白き翼の物語~Trail of klose ~   作:サンクタス

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第十四話~旅の二人~

~マノリア村~

 

 

 

クローゼにぶつかったのは、長く伸ばしたオレンジの髪をツインテールに束ねた娘であった。見たところクローゼと同じぐらいの年に見えたが、男物にも見えなくもない簡素な服装……おそらく武術用の服だろう……の姿からは彼女の性格の活発さがすぐに見てとれた。そして彼女の瞳の色は、燃えるような赤色をしていた。

 

 

「あいたたた………………あ。」

その娘はクローゼに気付くとすっくと立ち上がった。

 

「ご、ごめんね、大丈夫!?私が前をよく見てなかったから……………」

 

「あ、いえ、大丈夫です。」

クローゼは服に付いた土ぼこりを払いながら立ち上がった。

 

「ごめんなさい、私の方こそよそ見をしてしまって……………」

 

「あ、そうなんだ。」

クローゼが笑いながら言うと、彼女は納得したようだった。

 

「まったく………エステル、何やってるのさ。」

すると、後からその娘の連れと思われる少年が現れた。彼もまた見たところクローゼと同じくらいの年に見えた。そして彼は、この辺りでは少し珍しい、漆黒の髪をしていた。

そして彼はクローゼに目を向けると、何かハッとした顔をして彼女を見つめた。

 

(………あ、すごい綺麗な瞳………)

これもまた珍しく、彼の瞳は澄んだ金色《アンバー》をしていた。それにクローゼは一時無意識に見とれてしまった。

 

「ヨシュア、どうしたの?」

彼女はクローゼを見つめてぼおっとする彼を見て聞いた。

 

「い、いや……………」

彼は出そうになった言葉を抑え込むように目を伏せてから、

 

「ごめんね、連れが迷惑かけちゃって。どこにもケガはないかな?」

クローゼを気遣って尋ねた。

 

「はい。大丈夫です。私も人を探していて…………それでよそ見をしてしまったんです。」

 

「え、誰かを捜してるの?」

ツインテールの娘は興味ありげに聞いてきた。

 

(えっと、一応聞いてみようかな。)

彼女ももうそろそろ孤児院に戻ろうと思っていたので、ダメもとで聞いてみることにした。

 

「帽子をかぶった十歳くらいの男の子なんですけど…………どこかで見かけませんでした?」

 

「帽子をかぶった男の子…………ヨシュア、どこかで見かけたりした?」

 

「いや、ちょっと見覚えがないな。」

 

「そうですか…………(やっぱりもう孤児院に戻ったのかな?)わかりました。私、これで失礼します。どうもお手数をおかけしました。」

彼女は小さく会釈をしてから、クローゼは彼女らに別れを告げ、マーシア孤児院に戻っていった。

 

 

 

 

 

私は海道を少し急ぎめに戻っていった。もしかしたら、道の途中で出くわすかもしれない。

 

(クラム君、先に戻っていればいいんだけど…………)

もちろん私はクラムの事を心配してはいた。でも、なぜかわからないけれど、さっき出会ったあのお二人のことも何となく気になっていた。

 

(あの二人、旅をしてるのかしら。二人とも私と同じくらいの年に見えたけど…………それにあの人の瞳の赤、どこかで見たことがあるような…………あ、あの人の金色の瞳も印象的だったな……。)

そんな事を考えていると、突然私は今まで感じたことのない奇妙な感情を覚えた。なんだろう。

 

(………………??なんで胸がドキドキしてるんだろう…………疲れたのかな?)

