五等分の花嫁~イベントでも五月のお団子が美味しい御話~ 作:鈴木ヒロ
上杉風太郎の誕生日
同日午前9時、上杉風太郎在住のアパートにて
それは上杉風太郎のバースデイ~親指の応援~
「今年もこの日が来たか・・・・・・」
朝起きてスマホ画面にらいはから誕生日を祝うメッセージが入っていた。
他の家ではパーティだのプレゼントだのドキドキワクワクのイベントだろうが、上杉家では夕飯が少し豪勢になるだけのただの平日。
大学生になってからも自分への祝いに小さなケーキをコンビニで買うくらいでいいかな、と思っていた。
らいはへの返信を打っていると画面に新たなメッセージが表示された。
From 中野四葉
上杉さん起きてますか?
今日の夕方の件、忘れないでくださいね!
To 上杉風太郎
四葉の声が脳内で再生される。スポーツ推薦で入学した四葉は講義がない日でもクラブ活動があるが、この日だけは何かと理由を付けて休みをもらっているらしい。
嘘を付いてまで祝わなくてもいいのだが、それを四葉に伝えると
「嘘なんかついてないよ!顧問の先生に『大切な恋人のお祝いをしたいから』って言ったら笑顔で頷いてくれたよ」
と恥ずかしげもなく論破されてしまった。そこまで素直に言われたら拒否できないだろ、とその場にいないのに想像だけで恥ずかしくなる。
ピンポーン
朝ご飯を食べようと冷蔵庫に手をかけたタイミングで来客を知らせるチャイムが鳴った。
らいはが送ってくれた宅配便だろうか。例年、らいはからのプレゼントは宅配便で届き、それは手作りされたケーキだったり料理だったりと俺好みの美味しいものを送ってくれる。
引き出しからシャチハタ印鑑を取り出し、寝間着だったが特に気にせず扉を開けた。
「やっほーフータロー君。久しぶりだね」
そして静かに扉を閉めた。
「ちょっ、流石にそれは酷くない!?」
扉の向こうには帽子とマスクをした不審者こと一花がいた。
「お前午前は撮影とか言ってなかったか?おい、勝手に入るな」
改めて扉を開けると招いてもないのに「お邪魔しまーす」と入ってくる一花。
「撮影の休憩で遊びに来ちゃった。早朝からの撮影でまだご飯食べてないんだよね」
清楚系として売っている割には雑に靴を脱ぎながら、「それに私といるのを他のアパートの人に見られて困るのは君だよ?」と脅してくるため仕方がなく入室を許す。
「俺だってまだ朝食を食べてない」
「そうだと思ってご飯持ってきたよ。お弁当とサンドイッチどっちがいい?」
一花の鞄から派手な装飾がされた弁当と有名ロゴの入った箱が出てきた。
朝はあまり食べる方ではないので、正直サンドイッチの方が軽そうだが。
「もらう立場だ。お前が先に選べ」
「お、フータロー君がそんな気遣いできるとは」
成長しましたなー、と茶化す一花に腹が立ったので先にサンドイッチを取ってやった。
それに対して怒るわけでもなく、むしろ嬉しそうに見つめてくる一花。俺がサンドイッチを頬張ったのを見てようやく自分の弁当に手を付けた。
「つーか休憩時間に抜け出してよかったのか?普通は現場で食べたり台本を確認するとかあるだろ」
「いいのいーの。というか次のシーンの役作りのためにも必要だったし」
「役作り?」
俺の部屋で飯を食うことのどこに役作りがあるのだろうか。オウム返しで聞くと一花は罠にかかった獲物を見る目でニヤニヤとこちらの顔を見てきた。経験上、この時の一花はろくな事を考えない。その目から逃げるようにペットボトルのお茶を口に含んで誤魔化す。
「次のシーンはね。数年ぶりに想い人と再会するの」
「ぶっ!?」
お茶を吹き出しそうになって咄嗟に口を押える。その様子をケタケタと笑う女優様が腹立たしい。
「何が数年ぶりだ。先月会っただろうが」
「想い人、ってところは突っ込まないんだね」
あえて触れないようにしていたところを指摘され、またも誤魔化すように今度はサンドイッチを口にする。朝食をあまり食べる方ではないのに、今日に限ってはサンドイッチを掴む手が止まらない。
「そこを決めるのは俺じゃない。従って俺が突っ込む点ではないということだ」
「ふーん、そっかぁー」
背中を向けていてもニヤけ顔が脳裏に浮かぶ。こいつ、何とかして反撃をしてやりたい。
「で、その想い人とやらは誰なんだ?言ってみろよ」
この時の俺は久しぶりの攻撃に脳内がパニックになっていたに違いない。普段ならこんな返しはしないし、この後にどうなるかも予想できていたはず。
「今も昔も、私は君を思っているよ」
恥ずかしげもなく言い放つ一花。こちらの攻撃に合わせたカウンターだ。ガードできるはずもなく直撃を食らって赤面してしまう。
「あ、それはその、いやあの―――」
「―――って台詞が次の撮影のポイントなんだけど、どうだった?
その台詞にアタフタ動いていた手が止まってしまう。・・・・・・台詞?
