白き翼の物語~Trail of klose ~   作:サンクタス

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第二十一話~二度目の意変~

エステルさんがあまりにも乗り気だから、私達はまっすぐ王立学園に向かう事になった。

王立学園に着くとまだ学園は授業中だったので、まずはエステルさん達を学園長先生に紹介した。お二人が学園祭に出演する予定なのを伝えると、喜んで賛成してくれた。そうこうしているうちに授業終了のチャイムが鳴り、私はお二人を早速ジル達に紹介することにした。

 

 

 

~王立学園・クラブハウス二階、生徒会室~

 

私は生徒会室のドアを軽く二回ノックし、中に入る。

「ただいま。ジル、ハンス君。」

 

「あ、クローゼ!?」

ジルとハンス君は私の姿を見ると、相変わらず山のように積まれた仕事の手を止めてこちらに駆け寄ってきてくれた。

 

「火事の話、聞いたわよ。大変だったそうじゃない。」

 

「院長先生とチビ達は大丈夫だったのか?」

もう、知ってたんだ。多分学園長先生から知らせてくれたんだろう。ありがとう。心配してくれて。

 

「ええ……一応は。ただ、孤児院の建物が完全に焼け落ちてしまって……………」

 

「そうか…………」

ハンス君が呟き、一瞬、場の空気が重たくなりかけたのだけれど、それを祓うかのようにジルが私の肩を軽く叩き、

 

「元気出しなさいよ。悩んで至って仕方ないわ。チビちゃん達が楽しめるように、学園祭を成功させないとね!」

彼女らしい、朗らかな声で言った。

 

「う、うん。テレサ先生にもそんな風に注意されちゃった。だから、全力を出すつもり。」

 

「ふふふ、期待してるわよ。ところで……………」

ジルは私の背後に目を遣った。

 

「その人たち、どちら様?」

 

「はじめまして。あたし、エステルっていうの。」

 

「ヨシュアです。よろしく。」

二人が自己紹介すると、ジルは随分と驚いた顔をした。

 

「それじゃ、あんた達がクローゼの言ってた……………!」

 

「ふふ、ちゃんと連れてきたわ。二人とも協力してくださるって。」

私がそう言うと、ジルはまた嬉しそうに笑ってガッツポーズまでした。

 

「いや~、さすがクローゼ!ありがとう。助かったわ。フフフフ…………これで私の計画も成り立つというもの…………。」

 

(ちょ、ちょっとジル、声が大きいよ。)

 

「(はいはい、わかってますって。)はじめまして。エステルさん。ヨシュアさん。私、生徒会長を務めているジル・リードナーといいます。今回の劇の監督を担当してるわ。」

 

「俺は副会長のハンスだ。劇の脚本と演出を担当しているんだが………このジルが横から散々口を出すせいでほとんど仕事がない状況だ。よろしくな。お二人さん。」

 

「うん、こちらこそ。」

 

「よろしくお願いします。」

そんな風に一連の挨拶が終わると、ジルはヨシュアさん達をまじまじと見つめた。

 

「うーん、どちらも申し分ないわね。まずエステルさん、剣は使える?」

 

「まあ、それなりには。父さんに習ったこともあるし。」

 

「よっしゃ。これで決まりね。あなたには、クローゼと剣を使って決闘してもらうわ。」

 

「け、決闘!?」

 

「もちろんお芝居で、ですよ。エステルさん。」

実際劇で何をやるのかまでは事前に知らせなかったので、決闘、と聞いて、さすがのエステルさんも驚いたみたいだった。

 

「クライマックスに二人の騎士の決闘があるのよ。劇の終盤を彩る迫力のあるシーンなんだけど、クローゼと勝負できるくらい腕の立つ女の子がいなくてね。」

 

「それは僕らも見てて知ってます。確かに彼女ぐらい実力のある人はあまりいないと思いますよ。」

 

「よ、ヨシュアさん…………あの、あくまでも学生レベルの話ですから…………」

 

「またまた、謙遜しちゃって。でも、そういうことなら協力できるかも。頑張ろうね、クローゼさん!」

 

「はい。よろしくお願いします。」

 

「はは、それにしても…………女騎士たちの決闘なんて、なかなかユニークな内容だね。」

ヨシュアさんは笑いながら言ったけど、多分、数分後には…………

 

