愉快犯女神によって転移先異世界で異端審問の危機に陥っている   作:駒由李

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15話。主人公、ちょっとした冒険に出る


探索、探検、そして

 ガソリンスタンドで給油して(ガソリンスタンドがこの世界にあったことに驚いたが、車もそこそこ走っているしそもそも元の世界でも20世紀初頭にはあったらしいから不思議ではないだろう)、ついでにタンクにもいくつか詰めて、いざや男3人旅出発。

 免許というものがあるのだから道交法もあるのだろう、とは当たりを付けていた。その通りで、軽トラあるいはそれに類するトラックの荷台に人が乗るのは基本的に禁じられている。乗って良いのは、荷台に載せた荷物が飛び出たりしないように抑えておく人員だ。今回の3人旅につき、当初は1番大柄なイーヴォが荷台に乗ることになっていた、が。俺ははたと気付いた。

「例の、魔女だっけ。その人がいた地域を案内できるのってイーヴォだけじゃん」

 そういうわけで俺は今、助手席にすし詰めになっているイーヴォに代わり、3人の旅の荷物とガソリンタンクの番をしながら旅の空を眺めている。青空は、元の世界の煤けた都会の空とは比ぶべくもなく高く澄んでいた。目的地までそれなりに時間がかかると言われて雨を心配していたが、その目的地まで大きく崩れることがなかったのでほっとした。小振りに降ってきたときはスキルを使って雨粒をカットし続けたので事なきを得た。大振りでもカットはできただろうが、合羽も被らず荷物にシートも敷かず雨の中荷台に座り続ける男は不審そのものだろう。それらの用意はあったものの、揺れる荷台の上でそういう作業をするのはしんどかったので助かった。

 朝に首都のエーデルシュタインを出て来て、ぶっ通しで街道を走り続けて、昼に食事を済ませてついでにトイレ休憩という名の立ち小便も済ませて、その辺境に辿り着いたのは夕方。車から降りたイノセントとイーヴォ。荷台から荷物を下ろしながら俺は尋ねる。

「ここがそうだったのか、イーヴォ」

「両親に電話して確かめたからここでいいはずだ。『俺が行方不明になった旅行先はどこだった。大人になったから友人とまた確かめに行ってみたいんだが』と聴いたら教えてくれた」

「まぁ妥当な言い訳だね。とりあえず宿を探そう。宿あるんだよね?」

「潰れてなければあるはずだ」

 言いながらイノセントとイーヴォがそれぞれの荷物を担いで歩いていく。俺はと言えばこっそりスキルを使いながら自分の荷物とガソリンタンクを携えた。こっそり使う分には何ら問題がないようだ、とこの世界に来てから学んだことだ。見た目より力持ち、ということにしておけば問題が出ない。

 しかし――ふと、思う。俺はこの能力を使って異世界で無双することを願った。しかし転移された世界は異能を振るえば結果として死に至る世界。

 果たして女神は、本当に故意に送り込んだのだろうか。……俺の選択を黙ったままだったのは事実だが。

「おーいトモヤー、宿取れたよー」

「3人一部屋だぞー」

「あ、うん」

 俺は思考の海から脱すると、荷物を抱えて小走りに駆け出した。

 俺は気付かなかった。俺のスキルは飽くまでサイキックであり、外に作用する力。だから、自分を「視」つめて来る存在に。

 「それ」は、アキギリ色の目で、俺を見ていた。

『ふぅむ。これは久し振りに面白いのが来たの』

 

 宿で一泊。ここからは歩いて探索だ。ガソリンタンクと大半の荷物は宿に預けていき、外に出ようとしたときだ。受付の、宿の女将と思しき女性から囁かれた。

「あの……お客さん方。あなた方もモンスター見たさで来たのかい」

「まあそんなところですね」

 それに人好きのする美少年のイノセントが笑顔で対応する。それに女性は頬を緩めかけたが、直ぐに顔を引き締める。

「あんまり悪いことは言わないよ。ここまでは騎士修道会も対応しきれないところがあるからね……こっちから縄張りに入らなければ向こうからは来ないからなんとかなってるけど。あんたらも行くのは構わないけど、こっちに連れてこないようにね」

 それは「何があっても見殺しにするからな」という宣言に聞こえたが、イノセントは笑顔で「そうですね、気を付けます」と締め括った。慣れている。多分場数が違うんだろう。イーヴォは「おい行くぞ」と地図を片手に俺に言った。