「あー・・・・・・、撮影の台詞ね。もちろん気づいていたがな。流石は名女優様だ」
「それは誉めているの?馬鹿にしてるの?」
頬を軽く膨らませて文句を口にする一花を不覚にも可愛いと思ってしまう。しっかし演技ね。あぶねー、普通に騙された。
「嘘が得意なお前は演技にも生かされるわけか」
「ちょ!昔の話なんだからもういいでしょ!時効だよ!」
「馬鹿め、事項と言うのはそんなに短くなく、国が定めた―――」
「あー、はいはい久しぶりの授業もありがたいけど、もう撮影に戻るね」
今度は俺から一花が逃げるように雑学を遮って席を立つ。10分もいなかったが、本当に僅かな時間に来てくれたんだな。
「あぁ、続きは夕飯の時にでもしてやるよ。今日来れるんだろ?」
「もちろん。前々から社長にお願いして午後はちゃんとお休み貰ってるし」
玄関で変装し直す。正直怪しやつに見えなくない組み合わせだ。
しかし一花の雰囲気がその程度で隠せるはずもなく、10人に半分以上は振り返るだろう。
「じゃフータロー君、また夕方にデートしようね」
「デート言うな。お前の姉妹もいるだろうが」
「姉妹全員とデートとは、フータロー君もやるねぇ」
「からかうな。いいから早く行け」
と言い返したところで忘れていたことを思い出し、玄関件キッチンに置いてある冷蔵庫まで戻る。
「ほらよ」
「わっ、いきなり投げないでよ。―――これって」
「お前がよく行く店の飲み物だ。と言ってもコンビニで売ってるタイプだけどな」
投げ渡したのは有名カフェのロゴが入ったドリンク。在学中によく一花が通っていたカフェが、全国のコンビニ向けに出しているやつだ。
「・・・・・・ふーん、私の好きなお店覚えていたんだ」
「たまたまだ。何となく買ったけどコーヒー感が強そうだしお前にやるよ」
「何となくね、じゃあこの付いてる付箋は何かなー?」
一花が一枚の小さな付箋をヒラヒラと見せつけてくる。それは「一花用」と書かれた付箋だった。その瞬間失敗に気づいて何とか誤魔化そうとするが、もう誤魔化しが効かなそうなので両手を上げて白旗宣言。
「・・・・・・降参だ降参。コンビニでお前が好きそうなやつあったから、こういう場面があったら差し入れしてやろうと買っておいたやつだ」
「へぇー、嘘ついてまで差し入れとは、フータロー君も成長したね」
一花用と書かれた付箋をじっと見つめている。そこまで字を見られると恥ずかしいのだが。
「うるせー、お前だってさっき嘘ついただろうが」
本当は突然の差し入れで動揺した一花をからかってやろうと思ったが、俺の詰めの甘さが出てしまったようで反省点が出ると無意識に頭をガシガシと掻いていた。
「―――ないよ」
「ん?なんだって」
一花が小さな声で言ったのを聞き取れなかった。「何でもない」と言って靴を履き終えると背中を向けたまま自分の顔をパタパタと手であおぐ。
「それにしてもご飯食べてすぐだから少し熱いね。冷蔵庫で冷えたこれが丁度いいよ」
そう言いながら受け取ったドリンクを頬に当てる。そのまま玄関の扉を開け、キラキラとした光が一花を照らした。
「差し入れありがとうね。すっごく嬉しいよ」
そう言って振り返る一花はとても輝いており、まるで頬に当てている飲み物のCMのワンシーンのようだった。
「どういたしまして。あ、ゴミ預かるよ」
役目を終えた付箋を預かろうとしたが、一花はそれをきっぱりと断る。
「いいの。これはフータロー君からのファンメールとして受け取るから」
そういうと大事そうに鞄にしまった。付箋に名前を書いてあるだけなのに変わった考えをするやつだ。
「そうかよ。んじゃ残りも頑張れよ」
伸ばした手の親指を上にしてサムズアップをする。長男に長女、立場は違えどお互い苦労した同士だ。
らしくない俺の行動に小さく笑った一花は一度扉を閉めてこちらに寄り、俺の親指を両手で包んで何か小さく呟いた。
先程より小さな声は全く聞き取れず、聞き返そうとしたらパッと離れれて再び扉を開けた。
「じゃあまた後でね」
そう言って玄関で見送った。
去り際の一花の顔が赤く見えたが、それは光の具合によるものか、それとも―――
「いや、それよりも大学行く準備をするか」
こういった推測が当たらないことを俺は身をもって知っている。余計な考えはやめて、さっさと大学に行く準備をすることにした。
今日はまだ始まったばかりだ。
風太郎誕生日おめでとうございます。
本来は一話内で5人との絡みをまとめる予定がどうしても収まらなかったので、彼らの物語らしく五等分することしました。
最初は長女一花との話。冒頭モノローグがあるので他の姉妹より文字数多めになりました。
風一は、お姉さんとして風太郎を弄ろうとするけど返り討ちにあい、逆に攻められて弱々しくなる一花が可愛いですよね。本当はもう少し一花を照れさせたかったんですが、私の文章表現ではできませんでした。無念。
ですが風一も楽しく書かせてもらいました。美味しい美味しい。
次回の更新予定は4月16日です