白き翼の物語~Trail of klose ~ 作:サンクタス
~マノリア村~
私達は、テレサ先生襲撃事件の手がかりを調べるため、外に出た。
しかし………もうとっくに日は暮れ、外は足元もはっきり見えないほど真っ暗になっていた。
学園の門限はもうとっくに過ぎてしまったけど………………後で先生に謝っておかないと。
「わっ、もうこんな時間!?」
「ちっ………マズイな。これだけ暗いとどこまで調べられるか…………。」
「確かにこの暗さだと、見つけられるものも見つけられないかもしれませんね………どうしますか?アガットさん。」
ヨシュアさんは一応尋ねたが、帰ってくる答えは私にでも容易に想像できた。一刻も早く事件を解決したい気持ちに皆、変わりはないから。
「………明日に引き伸ばすわけにも行かん。とりあえず行くぞ。」
そして皆で街道方面に歩きだそうとした。すると…………。
「ピューイ!」
「なんだ、今の鳴き声は……………。」
いきなりの事にあたりを見回すアガットさん。でも私とヨシュアさん達には、もうお馴染みの事だった。
「ジーク!」
(悪いクローゼ。こんなに遅くなっちまって。もう少し早く帰る予定だったんだが…………。)
ゆっくりと降下し、私の腕の上に止まるジーク。
「な、なんだコイツは。」
これを見るのは初めてのアガットさんはもちろん、驚いた。
「クローゼのお友達で、シロハヤブサのジークよ。」
「はあ……お友達ねぇ……」
エステルさんが説明するも、彼はあまり信じてはいないようだった。
(………おいクローゼ。何でこんな所にあのニワトリヤローがいるんだ?)
「ニワ………って、ジーク!もう少し違う呼び方はないの?」
「だってホントのことじゃんか。」
ジークはアガットさんの真っ赤な髪の毛に目を遣って言った。
「おい、お嬢ちゃん、気のせいか?そのハヤブサから敵意のようなものを感じるんだが………。」
(おっ、よくわかったなニワトリヤロー。もう少しニブイヤツかと思ったが………褒めて遣わす。)
ジークの言葉が私にしか通じなくてよかった、と、その時私は切に感じた。
(ま、それは置いといて。クローゼ、朗報だ。)
「あ………もしかして、場所がわかったの!?」
(そういうこった。)
「そう…………ジーク、ありがとう!とっても助かる。」
私とジークのやり取りを、アガットさんは胡散臭そうにじっと見つめていた。もっとも、半分しか会話の内容がわからないので余計にわかりづらかっただろう。
「まったく呑気なもんだぜ。で、お嬢ちゃん。そのお友達はなんだって?」
「えっと、ジークが、先生達を襲った犯人の居場所を教えてくれるそうです。」
反応は…………綺麗に二つに分かれた。
「ははは!面白いジョークだぜ…………。」
とアガットさん。
「やった!さすがジーク!」
とエステルさん。
「うん、お手柄だね。」
とヨシュアさん。
常識的に考えればアガットさんの反応が正しい。でも、ジークは常識的に考えられるものじゃなかった。
私達が小躍りして喜んでいるのを見て、アガットさんは、
「ちょ、ちょっと待て!お前ら、そんなヨタ話を信じてるんじゃねえだろうな?」
にわかに焦った。なんだかアガットさんが気の毒に思えてきた。
「僕達は何度かこの目で確かめていますし。」
(ハッ、ニワトリヤローめ。頭堅いこと言ってんじゃないっつーの。)
相変わらずジークはケンカ腰だった。
(ジーク…………なんかアガットさんに変な敵対心持ってない?)
「信じないんだったら付いて来なけりゃいいのよ。ヨシュア、クローゼ、ジーク、行きましょ。」
「はい!(いいのでしょうか………アガットさん。)」
(エステルに指図されるのは気に入らないが…………まあいいや。行くぞ!こっちだ!)
エステルさんに先導されるように、私達はジークを後を追って村から出て行くのだった。
「…………えーと……………。こ、こらガキども、待ちやがれ!」
その後すぐ、アガットさんが私たちを追い、合流したことは言うまでもない。
~マノリア海道~
マノリア村にからさらに北、ここにはボース方面へと向かう道、マノリア海道がある。この辺りは険しい山岳地帯が続いており、中でもリベールの名峰の一つ、クローネ連峰はこの道沿いにある事で知られている。(この山に登ろうとする登山客が、よくマノリア村を訪れているという。)今は定期飛行船が発達したおかげで人の通りも少なくなったそうだが、エステル達のような酔狂な(?)旅人は今でもこの海道を使用しているとの事だ。
そんな道をクローゼ達は、街灯もない中足早にジークの後を追っていくのだった。
「ジーク?どこ?」
ジークは私達の歩くスピードも考えないでさっさと行ってしまおうとする。もう見失ったのは三回目だ。
(ここだよ。ここ。もう、クローゼは夜中の鳥よりも目が悪いのか?)
