μ'sのメンバーが全員ヤンデレだったなら   作:コルセット

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第十一話

それから、僕は微笑みに魅入ってしまっていて。様子がおかしいと思ったのか、お風呂場を見に来た二人に見つかり。

いつの間にか、僕はお風呂をあがっていた。二人に御咎めを受けている絵里先輩は僕の方を向いて、ウインクして見せた。

僕は何だか恥ずかしくなってしまう。鮮明に思い出しそうになる頭を振ってリセットさせる。

それでも僕の本心は思い出してしまう。何だか恥ずかしくなってそっと、僕はその場を離れた。

リビングを出て、玄関へと向かう。寝巻のままだったけれど、構わずに外に出た。

ちょっとした庭に置いてある、イスに座って空を見上げる。星が良く見えて、さえぎるような雲が一つも見えなかった。

息を吐いて、心を落ち着かせる。昨日と今日に関してはいろいろありすぎた。僕のキャパシティが超えてしまっているようなことばかりだった。

どれもが僕にしたら衝撃的で。初めて体験したようなことばかりで。一生を過ぎても今日の様な驚くことは中々に体験できないだろう。

そんなことを思っていた。それと同時に僕の脳裏に少し不自然な点が残るような気がしていた。

いや、気がしていたとか、そう言う物ではなくて。僕の中で確定的になって行っていた。

思えばおかしいことばかりだ。僕の中でどうしようもなくぐるぐると回っていたはずの心が少しずつおさまっていく。

だけれど、僕はそれを確かめるほどの勇気はなくて。どうしようもなかった。

きっと、関係を壊してしまうのが怖いとかそういうことではなくて。その真実を知ることがただ単純に怖くて。

知ってしまえば、戻れない気もするから。なんて、思っていた。

そう考えていたら、玄関が開く音がした。僕はとっさにそちらの方を向くと、希先輩が僕に向かって笑いかけながらこっちに向かっていた。

 

「あ、希先輩。どうかしましました?」

「どうしたやないよ。もう。みーくんが急にいなくなるから、心配したやん」

 

少し頬を膨らませ、怒ったようなふりをしている。僕は何だか可笑しくなって笑ってしまう。それと同時に希先輩も噴出したように笑った。

少し考えていることが和らぐ。ああ、そうだ。こんな感じで僕はゆっくりとやっていきたいんだろう。

希先輩はそのままテーブルを挟んで向かい合わせに座る。

 

「すいません。ちょっと、考え事をしていて」

「へぇ、考え事なぁ。それって相談できない悩みなん?」

 

と、僕の目をのぞき込むようにして言う。相談は、できないことだ。

これは僕らの事だから。相談しては意味がない。

 

「ええ、ちょっと。まぁあんまり大したことじゃないんですけど」

 

そう言って濁す。本当は大したことなのにわざとそう言っておく。詮索されたりしたくないからだ。

希先輩は残念そうな顔をしたが、すぐに何か思いついた顔をして僕に告げる。

 

「それなら、これから先の事ととかどう?これなら参考ぐらいにはなるんやない?」

 

確かに。そうかもしれない。できればそのことに対する自信もつけたいことだし、本当に当たるから参考になるかもしれない。

僕はそう思った。軽々しくお願いするのはどうかとも思ったけれど、今では少しでも後押しがほしかった。

 

「じゃあ、お願いします。希先輩」

「うん、任せてな!」

 

どこからともなく筮竹とカードなどを取り出した。と言うより、ポーチに入れてあったらしい。

僕の目の前にはあっという間に簡素的だが星の見える占い屋が出来ていた。

希先輩は慣れた手つきでタロットカードを混ぜ、三角形になるように三つ置き、さらに真ん中に置いた。

確かこれは大三角の秘宝法とかいう方法だったか。まあどうでもいいのだけれど。

そのままゆっくりと捲っていく。なんだかドキドキしてしまう。

 

「一枚目は、恋人の正位置やな。これにはいろいろ意味があるんやけど、恋愛とかのほかに絆とかいう意味もあるんや」

 

そう語りながら、二枚目を開ける。これは、隠者の正位置だろうか。

真剣な顔をしている、希先輩が目に映る。

 

「隠者の正位置、やね。慎重だとか、思いやりとか言われてるんよ」

 

そして、そのまま三枚目へと移る。タロットカードをなぞるように捲る手付きに目は釘づけにされていた。

 

「月の、正位置。不安だとか、幻惑を意味するんよ。もちろん違う意味もあるんやけどね」

 

三枚を捲り終わる。その時点で、希先輩が僕に告げる。真剣な目で僕を見つめている。

なんだか言葉にできない不安が僕を襲った。こういう占いなんかじゃよくある雰囲気だ。

 

