白き翼の物語~Trail of klose ~   作:サンクタス

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前も書きましたが、私は小説を書く事は初心者です。期間にして四ヶ月半。そしてその間、色々勉強するなどして作風もどんどん変わってます。
私が言いたいことは、ここから五話分くらいは、昔の私が小説の書き方等を全く考えていない時に書いたものだという事です。率直に言えば、下手です。直せるところは投稿するときに直していますが、それでもやはり自分で見ても下手だと思います。これから時間があれば全面的に改良しようと思いますが、何しろ忙しいのでいつになるか知れません。
よほど変な時は感想等使ってダメ出ししても全然OKですが、基本的には、暖かい目で見てくれると嬉しいです。

二月二日、改良しました。

三月六日 二度目の更新。


第二話~ユリアの決意~

~七耀暦1192年、グランセル城・女王宮、空中庭園~

 

 

 

 

リベールの王都、グランセル。地理的、政治的、そして文化的にもこの国の中心に位置するこの街は、理路整然と区画され、時の女王アリシア二世の威光もあってか、市民達も実に穏やかに暮らしているように思えた。

そしてこの街のさらに中心にそびえ立つのが、グランセル城である。帝国(エレボニア)の王城は、いかにも厳しく、人を寄せ付けない雰囲気があるそうだが、リベールのそれは違った。白を基調とした本館から、高い塔がいくつも天を突くかのごとく立っているのは、まさに荘厳、と言えるものだった。それ故この城はグランセル市民の、いや、リベール国民の誇りであり、象徴だった。

そのグランセル城の屋上に広がる庭園、その見晴らしの良さから空中庭園と呼ばれるこの場所で、アリシア女王は下界の王都の町並みをぼんやりと眺めていた。

 

 

 

 

「…………………。」

爽やかな風が庭園を吹き抜ける中、彼女は目を瞑った。考え事をしているのであろうか。何を考えているのかまでは勿論判るはずもない。

 

「陛下、ここにいらしたのですか。」

特に目的もなく、無心に眺めていたように見えた女王だったが、前触れもなく声が聞こえても全く動じず、声に振り向いた。

 

「カシウス大佐………珍しいですね。貴方が一人でここにいらっしゃるなんて。」

 

「ほんのヤボ用がありましてな。ついでと言えば難ですが、ここに立ち寄らせていただきました。お隣、よろしいでしょうか?」

 

「ふふ、どうぞ。」

軽く会釈をし、カシウス・ブライト大佐はアリシア女王の左隣に立ち、柵に手を置いた。

ここまでの動作は至極自然に行われた。しかし普通ならばなかなかこうはいかないだろう。まず王族の生活する場所に躊躇いもせず入るカシウスと、それを許す女王アリシア。臣下の確かな忠誠心と、その上に立つものの信頼感がうまくかみ合っている事がよく判る。とは言っても、女王の隣に躊躇いもなく立てる人間は流石にそう多くはいない。

 

「陛下………あの事件の事を考えていらしたのですか?」

 

「………流石カシウス大佐ですね。貴方にだったらどんな事も見抜かれてしまいそうです。」

 

「いやいや、滅相もありません。今日でちょうど四年………陛下がそうやって考え込んでいる姿を見れば、誰だってそう考えますよ。」

 

「四年………早いものです。」

 

四年前……………とある豪華客船の沈没事件によるリベール王太子夫妻の逝去は、王国中に多大な衝撃を与えた。国民は皆総じて喪に服し、悲しみが王国を覆った。それはアリシア女王自身も例外ではなかったが……………幼すぎるという理由で王城に残っていた王太子夫妻の一人娘の存在が、微かな希望を皆に与えたのである。

 

「……………クローディア様………!」

突然、呼び声が女王らの耳に飛び込んでくる。振り返ると、何故か城の女官長を務めるヒルダ夫人が何かを探して歩き回っていた。

 

「クローディア様!どこにいらっしゃるのですか!?クローディア様!」

姿の見えない何かを探し呼びかける。

 

「どうしたのですか、ヒルダ殿。」

 

「陛下………申し訳ございません。少し目を離した隙に、姫殿下が見失ってしまって………。」

 

「ほう。意外と殿下もやんちゃな方のようですね。」

 

「ああ………カシウス大佐。いらっしゃっていたのですか。何もお構いもできず、申し訳ありません。」

 

カシウス大佐が「気にしないでいい」と伝えようとした時、どこかから返答の声が。無邪気そうな少女の声だった。

 

