五等分の花嫁~イベントでも五月のお団子が美味しい御話~ 作:鈴木ヒロ
上杉風太郎の誕生日
同日午後8時頃、喫茶店「なかの」二階ベランダにて
※投稿予定日に間に合わず急ピッチで書き上げました。誤字脱字、辻褄が合わない箇所があれば教えてください。
普段あまり酒を飲まなかったから知らなかったが、俺は案外アルコールに強いらしい。
そしてこれは知っていたことだが、四葉はアルコールに弱い。
「えへへ、上杉さぁ~ん」
「・・・・・・おい飲みすぎだろ」
ベッタリと俺の右腕を抱きしめる四葉。乾杯の1杯目とおかわりの2杯目、それを飲み終えた頃にはもう手遅れ。気づくと隣に座り酔っ払い四葉が完成していた。
「ヒューヒュー、お熱いねぇ」
「からかうな一花」
「えへへーいいでしょー?私のうえすぎさんですよぉ」
言葉が長くなれば呂律の悪さが顕著になる。普段の四葉なら羞恥心で一花に文句を言うが、今の四葉は嬉しそうに抱きしめる力を強くする。同じなのはどちらも顔が真っ赤になる事だろう。
「なんだか腹が立ってきたわね。三玖、奥にテキーラがあったはずだから持ってきて頂戴」
「二乃、四葉を潰そうとしないで・・・・・・」
二乃が不機嫌そうな顔でこちら、というか四葉を伏せ目で見つめてくる。それを三玖が咎めるが、何となく三玖も不機嫌そうな顔をしている気がする。
「まぁまぁ、今夜は祝いの席なんだし大目にみてあげようよ」
五月がフォローを入れてくれるが、大目にも何も、一応俺ら恋人なんだが。
「どーしたの二乃にみくー、怖いかおしてー」
「ダメだわ。物凄くイラっとしてきた」
「二乃、私テキーラ持ってくるよ」
「ちょ、二人とも!」
二乃の表情に縦スジが浮かび、三玖がガタリと席を立つ。それを五月が止めようとして、何かを思いついたように手を叩く。
「そうだ。一度四葉を二階で休ませよう。確か二階に休憩室があったよね」
「えぇ、と言ってもテーブルとソファー以外は荷物だらけだけど」
放っておけばこのまま寝落ちてしまう姉を案じてか、それともこれから起こる姉妹間戦争を予期してかは分からないが、五月の案は居心地の悪かった俺にとっても助け船だ。
「んじゃ、ちょっくら運んでくるわ」
「フー君、場所分かる?」
「引っ越し手伝いした時の荷物置き場だろ。流石に覚えている」
くっついて離れない恋人をどうにか立たせて肩を貸す。主役がここを離れるのは気が引けるが、他のやつに任せるのは格好がつかない。
すぐ戻ると言い残して二階への階段を昇る。だが四葉が想像より脱力しているため昇る足は重く、仕方がなく四葉を引きずるようにヨタヨタ足で二階を目指した。
道中、柔らかな肢体を変に意識してしまい邪な考えも浮かんでしまったが、下から聞こえてくる他の姉妹の笑い声と残された僅かな理性がそれを拒んだ。
(こいつ、スポーツして筋肉あるはずなのに、どうしてこんなに柔らかいんだよ・・・・・・!)
