ブライアンが、実装、だと……?
姉のことで気ぶりする妹が、どんな風にデレるのか気になるじゃあないか……!
持ってくれよ、オラの財布! 課金額3倍だーーーーーーーー!!
そして、皆さんのお察しの通り、この作品でのオグリキャップは走ってる時以外は常にシングレの簡単オグリ化しております。
迫るデビュー戦に向けて、今日も走り込む。
基本は坂路ダッシュで速筋と遅筋をバランスよく鍛えていく。これはトレーナーさんからの指示だった。
「スズカはさ、元々速筋と遅筋のバランスが速度を維持し続けるための黄金比なんだよ。どちらか一方ばかりを鍛えると折角の黄金比が崩れちまう」
何でも速筋と遅筋の割合は生まれた時から決まっているらしく、筋量は変わっても割合は変わらないという研究結果が現時点で出ているのだとか。
速度は天性、持久力は努力次第と言われているのはそういう理由なわけだ、とトレーナーさんは言っていた。
だからこそ私は認めてくれた部分を徹底的に鍛えたいのだけど、それを許してくれない。
ルドルフ会長は故障の可能性を出来うる限り減らしたいが故の配慮、と言っていた。
理屈は分かったけれど、納得できない部分もある。
会長は強い。併走しても先頭を
オグリ先輩も強い。最高速なら此方が上だけど、油断しているとあの瞬発力と加速力であっという間に横並び。
マックイーンちゃんだって油断はならない。今はハナに立てているけど、長距離になれば持久力の差で押しつぶされかねない。
ライスちゃんも同じだ。時々、あの娘が後ろを走っていると会長に背中を追われている時以上の圧力を感じる。
周囲の才能が有り過ぎて、自分がそれでも先頭に立てるのか不安になる。
以前のトレーナーの下で走り方を変えて、バ群に飲み込まれていった時のよう。
けれど、あの時のように脚は重くならない。
寧ろ、身体の底から熱い何かが湧き上がって力に変わっている気さえする。
多分、トレーナーさんとの会話が一方通行ではないから。
何か思い詰めていると声をかけてくれて、入れ込み過ぎていると止めてくれる。
兎に角、人の変化に聡くて、彼が笑っている顔を見るだけでも安心感を覚える。しっかりと私達の思いを汲んだ上で、接してくれているからだと思う。
良い例は、オグリ先輩との付き合い方。
「もぐもぐ。おいひぃ」
「もぐもぐ。ん~~♪」
「二人とも幸せそうに食うよなぁ」
「ウソでしょ……」
「これは流石に…………厨房の食材が持つだろうか……」
「大丈夫だ、問題ない。こっちからオグリ達の食べる量は伝えてあるし。うん、しかしいっぱい食べる娘って可愛いよな」
「おかわりを頂くとしよう」
「私も」
「お二人とも、張り合う相手を間違ってますわよ」
間食さえ止めれば三食を増やしても、最終的には総量も減って管理もしやすいから構わないという方針らしい。
本人も気づいていない過食症。そのストレスを軽減するため、一緒に食事するよう言われていたけど、オグリ先輩とライスちゃんが揃うともう凄い。
机の上に所狭しと並ぶ食べ物の数々。山盛りのサラダ、山盛りのおかず、山盛りの白米。
思わずフードファイトでもしているの? と思ってしまうレベルだった。
そして、会長と私の食事量まで増えて、体重も増えた。
まだ大丈夫、大丈夫だけど、このまま行くと太り気味になるかもしれない……。
それは兎も角…………兎も角!
