今回はヤンデレではなく、純愛を目指してみました。
ヤンデレ要素はないので悪しからず。
一人称は変わっていますが、この物語の主人公は弓塚 湊です。
また時系列などは無視しています。
俺が事を自覚した時には、そんなことを言えることもできなくて。今の関係を壊すことが怖かったんだと思う。
だけども伝えることが出来なくて、張り裂けそうな痛みが襲ってきたのを覚えている。
でもそんな痛みがあったところで、俺は今の態度も変えることなんてできずにいつもの様に逃げるんだろう。
きっと、今も。これからも。
いつもの帰り道。いつもの風景。いつも通りじゃない心臓。
いつもならこんなこと思わないのに。一年の中で今日だけがいつも通りでいられない日だ。
六月九日。あいつの、誕生日。何も知らない、あいつの。
元々知り合ったのは神社で会ったことが原因で。昔からあった神社にいつの間にかいたあいつが気になっていたら、話しかけられたのが最初だった、筈だ。
学年が同じで、よくここに走りに来るからそれで仲良くなっていって。色々と知り合ってからもうすぐ三年だ。
三年もたてば、お互いの立場と言うものが確立していくもので。いつもからかいあってる仲になってしまっている。
そんなことを考えていると、階段が見えて。いつもの様に、悟られないように彼女に会いに行く。
登りきると、いつもの様に掃除している姿が見えた。少し笑みが漏れてしまう。
近づいて、少し大きく声をかけた。
「よう、希。いつも通りだな」
「うわ、びっくりしたなぁ。もう」
驚いている。よし、いつも通りなはず。このまま会話して、プレゼント渡して帰ろう。
「はは、悪い悪い。てか足音とかスピリチュアルパワーで気付くこととかできるんじゃない?」
「気付く訳、ないやん。うちのスピリチュアルパワーはそんなもんちゃうで?」
「おお、こりゃ失敬。スピリチュアルパワーゆうからすごいもんやとおもうやん?」
「もー!またうちの真似して!」
「ははは、ごめんごめん」
「まったく。もうちょっと可愛くやってや!」
「え、可愛ければオッケーなんだ、それ」
やり取りを始める。自然とこの関係が一番なのか、落ち着いてしまう自分が嫌だ。
ただ怖がってるだけの自分に嫌気がさす。それから、いくつか近況話をして。
いつの間にか自分のカバンを強く握っていた。
それでも表面上は象っていた。
「じゃあ、最近は練習に打ち込む感じかぁ」
「そうやね。まぁそれも大事やし……って、湊。何をそんな大事そうに鞄を持ってるん?」
「へ?」
どきりとする。どう反応していいか、分からなくなって。でも聞かれたからには出さなくてはいけない。
鞄を開け、中からプレゼントを取り出す。中身は、最近雑貨屋で見つけた少しアンティークな小物の詰め合わせだ。
「あー、えっと。これ、プレゼント。今日、誕生日だろ。んで、これ」
「わぁ!ありがとうな!なぁ、開けてもええかな?」
「お、おう。いいぞ」
包装紙を丁寧にあけ、中を見ると顔を輝かせる。よかった。どうやら受けは良かったらしい。
「これ、めっちゃ可愛いやん!」
「そ、そうか。ならよかったよ」
一つ一つ喜んでくれている。俺の心は安堵を感じていた。同時に臆病でもあった。
それより先が何も言えない。喜ぶ一つ一つの動作に赤いタンバリンを打たれているのに。
好きだという言葉が伝えられない。否定される未来が怖いからだ。
だから、からかいあうことでこの関係が続けばなんて思ってたんだ。
でも、そんな事思えない日が今日来るなんて、思ってもなかった。
「あぁ、でもこれで湊から誕生日祝ってもらえるの最後かもしれへんなぁ」
「え?」
「ほら、うちらもう三年やん?受験して、遠くの大学とか行ちゃうやろうし」
「あ……」
そうだった。それをしたと同時にどうしていいかわからなくなりそうだった。
今考えていることが真っ白になってしまっていた。まるで、絵の具でぐちゃぐちゃにされたかのように。
頭の中が動かない。でも一つだけわかってしまう。このままではダメなんだろう。
こんな関係続くなんて甘いことはなくて。だから、だからこそ。
初めて、信じてもいない神様に祈った。
「っ、あのさ!希!」
「ん?どうかしたん?」
頼む。頼むよ。俺。ここしかないんだ。これを逃したらチャンスなんかないんだ。
だから、情けないけど。少しの勇気を絞ってくれ。
「俺、さ。ずっと思ってたんだ。多分。前から言いたかったんだけど。言葉が出なくて、その」
口が回らない。頭が困惑する。口が渇いてしょうがない。すべてがかみ合わない。
でも仕方ないんだ。初めてなんだ。こんなこと。不審に思い始めている彼女に、もう一度口を開く。
「多分、なんだけど。ずっと逃げてたんだ。俺はいつも言葉で伝えられなくて、臆病で。怖くて否定されるのを嫌がってたんだ」
そうだ。そうなんだ。言葉で伝えられなくて。否定されるのが怖くて。
「でもさっき、このままでいられないって聞いたとき、俺は思ったんだ。強く。これ以外考えられなかったんだ」
ようやく、言える。怖いけど、仕方ない。そういう日があったっていいじゃないか。そう思ってなきゃ、やってられないんだ。だから、言葉にしよう。
「っ、好きなんだ。誰よりも。希のことが」
言ってしまった。怖くて、顔を見れない。いつの間にか、目をつぶっていて。
無音が場を支配する。それが何時間もたっている気がして。
恐る恐る、目を開けてみる。希の顔を見ると。
大粒の涙が流れていた。
それから、すぐに返答が飛んでくる。
「っ、嬉しいんよ。ずっと、うちも思ってたから。同じこと、思ってるなんて。信じられなくて」
「あ……」
抱き付かれる。初めて感じるぬくもりにただ受け止めることしかできなくて。
今存在してるのかどうかさえも分からなくなるほどに。
「うち、駄目や。涙が止まらんから、顔見れないやん」
顔をうずめられる。ようやく気付く。思いは届いたんだと。
そのまま、空を見た。オレンジジュースとミルクを混ぜたような色をしていた。
数分経ってから、両腕からゆっくりと離れ。目元を赤くしながら、俺に言う。
「来年も誕生日、祝ってくれる?」
俺には、一つしか答えはなかった。