「フフフ、よくぞ聞いてくれました。それにしても、ヨシュアさんの方はホント文句のつけようがないわね~。期待してもいいんじゃない?」

 

「ああ、悔しいが同感だぜ。」

 

「???」

ジルとハンス君は勝手に納得していたけれど、もちろんヨシュアさんは何のことだかわからなかった。

 

「えっと、どういう事?」

 

「じゃあ、早速衣装合わせに講堂に行きましょ。詳しい話はそこで…………」

そう言って、ジルはまたあの企み顔で二ヤっと笑った。

 

「な、なんかイヤな予感がするんですけど………………」

 

(ご、ごめんなさいヨシュアさん……………)

私は心の中でそう呟いた。

 

 

 

 

 

「なるほどね~、そういうことなの。」

私は講堂に向かう途中、エステルさんに劇の事………劇の内容や配役、そして、ジルの思いつきで、男女の役をそれぞれ入れ替えることになった事………を話した。もちろん、ヨシュアさんの役の事も。

 

「でも、うん。確かに面白そうかも。男女が役を入れ替えるなんて。」

 

「私も聞いたときは驚きました。でも、私達はいいとしても、ヨシュアさんが気の毒です………。」

 

「あはは、まさかあのヨシュアが女装することになるとはね。それも、『お姫様』なんかに。うーん、どんな風になるのか、楽しみかも!」

た、確かに私も、楽しみでないといえば嘘になるけど………ヨシュアさんに悪い気がするから大きな声では言えない。

 

「ところで、当のヨシュアとジルさん達は?」

 

「あ、先に講堂に行っちゃったみたいです。着替えるのに時間がかかりそうらしいので。」

 

「ま、ヨシュアのことだから、散々文句つけてなかなか着替えなさそうだものね~。」

 

(おー、やっと帰ってきたか。)

空からやってくる一つの影。ジークだった。そう言えばこの数時間姿を見なかったな………

 

「ジーク、どこ行ってたの?あなたが私から離れるなんて珍しいけど。」

 

(前にも言ってなかったっけ?お、俺は、ニンゲンが苦手なんだ。)

彼はそう言って私の腕に乗った。

 

「また、心にもないことを言って。そんなことないでしょ?」

 

「ジークじゃない!元気だった?」

エステルさんは仲良くなろうとして愛想良く笑うが、ジークにとってはなぜか逆効果だ。

 

(フン、お前になんか心配される義理はねえ。というか何でお前がここにいるんだ?)

 

「そっか、ジークは聞いてないものね。あのね、エステルさんとヨシュアさん、学園祭の劇に出ることになったのよ。」

私がそう言った途端、ジークはいきなりボトッと地面に転げ落ちた。

 

「ど、どうしたのジーク!?だ、大丈夫?」

 

(い、今、何て言った?コイツが、劇に出るだと?)

 

「う、うん。そうだけど…………」

 

(何イイイイイイイイ!!)

 

「な、なんか言ってるみたいだけど…………」

 

「な、なぜかはわかりませんが…………ジーク、エステルさん達が劇に出られるのがショックだったみたいです。」

 

(………な、何でだ……なんでコイツが出られるんだ……………はあ。俺も初めっから人間に生まれればよかったなあ…………そしたら…………)

ジークはボソボソと呟いた。それって、もしかして。

 

「ジーク、劇に出たかったの?」

彼は、コクリと頷いた。

 

「…………………。」

 

(な、なんだよ。悪いかよ。)

 

「いや、意外だな、って思って。ふふ、ここに来てから、ジークの色んな面が見れて嬉しいな。やっぱり、ここに来てよかった。」

 

(……………それ、何かバカにしてねえか?)

 

「え?そんな事ないよ?」

 

「えっと、クローゼさん?」

エステルさんが済まなそうに言った。ジークの言葉はエステルさんには分からないから、手探りで話を切るタイミングを見計らっていたようだ。

 

「そろそろ行ったほうがいいんじゃない?ジルさん達を待たせてもアレだし。」

 

「あ………ご、ごめんなさい。ジーク。私達もう行かなきゃいけないから。またね。」

 

「…………ん、ああ、わかった。またな。」

その時、ジークが何か考え事をしているように見えたのだけれど、私は特に気にはしなかった。後で思えば、もう少し気にしていれば良かったかもしれない……………。

 

 

 

 

 

