春を導くは偉大な赤いアイツ   作:ヒヒーン

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偉大な赤いアイツ、宣戦布告?する

 気持ちの良い朝の日差しが窓から差し込み、チュンチュンという小鳥たちの囀りがキングヘイローを眠りから優しく起こす。

 

「んぅ……ん……?」

 

 微睡んだ意識の中、周りへ視線を向ければそこは見慣れた自分の部屋。特に何もおかしいような所は無いが、だからこそ違和感があった。

 

「あれ、私いつの間に寝て……?」

 

 寝る前に何かこの部屋で起きたような気がするが、はていったい何だったのか? とキングヘイローは眠気で閉じようとする目を擦りながら身体を起こす。

 

「あら?」

 

 身体を起こしたことでパサッと退かされた掛布団の下から着慣れた寝巻きのパジャマが現れ、キングヘイローは自分の今の服装を見て小首を傾げる。

 

「私、昨日パジャマに着替えたっけ……?」

 

 どうにも記憶があやふやだ。昨日何か起きたのは間違いないのだが、その肝心な何かを忘れてしまっている。

 

 1度気付いてしまえば違和感は徐々に大きくなり、不安に思ったキングヘイローはその違和感の正体を掴む為に部屋の中を見渡し……ふと、気付く。

 

「ウララさん……?」

 

 いつも寝る時には引っ付いてくるハルウララが居ない。それどころか、部屋の中にハルウララの姿自体がどこにも無かった。

 

 ベッドの上はもぬけのから。私物のほとんどはそのままにハルウララだけが綺麗に居なくなっている。

 

 あやふやな記憶に、消えたハルウララの姿。まるで狐にでも化かされているような気分にキングヘイローはまだ自分が夢でも見ているのかと錯覚しそうになる。

 

「どういうこと……?」

 

 試しに頬を抓ってみるが痛みはしっかりと感じる。ならばこれは現実なのだが、それにしては実感が無い。

 

「思い出さなきゃ……昨日何があったのかを……!」

 

 まるで記憶喪失にでもなってしまった感覚に慌て、キングヘイローは何とかして違和感の正体を掴む為に覚えている記憶を1つずつ辿っていこうと思考を回そうとしたその時、ガチャリと部屋の扉が開く。

 

「あっ! キングちゃんおはよー!!」

 

 そう言って部屋に入ってきたのはハルウララだ。彼女の髪と同じピンクのパジャマと花柄のマスクを着けて、パタパタと袖をはためかせながら元気に挨拶してきた。

 

「ウララさん……いったい何処へ行ってたの? それにそのマスクはどうしたの?」

 

「ほへ?」

 

 ハルウララの姿を目にしたことでホッとしたキングヘイローは安堵の息を吐きつつそう聞くと、ハルウララはきょとんとした顔で首を傾げる。

 

「どこって、隣の部屋だよ? 昨日から別室になったからね!」

 

「え? そうなの?」

 

「え? そうじゃないの?」

 

 お互いに顔を見合わせて困惑するキングヘイローとハルウララ。どことなく噛み合っていない会話をしていると、部屋の外からひょっこりと1人のウマ娘が顔を出す。

 

「おい、ウララ。病人なのに勝手に出歩いてんじゃねぇよ」

 

 そう言って現れたのはセクレタリアトだ。トレセン学園の制服を身に纏い、いつもは纏めていない赤く長い髪の毛を今日は一纏めにしている。

 

「あっ師匠! おはよう!」

 

「おう、おはようさん。んで、お前さんの部屋は隣だろうが。フジキセキさんに見つかって怒られても知らねぇぞ?」

 

「はーい! 忘れ物持ったらすぐに戻るよー! あっ、キングちゃんもまたね!」

 

 ハルウララは机の上に置いてあった自分のスマホを手に取ると駆け足で部屋を出て行った。

 

「朝から邪魔してすまんな。昨日は全然話せなかったから、また後でゆっくりと話そうや」

 

「えっ、あっ、はい」

 

 そう言い残してセクレタリアトは部屋の扉を閉めた。

 

「…………」

 

 自分以外には誰も居なくなった部屋の中で、セクレタリアトの姿を見たことでキングヘイローは昨日自分に何が起きたのかを徐々に思い出す。

 

 ハルウララが熱を出したこと。トレーニング帰りに慌てて自分の部屋へ帰ってきたこと。そして、そこでセクレタリアトと出会い緊張のあまり固まっていたらセクレタリアトに突然抱き締められて気絶してしまったこと。