「そういう問題じゃないでしょ。こっちは足元だってほとんど見えないんだから。」
「まあまあ、クローゼ。ジークが案内してくれているんだから。」
ヨシュアさんはそう言うけど、もっと私達の事も気にしてもらわないと。
(おっと。クローゼ、こっちだ。)
突然ジークは進行方向を変え、左側の方に飛んでいった。道が付いている…………という事は、人が行けるような場所に、襲撃者達は隠れているのだろうか。
「うん………この道は、バレンヌ灯台の方向じゃないか?」
ジークの飛んでいった方向で、アガットさんは何かに気づいたみたいだ。ヨシュアさん達もわかったらしい。
「ホントだ。でも、おかしいな…………。」
珍しくこういうタイミングで首をひねるエステルさん。
「あの、何がおかしいんですか?」
「えっとね、前に私達遊撃士の仕事であそこに行ったことがあるんだけど、あの灯台、人が住んでいるのよね。」
「ああ、灯台守のおじいさんがね。」
なるほど。確かに人がいる所にわざわざ隠れるはずが…………いや、違う。逆だ。人がいるからこそ、そこに隠れたんだ。
「…………そうなると、その灯台、既に犯人に占拠されてるかもしれませんね。」
「そうだろうな。チッ、人質まで取ったという事か…………。」
忌々しげに歯ぎしりするアガットさん。状況はこちらとしてはかなり不利だ。
「でも、テレサ先生達を襲った犯人がそこにいることは間違いないと思います。犯人は複数人です。おそらく今頃は今後の計画の事でも話し合っているでしょう。アガットさん。突入するなら、今ですよ。」
ヨシュアさんは半ば説得するようにアガットさんに言った。
「……………………。」
アガットさんは腕組みしながら考え込む。突入のタイミングを図っているのかと思いきや、彼は私に背を向け、
「ここまでだ。お嬢ちゃん。」
ぶっきらぼうに、言い放った。
「えっ………………ど、どういう事ですか?」
「この先はかなり危険が伴うだろう。そして、危険な仕事は遊撃士がやるもんだ。あんたのような民間人が出しゃばるところじゃない。」
「ちょ、ちょっと待ってよアガット!ここの場所がわかったのはクローゼ達の手柄なんだから、そんなケチなこと言わなくても…………。」
エステルさんはすぐに私を庇おうとする。でもヨシュアさんは、エステルさんが言うのを手で押しとどめた。
「………エステル。ここはアガットさんの言う通りだ。クローゼを危険に巻き込むわけには、いかない。」
「だ、だけど…………。」
「おいエステル、お前は遊撃士だ。『民間人の安全を守る』………遊撃士協会規約の第一原則だ。シェラザードに教わらなかったのか?」
「……………………。」
理詰めで来るアガットさんに、エステルさんは黙りこもるしかなかった。
「でも………私は…………。」
(往生際が悪いぞ。クローゼ。)
いつの間にか、ジークが戻ってきていた。
(いつまで経っても来ないから何やってんのかと思ったら…………クローゼが駄々こねてたとはな。)
「わ………私は、別に駄々をこねてるわけじゃ…………。」
(あのな、クローゼさんよ。こうやってる間に、時間はどんどん過ぎてんだ。いざ突入してみたら、中はもぬけの空でした~、なんて事になったらどうする?こいつらに恥をかかせる気か?)
