白き翼の物語~Trail of klose ~   作:サンクタス

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二週間更新放っておいた上に、今回は超手抜き回になってしまいました(泣)。
ストックがないなんて………言えない!


第三十四話~ささやかな憂い~

~ジェニス王立学園・女子寮の一室~

 

 

 

コツン!

 

「痛っ!………くう……………もう、ちょっとジーク、さすがに強すぎるんじゃ………。」

 

ジークに思い切り頭をつつかれたクローゼは涙目で訴えた。そんな事にはお構いなしに、ジークは彼女にまくし立てる。

「(何を言うか!今回は嘴一回で済んだけどな、市長邸で?一人で魔獣と戦った挙句に?あの悪党に撃たれそうになったって!?バカじゃないのか!あんなに無茶するなって言ったのに。学歴では主席でも自分の立場も弁えられないようじゃどうしようも………………)」

 

ブツブツブツブツブツブツ………………

 

 

 

 

 

 

あの事件があった後、結局一日学園を留守にしてしまった私は一度学園に戻った。さすがにどの先生もあまりいい顔はしてくれなかったものの、コリンズ学園長だけは、理由を話すと笑って許してくれた。私が犯人達と戦った事を聞いた学園長先生は大笑いして、一言だけ言った。

 

 

「そうかそうか、いやはやクローゼ君。強くなったね、君は。とは言っても、今日やった事はあまり褒められることではないのだがね………。」

 

 

でも、学園長の好意に甘えていてばかりではいけない。それで自分の部屋に戻り、反省文を書いて職員室に提出しようと机に向かっていた。

 

すると、突然開いてた窓からジークが現れて、

 

予想はしていたけど……………今は彼にコッテリと叱られている。

 

「(………なんだからな!わかった!?)」

 

「う、うん。わかった。」

 

「(はあ~っ。ダメだダメだ。やっぱり俺がついてないとクローゼは何するかわからん!もうお前の口車には乗せられないからな!)」

 

彼が散々言うのも無理はない。私は………やりすぎた。本当だったら、学園とルーアンとの分かれ道でユリアさんに助けを求めるんじゃなくて、そのまま帰るべきだった。彼の言う通り、私の行動は王族としての適切なものではない。自覚がないと言われても当然の事。

 

でも私は…………あのまま帰るなんて、とてもじゃないけどできなかった。孤児院を焼き払い、テレサ先生や子供達を徹底的に傷つけたダルモア市長に、会いたかった。一言、言ってやりたかった。その結果が、今だ。

 

発着場でユリアさんは何も言わなかったけど、ヨシュアさんやエステルさんがいなかったら、きっとジークと同じような事を言っただろう。私ったら………いつも誰かに心配かけてばっかり。

 

「ねえ、ジーク………。」

 

「(なんだよ。言い訳なら聞かないぞ?もうお前の口車には………。)」

 

「そうじゃない。そうじゃなくて………やっぱり私、女王なんかには向いてないな、って思って。」

 

「……………。」

ピタリと、彼は口を閉ざした。

 

「ほんの一時の感情に流されて………散々、人に迷惑をかけて………結局、他人を頼って、何とかしてもらって……………それの繰り返し。小さい時からそうだった。私は………王族だから、いつも私の周りには、優しくて、見守ってくれる人がいるから、私はここにいられる。けど………。」

 

私…………私自身は……………私一人じゃ………っ!

 

「(おい、クローゼ。)」

 

「……………ん?」

 

「(お前、なーんにも反省してねえな。ちょっと顔貸せ。)」

 

コツン!

 

言った途端、彼はいきなり私に飛びかかって頭をつっついた。 それもさっきより何倍も強く。

 

「あいたっ!!………うう、ジーク………。」

 

「もし俺に腕があったらビンタしてた所だ!いいか、よーく聞け!何回も言うけどな、いい加減に前を向けよ。お前は確かにアホだ。とんでもなく。でもな、今アホだったら、十年後、五十年後、百年後もお前はアホなのか?」

 

「………え………。」

 

「いや、ホントにそうだったらそれこそアホだ。でもそんな事ないだろ?人間は俺達のような動物よりも寿命も長いんだから、いくらでも立ち直るチャンスはある。一歩ずつ、前に進む事ができる。だがな、過ぎたことをいちいち気にしてたって、前には進めないぞ。」