 

「〜〜〜〜〜〜〜!!??」

 

 その全てを思い出した瞬間、顔をボンッ! と一瞬で赤く染め上げたキングヘイローは枕に顔を押し付けながら身体をクネクネと悶絶させつつ声にならない叫び声をいつまでも上げ続けた。

 

 ……この日、キングヘイローは見事に遅刻した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい! HRを始める前に、皆さんに1つビッグニュースです! 今日からなんとアメリカからの留学生が1人うちのクラスに入ってくることになりましたー! 拍手!」

 

 わーパチパチと1人虚しく拍手する担任を他所に教室は生徒達のざわめきで満たされる。

 

「転入生ってやっぱり……」

 

「えぇ、間違いないわよきっと」

 

「やだ、緊張してきちゃった……!」

 

 転入生と聞かされて、どんな人物が入ってくるのか想像するウマ娘はこの場に1人も居ない。

 

 何故なら、彼女達は既にもう知っているからだ。入学式も少し前に終わり今の遅れた時期になってやって来たアメリカからの留学生なんて、昨日のグラウンドでその姿を見せつけたあの人物しか思い当たらないのだから。

 

「おい、ブライアン」

 

「あぁ、言われなくても分かってるさ」

 

 隣の席から話しかけてきたヒシアマゾンにナリタブライアンは小さく頷く。

 

(アメリカ三冠ウマ娘……その実力を見極める)

 

 シンボリルドルフと同じように三冠ウマ娘の称号を持つナリタブライアンは静かに己の内から闘気を燃やしていた。

 

「ぐすっ……誰も拍手してくれない……えぇい! いいやもう! そんなことより紹介です! どうぞ入ってきてください!」

 

 1人で拍手していることにメンタルが折れかけた担任は涙目になりながらヤケクソ気味にそう叫ぶ。

 

 すると、間もなくして教室の扉がガラガラと開き、1人のウマ娘が入ってくるのと同時に一瞬でざわめいていたクラスが静かになった。

 

「皆さんもご存知な方は多いと思います! アメリカのウマ娘のセクレタリアトさんです!」

 

「ご紹介に預かりましたセクレタリアトと申します。皆様よろしくお願いいたします」

 

 壇上に上がったセクレタリアトがそう言って小さく礼をするのをクラスの全員が黙ったまま呆然と見つめるしかなかった。

 

(昨日は遠目からだったが……近くだとこんなにも大きいのか……!)

 

 姿形の話ではない。セクレタリアトから感じる風格とも呼ぶべきもの。それはただそこに立っているだけで凡百のウマ娘とはまるで違うことを確信させるぐらいに巨大であった。

 

 “Big Red“とは言い得て妙だ。彼女程にその名が似合うウマ娘はそう居ないことだろう。

 

 自分とセクレタリアトの間にある力の差を肌で感じ、ナリタブライアンは無意識の内に口角を吊り上げた。

 

 ……ちなみにこの時、当のセクレタリアトはと言うと。

 

(おぉ!? あれナリタブライアンじゃね!? あっちはヒシアマゾン!? うおっ、スーパークリークも居るやん!! すっげ、さすが日本ウマ娘トレーニングセンター学園! 日本の名ウマ娘勢揃いすぎじゃね!?)

 

 日本へ来る前にネットで見たレースにて活躍した日本の名ウマ娘達の一部が同じクラスに居ることにテンションが爆上がりし、顔が無意識の内にデレッとしないように気力を振り絞っていた。

 

「はい! 自己紹介ありがとうございます! では早速ですが、HRの時間を使って今からセクレタリアトさんへの質問コーナーを設けたいと思います! 好きな食べ物とか好きなお洋服とか、何でも聞いちゃってください! はい、質問のある人は挙手!」

 

(え、マジで?)

 

 質問コーナーをやるなんて一切聞かされておらず、セクレタリアトは内心で冷や汗をかく。

 

 古来より海外からの留学生や転校生というのは入学初日にクラスメイト達から質問攻めにされやすい。

 

 それは何故かというと、人間は自分と同じ種類の人間と群れを作りやすい本能を有しているからであり、得体の知れない人物を自分と似ているのかどうか判別して群れという名の仲間に引き入れるかどうかを判断する為と言われている。

 

 それを踏まえて、アメリカの大スターでありウマ娘にとって頂点に近しいと謳われているセクレタリアトはどうなるかと言えば。

 

「おぉ……皆さん凄いやる気ですね。まさか全員手を挙げるとは……」

 

 まぁ当然こうなる訳だ。

 

「えぇと……全員当ててたら時間が足りないので、4人ぐらいに絞っていきましょうか。セクレタリアトさん、お好きな方を指名してください!」

 

「あ、ハイ」(マジかァァァァァァ!?)