~王立学園・講堂~

 

 

 

クローゼとエステルは講堂の中で待っていたジルと合流し、早速舞台衣装を合わせてみた。役は騎士ということで、エステルは鎧でも着るのかと思っていたようだが、実際は王室親衛隊の制服をアレンジしたもので素材は普通の衣服と同じであり、安心したようだった。

 

「ふーん、思ってたより動きやすくていいわね~。クローゼさんはショートだし、騎士ってのにハマリ役って感じがするけど。」

 

「ふふ、ありがとうございます。エステルさんもとても良く似合ってますよ。」

 

「えへへ、そうかな?」

これはクローゼも後で気づいたことだが、彼女の衣装は青、つまりオリジナルの親衛隊の制服と同じ色だったので、まるで本物の王室親衛隊のようだった。もしその姿をユリアが見ていれば、その立ち振る舞いから自分の生き写しのように思われたかもしれない。

 

「一応確認しておくけど、クローゼの役は、平民の『蒼騎士オスカー』、エステルさんの役は、貴族の『紅騎士ユリウス』よ。」

 

「なるほど。だから服が色違いなんだ。じゃあヨシュアは……………」

 

「二人の騎士の身を案じる、王家の『白の姫セシリア』だ。」

そこでハンスが待ち構えていたかのように言った。

 

「ささ姫、どうぞこちらへ…………。」

彼は恭しく幕の裏の人物の手を引く。

 

「ちょ、ちょっと待った。まだ心の準備が……………」

 

(ヨシュアのお姫様姿か………どんな風になったのかな。)

 

(もしこのままだと、あの姿のヨシュアさんに、私は……しなければ………)

 

(フフフ………これが私の狙い通りに行けば、間違いなく各方面からウケを取れることは間違いないわね………そしてクローゼの方も………さて、どうなった?)

 

それぞれの思いを胸に秘めながら、彼女らはヨシュアの登場を固唾を飲んで待ち構えた。ハンスが誰かの手を引いて出てくると、三人は思わずゴクっと息を飲んだ。そしてついに、彼が姿を現した。

いや、その姿だけを見れば、彼女、と呼んだほうがいいように思えてしまう。なぜなら、ハンスに連れられ舞台に引き出されたのは、長く伸ばした漆黒の髪を纏い、それに対照的な純白のドレスを着、頭に小さなティアラを載せた人物だったからだ。それは誰から見ても、本物の王族であるクローゼから見ても、まさしく本物の姫君そのものだった。その御姿を見たクローゼらは………………

 

「……………………。」

 

「……………………。」

 

「……………………。」

唖然として見ていた。ただ、ひたすらに。

 

「あの………頼むから何か言って……………このまま放置されるのはちょっと辛いものがある………」

セシリア姫、いや、ヨシュアは、羞恥心のため普段より二、三倍小さな声で訴えた。流石に可哀想に思ったのか、エステルがまず話しだした。

 

「いやぁ、なんというか………ゼンっゼン違和感ないわね~。」

 

「びっくりしました。はぁ、すっごく綺麗です……………。」

クローゼは言ったが、それはあながち嘘や世辞ではなかった。クローゼでなくとも、ヨシュアがこの姿で街中を歩いたとしたら、目を留めない者は両性合わせてもいないだろう。それほどヨシュアの姿は型にハマっていた。正に、絶世の美女である。

 

「うんうん、自信持っていいぞ。事情を知らずにあんたを見たら、俺、ナンパしちゃいそうだもん。」

そう言ってハンスはヨシュアの肩をポンポンと叩いた。

 

「正直な感想、ありがとう。全然嬉しくないけど…………」

 

「ムフフ………本当に私の狙い通りになってくれたわね………これなら劇が盛り上がること間違いなし………それじゃあ、みんな、一致団結して最高の舞台にするわよ~っ!!!」

そして、ヨシュアだけが何とも言えない悲しげな呻き声を上げる中、ジルを初めにした四人は勝どきの声を上げるのだった。

 

 

 

 

 

~王立学園・女子寮の一室~

 

エステルさんとヨシュアさんは、学園祭の日まで学園に寝泊りすることになった。学園長先生が、街と学園を毎日行き来するのは大変だろうと、学園の寮を使用する許可をくれたのだ。夜になって、私とジル、そしてエステルさんは離れにある女子寮へ、ヨシュアさんとハンス君は男子寮に、それぞれ分かれて行った。