柄にもなく声を荒げてジークは言う。
でも、皆の言うとおりだ。明らかに、ここは私の方に非がある。諦めるしか、なかった。
「どうやらあんたのお友達も反対のようだが…………わかったか?」
「……………はい。私がわがままを言ってしまって………すみませんでした。」
私は、アガットさんに深々と頭を下げた。アガットさんはフンと鼻を鳴らした。
「わかってくれたんなら、それでいい。ヨシュアは一緒に来い。エステルは嬢ちゃんを街まで送ってやれ。」
「ええっ!あたしを置いてけぼりにするって言うの!?」
「あの、私は大丈夫です。ジークもいますし…………。」
「本当に大丈夫なのか?この辺だって魔獣はいるんだぜ。」
でも、せめてエステルさんだけは行って欲しかった。これで更に彼女まで巻き添えにしてしまったら…………合わす顔がなくなってしまうから。
「…………仕方ない。お嬢ちゃん、後は自己責任でやってくれ。」
「もし何かあったら、遠慮なく僕たちを呼んでね。」
アガットさん……ヨシュアさん……ありがとうございます。
「よし、行くぞ!新米ども!」
「わかったわ!」「了解です!」
彼らは…………灯台の方に、走っていってしまった。
「……………………。」
(どうしたクローゼ。そんなにアイツらに付いて行きたかったか?)
ヨシュアさん達が行ってしまって、私は近くの木に右手をついてもたれこんでいた。ジークは心配しているけど、私はついて行きたかった、というわけじゃない。そう言うよりは…………むしろ…………。
(私は、自分の目で、確かめたい…………!)
決断した私。すっくと立ち上がり、元来た道を戻ろうとした。それを見たジークは驚き、
(ど、どこ行くんだよ。アイツらを待ってなくていいのか?)
慌てて尋ねた。私はニコッと笑い、
「ここは危険だし、いつまでも門限を無視して学園に帰らないわけにはいかないもの。ヨシュアさん達には、私はもう帰った、って伝えておいて。」
言うと、彼はホッと息を吐いた。
(………そっか。わかった。じゃあさっさと戻ろうか?)
そして翼を広げて飛び立とうとするジーク。でも私はすぐに彼を言い留めた。
「ジークは、ヨシュアさん達を助けてあげて。私は大丈夫だから。」
(え…………い、いやいやいや。クローゼをこの夜道の中を一人っきりで歩かせるわけには………。)
「いいの。それよりも………私の代わりに、ヨシュアさん達を助けてあげて。お願い、ジーク。」
私は必死に頼み込んだ。すると、彼は何やらくすぐったいかのように体を震わせた。
(うう…………そんな顔で俺を見るなよ…………絶対だぞ。何かあったらすぐに俺を呼べ。わかったか?)
「うん。」
(寄り道しないで帰れよ!)
ジークは改めて翼を羽ばたかせ、じゃあな、と言って、灯台の方に消えていった。
「……………ごめん、ジーク。」
ジークが去っていったのを見届けて、私はそっと呟いた。
「でも私は、この『寄り道』をしない訳には…………いかないの。」
そう。どんなに危険だろうと、私は………自分自身で……………
私は前を向いた。振り返ったり、立ち止まったりしてはいけない。私は、自分自身の力で、歩いていく…………。
そして、私は前に向かって、歩き出した。
鳥も泣かず、虫の音も聞こえない。辺りは完全に静寂に包まれ、黒いペンキを塗ったように漆黒の闇が空間を覆い尽くしていた。その時、片方…………静寂を破る者が現れた。
「ほう………遊撃士の力も借りずに事を起こそうとするか…………。」
歩いていくクローゼを眺めるその人影。辺りは漆黒の闇。おかげでその人物も誰にも気づかれずにクローゼ達を観察する事が出来た。
「クローディア・フォン・アウスレーゼか。…………なかなか楽しませてくれそうだ。」
口元に怪しい笑みを浮かべ、そして消えるように彼は去っていった。
再び、辺りは静寂に包まれた。
~バレンヌ灯台~
エステル、ヨシュア、アガットの三人は、おそらく強敵が待ち構えているであろうバレンヌ灯台に、意を決して突入した。
灯台の出入り口は一つ。正面の金属製の重い門だけだ。ここさえ通さなければ、犯人達はここから逃げる事は不可能。故に犯人が待ち伏せや罠(トラップ)を警戒しながら、彼らは灯台の門を開けた。
「………どうだ、中は見えるか?」
「ううん、真っ暗でなんにも。」
門の左右からそっと中を伺うエステルとアガット。ヨシュアは腰の鞘から双剣を抜き、胸の前で構えた。
「まず僕が入ります。それから続いてアガットさんも突入してください。エステルはシンガリを頼む。」
「わかった。」
「りょーかい!」
ヨシュアは壁にぴたりと張り付き、そして一気に中へ飛び込んだ。
「……………………。」
外に残った二人は息を呑む。十数秒すると、暗闇からヨシュアの声が聞こえてきた。
「罠は仕掛けられていないようです。入ってきても大丈……………っ!」
突然途切れる声。ほぼ同時に金属同士が激しくぶつかりあった音が。
「ヨシュア!?」
「ちいっ!エステル、行くぞ!!」