本当にオグリ先輩の間食は減ってきている。
トレーナーさんは言うに及ばず、タマモ先輩やマルゼンスキー先輩、そして私達も積極的に話し掛けている効果なのだとか。
私達にとっては然程苦ではなく、少し意識するだけのことだったけど、オグリ先輩は確かに明るくなった。
ふとした拍子に見せる笑顔が増えて、何処か落ち着きのない様子は完全に鳴りを潜めている。
私達をキチンと管理しているけど、意識させない手法とでも言えばいいのか。
そういったものが抜群に巧い。例え気付いたとしても、窮屈さや不快感は全く感じない。
その点はマックイーンちゃんやライスちゃんも同じことを感じているらしく、微笑みながら肯定していた。
しかし、それを耳にした会長は――――
「ああ、そうだろう? 流石は
――――とんでもないドヤ顔で、そんなことを言う。
むむむ。
ライスちゃんはそうですね、と嬉しそうに首肯していた。こういうところはこの娘の良い所だと思うけど、素直過ぎてちょっと心配になる。
マックイーンちゃんはそうですわね、と呆れ顔だった。多分、このマウントの取り方に辟易としているのだと思う。
でも、私は知っている。
これはマウントを取っているんじゃない。
会長と同じ顔を以前見た事があった。
そう、それはまだ地元に居た頃、友人が見せた表情と全く同じだったから。
余り興味がなかったから、どのタイミングだったかは詳しく覚えていない。
けど、友人に初めて出来た恋人を紹介された時だったのは覚えている。
恋愛なんてものに興味のなかった私は早く帰って走りたい、なんて失礼なことを考えていた。
でも、友人の顔は覚えている。隣で恋人が照れるのも構わず、出会いやどれだけ素敵な男性なのかを語っていた時の顔と会長は全く同じ。
つまり、彼氏を自慢する時の表情……!!
様子を見るに、付き合ってもいないのにこれ。
た、確かに私達よりも長い時間を過ごしたのは分かる。大切な思い出があったのは理解できる。
でも、付き合ってもいないのに私のものみたいな顔をして自慢するのは意味が分からない。
もう会長だけのトレーナーさんではなく、私の……じゃない、私達のトレーナーさんなんだから……!
トレーナーさんだって困っている。
言葉にはしていないけど、会長の態度には困っている。きっと。絶対。確実に。
………………話が逸れちゃった。
どうも、トレーナーさんのことになると私は冷静さを失ってしまう。
理由は自分でもよく分からない。胸がチクチクとして、負けないという気持ちばかりが募る。
多分、会長への対抗心でそうなってしまっているだけ。うん、そうね、きっとそう。
……兎も角、オグリ先輩に発揮されたトレーナーさんの良い所は私のフォーム改善にも発揮されている。
初めの内はコース上に等間隔で目印を置き、それを踏むことで広げたストライドで走るためのトレーニングをしていた。
徐々に間隔を広げ、ある程度リズムを掴むと今度はコース上で実践となった。
どうやらトレーナーさんは何とか併走して都度フォームの問題点を指摘したかったようだけど、流石に無理で。
最終的にコースの内柵の中、向こう正面でフォームを確認。
その後、ショートカットする形でスタート地点に戻って指導する、という形を取ろうとしたのだけど。
「クソがぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!」
しかし、どれだけスピードを落とそうとウマ娘と人の間には身体能力において大きい開きがある。
走る距離は私達の三分の一以下だろうと、私達の速度は三倍以上はある。どう頑張っても間に合わない。
指導できるだけあってフォームも綺麗だったし、人にしては速い方だけど駄目だった。
「おらぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!」
走っていては無理と悟ったトレーナーさんは、何処からかママチャリを用意して激走した。
確かに走るよりも速いだろうけど、身体を酷使するのは同じ。
ましてやコースの内側は芝や砂が敷き詰められている。アスファルトの上で乗るのとは体力の消耗が違う。
「ぜひゅー……ぜひ……ひゅーっ……オェっ……」
「だ、大丈夫ですか……」
「にゅ、入院生活で体力メチャクチャ落ちてやがる。マウンテンバイク用意しても無理だこれ……」
スタート地点には私よりも早く辿り着いてはいたけど、もうヘロヘロ。
内柵に身体を預け肩で息をする姿は、思わず私が走るのを止めてしまうほどだった。
そして今日は――――
「じゃーんっ! 中古で買ってきましたっ!」
「ウソでしょ……」
「バイク、ですわね」
「相変わらずというか何と言うか。君は本当に、よく其処までということを……」
「おぉ、マサさんがよく乗っていた奴だ」
「あの、トレーナーさん、これでコース走っていい、の……?」
「いや、流石にそれはちょっと。でも柵の外ならいいってさ。理事長にもコースの整備士にも許可貰った」
原付を購入したみたい。
これは私も見たことがある。多分、スーパーカブという奴。
こ、此処までするの……?!
確かに私達と併走するにはこれくらい必要だけど!
むしろそれでも足りないくらいだけど!
しかも既に理事長と整備士さんには許可を取っているとか。
な、なんて行動力なんだろう。誰とでも仲良くなれるコミュニケーション能力といい、こ、これが一流トレーナー……!
