μ'sのメンバーが全員ヤンデレだったなら   作:コルセット

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第二話

携帯のバイブが震える。先ほど放課後になった瞬間に着信が来ていた。指で画面をスライドさせると、掛けてきた人物の名前が画面に出る。

そこには、”南 ことり”と書かれている。掛けてきた時刻はちょうど学校が終わった時であった。もしかしてもう全員で待っているのだろうか。

少し焦りを感じ、電話を掛け直そうとする。その時、曲がり角から見知った顔がこちらに来ているのに気付く。

風に靡く、蒲公英の様な色をした髪を手で御淑やかに抑える彼女は、こちらを見かけると笑みを浮かべ寄ってくる。

なんだか、面を食らったような気分だ。

 

「絵里先輩?何故こんな所に……?」

「迎えに来たのよ。そろそろ学校が終わるころかなって。出てくるのを待ってたの」

 

いたずらに微笑む。その小悪魔の様な妖艶な笑みに鼓動が早くなる。少し顔が赤くなるのを感じて顔を背ける。

そのことを気付かせない為、彼女を窘めることにした。

 

「絵里先輩はアイドルでしょう?それにここらじゃあとても人気があるから、こんなことしたら――」

「噂になっちゃうって?ふふっ」

 

手を取られる。ゆっくりと僕の手を頬へと導く。

触れた瞬間、色々な感触が襲ってくる。彼女の頬は少し熱く。まるでシルクの様なきめ細やかな肌。

そして僕の手を引っ張る。突然のことに対応出来ず、よろける。そのまま抱きしめられる。

豊満な体に、絹糸の様な髪。彼女が持つ特有の良い匂い。

耳元で囁くように、言葉を紡いだ。

 

「私は、それでもいいわ」

 

 

開いた口が塞がらない。なんだ、これ。まるで別人じゃないか。自分の中で抱いていた人物像が破壊される。

もっとしっかりしていて。アイドルでいる自分のことも理解していた筈で。

頭の中の回路がショートし始める。彼女はゆっくりと体を預けると、薄いリップグロスを塗っている瑞々しい唇から言葉を発する。

 

「―――――。――」

 

聞こえない。耳の中に入っては、すぐに溶けるような感覚だ。でも、それは聞きなれていて。体が受け入れてしまっている。

彼女の曇りもない空色の瞳が、こちらを向いている。視線が交差する。何度もしたような、気がした。

僕は、彼女の―――。

 

 

 

 

 

 

 

刹那、携帯が鳴り響き。僕を現実に戻す。

 

「あ……」

「……。携帯。鳴ってるわよ?出ないの?」

 

体をゆっくりと放すと、無表情のまま言う。

携帯を取り出すと、画面には”南 ことり”の文字が出ていた。その着信を受け、耳に当てる。

焦ったような声が聞こえてくる。

 

「みーくん!今、何処?」

「え、あ、学校出たとこだけど。どうかしたの?」

「良かった……。あ、えっとね。もしかしてそこに絵里ちゃんいる?」

 

少し、胸がざわめく。あんなことがあった直前だからだろうか。

 

「いるけど。それなら絵里先輩の携帯に掛けたほうがよかったんじゃ。」

「絵里ちゃん、携帯忘れてちゃってたから」

「そう。変わろうか?」

「ううん。大丈夫。みーくん、待ってるから早く来てね」

 

そう言うと、電話を切られてしまう。

果たして何のために、掛けてきたのか。それよりも絵里先輩はなぜこんな事を――。

そう思い、目線を彼女に戻す。彼女は笑っていた。

 

「ふふふ……。冗談よ?」

「え?」

 

理解が出来ない。予想の反中を超えてしまっている。

楽しそうに笑うと、悪戯が成功したかの様に舌を出す。

 

「まったく。μ'sの演出家がこんなのでどうするのよ」

「どういうことですか?」

「私達の演出家が、他の女の子に捕まってしまわないかどうか、よ。あなたも男の子なんだから分かるでしょう?」

 

嗚呼、なるほど。色仕掛けというやつか。確かに他に捕まり、スパイとなるのは自分が一番可能性が高いからか。

それにしても、やり方があるのではと思ってしまう。

 

「初めからそう言って下さいよ……。しょうがないでしょう、僕も男なんですから」

「そうね。まんまと嵌まってくれたもの。心配になるほどにね」

 

そう言って、また笑う。恥ずかしさが全身を襲う。

ああ、もう。さっさと学校に行ってしまおう。まともに顔を見ることもできない。

 

「もう、さっさと学校に行きますよ。ことり姉ぇにも催促されちゃいましたし」

「そうね、そうしましょうか」

 

音ノ木坂へと足を進める。刹那、何かが聞こえたが無視をした。

まだ感覚が残っているのが、なんとも言えない。忘れたくもあり、忘れたくもないからだ。

足が速くなってしまう。後ろを振り返るなんてできない。

 

 

 

 

 

 

 

「他の女の子に捕まるなんて、私が許すわけないんだから」

 

彼女が先程と同じような妖艶な笑みで僕を見ているなんて、知るよしもなかった。


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