)。
・ユエ
できちゃった♪
エヒト困惑するよこんなの…
補足として、検査薬は魔法陣が描かれた紙です。“かける”のではなく“あてて”使う。
魔法が遅れて発動したのは、精神状態の影響。テンションがぐちゃぐちゃで発動したようです。
なお、最終決戦までだいたい一年。この頃は来て半年くらい? だから、見事ブッキング。なんてこったい。エヒトは身重を襲うという業が深いことに…
ミュウ坊出すの忘れたっ…!