不思議に思いながらもその時は特に気にはしなかった、そしてだいぶ後になるまでその事を忘れることになる。

 

「あれっ、クローゼ姉ちゃん?」

背後から不意に子供の声がした。驚いて振り返ると、クラム君だった。

 

「やっぱりクローゼ姉ちゃんだ。どうしたんだよ。こんなトコで。」

 

「ク、クラム君!?ああ、良かった………。もう、クラム君が突然いなくなるから、みんな心配してたのよ?」

 

「へへ、ゴメンゴメン、ちょっとね。」

クラム君はポケットに手を突っ込みながらニヤニヤした。

 

「でも、無事でよかった。早くテレサ先生にも知らせないとね。あ、そうだ。孤児院に付いたら、久しぶりにアップルパイ焼いてあげるね?」

 

「えっ!やった!クローゼ姉ちゃんのアップルパイは先生のに負けずにうまいんだよなあ。」

クラム君は思わず舌なめずりをしながら言った。

 

「ふふ、おだてたって何も出ないわよ。よし、それなら早く帰って準備しないと。クラム君、急ぎましょう?」

 

「へへへ、は~い!」

 

 

 

 

 

クラム君が途中走ったりしたせいか、私が思っていたよりも早く孤児院に着いた。朝から早速あちこち歩いて疲れちゃった。でもそれより、クラム君の事を先生に報告しないとね。

 

「先生、今帰りました。」

 

「お帰りなさいクローゼ。クラムは見つけられましたか?」

テレサ先生は台所から顔をのぞかせ言った。

 

「はい。ほら、クラム君。先生に謝らないと。」

私が後ろを向いて言うと、クラム君はそろそろとドアの隙間から顔を出した。

 

「せ、先生…………。」

 

「どうしたのですかクラム。そんな所から。」

テレサ先生はいつも通りニッコリ笑っていった。するとクラム君は中に飛び入って、

 

「ご、ごめんなさい。勝手にいなくなったりして。」

おずおずと、言った。テレサ先生はクスッと笑って、

 

「ふふ、クラムったら。私は怒ってなどいませんよ。さあ、上がってらっしゃい。」

優しく言った。すると安心したのか、クラム君の表情はスイッチが切り替わったかのごとくコロッと変わった。子供って、いいな。

 

「へへ、先生!ダニエルたちはまだ起きてないの?」

 

「ええ、でももうそろそろ起きてくると思うのだけれど。」

 

(そっか、う~ん、マリィだけに見せてもつまらないしなあ。)

クラム君はポケットに手をつっこみ、小さく呟いた。

 

「クローゼ姉ちゃん、オイラ、外にいるからさ、ダニエルたちが起きてきたら知らせてくれよ。」

 

「え、ああ、うん。いいわよ。」

 

「じゃあ、頼んだぜ~!」

そう言ってクラム君はバタバタと外に飛び出していった。

 

「そうだ。先生、少し台所を借りてもいいですか?」

 

「いいですけど、何に使うのですか?」

 

「えっと、久しぶりに子供たちにアップルパイを作ってあげようと思って。」

 

「そうですか。では私も手伝いましょうか。」

 

「はい!お願いします。」

 

 

 

 

 

しばらくすると、二階からダニエル君が眠そうに眼をこすりながら下りてきた。

 

「おはよう。ダニエル君。」

 

「あ、おはよう~!クローゼねえちゃん~。」

ダニエル君は私の姿を見るとすぐに駆け寄ってきた。彼はとても性格が人なつっこくて、普段はクラム君と一緒にいることが多い。

 

「あれ、ポーリィちゃんはまだ寝てるのかな?」

 

「うん、起こしたけどまた寝たいみたいだよ~。」

 

「そっか。あ、そう言えば、さっきクラム君がダニエル君のこと呼んでたよ?今アップルパイ作ってるから、その間に遊んできたら?」

 

「わーい!アップルパイだ~!ありがとうクローゼ姉ちゃん!」

ダニエル君が喜んでいると、待っていたようにクラム君が外から顔をヒョイとのぞかせた。

 

「あっ、ダニエル!やっと起きたのかよ?」

 

「うん、さっき起きたばっかり。」

 

「そっか。へへ、ちょっと来いよ。」

 

「えー、なになに?」

クラムの手招きに応じてダニエルが近づくと、クラムはニヤニヤしながらひそひそと耳打ちをした。

 

(見せたいものがあるんだ。外に来いよ!)

 

(う、うん。)

ダニエルはクラムのあとに付いて外に出ていった。

 

(さっきからクラム君、何の話をしてるんだろう。何かを見せたがってるみたいだけど……………)

 

 

 

 

 

クラムが何を見せたがっていたか。クローゼはそれをすぐに知ることになる。それから数分後、

 

(……………っ………!)(………!……………!!)

