白き翼の物語~Trail of klose ~   作:サンクタス

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第二十四話~祭りの最中で・前篇~

学園祭の開催を知らせる放送と同時に、正門が開き、たくさんのお客さんがどっと学園内に入ってきた。それを見て、学園祭レベルの人の数ではない、とお二人は驚いていた。確かに去年と比較してみると少しお客さんが多いみたい。私達はジル達と別れると早速見物を始めた。

 

 

 

 

 

~本校舎二階・社会科教室~

 

「はふう~………。」

私達のクラス、社会科教室の見物を終えて出ると、何故かエステルさんが突然肩を落とした。

 

「ど、どうかしましたか?」

 

「いや~、あたしって、ああいうトコ苦手なのよね~。」

社会科コースでは、ルーアン市の歴史・風土・経済など様々なジャンルについて調査・研究し、パネル展示という形で発表した。私もある程度の知識はあったし、学園に資料もたくさんあったので事細かく調べられて、私としては良い展示になったと思う。でも、エステルさんには合わなかったみたいですね………。

 

「はあ、たまには君もこういう物に興味を持とうよ。遊撃士だって色々な知識を必要とする事は多いんだから。」

ヨシュアさんは困ったようにエステルさんを見る。それはエステルさんにとって泣き所なので、むぐっ、と言って黙りこくった。

 

「ま、まあまあ。今は仕事の話は抜きにして、学園祭を楽しみましょう?」

 

「そうそう!クローゼの言うとおり!ほら、あっちとか面白そうよ。」

空気が気まずくなったら良くないと思って私が救いを出すと、エステルさんはコロッと元気を取り戻し、隣の教室を指差す。こういう切り替えの速さは、私も見習わないと………。

そしてヨシュアさんはやれやれと小さく呟きながら、ふふっ、と笑った。

 

「うん、それもそうか。それじゃ行こうか。二人とも。」

 

「おー!」

 

「はい!」

 

 

 

 

 

~本校舎二階・自然科教室~

 

ここでは導力器《オーブメント》についての展示を行っていた。オーブメントの構造・機能から導力革命の事まで細かく調べたパネル展示や、本物の(ツァイス中央工房から借りてきたらしい。)導力演算器もあったりして、来場した人からのウケも良いように見えた。そして何よりも目を引くのが………狭い教室に似つかわしくない程スペースを取っているこの何かの端末の様な機械だった。上の方に小さなモニタが取り付けられている。

 

「………占いマシーン?」

エステルさんは隣の説明書きを見て興味を持ったようだ。案内の生徒に話を聞くと、異なる二人の名前と誕生日を入力するだけでその二人の相性がわかるという物らしい………本当だろうか?もちろん遊び程度の代物だとは思うけど…………。

 

「ふ~ん、楽しそうだね。どう、二人とも。やってみる?」

 

「え。これ、を…………?」

思った以上に興味を持ったヨシュアさん。でも、エステルさんはその言葉で凍りついた。

 

「あ……えー、で、でも、あ、あたしは後でいいよ。クローゼとやってみたら?」

 

「え、ええっ!で、でも、エステルさんを差し置いて私が先なんて………やっぱりエステルさんがお先に……………。」

 

「い、いいわよ、気にしなくたって~。」

私とエステルさんで互いに押し付け………譲り合っている中、

 

「あ~、二人とも?」

ヨシュアさんが間に入る。

 

「気を遣ってくれるのはありがたいけど、僕はどっちが先でもいいよ?好きな方からやればいいさ。」

そして……………いつものキラリとする笑顔。

 

「……………………。」

 

「……………………。」

こんな状況じゃなければ私達の反応もちがったかもしれない。けれど今、その笑顔はその場にヒヤリとした空気を呼び込んだだけだった。ヨシュアさん…………鈍感。

ヨシュアさんも私達の冷たい目線に気づいたようで、また誤魔化すように笑う。

 

「………え、えっと、何か気に障ること、言った?」

 

「ううん、ぜ~んぜん!」

 

「はい。何でもないですよ?」

 

(二人とも、顔が笑ってないんですけど…………。)

ヨシュアさん…………全部とはいかなくても、少しは察してくださいよ……………。

 