ヨシュアの危険を察知した二人はすぐさま灯台に入っていった。
「どこだ、ヨシュア!!」
「………ここです!」
闇の中にヨシュアの声だけがこだまする。アガットはそれを聞き、
「伏せろっ!」
背中に背負った自分の得物……ブロードエッジを力の限りぶん回した。ドカッという音。ヨシュアを襲ったそれが壁に叩きつけられた音だった。
「ヨシュア!大丈夫か!?」
「大丈夫です………ちょっと待ってください………。」
不意打ちを受け、ヨロっと立ち上がったヨシュアは、腰のポケットから自分のオーブメントを取り出し、
「出てよ火球……ファイアボルト・改!」
アーツを発動した。放たれた複数の火球は壁に据え付けられた燭台に命中し、燃え上がった。
「やっぱり………わざと消されていたのか。」
「ヨシュア!?大丈夫?怪我はない?」
最後に内部に入ったエステルは真っ先にヨシュアに駆け寄る。彼ははっきりと頷き、無事を伝える。
「うん………でも、僕たちが来る事は相手も想定済みだったみたいだね。」
「ど、どういう事?」
「燭台の火が消されていた。おそらく待ち伏せをするためだと思う。僕を襲った奴も躊躇なく襲ってきた。前もって目を慣らしていたか、それとも…………。」
「ふん、とにかく、その襲った奴の顔でも拝ませてもらおうか。」
アガットは鼻を鳴らし、壁にもたれて気絶している男に近づいた。すると……………
「な……………っ!!」
その人物を見た彼は、思わず驚愕の声を漏らした。
「あ、アガット!?」
「何かあったんですか?」
「こ、コイツは……………。」
倒れていたのは、頭に赤バンダナを巻き、棍棒(スタンロッド)を握った、『レイヴン』だった。
「『レイヴン』じゃない!やっぱりこの事件に関わっていたのね!」
「まさかとは思ったが………本当に来ていやがったとはな。まだヤキが足らなかったようだな………!」
エステルとアガットの二人はそれぞれレイヴンを白い目で見た。しかしヨシュアは、何やら腑に落ちない所があるようだった。
(………気のせいかもしれない。でも、この臭いは…………。)
「だが、これで相手がまだこの灯台に残っている事がはっきりした。先を急ぐぞ、新米ども!」
「もー、新米は余計よ!」
そして彼らは気絶したレイヴンを動けないように後ろ手を縛り、先を急いだ。
「ハッ、ようやくお出ましか!」
灯台の螺旋階段を登りきった三人の遊撃士は、五、六人の集団に遭遇した。アガットは待っていたと言わんばかりに大剣を前に構える。
「あ~っ!よく見たらあんた達もレイヴンじゃない!それもルーアンであたし達に絡んできた!」
倉庫区画での出来事を思い出してエステルは彼らを指差す。
「おいコラ!ロッコ、ディン、レイス!どういう事だ!なぜお前らがここにいる!?」
レイヴンのリーダー格三人を名指しで怒鳴りつけるアガット。しかし彼らは何も答えず、黙ってそこに立ち尽くす。
「ディン!!お前、聞いてんのか!!」
「…………………。」
再度怒鳴るも、いつもならすぐにオドオドしてしまう所だが、今の彼らは全く動じず、そして……………
「…………………。」
彼は手にした棍棒を振り上げ、アガットに向かって振り下ろした!
「な、何!?」
しかしアガットの身体がとっさに反応し、それは彼の重剣で受け止められた。
「お前…………どういうつもりだ?」
「アガットさん!気をつけて!『レイヴン』達は…………。」
ヨシュアが何か言いかけたその時、アガットの様子が一変した。
「ぐっ………うぬう………っ!」
「あ…………あのアガットが、押されてる?」
エステルが見た通り、彼はジリジリと後ろに下がり始めていた。それもただのチンピラだったはずのディンにである。アガットは身の丈以上もある重剣を自由に振り回せるほどの膂力の持ち主だ。彼も自分がディンごときに押され始めている事に焦り、そして驚いていた。
「くっ………クソッ!!」
また彼が一歩下がった、その時。
「ピューーイ!!」
甲高い鳴き声。そしてディンの真横から高速で飛ぶ何かがぶつかった。僅かに怯むディン。その隙をアガットは見逃さなかった。
「うっ………うおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」
押されていたのを一気に逆に押し返し、ディンを跳ね飛ばした。ディンは押し戻されたもののほとんど態勢は崩さず、またぼおっと立ち尽くした。アガットの方は、さっきの鍔迫り合いだけでかなりの体力を消耗したらしく、危うく膝を付きそうになった。
「はあ、はあ………ディン…………お前……………。」
「ど、どういう事?アガットが押し負けそうになるなんて…………。というか、さっきのって……………。」
「………ジークか!?」
もう戦闘が始まってる……………と思ったら、もう早あのニワトリヤローが負けそうになってやがった。
あんな奴を助けるのも癪だが、クローゼにあんな顔して頼まれたんじゃ仕方ない。俺は狭くて飛びづらい灯台の中を急上昇し、ヤツを急襲した。
(………おうりゃ!)