ほのかに香る柑橘系の匂いが僅かに残った理性を追い出そうとするが、円周率をひたすら繰り返し暗唱することで抵抗する。
「ほ、ほら、四葉、着いた、ぞ・・・・・・」
激しい持久戦の末、タイムアップで理性が勝利を収めた。荷物置き場と呼んではいるが二乃が管理しているためか、隅っこに段ボールがあるだけで俺の部屋よりも整理されている。
「おい、四葉?」
返事がない事を不思議に思って横目で顔を見ると気持ちよさそうに寝ていた。
「こいつ・・・・・・人を振り回すだけ振り回しやがって」
部屋中央にある大きめのソファーに四葉を寝かせると、四葉のポケットから長方形の何かが転がり落ちる。黄緑色の包装紙で包まれたそれを拾うと裏にメモのような紙が貼ってあった。
(・・・・・・『Happy Virthday 上杉さん!』って、Birthdayの綴り間違えているじゃねぇか)
中身は何か分からないがきっとこれは俺へのプレゼントなんだろう。自然に緩んだ頬を自覚しながらそれを四葉のポケットに戻した。
「目が覚めたらプレゼント、待っているからな」
気持ち良さそうに寝ている四葉の髪を指で梳かす。これでその箱が俺へのプレゼントじゃなかったら恥ずかしさのあまり布団の上で転げまわることになるだろう。
春先とはいえまだ夜は冷える。アルコールによる体温上昇は一時的なもので、逆に時間が経てばすぐ冷えてしまう。毛布のようなものがないかと周りを見渡すがどうやらこの部屋にはないらしい。
仕方がなく自分の上着一枚を四葉にかけた。もし寒くなったら二乃たちに代わりの羽織れるものを借りよう。
部屋の明かりを少しだけ残して部屋を出ようとすると、暗くなった室内から見える満月がより一層輝いていた。さっさと一階に降りて合流しようと思っていたが、少し寄り道して夜風に当たるのも悪くないかもしれない。
少し浮ついた気分で廊下からベランダに続く引き戸を跨ぐ。雲が少ない夜空は満月がよく目立ち、黒いキャンパスの真ん中に大きな光があるようだった。
星が瞬く夜空というには星が少なく、あっても大きな満月の存在で興味から消えてしまう。
「月が綺麗だな」
程よい酔いと男心くすぐるシチュエーションに普段絶対口にしない恥ずかしい台詞を漏らしてしまう。恥ずかしい台詞と自覚はあっても誰が聞くでもない今の状況では、むしろ自身の自己愛を満たすに丁度いい加減だった。
「えぇ、本当ですね」
「!?」
背筋に冷や水を当てられたような衝撃が走る。恐る恐る声の方へ振り返ると、コップを両手に持った五月がいた。少しニヤついているその表情に、今の恥ずかしい台詞を聞かれたと確信する。
「お前、いつからそこに」
「上杉君が月に手を伸ばして意味深に『月が・・・・・・綺麗だ』って言った辺りでしょうか」
「そんな真似はしてねぇ!つか意味深ってなんだよ」
「冗談です。今日は月が綺麗だからベランダで飲もうってみんなと話になったので」
そう言って隣に立ち、手に持っていたグラスのうちウーロンハイを渡してくる。
「はい、貴方の分です」
「あ、あぁ。つかお前話し方」
「えぇ、今くらいはこの話し方でもいいかと思いまして。どうせお酒の回った今、貴方と話していると話し方に戻ってしまいそうなので」
五月にとってはこちらが自然体なのかもしれない。受け取ったウーロンハイを口付けると、五月も自分のハイボールを一口飲み、月を見上げて夜風になびいた髪を抑える。
月明かりに照らされるその姿に「月下美人」という言葉がよぎったが口には出さず、言葉を飲み込むようにもう一口ウーロンハイを飲んだ。
「そういえばお前ハイボール好きなのか?正直イメージできなかったが」
「ではどのお酒ならイメージ通りですか?」
「お前はカレーライスだろ」
「怒りますよ!飲み物は飲み物でもお酒の話です」
いや、カレーも飲み物ではないだろ。相変わらずこいつの価値観は理解できない。
五月はグラスを回して中の氷を一回しする。カランッと音を立てたそれを一口飲むと、夜空見上げて遠くを見つめるような目をした。
「昔お母さんが飲んでいたんですよ。その時はハイボールではなくウイスキーでしたが、小さな瓶に入ったそれを大事そうに少しずつ」
そこで一度言葉を止めた。見上げるのを止めて視線を落とし、今度はグラスの中に浮かぶ氷を見つめる。