 

「……過ぎた事を………前には、進めない?」

 

「(そう!だからそうやってウジウジしてないで、これからどうすれば女王様っぽくなるのか、アリシアさん………じゃない、女王陛下みたいになれるのか、それを考えろよ。な?)」

 

……………不思議だ。なぜ、なぜジークがあの言葉を……………。

 

「ね、ねえ。ジー………。」

 

言いかけたところで、いきなり部屋の扉がバタンと開いた。

 

 

 

 

 

「やっと見つけた!クローゼ!」

 

「おう、やはり無事だったみたいだな!」

蹴破ったんじゃないかと思うほどの勢いで部屋の扉を開け、クローゼ達をビクッとさせたのは、生徒会のメンバーであり、クローゼの親友、ジルとハンスだった。

何事かと彼女が聞く暇も与えず、ジルは彼女に詰め寄る。やたら興奮していた。

 

「ねえ、あのルーアンのギルモア市長を、クローゼがとっ捕まえたって、本当?」

 

「え……いや、捕まえたというか、ちょっとお手伝いをしただけで………。」

しどろもどろするクローゼだが、構わず、

 

「………すげえ。マジだったとはな!やったなクローゼ!」

 

「いや~、アンタの事だから何かヤラかすんじゃないかって期待してたのよ!」

そして、二人は盛んにクローゼの肩をパンパン叩き出した。彼女は困惑して二人を止めるも、今日はやけに二人はしつこかった。

 

「………えっと、二人とも、ちょっと勘違いしてない?さっきも言ったけど、私はただエステルさん達について行っただけだし、逮捕したのは王国軍の人達だし、別に私は何も………。」

 

「そんな事どうだっていいのよ!知らないの?アンタ、ルーアン市長の逮捕なんて大ニュースに立ち会ったヤツだって、学園じゃ噂になってるのよ?」

ジルはさも嬉しそうに言う。えっ、と小さく声を漏らすクローゼ。

 

「後でゆっくり君の武勇伝を聞かせてくれよ?楽しみにしてるんだから。」

 

「このネタなら一ヶ月は持ちそうね………。フフフフ………。」

ハンスは陽気に、ジルはあからさまに含み笑い、結局、期待満々の目でクローゼを見るのだった。

 

 

 

「………やっぱり、勘違いしてるよ………二人とも………。」

 

 

 

 

 

その後、クローゼはジルとハンスに灯台での事や市長邸の事等を事細かに語らされた。初めは渋々だったクローゼだったが、ジルの巧みな誘導尋問(?)によってあった事をほとんど全部話す事になってしまった。そしてもちろん、彼女の『武勇伝』はその日のうちに学園中に広がった。誰が広めたのかは………言うまでもないだろう。

 

 

 

 

 

 

~次の日の朝・メーヴェ海道~

 

 

 

その日、学園はちょうど休みだったらしい。故意か偶然かは知らんが、その日の朝にエステルとヨシュアはルーアンを出発する事になって、クローゼと俺は関所まで二人を見送る事にした。今は学園からルーアンに向けての~んびりと歩いている。

 

「(それにしても、なんだか色々な事があったな。この一ヶ月。)」

 

「うん………マノリア村であった時は、こうなるとは全然思ってなかったけど………。」

呑気だねえ。一歩間違ってりゃ、お前もここにいなかったっていうのに。

 

「(で……未だに何があったか掴めてないんだが………結局その、エステルが持ってた『黒いオーブメント』が原因なのか?)」

 

「全然わからない。でもあの時は……………。」

 

 

 

 

 

 

~市長邸~

 

 

 

ダルモア市長に銃を向けられて………正直もうダメかと思った。でも、奇跡が起きた。

 

カチッ。

 

「………あ……………。」

 

「……………へ?」

引き金を引かれた導力銃は、そのまま沈黙した。

 

 

 

唖然とする一同。市長が苦し紛れに起こしたその行動よりも、結果の方が驚きだった。その中でも特にショックが大きかっただろう当の市長は血の気を失い、その場にバッタリと倒れ込んでしまった。

 

「ね、ねえヨシュア、さっきのって……。」

 

「弾切れ、の時の音に聞こえたけど。」

ヨシュアさんはそう言ったが、どうも自身なさげのようにも聞こえた。彼がそんな風に話すのはあまりないから確かではないけれど。

ユリアさんは市長に黙って近づき、彼の導力銃を取り上げて部下に渡して、独り言みたいに呟いていた。

 