 ――そして1時間。

 俺は思わず呟いた。

「行けども行けども、荒野だね……」

「湖や森もあるって聴いたんだけどな。実際そうだったし」

「それイーヴォの記憶違いって可能性ない?」

「正直自信ない。小さい頃の話だし」

「おいイーヴォ」

 地図を広げたままわいわいと歩いていく。イノセントとイーヴォが揉めている中、ふと、俺は気付いた。

 ――木と水の匂いがする。

「イーヴォ、森、近いかも」

「マジか」

「あ、本当だ。匂いする。鼻の良い俺より先に気付くなんて、イーヴォ、五感強化のスキルも授かってるん」

 じゃ、という言葉尻は消えた。

 俺たちが視線を合わせて遠くを見つめた先。そこは確かに霧の彼方だったが、森のように見えた。

 そこから、何かが出て来た。――獣の匂いがする。

 それに思わず鼻を摘んだ先。俺たちは見た。

 人面獅子――それはゲームなどで散々見たモンスターだった。

「マンティコアだ……!」

「えっ、何それ」

「イノが知らんのも無理はない。結構マイナーなモンスターだからな――森に棲むという話は本当だったんだな。で、どうする」

「どうするって」

 顔を見合わせる。その間に、マンティコアが襲いかかってきた――

(今なら人目がない!)

 俺は咄嗟に前に出た。

『潰れろ!』

 念じると、その通りにマンティコアの体は地に伏し、そしてぐしゃぐしゃと体が潰れていった。自分でやらせといてなんだがグロテスクにも程がある。赤い血と臓物が地面に広がった。思わず背後でイノセントとイーヴォが身を引いたのがわかったので、この力が改めてこの世界で行使してはいけないものだと理解する。

 いや、それよりも今は障害が排除されたことを祝うべきだろう。俺は振り向いて「さ、森に行こう」と話を振ろうとした。

 振った先の2人は青ざめた顔をしていた。

「トモヤ、前!」

「!」

 振り返らずに『退け』と手を払う。そして改めて振り返ると、もう1頭のマンティコアが轢き潰れていた。しかも、森からはぞろぞろとマンティコアが出て来る。これは、まずい。俺ひとりならともかく、イノセントとイーヴォがいる。彼らを連れて逃げられるだろうか――それでもなんとかせねばならない。俺が意を決してマンティコアの群れに立ち向かったときだ。

『そこまでになさい。私の可愛いしもべたち』

 ――声がした。

 それは正確には声ではない。空気を震わせるものではなく、脳みそに直接届いてくる、テレパシー。狼狽える俺たちに対し、マンティコアたちは従順に地に伏した。それに驚いていると、声はさらに届く。

『私への客人かしら? 特にその、アキツシマネ系と思しきあなた。不思議な力を持っているわね』

「あの、俺は……」

『いらっしゃい。1頭、マンティコアをつけてあげる。案内してくれるわ。安心して、襲ったりしない。そもそもあなたの力なら容易く殺せるでしょうけど』

「……彼らは友人なんですが、彼らは」

 立ちすくんでいたイノセントとイーヴォを示す。それに、「声」は拒絶した。

『興味があるのはあなただけよ。異能の力を持つあなた。そちらの……大柄な殿方は、昔助けたわね。覚えてる?』

 それにイーヴォは喜色を示した。

「あ、はい。あの、俺、お礼を言いたくて」

『礼なんていいのよ。済んだことだもの。それとそちらの白髪の坊やは……特にないわね。ただ』

「ただ?」

 声は、笑い含んでいた。

『良いお友達に逢えたわね、あなた』

「……?」

『とにかく、招くのはあなただけ。お入り。大して時間はかけないつもりだから、その2人はそこで待っていて』

「はあ……」

「それじゃ、トモヤ。気を付けて行ってこいよ」

「うん」

 何がなんだかわからない。そう思いながら、マンティコアの1頭に先導されながら歩いていくと、森の奥。ログハウスのような小さな家が見えた。森の向こうには湖が見える。木と水の匂いがここから来ているのだろう。そう思いながら、マンティコアが座った家の前。階段を登り、扉を叩いた。

「どうぞ」

 テレパシーの声が、今度は耳から直に聞こえた。それに緊張の面持ちをしながらも、扉を開いた。

 ――香の匂いがたゆたう。薬品棚が、台所が見える。その中で、安楽椅子に腰掛けた女性がいた。服は、この世界で見られる産業革命の頃の英国人女性貴族のものに見えた。年の頃は20代か、若く見える40代か定かでない。しかし美しかった。きっとこの美貌なら王妃の座も狙えそうだ。そんなことを考えていると、彼女は微笑んだ。

「おかけなさい」

 彼女は続けて言った。

「女神様から、あなたに言付かっていることがあります」

 

 

 

 

 

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