足から思いっきり体当たり。それで奴………よく見たらあのチンピラどもだった………が見せた隙から、ニワトリヤローは復活した。感謝しろよ~。
「ジーク!なんでここに?クローゼは来てないのに………。」
ノーテンキ娘が何か言っとる。そのクローゼに頼まれたんだよ。ま、言ってもわからないだろうけど。
「もしかしたら、クローゼが送ってくれたのかもね。彼、クローゼと仲がいいみたいだから。」
そう!ヨシュアの言う通りだ。さすがヨシュア。ただ、俺がここに来たのは仲がいい、ってだけの問題じゃないがな。
そうこうしてると、俺の登場で多少怯んだ『レイヴン』とか言うチンピラどもが動き出した。ヤバイ。数はあっちの方が上だからな………。
「アガットさん、気をつけてください!もしかしたら、彼らは何者かに操られている可能性があります!」
ヨシュアがいきなり突拍子もないことを言い出した。またまた、マンガみたいな事言っちゃって…………。
「………なんだと?」
「さっきのレイヴンから、微かに薬品のような臭いがしました。おそらく暗示と薬品を併用した催眠誘導でしょう。」
「さ、催眠誘導って……………。」
ノーテンキ娘は信じられなさそうにヨシュアを見る。
「なるほどな………肉体的なポテンシャルまで引き出されているというわけか……………。」
ニワトリヤローは納得するように呟いた。そして再び重剣(はじめ見た時は鉄板でも担いでるのかと思った。あんな重そうなもの振り回すとは、酔狂な奴だねえ。)を構え直した。
「上等だ…………なにをラリッてるのかは知らねえが…………キツイのをくれて目を醒まさせてやるぜ!」
ニワトリヤローの叫びに呼応するように、チンピラどももスタンロッドを構える。こりゃ、派手なケンカになりそうだ!
「くらえっ!ドラグナーエッジ!!」
チンピラどもの集団のど真ん中にヤツは、重剣を地面に叩きつけ衝撃波を放つ戦技(クラフト)、ドラグナーエッジを放った。
衝撃波は真っ直ぐチンピラどもに向かっていったが、奴らはあの時、ルーアンの倉庫街の時とは比べ物にならない瞬発力で左右に回避する。なるほど、肉体的ポテンシャルを引き出してるっつーのは、ホントのようだな。
「いくよ!エステル!」
「オッケー!」
エステルとヨシュアは相変わらずのチームワークで左右に分かれたチンピラどもに突撃する。
「せいっ!ソウルブラー!」
「いっけえ!捻糸根!」
二人は同時に遠距離攻撃を使ってチンピラどもを牽制し、その隙を狙ってさらに突っ込んでいく。
「はっ!!」「せいっ!!」
まさに阿吽の呼吸。また同時に手近なチンピラに得物を叩きつける。こりゃ、勝ったかな~、と、思ってたら。
カキン!!
二人の攻撃はあっけなくヤツらのスタンロッドで防がれてしまった。
「……………………。」「……………………。」
「きゃっ………!」「くっ………!」
後続のヤツらに攻撃されそうになり、身を引く二人。
「こ、これって…………倉庫で戦った時とは桁違いじゃない!」
「この連携攻撃でもダメなんて………。」
「しゃーねえ!俺が行く!」
チンピラどもの強さに引いてるヨシュアたちをよそに、アガットは一人でヤツらに突撃した。
「うおおりゃああああああ!!」
ニワトリヤローが思いっきり振り下ろした重剣から闘気が炎のように噴き出し、『レイヴン』達を反対側の壁までぶっ飛ばした。ニワトリヤローの戦技、フレイムスマッシュ!