 

「あら………?」

 

「先生、どうしましたか?」

 

「いやに外が騒がしいと思って。またクラムが何かしたのでしょうか。」

クローゼが家の外の音に聞き耳を立てると、複数の走り回る足音。そして叫び声。

 

(……………放せっ…………放せよっ……!)

 

「!!……クラム君の声…………まさか、誰かに襲われてるとか!?」

私はテレサ先生の方に振り向いた。

 

「先生っ!私、様子見てきます!!」

 

「あっ……クローゼ?」

テレサ先生は何か言おうとしたがクローゼは聞かずに外に飛び出していた。

 

「……クローゼったら、落ち着きのない事。」

 

 

 

 

 

クローゼは外に出て声のした方を見ると、マリィ達が集まっている先……………クラムが何者かに羽交い絞めにされているのが見えた。彼女はギクリとし、慌てた。

 

「た、大変!ジーク!!」

近くの枝で待機していたジークは、急の彼女の呼び出しに驚きながら飛んできた。

 

(どうしたクローゼ。そんな切羽詰まった声を出しちゃって…………)

 

「いいから!クラム君が!!」

ジークはクローゼが指差した方向を見た。

 

(……なるほど、ガキどもが危ないってか。しゃーないな!!)

ジークは枝を蹴って超高速で滑空し突進した。

 

(くらえっ!!)

 

「えっ、わわわっ!」

ジークはクラムを羽交い絞めにしていた何者かの頭上をスレスレで横切り、驚いた彼女は背後に飛び退いた。クローゼはその間に彼女らに近づいて、その何者かに向かって叫んだ。

 

「その子から離れて下さい!それ以上乱暴をするなら、私が相手になりま…………………あら?」

ふとよく見てみると、そこには見覚えのある顔があった。

 

「あ………さっきの……。」

相手もクローゼに気付いて言った。

 

「マノリア村でお会いした…………。」

確かによく見ると、クラムを羽交い絞めにしていたのは村でぶつかったあのツインテールの娘だった。そして少し離れたところにあの黒髪の少年もいた。

 

「やあ、また会ったね。」

 

「あ、その節はどうも……………」

彼はニコッと笑って言う。クラムは彼女がぼおっとした隙を見てクローゼの方に逃げてきて、彼女の服にすがった。

 

「助けて、クローゼ姉ちゃん!オイラ、何もしてないのにこの姉ちゃんがいじめるんだ!」

クラムは泣きそうな声でクローゼに訴えた。すると彼女も、

 

「な、なにが何もしてないよ!あたしの紋章を取ったくせに!」

負けずと言い返した。今度はクラムが小馬鹿にするように鼻を鳴らす。

 

「ヘン、だったら証拠を見せてみろよ。あ、さっきみたいにくすぐるのは無しだかんな。」

 

「うぬぬぬ~…………この悪ガキ!」

 

「暴力オンナ!」

二人は顔を突き合わせて怒鳴り合った。クローゼは何が起こっているのかよく分からず、戸惑った。

 

「え、えっと…………(どういった事情なんでしょうか…………)」

 

(ん~、なんか面倒なことになってるみたいだな。)

 

「あ、ジーク。」

ジークは静かに彼女の肩に乗った。

 

(おい、クローゼ。このままほっといても終わらんぞ。ここは何とかカマかけて終わらせろ。)

 

「えっ、どういうこと?」

ジークはクローゼの耳元でそっと耳打ちをした。

 

「………なるほど。わかったわ。」

クローゼは頷くと、クラムと娘の間に立って二人を引き離した。

 

「ほらほら、二人とも落ち着いて……………クラム君、どちらかと言うとあなたの方が分が悪いんだけど、本当にやってないの?」

 

「うん、当たり前じゃん!だってこの乱暴が姉ちゃんが言いがかりをつけて来たんだよ。」

 

「だ、だれが乱暴な姉ちゃんよ!」

 

「まあまあエステル、落ち着いて。」

黒髪の少年は娘に向かって言った。クローゼは続けて言った。

 

「クラム君、本当にやってないなら、女神《エイドス》様にもそう誓える?」

 