「……どうやら貴殿は女神にも見放されたようだな。哀れな男だ。」

 

 

 

そして市長は親衛隊の数人に担がれて連行され、彼に関わる一連の事件はここで幕を下ろしたのだった。

 

たくさんの謎を残して。

 

 

 

 

 

 

「(そこがわかんないんだよなあ。なんで市長は弾切れの銃なんて持ってたんだろう?)」

今となっては本当に弾切れだったのかも定かではない。でも市長のあの様子から見ても、あの銃が撃てない物だったとはどうしても思えない気がする。だとしたら……………

 

なぜ、あの銃は弾を発射できなかったのだろうか?

 

「(その『黒いオーブメント』ってのはもうエステルに渡しちゃったのか。)」

 

「うん、勿論。元々あれはエステルさんの物だった………というよりは、彼女のお父さんの唯一の手がかりだから。」

 

「へっ………。」

 

 

 

 

 

~市長邸前~

 

 

「エステルさん、これ、お返しします。」

黒い半球体はもう、あの時のような不気味な光は発していなかった。その沈黙が、私には怖かった。自分には測りし得ない事が、自分の手元で起こってしまった事………今考えても、恐ろしい。

放り出すみたいに結果はなっちゃったけど、元の持ち主には返さなければいけないし、なによりも、この得体の知れない存在の正体を知っている人に、持っていて欲しかった。

 

「そうか、楽屋で拾ってからずっと持っていてくれたんだね。」

 

「あ~、良かった。クローゼに拾われていなかったら、今頃どうなっていたかしら………。」

彼女はそれを受け取ると、今度こそ落とすまいとバッグの奥底に無理矢理突っ込んでいた。

 

「ごめんなさい。私も持っている事をいつの間にか忘れてしまっていて………ちゃんと返せて安心しました。」

 

「でもそんな大事な物を落として今日まで気づかないなんて、エステル。もっと普段から注意していないとダメだね。」

結構責任を感じてたみたいで、肩をすくませるエステルさん。とは言っても私が渡すのを忘れていたんだから、責任としては私にあるよね………。

 

「あの………エステルさん。差し支えなかったら聞いて欲しいんですけど、それは一体……………。」

 

「これの事?う~んと、どこから説明したらいいか………。」

 

「実は、僕達もこのオーブメントの正体は判っていないんだ。オーブメントって呼んでるけど、これが本当にそうなのかも、まだわからない。」

 

そっか。だからあの時『オーブメント』が発光した時、ヨシュアさん達も驚いていたんだ。

 

「そうそう!まったくもう、これもあの不良親父のせいなのよね~。」

気怠くため息をつくエステルさん。

 

「不良親父……ですか?」

 

「うん。私の父さんで、遊撃士なんだけどさ。数日前に急に『仕事が出来た』って行ったまま行方がわからなくなっちゃって。」

 

「え………それって、大変じゃないですか!」

 

「だから、父さんの行方を調べるっていう目的も僕達の旅にはあるんだ。国内にいるかどうかも定かじゃないけど、何か手がかりが掴めないかと思って。」

 

「そう、だったんですか………。」

父親探しのついでに遊撃士修行、か…………同じように国内を周った私は、親衛隊の人達や物珍しそうに見る市民達の目に囲まれながら歩き、街間移動は全て専用飛行艇だった。改めて、私とエステルさん達の立場の違いというのがまざまざと見せつけられた気がした。

 

「クローゼ?どうかしたの?」

 

「い、いえ………あ、そう言えば、エステルさん達のお父様って、どんな人なんですか?」

 

「ど、どんな人かって?そんな事言っても、中年で、たまに夜になっても帰ってこなかったり、たまにお土産を買ってきてくれるけど、やっぱり不良親父っていうのがしっくりくるかな?」

となりでヨシュアさんがクスクスっと笑った。半分吹き出し気味だった彼は、呆れながら言う。

 

「はは、多分名前を言えば、君もわかると思うよ。有名な人だからね。」

 

「有名………?」

 

「そう。彼の名は……………カシウス。カシウス・ブライト、その人さ。」

 

 

 

 

 

 

耳を疑った。もしハヤブサに手があったら、オレは即行耳をかっぽじってた。

「……………マジか。」

 

「うん。マジ。」

 

「ええええええええええっ!?」

嘘だろ……あのエステルが、あのノーテンキ娘が、あのカシウスの娘ぇ!?