 

 担任からのキラーパスを受け、セクレタリアトは漏れそうになる悲鳴をグッと堪えて、重い手を持ち上げた。

 

「えっと、では3列目の後ろから5番目の貴女」

 

「はい! では当てられた方は名乗りと一緒に質問どうぞ!」

 

 この担任さっきからテンション高ぇなおい。セクレタリアトは内心で静かにそう思った。

 

「ゴールドシチーです。セクレタリアトさんは普段からどんな化粧水とか使ってますか?」

 

(え、化粧水?)

 

 尾花栗毛と呼ばれる珍しいプラチナブロンドの髪色を持つゴールドシチーの質問を聞き、セクレタリアトは目を瞬かせた。

 

 アメリカに居た頃もよくこんな風にテレビや雑誌で質問をされてきたことはあるが、ほとんどレースのこととかトレーニングのことばかりであり、てっきり今回も同じようなことを聞かれると思っていたからこそセクレタリアトにとってその質問は予想外だった。

 

「えっと、化粧水は仕事だとスタッフさんが用意してくれた物を使ったりしますが、匂いとかちょっと苦手なので普段ではまず使っていませんね」

 

つまり、その美貌は生まれつき……!? あっ、いえ、何でもありません。ありがとうございます!」

 

 セクレタリアトの答えにゴールドシチーを含めたクラスの何人かはかなり驚いた様子でセクレタリアトを凝視し、質問者のゴールドシチーはセクレタリアトには聞こえないぐらいの小声で何かを呟いた後に慌てて礼をして席に座った。

 

 何か変なことでも言っただろうか? とセクレタリアトが疑問に思っているのを他所に質問コーナーは続く。

 

「ゴールドシチーさんありがとうございました! では次の方どうぞ!」

 

「じゃあ、今度は4列目の前から2番目の貴女で」

 

「ナリタタイシンです。好きな曲とかありますか?」

 

 化粧水の次は曲と来た。あまりにも普通すぎる質問にセクレタリアトは内心で首を傾げつつ答える。

 

「好きな曲ですか……そうですね、ボン・ジョヴィのIt's My Lifeとか好きですよ」

 

古っ……

 

(おい、聞こえてんぞ! そこまで古くないだろ!?)

 

 質問したナリタタイシン本人は小さく呟いたつもりだろうが、壇上から席が近いということもあってしっかりと聞き取れてしまったセクレタリアトは内心でそう叫ぶ。

 

 もちろん表面上はずっと取り繕った真面目顔のままであり、セクレタリアトがそんなことを思っていることなど露知らないナリタタイシンはそのまま席へと座った。

 

「では次の方ー!」

 

「それでは、5列目の前から3番目の貴女」

 

「ヒシアマゾンだ。タイマン勝負は好きか?」

 

「はい?」

 

 普通どころか斜め上を行く質問にセクレタリアトは思わず答える前に疑問の声を返してしまったが、いきなりそんな質問をされれば誰だってそうなるだろう。

 

「タイマンだよ、タイマン。勝っても負けても恨みっこ無しの1対1のガチンコ勝負! そんな勝負は好きかって聞いてるんだ」

 

「あぁ……えぇ、好きですよ。そういう勝負は手に汗握りますからね」

 

「よし!」

 

 何がよし! なのだろうか。セクレタリアトには質問の意図が全く分からなかったが、ヒシアマゾンはその答えで満足したらしく力強く頷きながら席へと座った。

 

「それではラストー!」

 

「えぇ、では……」

 

 最後の一人を決めるべく、セクレタリアトはクラスメイト達を見渡し……睨みつけるような力強い眼差しと共にプレッシャーを向けてくる1人のウマ娘の姿に人知れず冷や汗を流す。

 

(なにこれ、何で俺こんなにも睨まれてんの……?)