「ち、誓えるよっ!!」

クラムはすぐに答えたが、明らかに動揺しているのが彼女にはわかった。

 

「そう………さっき、バッジみたいなものが子供部屋に落ちていたけど………クラム君のじゃないよね?」

 

「えっ、だってオイラ、ズボンのポケットに入れて…………………あ。」

そこまで言うと、クラムはハッと気づいて口ごもった。

 

「や、やっぱり~!」

 

「見事な誘導だね…………」

 

(ふふ、うまくいったわね、ジーク。)

 

(だろ?アイツ、さっきからポケットに手突っ込んでコソコソしてたから、それでピンときたんだ。)

 

「…………っ~………!」

クラムは悔しそうに唸った。

 

「クラム君、人から物を盗むなんてダメじゃない。ちゃんと盗った物を返しなさい。」

 

「うううう~…………………。わかったよ!返せばいいんだろ!返せば!」

開き直って叫んだクラムはポケットからバッジのような物を取り出すと、乱暴にツインテールの娘に放り投げた。

 

「わわっと………」

 

「フンだっ!あばよっ!」

クラムは急に走り出し、孤児院の外に出て行ってしまった。

 

「あっ、クラム君!」

クローゼは引き留めたが、その時は既にクラムの姿は見えなかった。

 

「…………少し言い過ぎちゃったかな………。」

 

「大丈夫よ。クローゼお姉ちゃん。頭が冷えたら戻ってくるわよ。」

そばで見ていたマリィは心配そうに見つめるクローゼに言った。

 

「お姉ちゃ~ん。アップルパイまだ~?」

 

「あ、もう少しよダニエル君。焼けるのには少し時間がかかるの。」

そうしていると、孤児院の戸が開いてテレサ先生が出て来た。

 

「あらあら、何の騒ぎかと思ったら………。どうやらお客さんが来ていたようですね。」

 

「あ、先生………。」

 

「………ここで立ち話をするのも何ですね。そこのお二人、詳しい話は、お茶を飲みながら伺わせていただけないかしら?」

 

「えっ、いいんですか?」

 

「エステル、ここはお言葉に甘えようよ。」

少々戸惑った彼女を黒髪の少年は促した。

 

「じゃあ、ちょっと失礼します!」

 

「わかりました。クローゼ、お茶の準備をしてくださいな。ジーク君も中にいらっしゃい。」

 

「はい!」

 

(おっ、俺も呼ぶってことはご馳走があるのかな?やったぜ!)

ジークも飛び跳ねて喜び、彼らは孤児院に入っていった。

 

 

 

 

 

クローゼは二人を中に案内し、席に座らせると、紅茶と焼きたてのアップルパイを差し出した。そしてまず二人は自己紹介をしてからゆっくり話を聞くことにした。まずはツインテールの娘が立ちあがって言った。

 

「えっと、私はエステル・ブライトといいます。今は準遊撃士をしているんですけど、正遊撃士を目指してリベール全国を周ってるところです。」

次に黒髪の少年が立ち上がった。

 

「僕はヨシュア・ブライトといいます。僕もエステルと同じく、正遊撃士を目指して王国を旅しています。」

 

「まあ、遊撃士の方々でしたか。通りで身のこなしが軽いと思いました。」

 

「いやいや、そんなことないって。まだ旅を始めてから一、二か月しか経ってないし。」

テレサ院長が感心すると、エステルは照れながら言った。

 

「じゃあ、私も自己紹介します。私、クローゼ・リンツと言います。この近くのジェニス王立学園に通っています。あ、こちらはテレサ先生。この孤児院の院長先生です。」

 

「やっぱり、王立学園の生徒だったんだ。うんうん、やっぱり本物は違うわね!」

 

「えっ?」

 

「いや、ちょっと色々あってね。」

戸惑ったクローゼをヨシュアはフォローして言った。

 

「それにしても、あなたがテレサ先生でしたか。村で噂は聞いています。」

 

「ふふ、それは光栄です。では、エステルさん。クラムが何をしたのか、説明していただけますか?」

テレサ先生はここが肝心とばかりに真剣な顔で尋ねた。

 