 

「今思えば、始めに会った時もなんとなく親しみを感じてた。あの紅い瞳なんてソックリじゃない。」

 

「はあ、確かにあの人もちょっと変人入ってたけど、しっかり娘にも受け継がせたって事か。受け継がせるんだったらオツムの方にすればいいのに……………。」

 

「もう、相変わらず失礼なんだから。エステルさんに言いつけるわよ?」

クローゼはヘラヘラと笑ってた。

でも多分、最初に聞いた彼女も相当驚いてたろうな。何しろカシウスさんは彼女が強く尊敬してる人物の一人だし、もっと言えば命の恩人みたいなもんだからねえ。(百日戦役があのまま負けてたら、絶対アウスレーゼの人間は生きてなかった。)その娘に、このルーアンで偶然出会うなんて、運命感じるのも無理はない。俺はそういうの信じないが。

 

「あ、そう言えば、ユリアさんは?あの後レイストンに戻ったの?」

 

「(いや、王都に行ったみたいだ。そうそう、伝言なんだけど、『連絡を頂いたらいつでもお迎えにあがります。』だそうだ。)」

 

「……………。」

頷いたから聞こえたんだろうが、彼女はそのまま何も言わなくなった。

もうすぐ、女王生誕祭が始まる。もちろんクローゼも出席する事になるから、ユリアはこういう伝言を残したんだと思う。

でも、王都に行けば、否応なしに彼女に王族としての重圧がのしかかる。クローゼはプレッシャーとか責任とか、そういうのになんだかんだ言って弱いからなあ。乗り気だってしないよ。そりゃ。かと言って、そんな事ばっかり言って逃げる自分も相当に嫌気が差してるだろうし……………

 

どうするのかねえ。クローゼ?

 

「ねえ、ジーク。」

 

「……は、はい!?」

ビックリした……てっきりそのままずっと喋らないかと思ってたのに。

 

「リシャール大佐の事………どう思う?」

 

「大佐って、あの発着場であった金髪の?」

 

 

 

 

 

 

 

~ダルモア市長逮捕事件直後、ルーアン発着場~

 

 

 

「遊撃士諸君、本当に協力を感謝する。君達の働きがなければ、もしかしたら市長に逃げられていたかもしれなかった。」

ユリアの奴はそう言って頭を下げる。

ダルモア市長らを捕まえたユリア達親衛隊は、市長をアルセイユに押し込んだ後、クローゼ達を発着場に呼び出した。新型高速飛行艇アルセイユの目の前で呼び出すもんだからエステルやヨシュアもかなり驚いていた。俺の足元のクローゼは………なんにも言わずに目を伏せてたけど。

 

「いえ、あのタイミングで来てくれなかったら私達も危ない所でした。もう少しかかると思っていたので………僕達の方も助かりました。ありがとうございます。」

 

「(はあ~、これが噂の『アルセイユ』。なんかきれいな船ね。)」

 

「(あ、この巡洋艦は王家のものなので………リベールの最新技術がたくさん使われていて………。)」

さっきからユリアへの対応はみんなヨシュアに任せて、エステルは何にもしないでアルセイユばっかり眺めてる。同じ遊撃士だってのになにやってんだか。それにクローゼも乗っちゃってるし。ユリアと顔合わせないようにわざとやってるにしても、なんか腹立つ。

 

「(おい、いつまでそんな事してるつもりだ?)」

 

「(……だ、だって、エステルさん達がいる所でユリアさんとは話せないし。)」

 

「(そうは言ってもな、俺から見ればただ無視してるだけにしか見えん。)」

また何か反論でもするのか、クローゼが口を開いたところで………ユリアの注意が急に他に向いた。

 

「こ、これは、大佐殿………。それにカノーネ…大尉も。」

 

「お手柄だったね。シュバルツ中尉。」

 

「ごきげんよう。ユリア中・尉。」

どことなく、その場の気が凍りついた気がした。あいつは確か、軍の『情報部』とかいう………。

 

「ああっ!」

 

「リシャール大佐………。」

 