「こっちこっち~。こっちですよヒルダさん!」

すると、遠くにある木の陰から一人の少女が姿を現した。まだ五、六歳といったところか。この王宮の奥にそんな小さな子供がいるのは異様であったが、もちろん理由はある。

 

「あ………殿下!陛下、大佐。失礼致します。」

そう言ってヒルダは少女の下に駆け寄り、彼女の手を取る。

 

「さあ、捕まえましたよ。私に黙って、一体どこに行っていらっしゃったのですか?」

 

「私、ことりさんとおはなししてたんです。それでことりさんが『かくれんぼしよう』っていうから、私、かくれてたんですよ。ヒルダさん、見つけられなかったから、私のかちですね!」

クローディアは少しはにかむ様に言った。親譲りの青紫(ヴァイオレット)の瞳がキラキラと輝いている。

 

「まあまあ、かくれんぼを。楽しかったですか?」

 

「はい!とってもたのしかったです!」

クローディアは飛びっきりの笑顔で言った。

 

「さあ、もうすぐ寒くなってきます。王宮に帰りますよ。」

 

「は~い!」

ヒルダがクローディアの手を引くと、彼女はヒルダの腕にすがりつき、女王宮に戻っていった。

 

 

 

 

「クローディア姫殿下はお元気ですな。」

 

「ええ。あのような事故で両親を亡くし、あの子にも不憫な思いをさせたと思いましたが、あの姿を見るとつい安心してしまいますね。」

庭園の高台からクローディアが遊ぶ様子をじっと観察していたアリシア女王はホッと胸をなでおろす。

 

「ふふふ、姫殿下を見ていると、私も娘の事をつい思い出してしまいます。ちょうど姫殿下と同じくらいの歳なのですが、最近は仕事が忙しくて家に帰っていないので、毎日のように手紙で催促させられていましてな。父親も辛いものです。」

 

「ふふ、たまには帰ってやれば良いではないですか。」

 

「ハハハ、そうですな。」

カシウスが笑うと、下の階からスーツ姿の白髪の老人がやってきた。彼はカシウスに気づくと軽く会釈をし、カシウスもそれを返した。

 

「女王陛下。」

 

「フィリップ殿ですか。準備の方はどうですか?」

 

「はい、例の者ももうすぐレイストンの演習から帰ってくる頃合かと存じます。」

 

「そうですか。では参りましょうか。カシウス殿もどうぞ来てください。」

えっ、と思わず声を漏らすカシウス。

 

「は……もしかすると誰かいらっしゃるのでしょうか?」

 

「はい。おそらく、あなたも知っている方だと思いますよ………。」

 

 

 

 

 

~謁見の間~

 

 

 

アリシア女王、カシウス、そしてフィリップが謁見の間に到着すると、申し合わせていた親衛隊員がその客人を呼び寄せた。そして、一人の人物が現れた。

 

「失礼いたします!」

部屋に響くその声に続いて、一人の若い女性士官が謁見の間に入ってきた。彼女はキビキビとした姿勢でアリシア女王の前に進み、最敬礼をする。

 

「女王のお目にかかれて光栄でございます!王室親衛隊第四部隊所属、ユリア・シュバルツと申すものでございます。どうかお見知りおきを。」

ハキハキとしていたが、どこか緊張した様な雰囲気があった。それを聞いたカシウスは、懐かしそうに微笑んだ。

 

「なるほど、だれかと思えばお前だったか。ふふふ、威勢のいい所は変わっとらんな。ユリア。」

 

「カシウス殿!お久しぶりでございます。」

彼女、ユリアはアリシア女王にしか目が行っていなかったのか、カシウスに気づくと慌てて敬礼した。

 

「そう言えば士官学校を卒業してからは会っていなかったな。元気そうで何よりだ。」

 

「あ、ありがとうございます!」

ユリアが深く礼をし、またアリシア女王の方に向き直ると、女王は話を切り出した。

 

「あなたがユリア殿ですか。話を聞く限りではてっきり男性の方だと思いましたよ。フィリップ殿の話ではあなたは親衛隊内でも一、二を争う実力者だときいていますが?」

 

「いえ、まだ若輩故、未熟者でございます。」

ユリアはすかさず謙遜する。が、カシウスの方から、

 

「彼女は彼女がまだ士官学校にいた時から私が目を付けておりましてな。最近は稽古も付けていませんが、独学で頑張ったということでしょう。」

 