 

 

結局、初めはエステルさんとヨシュアさんでやってみる事になった。ヨシュアさんは全く気付いていないけど、エステルさんは顔を耳まで真っ赤にしながら端末にデータを打ち込んだ。

 

『《エステル・ブライト》七耀暦1186年8月7日生まれ………《ヨシュア・ブライト》七耀暦1185年12月20日生まれ………』

端末が喋るのを聞いて初めて、私は私達の中では一番ヨシュアさんが年上だということに気がついた。今思えば、ヨシュアさんの方が明らかに大人びているのに、何でエステルさんの方が年上だと思ったんだっけ…………?ちなみに私の誕生日は10月11日なので、私が一番年下という事になる。

 

『ピピピ………解析中………解析中………』

無機質な合成音が流れる。逆にそれはエステルさんと私の感情を昂らせた。

 

『………解析、完了………』

 

「で、出た…………。」

端末の音声にエステルさんはビクッとする。

 

「結果はどう出るんだろう。紙でも出てくるのかな?」

 

「いえ…………どうやら向こうが喋ってくれるみたいです。」

すると、モニタにドット絵の顔が映し出され、喋り始めた。

 

『………今日の二人は非常に行動的です。相手や自分にやりたい事があれば一緒にチャレンジする絶好の機会と言えるでしょう。ただ、あまり相手に自分の意見を押し付けすぎないように気をつけなければいけません。とにかくお互い相手の気持ちを第一に考える事が大切です…………』

一通り言ってから、電源が落ちた。すごい。本格的だ。

 

「へえ~、なんだか色々言ってたけど………結局どーゆーコト?」

 

「大した事は言ってないけど、まあ、良好って事じゃないかな?良かったね、エステル。」

 

「…………アンタが言うか?」

エステルさんはまたさっきの引いた目でジトッと睨む。

 

「えっ?」

 

「な、なんでもないっ!(まったく、ホント鈍いんだから………。)」

未だにエステルさんの態度の意味が理解できていないヨシュアさんは、今度は私に視線を向ける。

 

「えっと、よく分からないけど………次クローゼ、やるかい?」

 

「………あの、本当にいいんですか?」

 

「構わないよ。と言うか、そんなに気を使う事ないよ?さっきも言ったけど、僕は誰が相手でも気にしないから。」

だから………そういう問題じゃないんですって………。

 

「………わかりました。やります。」

ずっと後にヨシュアさんに聞いた事だけれど、その時の私の声は相当機嫌が悪そうに聞こえたそうだ。確かにその時は、私は無性に腹が立っていたと思う。

 

『《クローゼ・リンツ》七耀暦1186年10月11日生まれ………《ヨシュア・ブライト》七耀暦1185年12月20日生まれ………』

私は黙ってデータを打ち込む。でも、内心は恐かった。大した結果は出ないことは分かってはいるつもりだけれど、もしその結果が悪かったら………逆に、とても良かったりなんかしたら………どうしよう?

 

『ピピピ………解析中………解析中………解析、完了。』

 

 

どんな結果だったかは、あえて言わないことにする。

 

 

 

 

 

その後も、他のコースの出し物を見物したり、売店でアイスクリームを食べたりした。ある程度の箇所を回って、また最初から見てみようかと思っていたら、エステルさん達はお客さんの中に知り合いを見つけたようだった。

 

「あれ?、あれってナイアルじゃない?」

 

「ああ、そうだね。彼も招待されたのかな?」

お二人はお客さんの一団を指差した。

 

「ナイアルさん………ですか?」

 

「あ、クローゼは知らなかったよね。あたし達が準遊撃士になった時の最初の依頼人なの。お~い、ナイアル~!」

エステルさんが手を振ると、向こうも私達に気づいたようで、こちらに歩いてきた。

 

「おお、お前らも来てたのか。どうだ、遊撃士の仕事はうまくいってるか?」

彼………ナイアルさんは、正直言うと、マトモな人には見えなかった。だって、自分の服装にはあまり気配りがないし、無精髭を生やしてタバコをくわえながらブラブラと歩いてくるし……………エステルさん達がいなかったらあまり近づきたくない人に見えたからだ。