 

「では、エステルさんは手前のベッドを使ってください。」

 

「サンキュ。っていうか、クローゼさんとジルさんって同じ部屋なんだ。道理で仲がいいわけね。」

 

「ふふ、学園に入って以来の仲です。たくさんケンカなんかもしましたけど……………学園の中では一番仲良くさせてもらってます。」

 

「ルームメイトにして、腐れ縁ってとこかしらね。」

 

「ふーん。」

腐れ縁、か。でも、そう考えると、ジークの事も言ってみれば腐れ縁みたいなものだよね………。

 

「ところで、エステルさん。一つ提案があるんだけど…………」

 

「なに?ジルさん。」

 

「その、ジルさんっていうのがね………できれば、私のこと、ジルって呼び捨てにしてくれるかな?さん付けされると、なんかムズ痒いのよね~。代わりに私も、エステルって呼び捨てにさせてもらうから。」

 

「あはは………うん、そうさせてもらうわ。」

 

「あの、でしたら私の事もどうか呼び捨てにしてください。その方が自然な気がしますし………。」

 

「そう?だったら遠慮なく………ジル、クローゼ。しばらくの間よろしくね!」

 

「はい、こちらこそ。」

ヨシュアさんにも、後で言っておこうかな。できればヨシュアさんにも呼び捨てにしてくれた方が私も……………あ、いけないいけない。私ったら、また変なことを考えて……………。

 

「まあ、女所帯だし、気軽に過ごしててもいいわよ。建物の中にいる限りは男子の目も気にしなくていいし。」

 

「だからといって、だらしがないのは感心しないけど。」

私がつっこむと、ジルはあからさまにため息をついた。

 

「はあ~、これだからいい子ちゃんは困るのよね。カマトトぶっちゃってもう。」

 

「あ、ひどい。そんな事を言う子にはお菓子焼いてもあげないから。」

 

「あ、うそうそ。クローゼ様。私が悪うございましたです。」

 

「だーめ。反省しなさい。」

 

「……………………。」

私達のそんなやりとりを、なぜかエステルさんが羨ましがるような、そんな目で見つめているのにふと気づいた。私達にとってはごく普通のやりとりだったのだけれど、何かエステルさんの気に障るような事を言ってしまったのだろうか………。

 

「エステルさん………どうかしましたか?」

 

「そうよエステル。まじまじと見つめたりして…………。」

 

「あはは、いやあ~、なんだかうらやましいなって。」

 

「うらやましい?」

 

「あたしもロレントに仲のいい友達はいるけど、せいぜいお互いの家にお泊りするだけだったのよね。こんなふうに、気の合う友達と一緒に暮らせていいなって思って。」

 

「……………………。」

 

「……………………。」

 

「な、なに?二人とも。顔を見合わせて……………。」

こうまで言われてしまうと…………エステルさん。あなたの方がうらやましいです。

 

「………クローゼ、どう思う?」

 

「どうって言われても………エステルさんに羨ましがられるのはちょっと納得がいかないような………」

 

「へ?」

何言ってるの?とでも言いたそうな顔でエステルさんは聞き返した。

 

「やっぱり、クローゼもそう思う?何言ってやがるんだこのアマは、って感じよね。」

 

「な、なんで!?」

エステルさん……………私も人の事言えませんけど、鈍いですね…………。

 

「エステルさん…………自分が誰と一緒に旅をしているのか、わかってますか?ロレントのエステルさんの家では、ひとつ屋根の下で暮らしていたんですよね?」

 

「え…………そ、それって、もしかしてヨシュアの話?」

 

「もしかしなくてもそうですよ。(本当に気づいていなかったんですね………ヨシュアさんの気持ち。)」

 

「あんな上玉の男の子といつも一緒にいるくせに女所帯を羨ましがるとは…………もったいないオバケが出るわよ?」

ジルがちょっとからかうように言うと、エステルさんは軽く笑った。

 

「も~、何言ってるかなあ。ヨシュアは私の兄弟みたいなものだってば。何年もの間、家族同然に暮らしてきたんだから。」

 

「ほほう~、家族同然ね…………あんたがそのつもりでも、ヨシュア君の方はどうかしら?」

 

「え。」

ま、まずいかもしれない。ジルが悪乗りした時の顔になってる。これは早く止めたほうが……………

 

