白き翼の物語~Trail of klose ~   作:サンクタス

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タイトル通り、この話は外伝です。外伝シリーズは基本的に一話完結でやっていこうと思ってます。(とか言っておいていきなり前編ですが。)

また、外伝ですのでストーリーには直接関わってくる事はあまりなさそうですが、もしかしたら………物語やキャラクターの設定を理解するのに重要な内容が入ってくる………かも。あくまでも、『かも』ですけど。


ルーアン編は………あともう少しで完結します。


外伝1-1~植木鉢事件・前編~

この話は、私が王立学園に入学してまだ一年も経っていない頃………まだレクター先輩が学園で暴れまわっていた時の話。

 

 

 

 

 

 

 

私とジル、ハンス君の三人は、一日の授業が終わった後に突然生徒会のレオ先輩から呼び出された。彼にしては珍しく焦り気味の口調だったから、皆で何があったのかと話しをしたのを覚えている。

生徒会室に着くと、もう一人の生徒会の先輩、ルーシー先輩とレオ先輩、そして空っぽの生徒会長用の椅子が出迎えてくれた。

まずはいつも通りレオ先輩が進行係を務める。

 

「さて………これから緊急会議を行う。一年生は………。」

 

「全員揃ってます。先輩。」

とジル。

 

「レクターは………いないか。」

 

「いいわ、レオ君。先に進めて。」

冷静かつ素早く言い切るルーシー先輩。また今日もレクターさんは休み………じゃない、サボりですか。まったく、困った人だ。

 

「もう先生方から聞いているだろうが、今回は今日この学園で起こってしまった不幸な事件について議論していく。事件は………。」

 

「ちょ、ちょっと待ってください先輩、それって植木鉢………」

何か言い出そうとしたハンス君をレオ先輩はジロッと睨む。

 

「これから話す。余計な私語は慎むように。」

 

「は、はいっ!」

 

 

 

 

 

その事件は唐突に起きた。でもひとまず事件の概要を説明しようと思う。

 

今朝、旧校舎でブラブラしていた三年生のアントンさんとリックスさん。その二人が寮に戻ろうとしてクラブハウスの脇を通った時………いきなり上から植木鉢が降ってきてアントンさんの頭に直撃、ルーアンの病院に緊急搬送されたのだ。

学園の生徒が大怪我をするという自体に学園は一時大騒ぎになって、授業も一時間目がなくなる程だった。学園の情報ネットワークは凄まじい勢いで情報を集めだし、あっという間に全校生徒はその事件の粗方を知る事となったのだ。だから私達一年生組も事件の事はとっくに知っていた。

 

 

 

 

 

「事件の内容は知っているだろうからここでは触れないが、ここで、この事件は決して人ごとではないという事を自覚してもらいたい。」

 

「それは………植木鉢の事、でしょうか?」

 

「その通りだ。クローゼ君。あの植木鉢は、ここ。生徒会室にあった物。そして落下したのは………そこの窓からだった。」

忌々しそうに顔をしかめて先輩が指差すのは、屋根から吊るされたロープが風でゆらゆら動いているのが見える、あの窓だった。

 

「なるほどね、生徒会室の植木鉢が落下して生徒を傷つけたともなれば、人ごとではないわね。」

 

「ルーシーの言った事が全てだ。それ故、我ら生徒会は、生徒会の威信に懸けて、事件の犯人を捕獲せねばならん。留意しておいてくれたまえ。」

レオ先輩は抑えてはいるものの、一言一言に力みが入るのが見て取れた。その口調からして………犯人ありき、と思っている事も。

 

 

 

 

 

~クラブハウス・一階~

 

 

 

 

「ふう~、今日のレオ先輩はいつも以上にピリピリしてたな。息を吸うのも辛かったぜ。」

会議が終わり、開口一番にハンス君は言う。

 

「当たり前でしょ。何しろ、少なくても間接的に生徒会がこんな事件に関係してたとなれば。クソ真面目なレオ先輩にも違う意味で痛かったと思うわよ。」

 

「でも、なんで植木鉢なんかが窓から落ちたのかな?今朝は風もほとんどなかったし、勝手に動くはずもないよね。」

私はそれが気になっていた。自然に植木鉢が窓から落ちるなんて普通は考えられない。そんな事が日常茶飯事だったら外も歩けないもの。

 

急に、ジルは身体をブルブルっと震わせた。

 

「………まさか。」

 

「………ジルも思ったか?」

 

「な、何?二人とも。」

二人はなにか気づいたらしい。何故か二人は後ろを向いてヒソヒソと話し合う。

 

「アイツだわ。間違いない。」

 

「だろうな。それぐらいしか思いつかん。」

 

「あ、あの………ちょっと、二人だけで話さないでよ。アイツって何の事?」

ようやくジルがちらっとこちらを向いた。そして、ハァ~、と大きくため息をつく。

 

「………クローゼ。アンタ何ヶ月も一緒に仕事してきたのにまだ判らないわけ?生徒会内で『アイツ』って言ったらアイツしかいないでしょ。」

 

「ま、まさか………。」

 

生徒会メンバーでの業務用語『アイツ』。その言葉が指すのは勿論……………レクター先輩。彼のあのおちゃらけた顔がまざまざと脳裏に浮かび上がった。

 

「そうか………あのバカ生徒会長め、よくもまあ懲りずに人に迷惑かけやがって!よし、決めた!ハンス、一刻も早くアイツをとっ捕まえて白状させるのよ!」

 

「えっ、今すぐ………って、おい!引っ張るなって!うわあああ………。」

ハンス君の首根っこを掴んだまま、彼女は目にも止まらぬ速さでクラブハウスを飛び出していった。

 