「ほう、いつぞやの……。なるほど、ギルドの連絡にあった新人遊撃士とは君たちのことだったか。」

あれ、話が………通じてる?クローゼも同じ事を思ったようで。

 

「エステルさん、大佐とはもう面識が?」

 

「うん、ボースの空賊事件の時にちょっとだけ。まさか、大佐の方が、覚えてくれてるとは思ってなかったけど。」

 

「はは、私は一度覚えた事は忘れない質でね。しかし、レイストン要塞から慌てて駆けつけてみれば既に事が終わっていたとはな………見事な手際だ。シュバルツ中尉。」

 

「きょ、恐縮です……。」

 

さっきから妙に『シュバルツ中尉』を強調するな。特に悪気は感じないが………。

 

「フフ、でも不思議ですこと。王都にいる親衛隊の方々がこんな所に来ているなんて……。どうやら、我々情報部も知らない独自のルートをお持ちのようね?」

 

「お、お戯れを………。」

ギクリ。…………あの黒服の女、痛い所を付いてきやがる。もしかしてもう知ってるんじゃないのか?それはそれでイヤミな…………。

オドオドするユリア。一応クローゼもチラッとみると、下向いて大佐と目を合わせないようにしていた。

 

「はは、カノーネ大尉。あまり絡むものではないな。ただ………陛下をお守りする親衛隊が他の仕事をするのも感心はしない。」

ま、それは当然といっちゃ当然だ。どう考えてもここに親衛隊が来るなんておかしい。やっぱりあの時、クローゼを止めとけばよかったかな……………。

 

「後の調査は我々が引き継ぐからレイストン要塞に向かいたまえ。そこで、市長たちの身柄を預からせてもらうとしよう。」

 

「は……了解しました。」

 

「我々はこれで失礼するよ。親衛隊と遊撃士の諸君。それから…………。」

そして大佐はクローゼと目を合わせ、はっきりと言った。

 

「制服のお嬢さん………。」

 

「……………。」

 

「……機会があったらまた会うこともあるだろう。それでは、さらばだ。」

 

 

 

 

 

 

「(確かにちょっとイヤミったらしいやつらだったな。クローゼにも盛大にガン飛ばしてたし。王城にいた時もチラホラ見た事あったけど、まさか『情報部』なんてどエラいもの創るなんてねえ。で、大佐がどうかしたの?)」

 

「いや、ジークから見たら、どう見えるのかな………って。」

なんとなく納得がいかないような、そんな顔をするクローゼ。歩く足がちょっとだけ鈍くなった。

 

「(どう、って言われてもねえ。我らがリベール王国軍の軍人の一人じゃないの。)」

 

「……………。」

 

「(奴に、気になるところがある、そういう事?)」

自信なさげに彼女は小さく頷く。そう聞いて欲しいならそう言えばいいのによ。

 

「………少し前の手紙でユリアさんから聞いたんだけど、今、王都では大佐の人気がものすごく高まっているらしいの。そして彼もそれに応えるように各地を回って、さらにリベール全土の信望を集めようとしているって………。」

 

「(いいことじゃないか。王国軍の評判だってよくなるし。)」

 

「『王国軍』といっても、一枚岩じゃない。わかるでしょ?」

………なるほど。ようやく言いたいことがわかった。大佐は、王国軍としてよりも『情報部』として動いていたのか。そうなると大佐は『情報部』の国民からの信望を集めているということになる。つまり………

 

「大佐の城内での発言権もさらに大きくなっているみたい。最近、お祖母様の政治の事にまで口を出したって。流石に度が過ぎる………気にしてた。ユリアさん。」

 

「(それはともかく……………着いたぞ。ルーアンに。)」

いつの間にかメーヴェ海道を抜け、俺達の前に、白い街並みが広がっていた。

 

「(アイツらが待ってるんだろ?行ってこいよ。)」

 

「………うん。じゃあ、また後でね。」

 

 

 

 

 

 

 

気にしすぎなのかもしれない。俺には、あの大佐がヤバイことをしでかしそうな人間には見えなかった。でもクローゼやユリアは、何かに気づいている。

政治的な動きは俺はよくわからない。もしかしたら彼女らはそっちの方向で感じ取れるものがあったのか………

俺はクローゼが行ってしまう前に顔をチラッと見た。さっきまでの心配そうな表情はもうなかった。そのかわり、ひどく寂しそうだった気がする。


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