「そうですか。独学でそこまで。では、彼女で問題なさそうですね。」

アリシア女王はカシウスの言葉で妙に納得した。ユリアは自分が完全に話の蚊帳の外に置かれているように感じ、困惑する。

 

「あの、畏れながら申し上げますが……一体何のお話をしていらっしゃるのですか?」

 

「おっと、話が逸れてしまいましたね。」

アリシア女王は再びユリアの方を向いた。ユリアの背筋がピンと伸びるのが目に取れ、女王は失笑を抑えた。

 

「実は、あなたに一つ頼みがあるのです。」

 

「ハッ!何とでもお申し付け下さい。」

ユリアは初めて会った女王にいきなり依頼をされた事で、高揚感が抑えきれない様だった。アリシア女王は少し声を落とした。

 

「ユリア殿、あなたにクローディアの教育係を頼みたいのです。」

一瞬の沈黙の後、ユリアの顔に最大級の困惑が広まった。

 

「は……………?大変申し訳ございません。今一体何とおっしゃったのですか……?」

 

「クローディアの教育係を頼みたいのです。」

アリシア女王はさっきと同じ様に静かに言った。ユリアは少し考えた後、それが何を意味するのか気づいたようだった。

 

「クローディアとは……まさかユーディス陛下の……!」

 

「その通りです。」

 

「そ、その様な大役を、私が……?」

 

「フィリップ殿によると、あなたは普段から品行方正であり学問においても優秀であったとか。フィリッ

プ殿がそこまでおっしゃるのですから、私はあなたがクローディアの教育係としての条件を十分満たしていると思っています。」

 

「し、しかし……。私のような若輩者が姫殿下の教育係など………。」

渋るユリア。(こんな事をいきなり言われれば腰が引けるのも当たり前だが)しかしそれを見てカシウスが静かに彼女の前に進み出た。

 

「ユリア。」

 

「ハッ。何でしょうか?」

突然声をかけてきたカシウスに驚きながらも彼女はとっさに返事をした。彼はそのまま続けた。

 

「お前が士官学校にいた時、俺がお前に言った事を覚えているか?」

 

「ハッ。もちろんです。」

 

「あれは、お前に初めて稽古をつけてやった時だったな……。」

 

 

 

 

 

~七耀暦1190年春、王立士官学校訓練所内~

 

 

(あの頃の私は、本当に怖いもの知らずの青二才で、当時から『剣聖』と呼ばれていたカシウス殿が私に稽古をつけてくれると聞いた時も、私はただ無邪気に喜んでいた。その頃私は同年代の生徒との勝負には絶対負けない自信があり、実際負けたことはなかった。馬鹿な私は、その実力をカシウス殿にお見せしようと思ったのだった。)

 

「カシウス殿!よろしくお願いします!」

 

「うむ、威勢のいい声だ。さあ、どこからでもかかってこい。」

カシウスは剣を構えた。

 

「行きます!やあああ!!」

ユリアはじぶんの得物(レイピア)を構え、真正面からカシウスに突撃した。カシウスは剣を構えたまま動かない。

 

(いける!!)

 

「たあああ!!」

一閃。しかしユリアの剣はカシウスの脇を逸れていた。

 

「何の!たあああ!」

再び一閃。しかし剣はカシウスの脇に逸れた。

 

「くっ、ならばこれでは!ランツェンレイター!!」

ユリアは自分が独学で編み出した剣技、ランツェンレイターを繰り出した。しかしその怒涛の四連突きもカシウスには掠りもしなかった。

 

「(くっ!なぜだ!なぜ当たらない!カシウス殿は全くその場から動いていないはずなのに!)」

 

「なるほど、うわさに聞いた通りなかなか良い腕をしている。ならばこっちからも行くぞ。」

 

「なっ………!」

カシウスの剣が一瞬雷光の様に光ったかと思いきや、ふと気づくと、ユリアの剣は宙に舞い上がり、何回転かして地面に落下した。

 

「ハッハッハ、俺の勝ちのようだな。」

ユリアは飛ばされた自分の剣を何秒か眺めた後地面にヘタリと座り込んだ。

 

「どうした?俺の剣が腕にでも当たったか?俺は避けたつもりだったのだが。」

軽く心配そうに聞くと、ユリアはうつむいたまま首を振った。

 

「……それとも自分の鼻っ柱が折られたのが悔しいのか?」

 

「!!」

 

