μ'sのメンバーが全員ヤンデレだったなら   作:コルセット

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第八話

ご飯が食卓に並ぶ。意外と、温めただけのレトルト食品でも並ぶと少し豪勢に見えるから不思議だ。

数種類のパスタに、コンソメスープ。それと、昨日穂乃果ねぇ達が作って置いておいた残り物。

皿を並べている真姫ちゃんを見ると、僕に少し勝ち誇ったような笑みを向けてくる。

いや、まあ、大丈夫かなとは思ったけども。でも、ほとんどレトルトじゃあ勝ったとは言えないのではないか。

僕は苦笑を漏らすと同時に、お腹を空かしていたらしい凛ちゃんが僕の手を取り、席に強引につかせる。

そのまま自然に僕の隣に座る。他の二人はそれに対して少し思うところがあるのか、表情がこわばるがすぐに戻し対面に座る。

頂きます、と礼をしてパスタに手を伸ばす。自分の皿に少し取り分け、口を付ける。

やっぱり、可もなく不可もなくと言ったところだろうか。

 

「ねぇねぇ、みーくん!」

「何?凛ちゃん?」

「はい、あーんにゃ!」

 

目の前にパスタを絡めとったフォークを差し出される。なかなかに綺麗に巻かれている。

いや、そうではなくて。もっと注目することがあった。すぐに意識を逸らすのは、前からの僕の悪い癖だ。

 

「凛ちゃん、僕、普通に食べれるんだけど」

「でも、トマトソースとカルボナーラを同じフォークで食べたら、味混ざっちゃうにゃ」

 

一理ある、のか。こちらに向ける笑顔は、純粋無垢な笑みだった。

あまり、そういうことは気にしてないのか。それに僕に害もなさそうだし。

何故だかわからないけど、 μ's のメンバー内ならそういうことをされても、御咎めはなかった。

テレビに映るアイドルを3秒以上凝視すると、怒られるのに。違いが分からなかった。

 

「そう、かな」

「そうだにゃ!」

 

更にフォークを口の目の前に差し出される。他の二人も止める気はないみたいで。

僕は選択の余地なんかなかった。

 

「ん」

「にゃ!どう?美味しい?」

「んー。レトルトの味」

「もう!みーくんはわかってないにゃー」

 

そう言うと、悪戯な笑みを向けたまま、自分の皿に乗っているパスタを口にしていた。

心の中でため息をつき、視線を戻すと、対面に座っていた真姫ちゃんから同じようにフォークが差し出されていた。

恥ずかしそうに、目を逸らしていて。顔を赤らめていた。

 

「ほ、ほら。食べなさいよ」

「あー、うん」

 

こうなったら拒否することなんてできないだろう。毒を食らうならば皿まで、だ。

だけど、新しく発見したこともある。真姫ちゃんは、意外と普通に恋人みたいなことをするのに恥ずかしさがあるみたいだ。

僕に迫ってきた時とは、まるで別人のようだ。

ギアが入ってしまえば、と言う事か。と言うより、こんな総評してる場合じゃない。

 

「っん、んー。あ、この明太子ソース美味しいかも」

「そ、そう?まあ、私が作ったものだし」

「いや、レトルトじゃんか……。ま、いいけど」

「いいの!私が作ったんだから」

「うん、感謝してるよ。ありがと」

 

そう言って笑う。真姫ちゃんは顔を赤くしながら、そっぽを向く。さて、ここまで来たならば後は、一人か。

恐る恐る僕にフォークを向ける子が、一人。何だか遠慮してるみたいだ。

 

「あ、ねぇ、かよちん。そのパスタどんな味ー?」

「え!あ、ど、どうぞ!」

 

勢いよく目の前に突き出されて、思わず体が後ろに傾く。

ゆっくり姿勢を戻し、口の中に運ぶ。

ぎこちなく引かれるフォークに、少し引っかかりながらパスタを取る。

ジェノベーゼ特有のバジルの風味が広がる。意外とレトルトでも再現される物なんだなぁと思う。

 

「お、これいいなぁ。馬鹿に出来ないね、レトルトも」

「そ、そうだね。花陽もこんな味があるなんてびっくり……」

「ねえ!かよちんのも食べさせてにゃ!真姫ちゃんも!」

 

口を開けて凛ちゃんが待つ。真姫ちゃんが恥ずかしがり、かよちんが苦笑する。

いつもの僕らの会話に戻ってきたような気がする。僕の中にあるもやもやさえ消えてしまえば、だけども。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから、時間は悪戯に過ぎていく。テレビを見たり、話をしていたりするだけで、もう夕方だった。

あれから迫られることは一回しかなくて、不思議なほどだった。緊張が解けた僕は久しぶりに気を使わない会話をした気がする。

時計が6時を指す。誰かの携帯のアラームが鳴る。

 

「あー、もう時間かにゃ」

「しょうがないじゃない。これも決めたことでしょ」

 

立ち上がって、帰りの準備をし始めている。はて、何か用でもあったのか。

 

「どうしたの?何かあった?」

「う、ううん。違うよ」

 

頭の中にハテナマークが生まれる。それと同時に玄関の扉があいた。

蒲公英色の、髪が見える。

 

「絵里、先輩。それに希先輩に、にこ先輩?」

「そ、次は私たちってこと」

「ごめんなぁ。次々に押し掛けてもうて」

 

僕の目の前に、絵里先輩が来る。

小悪魔のような笑みを浮かべて、僕に言った。

 

 

 

 

 

「さあ、夜はこれからよ?」

 

果たして、夜は明けるのだろうか。


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