 

「うん、バッチリよ!」

 

「ナイアルさんもお元気そうでなによりです。ボースの空賊事件の時以来ですね。」

 

「あの時はお前たちに助けられちまったな。あの記事の反響がすごくてもうバカ売れ!特にリシャール大佐と情報部の活躍を取り上げた記事が大反響でな。」

彼は見るからに嬉しそうに話す。そして、またその名前が出た。リシャール大佐…………そんなに人気があったんだ。

 

「ところで、ここには取材ですか?」

 

「ん、それもあるんだが………。」

ナイアルさんはそこまで言って言葉を飲み込んだ。

 

「わかった。また何かスクープを追ってるんでしょ。」

 

「シーッ!エステル、お前声が大きいぞ。」

 

「そんなに聞かれたらまずいことなんですか?」

ヨシュアさんが言うと、ナイアルさんは二人を手招きし、コソコソと耳打ちした。

 

「………大きな声では言えねえが、今俺はある人物を追っている。相手が相手なんでなかなか手出ししにくいんだが、相当デカイスクープになることは間違いねえ。」

耳打ちしているはずなのに、声が大きいせいでここまで丸聞こえだった。

 

「へええ~、ナイアルも頑張ってるのねえ。」

 

「では、次のリベール通信を楽しみにしていますよ。」

 

「まかせとけ!きっとお前たちの腰を抜かせてやるからな!」

そう言ってその人はまた人ごみの中に戻っていった。

 

「えっと、ヨシュアさん。あの人はもしかして、リベール通信社の方でしょうか?」

 

「そうだよ。ボースの空賊事件で色々あってね。」

 

「顔はグレてるっぽいけど、結構いいヤツなのよね~。」

記者の人だったんだ。写真を撮られたら困るけど、あの人は特に会っても問題はないかな。話を聞いてる限りは。

 

「あ、メイベル市長もいる!ちょっと挨拶に行ってこようかな。クローゼも来る?」

 

「えっ、わ、私は……………」

メイベル市長といったら、若くして地方都市の一つ、ボース市の市長になった女性だろう。うーん、あまり表立った人に会うのはよくないかもしれない。

 

「あの、遠慮しておきます。」

 

「そう?じゃあ私達だけで行ってくるわ。」

 

「また後でね。クローゼ。」

 

「は、はい。」

 

 

 

 

 

「エステルさんとヨシュアさん、ボース市の市長とも知り合いだったんだ。」

人の波の中に去りゆくエステル達の背中を見て呟く。

 

「少しだけ意外だったけど、遊撃士という仕事をしていればそういう所にも関わっていくことになるんですよね。遊撃士という、人の生活や命にも関わることもあるような大きな責任を背負って、頑張っているんだ。お二人は。」

じゃあ、私は?と自問する………クローゼの脳裏に心の深みに沈めていた『責任』が、フラッシュバックする。

 

(………城の公式的な行事にも参加しようとせず、城の奥にひきこもり、挙げ句の果てに身分を隠してまでして王立学園に入学し、ただの一学生として毎日を送っている。そんなの、次期女王候補という大きな責任からの逃避。そう、責任逃れに他ならない。)

その場に立ちすくむクローゼに目を向けるものは誰もいない。周囲の喧騒は、俯くクローゼを覆い隠す。

 

(本当だったら、ここに来るときは本名を名乗るべきだった。クローディア・フォン・アウスレーゼとして、ここに在るべきだった。それなのに私は、クローゼ・リンツとしてここに来てしまった。初めは、王族という立場から離れて、自分の意志で生きていきたいと思っていた、でもそれさえも、逃げだったんだ。余計な差別意識を生まないため?………違う!!それだって逃げだ。ジルやハンス君の様に、仲良くしてくれた人はもっといたはずなのに……………。

ずっとそうだ。私はずっと逃げ続けていたんだ。それこそ、王族という立場を利用した、逃避。私は気づいていたはずだ。何度も改める機会はあったはずだ!