「あ、はい。えっと………どこから話せばいいかな?」

 

「僕たちがマノリア村に来た頃ぐらいでいいと思うけど。」

 

「そっか、それじゃあ。あたしたち、北のクローネ峠を越えて来たんですけど……………」

 

 

 

その時私、ちょっとお腹が空いてきちゃって、それでお弁当を買う時にクローゼさんに会ったんです。そして二人でお弁当を食べて、その後…………走ってきたあたしとクラム君がぶつかったんです。

 

 

「あたた……なんだか今日はやたらとぶつかる日ねえ。」

 

「ゴメンゴメン、ちょっと人捜しをしててさ。」

 

 

そして、クローゼさんが帽子をかぶった男の子を捜してたって言ったら、急いで行っちゃったんです。それでヨシュアが……………

 

 

「………気のせいならいいんだけど、エステル、何か失くしてない?」

 

「失くす?何を?」

 

「身に着けているものだよ。財布とかアクセサリーとか。」

 

「何よ、やぶから棒に?財布は………ある。髪飾りも………OK。遊撃士の紋章は………………あれ?」

 

「やっぱりね。」

 

「ええええ!?一体どうなってるの?」

 

「落ち着いてエステル。さっきお弁当を食べていた時には確かに左胸につけていたよ。失くすとすれ

ば…………この場所でしか考えられない。」

 

「で、でも………どこにも落ちてないけど………ま、まさか!?」

 

「多分、さっきの子だろうね。不自然なぶつかり方をしたからもしかしたらと思ったんだけど………。まあ子供が持ってても何の意味もないものだから、イタズラの可能性が高そうだ。」

 

「あ、あんですって~!むむむ……イタズラ小僧、許すまじ!」

 

 

それでヨシュアと一緒にクラム君の行方を探して、何とか孤児院にいることを突き止めました。それから私たち、孤児院に行って………………

 

 

「い、いた……!」

 

 

クラム君は準遊撃士の紋章を他の子に見せびらかしていた所だったんで、捕まえて返してもらおうと思ったら、ついあたし、ムキになっちゃって。それでクラム君を追っかけまわして、ようやく捕まえて紋章の在り処を聞き出そうとした時に、クローゼさんが出て来たんです。

 

 

 

エステルが話し終えると、テレサ院長は困った顔をして、ふう、とため息をついた。

 

「そうですか………そんな事を。あの子も悪気はないのですが、イタズラ好きに加えて無鉄砲で……本当

にすみませんでした。保護者としてお詫び申し上げます。」

そう言ってテレサ先生は頭を下げた。

 

「あは、もういいですよ。紋章もちゃんと戻ってきたし。おいしいハーブティとアップルパイでチャラということで。」

 

 

「でもエステルも、こんな大事なものを取られても全く気付かなかったし、注意力が足りないんじゃないかな?」

ヨシュアはは爽やかに………傍から見たら嫌味とも取れるが………言った。(もちろん、彼に悪気などないのだが。)

 

「ハイ。反省してます…………。」

 

「ふふ、ありがとう。エステルさん、ヨシュアさん。」

テレサ先生は安心したように言った。

 

「でも、本当においしいお茶ですね。ひょっとして表で栽培されているものですか?」

 

「ええ、ハーブの栽培は私の趣味のようなものでしてね。」

ヨシュアが紅茶のカップを持って尋ねると、テレサ院長は嬉しそうに答える。彼女にとってハーブ栽培は昔からずっと続けている、趣味というよりは、日課のようなものだった。

 

「そうなんだ………さっき食べたアップルパイもとてもおいしかったですけど。」

 

「ふふ、あれは私ではなく、この子が作った物なんですよ。」

 

「え、クローゼさんが?」

エステルは驚いて聞き返すと、クローゼは少し恥ずかしそうに答えた。

 

「ええ、恥ずかしながら………あの、先ほどは本当に失礼なことをしました。私、てっきり強盗でも入ったのかと思って…………」

 

「気にしなくたっていいってば。」

申し訳なさげにするクローゼに言うエステル。

 