「あの年頃の男の子って抑えがきかないって言うし。まして、あんたみたいな健康美あふれる子がそばに居たら色々と辛かったりして……………」

 

「……………………。」

 

「もう、ジル!………ごめんなさい、エステルさん。ジルってば、興が乗ると人をからかう悪グセがあるんです。」

 

「ぶーぶー、悪グセってなんだよ~。」

 

「何か文句でも?」

 

「や、滅相もないっす。」

もう、すぐに調子に乗るんだから。おかげでエステルさんが……………

 

「あ、あはは~。も~、ビックリさせないでよ。そんな、まさかねぇ。ヨシュアが………だなんて………。」

やっぱり。エステルさん、ついに気づいてしまった…………

 

「意識してる。意識してる。」

 

「ジル!」

 

「おっと、忘れてたわ。寝る前に日報を先生に提出しなきゃ。」

ジルはいそいそと日報を手に取り、入口のところで振り向いた。

 

「それじゃ、おやすみ。先に寝ちゃっていいわよ。」

そう言って、さっさと出て行ってしまった。もう、散々言って逃げられてたまるもんですか。

 

「まったくもう……………あの、エステルさん、私も少し外に出てきますから。パジャマは、私のでよかったら貸しますけど……………」

 

「…………………。」

 

「あの、エステルさん?」

 

「ふえっ!?」

エステルさんは飛び跳ねるんじゃないかってぐらいに驚いた。よく見ると、あからさまに顔を赤らめている。まだ、さっきの事が頭から離れないのだろう。でも、逆の立場だったら私も…………だ、だって、あんなことを言われたら、嫌でも気になっちゃいますよね……………。

 

「あ、ああ、パジャマね。うん。なんでもいいから貸して。」

 

「わかりました。私のタンスから出して使ってください。では、私はこれで。おやすみなさい。エステルさん。」

 

「う、うん、おやすみ。」

 

 

 

 

 

私が寮から出て、本校舎に向かおうとした時、ちょうど校舎から出てくるジルと出くわした。

 

「ジル!」

 

「あれ、クローゼ、どうしたの?先生に用事?」

 

「そんなことじゃない。どういう事?エステルさんをけしかける様な真似をして。」

 

「けしかける?私はそんな事なんかしてないよ?」

彼女はとぼけた顔で答える。

 

「誤魔化さないで!さあ、理由を話してちょうだい。何であんな事したの!?」

私が問い詰めると、ジルはおかしそうにクスクスと笑った。

 

「うふふ、クローゼさん。あなたはどうしてそんなにムキになっているのかな?」

 

「え……………。」

 

「だってそうじゃない。私がエステルさんをけしかけたって、クローゼが困ることなんてないじゃない。それなのに、どうして自分の事みたいにしてそうやって怒ってるのかな~って。」

 

「わ、私は、怒ってるわけじゃない!ただ…………私は…………ヨシュアさんが……………。」

 

「わかってる。わかってるって!」

私が口ごもって、ジルは私の肩を持ってポンポン叩いた。

 

「ジル。また私の事からかったわね?」

 

「いや~、ゴメンゴメン。でもね、これも私の作戦なのよ。」

 

「さ、作戦って……………」

 

「あのね、恋ってのわね、逆境になればなるほど燃え上がるのよ。『ライバル』が必要なの。そしてついに、クローゼの前に強大なライバルが立ちはだかったのよ!」

ジ、ジル…………一体どこまで暴走すれば気が済むの………?

 

「うん、ますますいい感じのシチュエーションになってきたわね~…………恋の三角関係、か。う~………盛り上がってきたあ!」

 

「ちょ、ちょっと。なんでそこでジルが盛り上がるのよ。」

 

「クローゼ!私、応援してるからね!後はクローゼの頑張り次第。学園祭の日までに勝負決めちゃいなさいよ~!」

 

 

 

結局、この数日間はジルに振り回されっぱなしだった。でも、そのおかげでエステルさんの気持ちが確認できたのは不幸中の幸いとも言えるかもしれない。もし、エステルさんが本気でヨシュアさんの事が好きだったら(多分間違いないと思うけど。)、私がお二人の間に入ることはできるのだろうか。ヨシュアさんに、私の気持ちを伝える事は……………出来るのだろうか?

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