「もう、待ってジル!」

私もまた外に飛び出した。けれど、もう既に彼女らの姿は見えなかった。

 

 

 

 

 

「レクター、先輩が………?」

私にはどうしても納得ができなかった。彼は確かに人に迷惑をかけるけど、今回みたいに人を傷つけるような事を彼がしでかすとはやはりどうしても思えない。彼自身からは言ってないけれど、彼の悪戯は、後に笑い話になるような、そんな悪戯だ。この事件とは、ちょっと方向性が違う。あくまでも、これが人為的に起こったという仮定での話だけれど。

彼の無実を証明したい……………その時私は妙にそんな衝動に駆られた。

 

「………ジーク!」

 

「(はいは~い。呼ばれましたぁ~。)」

 

のんびりと滑空し、やってきたジーク。私は彼を近くのベンチに止まらせる。

 

「ジーク、今朝、レクター先輩見なかった?」

 

「ん?ああ、レクターね。見たけどさ。」

見たの、と私が聞く前に、彼はバサバサっと翼をばたつかせて言った。

 

「見たけど、ヤツのアリバイを調べたって無駄だと思うよ?」

 

「………よくわかったね。私の言いたい事。」

フンと息を吐いて、得意げに彼はこっちを見る。

 

「相手の言いたい事がわかるのは、お前だけじゃないんだぜ?あのな、アイツの神出鬼没さを一番知ってるのは、クローゼと、ジル達生徒会メンバーだ。本館で見たと思えば旧校舎、旧校舎にいたと思えば講堂で寝っ転がってて、講堂で捕まえたと思えばクラブハウスの屋根の上だ。そんなヤツのアリバイなんか何の役にも立ちやしないって。」

 

わかってる。わかってるよジーク。でも………このままじゃレクター先輩だけ疑われる。いつも人を困らせてばっかりの彼でも、濡れ衣を着せられていいはずがない。

 

「ジーク、レクター先輩を探そう!」

 

「(なんだよ。アイツを庇うってのか?それまた酔狂な………。)」

 

「いいから!屋外はお願いね!」

ブツブツ文句を言うジークを放っておいて、私はレクター先輩の捜索に乗り出した。彼の無罪を信じて。

 

 

 

 

 

 

~旧校舎付近・森~

 

 

 

旧校舎の周囲に広がる深い森の中………そんな所に彼はいた。それも茂みのど真ん中。これならなかなか見つからないはずだ。

 

「先輩!こんな所にいたんですか。」

 

どうやらちょうどウトウトし始めたところだったみたいで、彼は眠そうな目でこっちを見た。

 

「おー、クローゼじゃないか。よくこんなトコまで来たなァ~。」

 

「それはこっちのセリフです。一体こんな所で何やってるんですか。」

 

「フッ、ちょっと草の気持ちになっていたのだ。なかなか気持ちいいぞ。風に揺られてサワサワサワと…………」

 

相変わらずのマイペースぶりを見せつけようとする彼だったが、上空から急降下してきたジークによりそれは阻止された。毎度お馴染み、ジークの連続突っつき攻撃を受けたレクター先輩は慌てて立ち上がる。

 

「あ痛たたた………そうか、お前がオレを見つけたのか。」

 

「(そこそこ長い付き合いになったからな。だんだんお前の行動パターンにも慣れてきたところだ。ほらクローゼ。さっさと要件を済ませろよ。)」

 

「う、うん。あの、先輩。今日は捕まえに来たんじゃなくて、聞きたい事があって来たんです。今朝の事件の事で。」

ほう、とだけ言って無言で先を促すレクター先輩。初めからその事を知っているように、落ち着き払って木にもたれかかっていた。

 

「先輩の事だからもう知っているかもしれませんけど………今度の事件、先輩が犯人だと思われているんです。」

 

「ふ~ん、それで?」

 

「それで、じゃないですよ!先輩は、自分がやってもいない罪をみすみす認めてしまうつもりなんですか?」

ついしびれを切らして強く言ってしまったけど、それでも先輩はぼおっと宙を見るばかり。

 

「私は、そうやって逃げていたら先輩は余計に疑われると思うんです。だからすぐにでも……………」

 

「ドウドウ、クローゼ。またお前の悪い癖が始まったぞ。ホントお前って奴は、変に焦るトコあるよな。変に焦って、物事の本質を見逃す。」

 

「え……………。」

 

「第一、オレがやっていないという保障はどこにもない。どうしてお前はオレが犯人じゃないって、思うんだ?」

それは………こんな事件、レクター先輩がするとは思えなかったから…………これでは、理屈にはなってない。そうだ。こんな言い訳で、ジル達を納得させられるわけないじゃない。

 

「それにな、言い訳なんてしたってつまんないぜェ。」

私の考えを見透かしたかのように彼はさらに続ける。

 

「オレの信念はな、自分に正直になる事だ。クローゼ。真面目になって固くなっても、面白くもなんともないぜ。じゃ、またな~。」

 

後ろ向きで手を振り去っていく先輩を、私は追いかける気になれなかった。

 

 

 

 

 

「また、諭されちゃった………。」

 

「(そして、また逃げられた。どうするんだよ、これから。)」

 

………自分に、正直に……………。

 

私は、何がしたいのだろう。何を求めているのか。それって、これからしなければならない事に繋がるのかもしれない。それなら……………。

 

「ジーク。学園に戻ろう。」

 

「(へ……ああ、はいはい。で、何しに?)」

 

「………現場検証。」

 


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