「……ふふ、そうか。」

ひと時の沈黙。そして、カシウスは尋ねた。

 

「剣とは、なんだ?」

 

「……は?」

 

「お前は何のために今までその剣を振るってきた?」

 

「………。」

 

「これは俺の場合だが……それは、誰かを守るためだ。」

 

「!!」

 

「もし人を殺したいのなら、剣でなくともよい。それなら導力銃で心臓を撃ち抜いた方がはるかに速い。

それでも俺が剣を扱うのは、何よりも大切な人を守りたいがためだ。しかし、先ほどのお前の剣は違った。あれは、人を倒すための剣だ。俺を倒したいという欲で、お前は剣を振っていた。判るな?」

ユリアは、自分が攻撃している間、カシウスがまったく攻撃してこなかったことを思い出した。そしてその攻撃の手が一瞬緩んだ瞬間に、初めてカシウスは反撃していたのだった。カシウスの言葉が、彼女の中に染み渡っていた。

 

「もし俺に勝ちたいのなら、守るために剣を振るえ。自分の欲のために剣を振るうな。わかったな。」

そう言って踵を返し、去ろうとした。ユリアはそれを見て立ち上がった。

 

「カ、カシウス殿!」

 

「ん?何だ?」

振り返るカシウス。彼女は………深く頭を下げ、敬礼した。

 

「ご教授、ありがとうございました!このお言葉、一生の宝としたいと思います!」

 

カシウスは……………何も言わずにニヤッと笑みを浮かべ、去っていった。

 

 

 

 

 

~謁見の間~

 

 

 

「まあ、そんな事があったのですか。」

アリシア女王はカシウスに語られた話を聞き、感嘆の声を出す。

 

「そんな事があってから、こいつは私が士官学校に行くたびに勝負を挑んできましてな。まあ私もそれに

乗ってしまったのですが。」

 

「カシウス殿…そんな昔のことを……。」

ユリアは恥ずかしそうに縮こまった。そして、カシウスはユリアに向き直る。

 

「そこでだ、ユリア。お前はあの時誓ったのではないのか?自らの剣は、自らのためではなく、誰かのために振るうと。」

 

「………。」

 

「姫殿下の教育係ともなると、それには必ず護衛の任が伴うだろう。それは、誰かを守るという点ではこれ以上の事はない。王族を守るというのは、国を守るも同然だからな。それは王室親衛隊員としても最高に名誉な事だろう。お前は、何かを守るために親衛隊になったのではないのか?」

 

「………!!」

 

「カシウス殿、そうユリア殿を責めないで下さい。私もあなたがどうしても辞退すると言うのなら、私は何も言うつもりはないのですよ。」

 

「……いえ、女王陛下。」

覚悟を決めたようにきっぱりと言った。彼女はその場で姿勢を正し、ピシリと敬礼する。決意を新たにして。

 

「……女王陛下、クローディア姫の教育係の任、謹んでお受けいたします。」

 

 

 

 

 

カシウスは、レイストン要塞に戻るため城の玄関ホールの階段を下りていた。その後ろから、ユリアが息せき切ってやって来るのが見えた。どうやら、彼を追って来たらしい。

 

「カシウス殿!」

 

「ん、どうした?忘れ物か?」

カシウスはとぼけるが彼女は特に反応を見せず、ユリアは階段を駆け下りて、深く礼をした。

 

「恥ずかしながら再びお世話になってしまいました。改めて、お礼を申し上げます。」

 

「何、判ってくれればそれでいい。それよりも、また自分の進むべき道を見失わぬよう、気をつけるんだな。」

 

「カシウス殿……。(そうか、カシウス殿はずっと私の事を気にかけていてくれたのか……。)」

 

「では、またな。これからも精進を忘れるなよ。」

 

「……カシウス殿!」

再び去ろうとしたカシウスの背中に、ユリアは声をかけた。

 

「またいつか、私と手合せ願いますか…?」

彼は歩みを止め、振り返った。そして二ヤっと笑って、ユリアの期待に応えた。

 

「ハッハッハ!いいだろう。いつでもかかってこい!」

 

ユリアは去っていく偉大な師を眺めながら、自分の大きな決断をした事への期待や不安を、噛みしめていた。

 

 

 

それからユリアは親衛隊の任務の間を縫ってレイストン要塞に赴き、カシウスに剣を教授してもらっていたようである。

 

 

 

 

 

 

~翌日、女王宮・空中庭園~

 