「それが高いものか安いものかは分かりません。飲んでいた銘柄すら思い出せません。でも夜に私がふと起きるとテーブルの前で静かに飲んでいるお母さんの姿があったんです。その背中が子供ながらに切なく感じて、ついお母さんに抱きついたものです」
優しい笑みを浮かべるその顔にはどこか寂しさも感じる。ゆっくりと回されたグラスからは氷のぶつかる音はしなかった。
「その記憶がずっと忘れられません。ですから私にとってウイスキーは特別なものであり、こういった祝い事の時は飲んでいるのです」
話し終えると居心地が悪くなったのか「まぁ私には度数が強いので炭酸割りですが」と苦笑してオチを付け足す。月明かりが雲に遮られて一段階照明を落とされたように暗くなった。
母親の真似を止めても理想とすることは止めなかった五月。この行為は果たして真似事なのかリスペクトなのか、それを改めて問うのは愚問だろう。
こいつは自分と向き合い、自分の形を見つけて、自分の努力でここまで来た。その過程に他者の助けは多くとも、通した意思はこいつだけのものだ。
教師が卒業生に再会した時はこんな気分なのだろうか。誇らしい教え子を少しからかいたくなり、自分のグラスを五月のグラスに軽くぶつける。
カンッと小さな高音がなり驚く五月に対してわざとらしい口調で訊ねた。
「そういえばお前からのプレゼント貰ってないんだが、まさか忘れてたとは言わないよな」
急な攻撃に面をくらったのか少しのけ反る。そしてまた夜空を見上げるがその瞳に先程のような哀愁はなく、分かりやすいくらいに泳いでいる目だった。
「べ、別に忘れていたわけではありません!ただレポートとかバイトとかで少し後回しにしていただけで」
「それを忘れていたというんだよ」
忘れていたことを咎めるつもりはなかったが、変に真面目なこいつは本当に焦っている様子を見せる。それが面白くてしばらく眺めていたがそろそろ助け船を出してやろうと口を開く。すると自分のグラスを見ていた五月が同じタイミングでこちらに向き直り、名案が浮かんだと言わんばかりに前のめりになる。
「そうです!今度私のお気に入りのウイスキーを差し上げます!」
自分のグラスを見て思いついたのだろう。別にお酒が好きなわけでもないしそんな度数の高いお酒飲めない気がするが、「そうですそうです」と自身に納得させる様子を見ているとそれもいいかと思ってしまう。
「分かったよ。でも俺一人じゃ飲み切れないから、その時はお前も飲みに来いよ」
俺一人だと死ぬまで残りそうだ。どうせなら飲めるやつと一緒に飲みたい。
「では今度一緒にウイスキーを飲みましょう。ウイスキーの良さを教えてあげますよ」
「お前が飲めるのはハイボールだろうが。でもまぁ、楽しみにしてるよ」
五月にそこまで言わせるウイスキーは正直興味がある。しかしこいつが来るとなると大量の飯を用意しておかないとな。
現実的な心配をしていたら小指が目の前に差し出される。小指の元を辿るように五月を見ると、満面の笑みを浮かべていた。
月を遮っていた雲はいつの間にか通り過ぎ、取り戻した月明かりは五月だけを照らすようにその笑顔をうつす。
「約束、ですよ」
そう言って差し出された小指は細く、相手が儚い存在だと錯覚させるようだった。
月下美人、思わず見惚れてしまった時間を誤魔化すよう大きめの咳をする。そして何事もなかったようにその小指に自分の小指を絡めてしっかりと締めた。
「あぁ、約束だ」
そうしていた時間は長かったのか短かったのかは覚えていない。ただ氷がカランッと鳴るまで繋がっていて、それと同じくらいに階段を昇る足音がして慌てて離した。
その後は目を覚ました四葉も含めて改めて乾杯し、月見酒と洒落こんで誕生日の夜を過ごした。
(いくつ歳を重ねてもこいつらと一緒にいられますように)
照らす満月に五本の指を広げて、俺はそんなことを願った。
上杉風太郎バースデイ編終了です。
本来なら一日で全話投稿したかったのですが、仕事が忙しく結果的にこうなりました。
来月の五つ子誕生日も姉妹それぞれに分けて投稿しようと思っていましたが、恐らく風太郎視点か五月視点の一話のみになります。流石に五話連投はきつかった。
五月は原作の高校卒業時点で丁寧な話し方から標準な話し方になっています。
その五月も可愛いですが、風太郎と絡ませるときは丁寧語の五月がいいなって個人的に思います。
五つ子それぞれの視点から書かせてもらいましたが、少しでも楽しめてもらえたら幸いです。
風太郎、誕生日おめでとう。