…………いえ、何だか違うような気がする。
「まあ理事長の方は周りに十分注意するようにって言われた。整備士にはコース掘り返したら代わりにお前の肉をエグり返す。柵壊したら代わりにお前の骨を折るって脅されたけど」
とんでもない脅されかたしてる……!
でも、当然かもしれない。
トレセン学園は私達のような学生がレースに向ける情熱は勿論のこと、職員が仕事に対する情熱も凄い。
モチベーションが高いなんてレベルじゃない。カフェテリアの料理人も、コースの整備士の方々も、勝負服を作る服飾士も、命懸けで仕事をしているような迫力があるから。
「まー、兎に角やろうぜ。17時の30分前くらいになったら一旦降りなきゃだし、周りの安全考えたら人の少ない時しか使えないし」
「は、はい、分かりました」
こうして、今日のフォーム改善トレーニングが始まった。
―――――
――――
―――
――
―
トレーナーさんは理事長との約束通り、コース周辺に他人がいないことを確認しながら安全運転のまま私を柵の外側から追っていた。
トレーナーさんの課すトレーニングは量が少ない。
多分、この学園のトレーナーの中では一番少ないと思う。
けれど、だからと言って簡単とは言えない。
「足をもう5mm上げてー!」
「ご、5mm……!?」
「あと頭の位置をもう1cm上ー!」
「は、はいっ……!」
「ストライドはもう3cm狭くー!」
要求される指示を達成する難易度が兎に角高い。
今はフォーム改善だから各部位の位置の修正を要求されるけど、これがランニングならどの筋肉を使って加速しているのか、コーナーでは遠心力に対するために関節や腕の動きを徹底して意識させる。
まるで身体を鍛えることと身体を苛めることは本質的に別。量を増やさずとも、質を高めれば十分過ぎるほど鍛えることは可能と言わんばかり。
事実、徐々にだけどタイムの自己ベストは更新され続けている。
こんなに細かい指示を出せるのは、計算で出した理想値を実現するための動きが頭の中に映像として出来上がっているから。
そして、ヴァーチャルリアリティのように、その映像が現実の私と重なって見えているかららしい。
説明されただけではとても信じられなかったけれど、詳しい数字と結果で示されては信じるしかない。
初めて会った時から予感めいたものはあった。でも、想像していた能力を遥かに上回っている。勿論、人柄も。
「はっ……はぁ……ど、どうでしたか?」
「大分よくなったと思うよ。同じ距離を走っても、脚全体に溜まってる疲れも少なくなってるんじゃない?」
「そう、言えば、そんな気も……」
トレーニングの小休止。
トレーナーさんはスーパーカブを止めて、今は柵の上に両手を乗せてもたれている。
私はちゃんと要求を満たせているのか不安になって聞いてみると、トレーナーさんは日の光を連想させる笑みと共に安堵させるような返答をしてきた。
思わず脚を浮かせて、二度三度と動かしてみる。
確かに筋肉にも痛みもないし、関節も問題なく軽く動かせている気がする。
「でもなぁ、コーナー入った時に妙にヨレるんだよなぁ……」
「あ、初めて会った時にも、同じ事を言ってました。私は、分からないですけど」
「ああ、そうなのか。となると、フォーム改善だけじゃ十分じゃないかねぇ、これは。もっと何か別の要因が……」
口元を片手で覆ったトレーナーさんはすっと目を細めて私を見た。
怖いくらいに真剣な無表情。そして、槍の穂先を思わせるような鋭い目つき。
普段はにこにこと笑っているから分かり難いけど、トレーナーさんは一般では強面に分類される顔立ちをしている。
ただ、その表情が私は思いの外好きだった。
少しだけ怖いと感じはするけれど、本気の表情とは誰でもそんなもので、きっと私もレースの間は似たような表情と目をしている。
その視線に貫かれると、ゾクゾクとした言葉にできない感覚を覚える。
不快感はない。寧ろ、快感ですらあるような不思議な感覚。
多分、トレーナーさんの視線と期待をその一瞬だけは独占しているからだと思う。
「思い当たる節はあるが、確証がなぁ……」