「あたしもあの子を捕まえる時にちょっと荒っぽくしちゃったし。でも、さすがにその白いタカには驚い

たけどね。」

そう言いながらエステルは窓辺で餌をついばむジークを見た。余程空腹が極まっていたのだろう、一心不乱についばんで食べている。

 

「あ、ジークのことですか?あの子、白ハヤブサなんです。」

 

「白ハヤブサ………確かリベールの国鳥だったね。」

ヨシュアはどうしてか納得したように言った。

 

「彼、よく訓練されているようだけど、君のペットなの?」

 

「いえ、ペットというか……仲のいいお友達なんです。(さすがにホントの事を言っても信じてくれませんよね………。)」

 

「は~、すごい友達もいたもんね。」

エステルは驚きを隠せないようだった。

 

「そういえば、クローゼさんって王立学園の生徒なのにここに住んでるの?」

 

「いえ……私は学園の寮に住んでいます。あまり遠くないので、休日などについ遊びに来てしまうんです。それで色々迷惑をかけてしまう事もあるんですけど…………。」

 

「あらあら、迷惑なんてとんでもない。あなたが来てくれるおかげで、私もずいぶん助かっていますよ。子供たちも喜んでいますしね。」

 

「テレサ先生…………」

 

「でも、こちらに構いすぎて学園生活を疎かにしないようにね。まああなたに限ってそんな心配はないでしょうけど。」

 

「はい、肝に銘じておきます。」

クローゼは苦笑した。

 

「うーん………学園生活か………。そう言うのも一度は経験してみたかったわね。」

エステルはそう言ってしみじみとした。ヨシュアもそれに準じる。

 

「確かに、教会の日曜学校は週に一回しかなかったからね。でも、王立学園の入学試験はかなり難しいって話だけど?」

 

「ふふ、そんな事ないです。遊撃士になる方がはるかに難しいと思いますよ?しかもその若さで…………私の方が憧れてしまいます。」

 

(もぐもぐ……………クローゼも良く言うよ。入学試験よりさらに難しい編入試験を受けたくせに、余裕で受かっちゃうんだからさ。まったく…………もぐもぐ……………謙虚すぎるよ。)

ジークは餌をついばみながらこっそり呟いた。もっともクローゼ以外には何を言っているかはわからないのだが。

 

「テレサ先生、僕たちはしばらくこのルーアン地方で活動することになると思います。もし何か機会があったらお呼びしても結構ですよ。」

 

「そうですか。では、またぜひ遊びに来てくださいな。子供達も喜ぶと思いますし。」

テレサ先生は微笑んで言った。

 

「ありがとうございます。エステル、そろそろお暇しようか。」

 

「そうね。テレサ先生。お茶とアップルパイ、ありがとうございました!また来ますね!」

 

 

 

 

 

エステルさん達は何度もお礼を言って、孤児院を後にした。私は、お二人を孤児院の外まで見送ることにした。玄関を出ると、エステルさんがまず口火を切った。

 

「う~ん、テレサ先生って、あったかい感じのする人よね。」

 

「そうだね、お母さんって感じの人かな。」

 

「ふふ、あの子達にとっては本当のお母さんと同じですから。(あ、そうなると私にとっても先生はお母さんみたいな存在だよね………)」

 

「クローゼさん?どうしたの?」

 

「あ、いえ。」

私は誤魔化すように笑った。

その時、私はある案を思いついた。普段の私ならそんなことは言わないけど、その時の私は、普段の私ではなかったと思う。

 

「そうだ。エステルさんたちはルーアン市に行かれるんですよね?」

 

「ああ、ギルドの支部で転属手続きをするつもりだけど。」

ギルドとは、遊撃士協会が各地に置いている窓口のような物で、遊撃士達の拠点になる施設だ。

 

「私、ルーアンのギルドでしたら何回か行ったことがあります。受付のジャンさんとも面識がありますし、良かったら案内しましょうか?」

 

「わ、いいの?すごい助かっちゃうけど。」

 

「でも、君の方はいいの?すぐに学園に戻らなくて。」

ヨシュアさんは私に尋ねた。

 

「あ、はい。今日一日は外出許可を貰っていますから。夜までに戻れば大丈夫です。」

 

「それなら決まりね!ルーアンに向けてレッツ・ゴー!」

 

