愉快犯女神によって転移先異世界で異端審問の危機に陥っている   作:駒由李

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16話。主人公、世界の真実を知る


真相、そして

 最初、彼女が何を言っているのかわからなかった。

「女神様って……」

「この世界を真に統べられているお方のことです。あなたもお会いしたのでしょう? この『世界』に来られたときに――先程、あなたがここに来られたときにスキルを持っているのに気付いて、女神様にお伺いを立てたのです。そうしたら、あなたの話を聴かせてもらいました」

「そ、そんな気軽に話せるものなんです……? あなたは魔女、と聴いていましたが、それに関係が……?」

 俺の言葉に、彼女は憂うような表情をする。しかしそれは一瞬だった。

「確かに私は魔女と呼ばれる存在ですね。ですが、どちらかと言えば巫女に近いかも知れません。魔女は悪魔の言葉を聞く、とこの世界では言われていますが、正確には人外の者の言葉を聞くと言った方が正しい。私の場合、少しばかり聴ける範囲が広かったというだけですよ」

 その言葉に硬いものを感じて、俺は頭を掻いた。

「えぇと、すいません。多分、お気に障るようなこと言いましたかね。それなら謝ります」

「素直な殿方はかわいらしいですね。いいえ、あなたは何も悪いことは言っていません」

 そして、彼女は言った。

「あなたは『氷の時代』以前の方ですからね。その頃の価値観の魔女と少々違うのかも知れませんね」

「――待ってください、今、なんと?」

 聞き捨てならない台詞が聞こえた。

「『氷の時代』とは、どういうものなんですか……?」

 彼女は律儀に答えた。

「長く永く、氷雪が空や地を覆う時代がその昔あったそうです。地域によって気温差はあったそうですが……その氷の時代の前にあった文明はほぼ途絶えました。中には王室の血統と国を連綿と続けた国もありましたが――聴きませんでしたか? ヴァナルガンド王国がそのひとつです。あの国には氷の時代以前の知識や技術などが遺っているそうですが……それはともかく、氷の時代によって、私たち人類の文明はほとんどが再構築を余儀なくされました。その氷の時代の間に動物が進化したモンスターなども産まれ、環境への適応力の高い人間が亜人種の先祖となり、奇蹟を起こす人間が産まれたり……氷の時代は嘗ての文明を奪いましたが、代わりに新たな文明を与えてくれました。尤も、それも全てが良かった、という訳ではないのでしょうがね」

 長い説明だった。しかし、その言葉が染み渡る間に、理解したことがある。

 氷の時代。それは、氷河期だ。

 そして、彼女は言った。

『あなたは『氷の時代』以前の方ですからね』

 それは、つまり。

 俺の口から、言葉が突いて出た。

「つまり……俺は異世界にやって来たのではない。俺は、時間転移をしたということですか……? それも、恐らく、1万年以上の時間を超えて」

 彼女は黙っていた。黙って、戸棚の奥から何かを取り出す。

 テーブルに置かれた、それは水晶玉だった。よく見ると中で乳白色の煙のようなものがたゆたっている。この国は宝石が名産と聴くが、こんなものまで産出されているのか? そう疑問に思う俺に、彼女は言った。

「女神様からの言付けはこうです。『選ぶのなら、この(ぎょく)に手を触れてください』と」

 そう言われて、俺は迷った。けれど、それも一瞬だった。

 手を翳してから尋ねる。

「痛くないですよね」

「痛くはないですよ」

 彼女は微笑んだ。俺は手を触れた。

 ――途端、未知の感覚が全身を包む。

「ただちょっと、魂が抜ける感覚がするだけです」

 その言葉に抗議する前に、俺の意識は遠退いた。

 

 

 そして、やって来たのは既に懐かしく感じる、あの真っ白い空間だった。

 そこに、あの女神は佇んでいた。

『どうもぉ。色々あったみたいですねぇ』

「やい! 女神! 何で俺をあの世界――いや、時代に行かせた?! ついでに異世界に行かせるとか言ってなかったか!?」

 俺の抗議に、女神は相変わらず食えない顔をして笑っている。

『そうですねぇ、異世界じゃない、という疑問に関しては……何を以て、あなたは“世界”を定義しています?』

「は? そりゃ、並行世界とか……」

『そうですね。それもひとつの定義でしょう。けれど、こういう定義もあります。それは社会生活。それがまるで違うものも、また異世界と言えるでしょう』

「……苦しくない? その定義」

『まぁぶっちゃけ私がそう定義しているだけの話ですね。本当にあなたの仰有るような並行世界に転生者や転移者を行かせることもあるんですよ?』

 そう言う女神に、俺は尋ねた。1番、聴きたかったことだ。

「じゃあ、何で俺はあの時代――世界に行かせたんだ」

 尋ねると、彼女はきょとんと目を瞬いた。そして、言う。

『あなたの名前の、“友哉”というのがあるでしょう。これに従っただけですよ』

「は?」

『“友”が“はじめ”。私があのとき行き先を調べた中で、あなたが最初に友を得られそうなところが、あなたが行った世界なんですよ――逢ったでしょう? “友”と』

「――」

 確かに、逢った。あれは、もう友と呼んで良いだろう。短い付き合いのはずだが、もう長いこと一緒にいる気がする。数は少ないがこちらが助けて、向こうにも助けてもらって(こちらの方が数が遙かに多い)。こうして、ここまでついてきてもらった。

 その理由を、彼はこう言った。

『困ってたじゃん。困ってる人を助けるのは、当然のことでしょ』

 ――確かに、得難い友だ。

 そして、俺はそこで迷ってしまう。その迷いを見透かしたように、女神は言った。

『あなたのその名前は、元の世界の親御さんがつけたものですね。あなたに、友に恵まれるように、と』

「……」

『たとえどれだけ悪い想い出があっても、それだけは真実ですよ』

「……」

『どうします? ぶっちゃけこちらの手違いみたいなものでこちらに来てしまった。今からでもあなたを元の世界に戻せますよ』

「――元の世界に」

 それに、顔を上げる。女神は垂れ目を細めて語る。

『時間を戻して事故に遭わないようにする。それぐらいの歴史修正は誤差の範疇です。元々死ぬはずじゃなかったんですし』

 女神は話す。

『――元々、そのスキルがなくてもあなたは彼の少年と友人になれました。元の世界に戻っても、特典としてスキルは与えたままでもいいです。でも、今ならなくても生きていけるんじゃないですか? さて、どうします?』

 随分悩んだと思う。数時間とも、数十時間ともかかった気がする。けれど女神は辛抱強く俺の返事を待った。

 そして、俺はようやく、答えを出せた。

「俺は――」

 

 

 

 

 

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