「今のところやけれど、絆や試練への克服――つまり、今考えている悩み事やな。これに慎重でいると、不安なままで猶予ない選択を迫られることがあるかもしれへんよってことやな」

「っ。そう、ですか」

 

思いつく点でいっぱいだ。こうも当たってしまうとどうしようもなく今考えていることが崩れていくような感覚に襲われる。

これは、どうしたら良いのだろうか。このままではいけないってことだろうか。

そして、希先輩は僕の顔を見ると。静かに真ん中のカードをめくった。

 

「吊るされた男の正位置。これは、自己犠牲や忍耐を示すカードやね」

「ってことは―――」

「そうやなぁ、この状態にならへんためには自己犠牲も問わずに動いたほうが良いってことやろうね」

 

つまりは、僕のこの悩み事は早々に決着をつけたほうが良いということで。

僕の中にすとんと落ちていく。

 

「どうやろか?参考になったやろか」

「ええ、そりゃ勿論。ありがとうございました」

「そう、それならやった甲斐があったもんやなぁ」

 

そう言いながら片づけていく。慣れた手つきで片付けている時、僕に希先輩が語り掛ける。

 

「でも、みーくんの悩みが解決できてよかったなぁ。うちも皆に打ち解けるためにやっとった占いが役に立って嬉しい限りやん」

「そう、なんですか。占いも趣味のうちとかじゃなかったんですか」

「うーん。そういうわけでもないんよ。うちには昔っから竜神さんやらおキツネさんやらぎょーさん見えてなぁ。皆が告げてくれるんよ」

 

僕はこういった類の話はあまり得意ではないのだが、希先輩の話に至っては聞かざるを得ないような。

そんな不思議な気がする。僕は相槌を打って次の言葉を聞く。

 

「だから、みーくんの居場所とかわかるんよ。どこに行っても、どこで何をしてても、うちにはお見通しなんよ?」

「……え?」

「ふふふ、わからへんかな。ほらまたそうやって、うちから逃れようとするやん?」

 

体が勝手に後ずさりする。僕の意思とは無関係に、だ。指摘されて初めて思う。

しかし、何だか変な感じだ。僕の意思では動かないでと思っているのに。初めて体験している。

 

「別のこと考えたらあかんよ?なあ、みーくん。聞きたいことがあるんやけど」

「っ、なんですか?」

「どうして、うちらから逃げようとしたん?あんだけ一緒にいて、一緒に過ごしてきたやんか」

 

まただ。この話ばっかりされてしまう。何だよ、それ。思ったことなんて――。

そう言いながら、少し引っかかる。何だか、大切なことを忘れているような。

何だっただろう、僕は何を見逃しているんだ?

 

「……分からないです。どうしてそんな事言われるかも、理解できない。僕はみんなから言われて、離れる気なんてないのに」

「なあ、みーくん。本当にそう思ってるん?思ってることとうちらが感じてることって違う物なんよ?」

「思ってるものと、感じるものの違い……?何ですかそれ――」

 

刹那、頭の中ではじける。ぐるりと僕の中で駆け巡る感じがする。ああ、そういえば。

でも、そういうことなんだろうか。本当に?

 

「……もしかして、みんながアイドルだから距離を取っていかなくちゃって、ことですか?」

「そう、そういうことや。うちらはめっちゃ寂しかったんよ?みーくんがどんどん遠くに行ってしまうからなぁ」

「でも、そんな事で?そんな事当たり前だし、離れてても僕は忘れることなんてしませんよ?」

 

そうだ。一言僕に言ってくれれば僕も考えられたのに。こんな大がかりなことをして気付かせなくっても。

なんだか気が抜ける。びっくりしたこともあったからだろう。

 

「そこが感じる違いなんよ。うちらはもっとずっと一緒にいてほしいのに。みーくんが離れて行ってしまう未来なんて想像したくないんよ」

「そう、なんですか。それならそうと一言言ってくれればいいのに。というかよくみんな手伝ってくれましたね」

「ふふふ、うちが占いでそういう未来があるかもしれんなぁって言ったら一発やったで?」

「あはは、希先輩の占いはよく当たりますから」

 

笑いあう。そうやり取りをしながら、僕はまだ納得していないことがあって。

僕は立ち上がって希先輩に告げる。

 

「それじゃあ、家に入りましょう。そろそろ肌寒くなってきましたし」

「そうやね。今日はいっぱいお話しよか!」

「いいですね。僕はホットミルクでも作りますよ」

 

そう言いながら、目を盗んでメールを送る。

要件は簡単に、場所と時間だけにする。即座に携帯をポケットの中に戻す。

 

「今日は長くなりそうやね――、みーくん」

 

僕の後ろで希先輩が笑う。吊るされた男のカードの後ろにいる悪魔の正位置のカードに気付かずに。


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