「う~ん、相変わらず元気だな、エステルは。」

エステルさんは意気揚々と出発し、ヨシュアさんも彼女の後に付いていった。

 

(ふふ、なんかうらやましいな。)

実際私は本当に羨ましかった。一人っ子だった事と、王族としての立場上、同年代の友達はずっと皆無に近かった私にとって。初めはそれだけだと思っていたのだけれど……………

 

「そうだ。レイピアを持っていかないと。」

私はマリィちゃんが玄関に立てかけておいてくれたレイピアの包みを手に取り、エステルさんとヨシュアさんの後を追った。

 

 

 

 

 

~メーヴェ海道~

 

 

クローゼ達は海道を歩きながら他愛のないおしゃべりを続けていた。そして話題はエステル達がルーアンの隣のボースで解決した事件に移った。

 

「まあ、あの定期船ハイジャック事件を解決されたんですか?」

クローゼは彼らの言葉を聞いて至極驚いた。定期船ハイジャック事件。リベールでは定期的に飛行艇が王国中を回っているのだが、その内の一つ、定期船リンデ号が空賊にハイジャックされるという事件だった。しかし、王国軍と遊撃士協会の協力で無事解決したという。エステルは彼女が驚いたのに対し照れながら頭を掻く。

 

「う~ん、正確に言えば何人も協力してくれた人もいたし、最終的には犯人の空族団を王国軍が捕まえちゃったから、私たちが解決したって言うには程遠いんだけどね。」

 

「でもすごいです。結構学園でも話題になっていたので。そうですか、あの事件を………」

 

「そういえば、空賊たちを捕まえてたあの王国軍のリーダーみたいなのやってた人、颯爽としてたわよね~。いかにもやり手って感じで。」

 

「リシャール大佐のことだね。彼も王都ではうなぎ上りに人気が上がってるって聞いたけど。」

クローゼはその名前を聞いてドキリとした。それは王宮から送られてくる手紙によく登場する名前だった。

 

(リシャール大佐………最近『情報部』を設立して、徐々に城内の発言力が高まってるってユリアさんが手紙で言ってたけど………。ボースにも来ていたんだ。)

その時だった。ヨシュアはその場にぴたりと足を止めた。

 

「……ねえエステル、何か聞こえなかった?」

 

「えっ?何?」

 

「何か悲鳴のようなものが聞こえた気がしたんだけど…………気のせいかな?」

 

「私も、特に何も聞こえませんでしたけど……………。」

 

「ピューイ!」

すると、ジークが慌ただしくやって来、クローゼの肩に乗った。

 

「あ、さっきのハヤブサ。」

 

「きゃっ……どうしたのジーク、そんなに慌てて。」

 

「ピュイ!ピュイピューイ!」

ジークがひどく慌てた様子で何か言っている事は傍からでも見て取れた。すると、

 

「…………えっ!」

突然彼女の顔色が蒼白に変わった。

 

「………ク、クラム君が!?」

 

「ピューイ!」

クローゼは顔から冷や汗が滲み出るのを感じた。

 

「…………そ、そんな!」

 

「ピュイ!」

ジークは一声鳴くとまた元来た方向に飛び去って行った。クローゼは下を向いて小さな独り言をつぶやく。

 

「ど、どうしたのクローゼさん、ずいぶん慌ててるみたいだけど。」

 

「……………クラム君が。」

 

「えっ?クラム君って、さっき外に飛び出して行った………?」

 

「すみません、エステルさん、ヨシュアさん!私ちょっと失礼します!!」

そう早口に言うと、クローゼはさっきジークが飛び去った方向へ海道を走って戻って行った。

 

「あっ、クローゼさん!?」

エステルが声をかけるも、彼女は振り返りもせずにそのまま走っていった。急な出来事に、エステルは首をかしげる。

 

「………どうしたんだろう。何かあったのかな?」

ヨシュアはしばらく黙って考え込んでいた。が、ふと口を開いた。

 

「エステル。僕たちも後を追うよ。もしかしたら…………」

 

「もしかしたら?」

 

「………僕たちの力が必要になるかもしれない。行こう!」

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