あの時………お祖母様から王位のことについて聞いてから今まで二年間、私はずっと放置し続けた。私がこれまで生きてきた時間はいったい、何の意味があったんだろう……………)

 

「よう、元気か?クローゼ君。」

 

「え……………。」

唐突に声をかけられビクッとする。振り返る意味もなかった。クローゼの目の前には、ジェイルが立っていた。相変わらず彼の髪は真っ白で(もちろん突然色が変わるわけはないが)肩まで伸ばしたそれは柔らかく吹く風にたなびいていた。

 

「は、はい。すみません。ちょっと考え事をしていて…………ジェイルさんはどうですか?昨日はよく…………」

 

「ああ、よく眠れた。」

彼は私の質問を事前に察知して即答する。

 

「ところで、こんな人ごみの中で一人で考え事をするなんて、どうしたの?」

ジェイルは妙に軽い口調で彼女に話しかけた。彼女には心なしか、昨日よりも彼の口調が軽くなっている気がした。

 

「あ、えっと、それは……………。」

クローゼがなんとかうまい言い訳を考えていたその時、彼女の目にあまり芳しくない人物が映った。ソレは人混みをかき分けノシノシとやってくる。

 

「フィリップ!ここにはドーナツを売ってはおらんのか!」

 

「申し訳ございません閣下。他の物にも探させましたがどうやらここにはないようで…………。」

人目をわきまえない尊大な声。そしてそれに応える謙虚な老人の声。彼女にとっては間違えようがない物だ。デュナン公爵とその執事フィリップだった。多分、学園長から招待されたのだろう。呼ばない訳には行かなかったのだろうが、公爵の態度、言動、存在自身があからさまに浮きまくっていた。

(小父様、またフィリップさんを困らせているみたい。本当に、困った人ですね………。)

 

「ええい、わしら王家の者が資金を出してやっている施設というのに、王族のわしにドーナツ一つ用意しないとは何事か!フィリップ!今すぐ作らせるのだ!」

 

「申し上げますが閣下、これはあくまでも学園祭でして、閣下のための行事では……………」

 

(いけない。このままだとこっちに小父様達が来る。小父様ならまだしも、フィリップさんなら今の私の事にも気づいてしまう。でも今は、あまり会いたくない。)

彼女はクルリと公爵達に背を向け、ジェイルの手を取った。もちろん彼は驚いたが、構わずにクローゼは話し出す。

 

「あの、ジェイルさん、あっちの静かな方に行きませんか?」

 

「ん、ああ、いいけど……………」

 

「いいですか?じ、じゃあ早く行きましょう?」

 

「お、おいおい。そんなに引っ張るなって。行くよ。行くってば………。」

わざとではなかったのだろうが、クローゼはジェイルの腕をグングン引っ張りその場から去った。

 

 

 

 

 

(ふう、ここなら大丈夫かな。)

私は講堂の中に逃げ込んだ。舞台装飾などは既に終わっているし、劇の上演にはまだ時間があるから人は一人もいない。私はひとまず安心してため息をついた。

 

「すみません、ジェイルさん。なんだか無理やり連れてきてしまいましたね……。」

 

「ん、別に気にしなくてもいいよ。もともとヒマだったし。」

彼はニコッと笑って答えた。広く静かな講堂に私達の声が柔らかく反響した。

 

「で?」

 

「え、で………というのは……?」

 

「さっき聞いたろ。なんであんなところでボケっとしていたの?ってさ。」

 

「…………あの、そんなに気になりますか?」

彼は大仰に首を縦に振る。

 

「うん。気になる。」

その言い方。まるで子供みたい。随分と見た目の年によらない言い方だな。この人。

 

「私は……………自分の弱さから、ずっと目を背けていたんです。」

 

「…………………。」

 

「変わりたくて、変えたくて、ここまで来たのに。わかっていても、私は何もしなかった。私は………そんな自分が嫌で………嫌で嫌でしょうがないんです。」

 

「…………………。」

ちょ、ちょっと待って。私、なんでこんな事話しているんだろう。エステルさんやヨシュアさんならまだしも、昨日あったばかりのほぼ初対面のジェイルさんにこんな事話すなんて……………どうかしてる。

 

「…………………。」

ジェイルさんの方は、黙り込んだままだ。気に障ってしまったのだろうか?