 

 向けられている視線から絶対に当てろという強い意志を感じる。むしろこれで当てなかったら何をされるか分からないため、セクレタリアトはそのウマ娘───ナリタブライアンを当てることにした。

 

「4列目の前から3番目の貴女」

 

「ナリタブライアンだ。単刀直入に聞くが、貴女が日本に来た目的はなんだ?」

 

 その質問が出た瞬間、教室の空気が一気に引き締まるのをこの場に居た全員が感じ取った。

 

 セクレタリアトが日本に来た表向きの理由としてはマスコミ達の迷惑行為に抗議して、ほとぼりが冷めるまで知り合いの居る日本の学園に留学するというものだが、このトレセン学園に居るほとんどの者がそれは嘘の理由だと感じていた。

 

 学園中に流れている噂と昨日グラウンドに登場したことから、セクレタリアトが日本に来た本当の目的は日本のウマ娘の実力を計り勝負することであると誰もがそう思っていた。

 

 ……まぁ、本当はというと。

 

(前世から好きだった馬と同じ名前のウマ娘を見たくてやって来ました! ……なんて言えねぇ〜!)

 

 行動力のある競馬オタクが好きな馬と同じ名前のウマ娘を見るために突発的に行動を起こしただけなのだが、当然ながら正直にそのことを話せばまず間違いなく頭の心配をされるに違いない。

 

 かと言って、嘘をついたところですぐにバレてしまうだろう。そこでセクレタリアトは正直に話しつつ前世のことは触れないことにした。

 

「私が日本へやって来た目的ですか……それは勿論、貴女達日本のウマ娘に会うためですよ」

 

「ほう……いつから私達に会いたいと思ったんだ?」

 

 セクレタリアトがそう告げるとナリタブライアンの瞳が鋭く細まった。

 

 ナリタブライアン達が思っていた通り、セクレタリアトはやはり日本のウマ娘に興味を持っている。

 

 興味を持つようになった切っ掛けは何なのか。何を見て日本へ来たいと思ったのか。それを探るべくナリタブライアンは質問を重ねた。

 

「ずっと前からですよ。ずっと昔の……それこそ子供の時から私は貴女達に会いたくて会いたくて堪らなかった」

 

「なに……?」

 

 しかし返ってきたセクレタリアトの言葉にナリタブライアンは困惑した。

 

 ナリタブライアンとしてはセクレタリアトはオグリキャップなどのつい最近のレースを見て日本に興味を持ったのだと考えていたのだが、子供の時から興味を持っていたのだとしたら話が変わってくる。

 

「一度見たあの素晴らしいレースをもう一度この目に見たくて、ずっと日本に来れる日を待ち遠しく思ってました。そして、ようやく最近になってその思いを叶えられるチャンスを手にしたので、つい居ても立っても居られなくなって留学することにしたのです」

 

 そう語るセクレタリアトからは嘘をついているような感じは全くしない。だからこそ余計にナリタブライアンは困惑してしまった。

 

(セクレタリアトはこれまで日本に来たことがなかったんじゃないのか……? あの口振りだとまるで日本に来てレースを直に見たことがあるみたいだ)

 

 前世で日本に住んでたから、なんて理由を知る由もなくナリタブライアンは思考を巡らせるが、当然ながらその答えが出てくる筈も無い。

 

(分からないな……だが、セクレタリアトが子供の頃にあったレースと言えば……)

 

 あのセクレタリアトが素晴らしいと絶賛し、日本に興味を持つようになったと思われるレース。それが何なのかと思い返していると、ふとナリタブライアンの脳内にとあるウマ娘が参加したレースが思い浮かんだ。

 

 ナリタブライアン達が子供の頃に行われ、テレビで見ていたにも関わらず今なお鮮明に思い出すことが出来るぐらいに1人のウマ娘による奇蹟的な勝利を見せつけたそのレース。それをセクレタリアトが見ていたのだとしたら、知っているはずだ。

 

 当時日本最強ウマ娘と謳われ、今も伝説として数々の逸話を語り継がれているウマ娘の名を。

 

「───シンザン」

 

 試しにその名を口に出せば、表情は変わらなかったもののセクレタリアトの耳がピクリと反応し、ナリタブライアンは自分の読みが当たったことを確信した。

 

(え、何でシンザンの名前が出てくんの? まさかこの学園に居るのか!? もしそうならサインとかくれねぇかな?)