「ふん、どんなもんだっての………」
「アガットさん、まだです!」
「な……………グハッ!」
ヤツは油断していた。確かにあの威力なら魔獣だって一撃かもしれん。だが、今の『レイヴン』どもは予想以上にとんでもなかった。
フレイムスマッシュの一撃を耐え切った例の三人……クローゼ達に絡んできたあの三人……に、アガットはもろにスタンロッドのカウンターをくらっちまった。
「ぐっ…………テメエら…………。」
アガットは打たれた腕を抱えて舌を打つ。しかし奴らはまったくダメージはないようで、こちらにまたかかってくる!
(くそっ、これは俺も手伝うしかないか。)
俺はかかってくるヤツらに向かって突進する。しかし倉庫街の時と違って、ヤツラは全然怯まなかった。それぐらいは俺にもわかる。だから俺は作戦を変えた。
(ほらほら~!こっちだぞこっち~!)
「あ………ジーク、もしかして、『レイヴン』達の注意を…………。」
そういうことだ。俺はひたすら『レイヴン』達の頭上スレスレを旋回し、挑発を繰り返した。力や瞬発力がいくら強くなろうが、ヤツらがただ目の前の敵を狙うやり方さえ変わらなければ、勝機は、十分にある
!
「…………そうか。エステル、アガットさん!今がチャンスです!」
「わかったわ!」
「…………ああ!」
ヨシュアの奴、ようやく俺の作戦に気づいたらしい。今度は、三人同時に攻撃するんだ!
「オーブメント駆動………ファイアボルト!」
「はあっ!絶影!」
ノーテンキ娘はアーツ、ヨシュアは戦技(クラフト)で、完全に背を向けていたレイスを倒す。一人。
「……………………。」
「おっと、甘いわよっ!」
こっちの攻撃に気づいたディンがエステルにスタンロッドを振り下ろす。しかし今度は、しっかりと根で受け止めた。
「ヨシュアっ、お願い!」
「わかった!いくよっ……双連撃!」
ヨシュアの二方向からの攻撃。捌ききれずにディンは彼の峰打ちをもろにくらい、崩れ落ちる。二人。
「……………………。」
「ロッコ………今度は逃がさねえっ!!」
再びニワトリヤローが重剣に闘気をこめる。それは剣をも覆いつくし、奴の身体からオーラが現れているように見えた。
「うおおおおおおおおりゃああああああああああ!!!」
奴の渾身のフレイムスマッシュはロッコのスタンロッドをもぶち折り、ロッコは他のチンピラどもと同じように壁に叩きつけられ、落ちた。………三人!
勝負ありっ!てねっ!
「はあ、はあ、はあ~………。」
「大丈夫かい?エステル。」
「う、うん。」
『レイヴン』達との戦闘でかなり疲労困憊した遊撃士三人は、その場に座り込んでひと時の休息を得ていた。両足を投げ出して息を切らすエステルをヨシュアは心配したものの、彼女は、なんともない、と首を縦に振るのだった。
「ありがとうジーク。君が隙を作ってくれたおかげで攻撃のチャンスが出来た。」
「ピュイ、ピューイ!」
ジークはというと、ヨシュアに礼を言われてさも嬉しそうに彼の周りをぐるぐると回っていた。
「…………ヨシュア。さっきの話、本当なの?『レイヴン』が誰かに操られているって…………。」
「………………。」
いつも前向きな彼女も、今回の出来事はさすがに応えたらしい。ヨシュアはエステルに応じて頷いた。
「多分、間違いないと思う。もちろん、誰にだって出来る事じゃない。人間を………あそこまで完全に操作するなんてね。」
ヨシュアの言葉にエステルは思わず身震いをした。
「よし、そろそろ行くぞ。この上の階にこいつらを操っていた真犯人がいるはずだ。」
立ち上がるアガット。さっきまで相当疲れていたように見えた彼だったが、今では戦闘前と同じくらいまでに回復していた。彼に呼応しエステルとヨシュアも意を決して立ち上がる。
「………うん、わかった!」
「了解しました!」
彼らは上の階へと続く螺旋階段を上っていった。アガット、エステルが上り、最後にヨシュアが上る時、彼は階段の途上でピタリと足を止める。そして、下の階への階段をチラッと見た。
(君は………いったいどういうつもりなんだ……………?)
彼は目を細める。しかし彼に立ち止まる時は残されていない。ヨシュアは階段から目を背け、エステル達を追っていった。