 

「ご、ごめんなさい。こんなこといきなり話しても、困りますよね………。」

 

「くっくっくっく……………。」

 

「え?」

よく見るとジェイルさんは、笑っていた。それも、こみ上げてくる笑いを必死に噛み殺して。

 

「ジェイルさん………?」

 

「…………い、いや、こっちこそすまん。くっくっく…………あのさ、クローゼ君。」

 

「は、はい。」

その時、彼はフッと顔が変わった。うまく言えないけれど、少なくてもさっきまでの雰囲気とは明らかに違っていた。

 

「俺みたいな赤の他人が言うことじゃないけどさ、そういうことって、どうだっていいんじゃない?」

 

「………え?」

彼はまたフフッと笑ってこちらを見つめる。

 

「わかんないかな。俺は思うには、君は少し考えすぎだな。過ぎたことをいちいち気にしたって、前には進めないぞ。ずっと後ろ向きながら歩く人間がいないのとおんなじさ。」

ジェイルさんは自分のその真紅の瞳を私に向けた。その切れ長の鋭い眼は、何故か私をとても安心させた。なぜだかは分からないけれど。

 

「ま、たーっくさんあがいてあがいて、もがきもがき進むしかないんじゃないの?俺から言わせりゃ、な。」

 

「………………。」

 

「あー、腹減ってきた。俺はここで失礼するよ。」

彼は一度伸びをして、そそくさと講堂から出ていこうとした。

 

「………あ、はい。あの、ありがとうございました。」

 

「だから、気にしなくたっていいって!クローゼ君。またな!」

………そう、それだ!ずっと引っかかっていた事。

 

「ジェイルさん!」

私は講堂から出ていく彼の背中に叫んだ。

 

「………あなたは、何で私の名前を知っているんですか!?」

 

 

 

 

 

多分聞こえたはず。だけど、彼はその問には答えてくれなかった。

初めに講堂で彼と会った時、私は名を言わなかったはずだ。でも、そのすぐ後、彼は講堂で私の事を『クローゼ君』と呼んだ。そして、さっきも。一体彼は、どうしてその名を知ったんだろう…………

 

「クローゼ、こんな所にいたのか。」

ハッと見ると、ヨシュアさんとエステルさんだった。

 

「あ…………ヨシュアさん、エステルさん。」

 

「あ、もしかして劇の練習をしてたの?やる気満々ね!」

 

「違いますよ。あの、それよりも、ひとつ気になることが………。」

一応、気になることは片付けておきたい。後でまた合えばいい話なのだけれど。

 

「どうしたの?」

 

「あの、さっきジェイルさんと会っていたんです。」

 

「ジェイルさんって、あの代役の?」

 

「はい。それでなんですけど…………」

私は、さっき感じた疑問についてお二人に説明した。説明し終わると、エステルさんの方は首をかしげて考え込んだ。

 

「うーん、確かにそれは変かもね。」

 

「エステルさんもそう思いますか?」

 

「私もその時講堂にいたけど、誰もクローゼの名前を呼んでなかったはずだし…………何でだろう?」

エステルさんと私が考え込んでいると、ヨシュアさんはクスッと小さく笑った。

 

「珍しいねクローゼ。君がそんな事で悩むなんて。」

 

「え………あの、どういう事ですか?」

 

「だって、クローゼの名前を知る事なんて簡単じゃないか。ずっと以前から知っていたとか、練習を見ている時に聞いたとか、台本に名前が書いてあったかもしれない。」

 

「あ……………。」

 

「い、言われてみればそうね。さっすがヨシュア!」

と言いながら、エステルさんはヨシュアさんの背中をポーンと叩く。

 

「ふふ、君だってさっきまで一緒に悩んでいたじゃないか。」

 

「む……せっかく褒めてあげているのに、可愛くない!」

 

「……………。」

最近、どうも疑いグセが付いてしまったみたい………。すみません、ジェイルさん………。

 

「クローゼ、僕達は大体挨拶回りは終わったから、また一緒にあちこち周ろうか?」

 

「…………そうですね。行きましょうか。」

自分の不甲斐なさに少し落ち込みながら、私はヨシュアさん達と共に講堂を出た。


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