 

 ……本当は思いもよらないビッグネームが飛び出したことで驚いていただけだったのだが分かるはずもなかった。

 

「なるほど、それで日本のウマ娘と勝負をしたいと……」

 

 ようやく納得のいったナリタブライアンは難解なパズルを解き明かした後のような爽快感を感じつつ思わずそう呟かずにはいられなかった。

 

 あのシンザンのレースを見たのであればセクレタリアトのその気持ちも納得ができる。それ程までにシンザンの魅せたレースはウマ娘にとって見るだけで滾るものばかりなのだ。

 

 シンザンに興味を持ったからこそ、日本のウマ娘自体に興味を持つようになったとしてもなんらおかしいことでは無い。むしろ、シンザン以外にもどんなウマ娘が居るのか気になって当然のことだろう。

 

 だが、ただ見るだけでは実力を正確に測ることなど出来はしない。実際にレースで走ってみない限りには分からないのだ。

 

 だからこそセクレタリアトが日本のウマ娘の実力を知るために勝負を望むのも当然であり───

 

「え、勝負? いえいえ、そんなことはしませんよ?」

 

 しかし次の瞬間、きょとんとした顔をしつつ呟かれたセクレタリアトの言葉に、教室の空気が凍り付いた。

 

「私は皆さんのレースを見れるだけでもう満足ですよ。それに私は既に引退した身ですから、勝負なんてそんなとてもとても……」

 

 苦笑しながら続けるセクレタリアトの言葉を聞き、ナリタブライアン達は一瞬何を言われたのか理解することが出来なかった。

 

 額面通りに受け取ればそれはただの謙遜の言葉でしかなかったが、しかしナリタブライアンはすぐにその言葉の意味を理解し、一気に自分の頭に血が上っていくのを感じた。

 

(勝負をするつもりが無いだと? レースを見れるだけで満足だと!?)

 

 セクレタリアトのその言葉は、ナリタブライアン達のようなレースで生きるウマ娘にとって侮辱でしかなかった。

 

 普通の生活を送るウマ娘ならともかく、レースという勝負の世界で生きるウマ娘というのは強い敵と勝負するのを本能的に求めている。

 

 レースでただ1位を取るよりも、強敵と戦い手にした勝利の方が何倍もの価値がある。それはどんな勝負事にも言えることだろう。

 

 闘争心とも呼ぶべきその本能は天下に名を轟かせるウマ娘程強い傾向がある。かくいう三冠ウマ娘であるナリタブライアンも強い敵との勝負はいついかなる時も待ち望んでいる。

 

 引退したとは言えアメリカ三冠ウマ娘であるセクレタリアトにもその本能は少なからずあるはずだ。強い敵との勝負を、手に汗握る勝負を、魂を燃やすような熱い勝負を求めているはずなのだ。

 

 なのに、それを日本のウマ娘には求めていないということはつまり。

 

私達を格下に見てると言うことか(・・・・・・・・・・・・・・・)……!!)

 

 お前達では勝負にならないと。言外にセクレタリアトは宣戦布告してきたのだと、ナリタブライアン達はそう感じ取った。

 

 いつからセクレタリアトがそう思っているのかは定かではない。日本に来る前からなのか、それとも昨日の模擬レースでそう思ったのかは分からない。

 

 だが、少なくとも今この段階でそう思っているのは間違いないと、ナリタブライアンはそう感じたからこそ悔しさのあまり強く拳を握り締めた。

 

 ……いや、ナリタブライアンだけでは無い。この教室に居たほとんどの生徒達が同じ思いをしていた。

 

(見ていろアメリカ最強……すぐに見返してやるぞ……!!)

 

 セクレタリアトの来日の目的が何であれ、日本のウマ娘は世界に通用するのだと。それを見せつけてやると心の底から深く誓うナリタブライアン達。

 

 その光景を前に、セクレタリアトは思う。

 

(前世で好きだった馬と同じ名前のウマ娘に会えるだけじゃなくて、一度見れた色んなレースの名勝負をもう一度リアルタイムで見れるとか、それだけで満足すぎるわ……それに、もう引退してるから好きなだけ好きなウマ娘を応援できるし、やっぱ日本来て正解だな!)

 

 このウマ娘、いつまで経ってもファン気分のままであった。




・今週のシンデレラグレイが休載
・レジェンドレースのお嬢が強すぎて全敗
・カレンチャン爆死
・ハルウララ有馬記念にて最後の直線で差され2着
・覚醒するキャラを間違えてマニー消失

燃え尽きたぜ……真っ白にな……(遠い目

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