「そ、其処まで悩まなくても……私もフォーム改善を頑張りますから……が、がんばるぞ、おーっ! ……な、なんて」
「なに、ライスの真似? ストイックなとこあるから友達少なそうで心配してたけど、随分と打ち解けてるじゃん。良い傾向良い傾向」
「す、少なくなんてありませんっ!」
トレーナーさんを安心させるつもりでライスちゃんの真似をしただけでも恥ずかしかったのに、揶揄われてもっと恥ずかしくなってしまう。
きっと顔はリンゴのように赤くなっている。
頬が熱くて、火を噴いてしまいそう。
それを見られたくなくて、思わず俯いてしまう。
ただ、トレーナーさんはそれで頭を差し出したとでも思ったのか、何の躊躇もなく頭を撫でてくる。
凄く、気持ちがいい。思わず腰砕けになってしまいそう。そして、余計に気恥ずかしくてドキドキする。
チラリとトレーナーさんを覗き見れば、其処には屈託のない笑みが刻まれていた。
「私、負けませんから……!」
「別にオレは負けてもいいと思うけどなぁ。勝ちも負けも同じぐらいに価値があるものだよ。まあ、勝負してる本人にこんなことを言うのはどうかとも思うが」
「なら、故障にも気を付けます。トレーナーさんには、それが一番なんですよね?」
「…………ハハ。ああ、オレにとってはそれが一番だよ」
さっきの真剣な表情もいいけれど、笑っている顔がトレーナーさんには一番似合うと思う。
私は、この人には何時だって笑っていて欲しい。見ていると安心するというのもあるけれど、それ以上に辛い境遇にある人だから。
忘れられる気持ちは分かる。
全てではないけれど、17時を跨ぐ度に昼間の私は何時も忘れられてしまうから。
でも、忘れてしまう気持ちが分からない。
掛け替えのない半日を忘れて、他人から貰った言葉を忘れて、自分が何をやったかすら忘れてしまう。
それがどれだけ辛さと不安を伴うのか、私にはきっと一生理解できないだろう。
だからせめて、その辛さと不安を少しでも減らしてあげたい。
期待される歓びと自分以外の誰かと歩んでいく心強さを教えてくれたから。
それが私の、先頭に立ってあの景色を見ることしか願ってこなかったサイレンススズカの――――新しく生まれた、もう一つの願いだった。
思ったよりも反響のあったゴルシちゃん世界線の一幕。
ゴルシ「へへー、おらぁ、勝ったぞトレーナー。ゴルシちゃんかっこよかったって言えよー。もっと褒ーめーろーよー(グリグリ」
トレ「背中に頭押し付けてくる。確かに勝ったけどさぁ、すげーデレだしてくるじゃん」
ジャスタ「ゴルシさんは気に入った人には大体そんな感じです」
トレ「そうなんだ……顔面にドロップキック決めてきたのは?」
ジャスタ「それもデレです(真顔」
トレ「そっかー……ならしょうがないな! よくやったぞ、ゴルシ! オレがときめいちゃうくらいかっこよかったぞ! よしゃよしゃ!」
ゴルシ「うぇへへへへ(デレデレ」
トレ「そして木魚ライブの準備も万端だ。ライブ関係者に演出相談して二着三着にも協力してもらおうとしたら、出たくないからお前とオレとジャスタウェイのチームライブになったけど」
ゴルシ「イィィィヤァッホォォォォォォ――――!!!(いつもの変顔」
ジャスタ「じゃあ私は帰りますので(塩対応」
トレ「逃がさん、お前だけは……! ジャスタウェイの好きなあのジャスタウェイの人形、今度のレースで優勝トロフィーに入れていいから!」
ジャスタ「仕方ありませんね、私は何を?(テノヒラクルー」
トレ「オレが虚無僧の恰好で尺八吹くから、隣で三味線を」
ジャスタ「分かりました。任せてください(真顔」
観客はこの後、オレ達は何を見せられているんだ状態に突入。
新聞で騒ぎ立てられるかと思いきや、トレーナーとジャスタウェイの演奏が上手過ぎて逆に褒められた。
ジャスタウェイは塩対応系の万能優等生をイメージ。
ゴルシちゃんに無茶ぶりされてもさらっとやったり、面倒になったらガン無視するタイプ。流石ゴルシちゃんの親友である。
トレーナーがネタのつもりで買ってきた銀魂のジャスタウェイ人形がお気に入り。
この娘はこの後、アーリントンカップで覚醒。
ゴルシちゃんと一緒に原作をメチャクチャにして荒らして回る活躍を見せる模様。