 

 

「よくぞいらっしゃいましたね。ユリア殿。」

初めて女王宮を訪れ流石に緊張気味のユリアを、アリシア女王はいつも通りの柔らかな笑みで出迎えた。本当なら余程の事情がない限り女王宮は、王族、そして王族の世話をする女官達だけなのだが、今日のユリアの訪問はその『よほどの事情』にしてくれたようだ。

 

「今、クローディアを呼んできますね。あなたはそこの椅子でお待ちになって。」

 

「ハッ。失礼いたします。」

彼女は言われるままにおずおずと椅子に座った。柔らかいクッションも石のように感じる。

待っている間、これから自分が仕える事となる『クローディア姫』の事を考えた。彼女は生まれた時からあまり公に出ることはなく、城の人間でも彼女の姿を知っている者はあまりいなかった。それが何故かはわからないが、そんな人間に使える事になるかと思うと、ユリアも万感の思いであった。

 

「(いよいよお目にかかれるのか……。一体どのようなお方なのだろう。)」

 

 

 

 

やがてアリシア女王は、一人の少女を連れ戻ってきた。

 

「ユリア殿。連れてきましたよ。」

ユリアは立ち上がり、そこで初めて、故ユーディス王太子の一子、クローディア姫の姿を見た。

見た所は普通の子供と何も変わらないように思えるが、少し丸顔のその顔からはどこか王族らしい気品が溢れ出ており、子供ながらもそれはよく見て取れた。そして髪と瞳は、リベール王家の人間である証でもある青紫(ヴァイオレット)色であった。

ユリアはクローディアの前に跪いた。

 

「クローディア殿下。お初にお目にかかります。私はユリア・シュバルツと申します。今日から貴方の養育兼護衛係を申しつけられました。どうかお見知りおきを。」

 

「ほら、クローゼも挨拶しなさい。」

そう言って急かすアリシア女王の姿は普段の堂々としたリベール女王の姿ではなく、可愛い孫を愛おしむ一人の祖母そのものであった。少女は頷き、パタパタとユリアに近づいて、ペコリとお辞儀をした。

 

「はい、おばあさま。はじめまして。ユリアさん。わたし、クローディアといいます。よろしくおねがいします。」

 

「ハ、ハッ!」

これでいい、と呟くアリシア女王。未だ緊張気味のユリアも、彼女には微笑ましく感じていた。

 

「ユリア殿、今日はクローゼと一緒に市街に下りてもらいます。どうか彼女をよろしくお願いしますよ。」

 

「は……市街、でございますか?」

ユリアは驚いて聞き返した。

 

「はい。クローゼにも外の空気を感じさせてあげようと思いましてね。毎日空中庭園で遊ぶのも彼女には退屈でしょう。それに、頼りがいのある護衛もついたことですし。」

 

「ハ、ハッ!わかりました。このユリア・シュバルツ、命を懸けてクローディア殿下をお守りいたします。」

 

「ふふ、頼もしいですね。それと、プライベートの時や王宮の外にいる時は、この子を『クローゼ』と呼んで結構ですよ。」

 

「えっ……し、しかし、私のような者が姫殿下を愛称で呼ぶなど……。」

 

「私は気にしませんよ。その方がクローディアも喜ぶでしょう。王族である事のカモフラージュにもなりますしね。」

 

「………了解しました。では、ク…………クローゼ。参りましょうか。」

 

「はい!ユリアさん!」

人懐っこそうな笑顔で、少女は答えた。

 

 

 

 

 

それからユリアは、親衛隊としての任務を果たしながらも、女王宮に通い詰める日々が続いた。親衛隊の任務や訓練の後、女王宮に行きクローディアに付いて回るのは肉体的にもきつかったが、既に彼女にとってそんな事は苦にならなかった。彼女は、クローディアが見せる無邪気で可憐な笑顔に、毎日心を癒されていたのだった。

そうして彼女にとって最も充実したといえる一年が過ぎた。そしてこの年、リベール王国にとって最大の危機が起こる事となる。後に、『百日戦役』と呼ばれる出来事である。




ここまで来ればお分かりでしょうが、この話は原作を知らない人の事はまったく考えておりません。
後で『第零話』でも作って説明しようかとも思いましたが、原作を知らない人はこんな作品読まないだろうと考え、そのままにしています。今後もずっとそうです。
別に、いいですよね?

↑すみません。嘘です。第零話作りました。

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