μ'sのメンバーが全員ヤンデレだったなら   作:コルセット

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第三話

音ノ木坂には良く来ているが、未だに門を入るのにためらいがある。

この学校の理事長――ことりねぇのお母さんにも認めてもらい、許可書も発行されてはいるのだが。

どう考えても理事長以外の教師が目を光らせるのは当然のことだと思う。

だからこそ、この状態を解除してほしいのだが。

腕を組むようにして歩く絵里先輩に目線を向けるが、取り合ってくれず。道行く生徒から好奇な目にさらされるのは時間の問題だろう。

色仕掛けなどには引っかかりませんと、神に誓ってもいい。やめてください。恥ずかしさでこっちの身が持たない。

そう思っていると、いつの間にやらアイドル研究部の部室についていた。

 

「さ、中に入りましょ」

「そろそろ離してくださいよ、絵里先輩。恥ずかしさで死にそうなんですけど」

「んー。まあ、いいでしょう。他の女の子に靡かない。約束できるかしら?」

「ええ、そりゃもう。色仕掛けなんて引っかかりませんから」

 

胸を張って言える。というか、これ以上の色仕掛けがあるなら受けてみたいものだが。

先程からの柔らかい感触にどうにかなりそうだった。

 

「……。じゃあ、離してあげる」

 

体が離れる。暖かで、柔らかい感触が離れる。名残惜しかった。

声に出せるわけもないが。溜息をつき、ドアを開ける。

中には全員がそろっていて、その全員とも部室に置いてあるパソコンに向かっていた。

 

「あー。どうも?」

「う゛ぇえ!」

 

声をかけると、比較的自分の近くにいた真姫が声を上げる。

それに全員が気付き、こちらを見る。

ぷつんと言う電子音が聞こえる。パソコンの電源を落とした音、だろうか。

 

「あ、別にパソコン落とさなくてもいいのに。てかびっくりさせちゃった?」

「もう!ノックぐらいしなさいよね!」

「ごめん、忘れてたよ。皆そんな真剣に見てるなんて知らなくてさ」

 

そう言って笑うと、いつもの席に着く。鞄を置いて一息つくと、それほどまでに夢中になっているのが何なのか気になった。

 

「何を見てたの?なんかすごい真剣だったけど?」

「あはは……まあそれは女の子の秘密っちゅーことで」

 

少し焦ったように希先輩が言う。そんなに焦る事だろうか。

何だかこのことに突っ込むと危険な感じがしたので、深くまで掘り下げはしないが。

 

「そう言えば、みーくん。もう演出のほうは決まったのかにゃ?」

「うん。大体はね。2つ案があって、どっちか決めてもらうと思って」

「ほぇぇえ。速いんだねぇ。この間頼んだばっかりなのに」

「ふふーん。もっと褒めていいんだよかよちん」

 

胸を張る。褒められるのは嫌いじゃない。むしろ好きだ。

尊敬の目で見るかよちんは更に、瞳の輝きが増した。

 

「湊。今日の朝まで考えていなかったでしょう?」

「う、いいのさ海未ねぇ。適当に考えたんじゃなくて、しっかり考えたんだから。まあ学校にいる間だったけど」

「本当にしっかりと考えたんでしょうね?にこの目はごまかせないわよ?」

「それは見てからのお楽しみですよ、にこ先輩」

 

鞄から、ノートを取り出す。演出ノートと題されたそれは、僕のアイディアが詰まった物だ。

アイディアと言ってもそう大事な物ではないけども。

 

「えーと。とりあえずなんだけど、今回の――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「と、まあこんな感じでいいかな?」

自分のノートに付け足ししながら、全員を見る。どうやら、大丈夫らしい。

あれからかなり議論をはじめ、気が付いたら遅くなっていた。

ノートを鞄の中にしまい込み、伸びをする。

真剣に議論したこともあって、なかなかの出来に仕上がった。

外を見ると、日はもう傾いている。そろそろ帰りだろうか。そう言えば、今日は一切練習してないのだが良いのだろうか。

気になるので聞くことにする。自分のせいで出来なかったとでもなってしまったら、申し訳なさで一杯だ。

 

「今日の練習は良かったの?」

「ええ、大丈夫よ。今日は奏が来る日だし」

「しっかり聞いておかなあかんしなぁ」

 

そう言って、笑いあう。演出の事だろうか。気になったが口には出さない。

口に出したら、そのことについて弄られて終わりだ。

そうですかと相槌をうって、机に体を前のめりにして倒す。

冷たい机が心地よかった。皆が皆雑談をしている。こんな空間も悪くない。

少し顔を上げると目線の先には、こちらを向いている真姫ちゃんと目線が交差した。

 

「お、何だい真姫ちゃん。そんなに見つめられても演出の案は出てこないよ?」

「何言ってるのよ。たまたま目線があっただけでしょ」

「うーん。手堅い」

 

少し赤くなって顔をそらしている。何というか、ちょっかいが出したくなってしまいたくなる。

スキンシップをするとそれはそれで問題になってしまうが。からかう程度なら大丈夫だろう。

 

「ね、真姫ちゃん。こっち向いてよー」

「嫌よ。向く必要がないもの」

「えー。可愛い顔が見れないじゃん」

「何言ってんのよ!」

 

更に赤くなる。これはやばい。やめられない。

でもこれ以上すると怒られるからやめる。辞め時が大事だ。

ごめん、ごめんと少し謝る。そうしてまた先ほどの体制に戻る。

少し先にあった、かよちんが持ってきたスクールアイドルが取り上げられている雑誌を手に取る。

表紙はA-RISEがでかでかと乗っていた。3人で仲良くこちらに向かって笑っている。

センターにいる綺羅 ツバサの顔が印象深く残る。これが頂点に立っているもののオーラだろうか。

それに加え可愛さもある。これは世の男も釘づけになるのも分かる。

 

 

 

「うーん。綺羅 ツバサは確かに可愛いなぁ」

 

瞬間。部屋の温度が下がった気がした。

異変に気付く。あ、と思った時には遅かった。

隣に座っていた絵里先輩が、僕の手を握り、引き寄せる。

引っ張られて、顔を見ると無表情のままこちらを見ていた。

 

「ねえ、湊」

「え」

「私、言わなかったかしら」

 

パニックに陥る。頭の回転が止まったしまったかのようだった。

どんどんと顔が近づく。やばい。体が動かない。

 

「絵里ちゃん。ダメだよ」

「穂乃果……?」

「その気持ちは分かるけど、決めたでしょ」

「そう、ね」

 

納得したような顔で僕の手を放す。穂乃果姉ぇが両手を頬に添える。

顔だけを穂乃果姉ぇのほうに向けられる。こんなに力が強かっただろうか。

真剣な目で、こちらを見ている。

 

「ねぇ、みーくん」

「な、なに?」

「穂乃果達だけを見てればいいんだよ。穂乃果達のことを考えてればいいの。他の女の子に気を取られちゃダメ」

 

そのまま優しく抱きしめられる。状況が速過ぎてついていけない。

みんなの視線がいっせいに僕に向く。この後の展開を知っているかのように微笑んでいた。

 

「だから、決めたの。みーくん」

 

息を吸い込む。そのまま耳元でささやく。

それは僕にとっての日常が変わってしまう一言。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「穂乃果達がずっと傍にいるって」

 

ここから、僕の人生は大きく動いていく。


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