トレーナーさんは眠らない(ガチ)   作:HK416

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『形影一如』

 

 

 

 

 

「んぁ~、こんなとこかぁ……」

 

 

 祝勝会のあった翌々日の昼間。

 ミーティングルームで作業を一区切りさせたオレは、仕事机の椅子に座ったまま大きく両手を天井に向かって伸ばし、凝り固まった身体を解した。

 

 やっていたのはチームメンバーの出走レースとトレーニング内容を含めた年間計画の作成。

 この手の計画立てならば、17時を跨いで記憶を失っても形としては残るので気兼ねなく集中できる。

 

 尤も、余り詳細な内容ではなくざっくりとしたものだが。

 出走レースはメンバーに確認をとってから正式に出走届を出す形になるのであくまでも暫定。

 トレーニングも個人の状態や状況、見えてきた弱点を潰すために変更はあるのでこれまた暫定。

 そんなもんでは意味がないようにも思うが、前提となる計画があるとないとでは進み方が異なる。

 それに、万が一も十分に在り得る。備えておいて損はない。

 

 当然ではあるが同時に明るくない想像を、首を振って頭の中から追い出す。

 ちょうど息を入れるにはいいタイミングだ。コーヒーでも飲んでリフレッシュするとしよう。

 

 ミーティングルームに置かれていた戸棚を開き、オレのマグカップを取り出す。

 

 棚の中の数が増えた品々に思わず笑みを零れる。

 戻ってきた時にはオレとルドルフの分しかなかったが、今は人数分に加えて、必要あるものからないものまで色々と揃っていた。

 ルドルフは深緑、スズカは白地に緑のドット柄、ライスは花柄のマグカップが一つずつ。

 マックイーンはお気に入りのティーカップだけでなく、ソーサーからスプーンフォークにティーポットと一式揃えてしまっている。

 オグリなんかすげーや。マグカップだけでは飽き足りず、ジョッキまで用意してやがる。これで麦茶とか豪快に飲むんだよなぁ、あの娘。

 

 ミーティングルームも随分と賑やかになって、仕事場と言うよりも溜まり場と言った趣になっている。

 それがまるで彼女達が心を開いてくれている証のようで、心が喜びで波打つようだ。

 社会人としちゃ聊か以上に緩んでいるのだろうが、締めるところは締めているから問題ないだろう。

 

 まあ、困ったこともあるんだけど。

 

 その、ルドルフとスズカが、なんか挙って私物持ち込んでくるんだよなぁ……。

 筆記用具だのは生徒会の仕事をやったり、勉強会みたいなものもやるのでまだ許容範囲なのだが、タオルとかジャージの替えとか歯ブラシまで置いて行くの止めた方がいいと思う。

 

 アレか? 此処は私の縄張りだ、とでも主張しているのか? 

 あくまでオレを信頼して貸し与えられた部屋。決して私室ではないのだから勘弁して頂きたい。

 いや、殆ど私室化しちゃっていて、殆ど此処で生活してるオレも悪いけどさぁ。こっちは理事長にしっかりと許可を貰っている。

 

 思いも寄らぬ二人の挙動に悩みつつも、冷蔵庫から取り出した作り置きのアイスコーヒーをマグカップに注ぐ。

 もうちょっと寮の自室に生活基盤を移した方がいいかなぁ、でも人とは本格的に働ける時間帯が違うから帰るの手間なんだよなぁ、とか考えていると部屋のドアをノックされた。

 

 

「トレーナー、失礼するぞ」

 

 

 すると、此方の返事も待たずにドアが開け放たれて、鼻息荒いオグリが入ってくる。

 いや、別にいいんだけどさ。オレ、まだ口を開いてさえいないんだよなぁ。

 

 

「……オグリィ、ノックしたなら返事あるまで待ちなぁ?」

「ハッ、そうか。済まない、もう一度やり直す」

「いや、戻るな戻るな。もういいよ。次から、次から気をつけよう」

「分かった。次からは返事を待つぞ」

 

 

 ハッとした表情をすると、そろりと扉を閉めながら部屋の外に出て行こうとするオグリを引き留める。

 

 やってしまったものは仕方がない。

 見られたくないところを見られたわけでもなし、目くじらを立てるほどでもないだろう。

 それにオグリは素直なので苦言だけで十分だ。次からはしっかりと入室の言葉を待ってから扉を開けてくれる。

 

 

「それで、どした?」

「実はトレーナーに相談が……いや、頼み、だろうか……うぅん?」

「……?」

 

 

 オグリが見せたのは、右拳で額を数度叩く独特の所作。

 何か悩んでいたり、困っている時に見せる癖だ。

 

 オグリからの相談はさして珍しくはない。

 まだまだ学園での生活は不慣れな部分が多く、仲の良いタマちゃんだけではなく、最近ではチームメンバーやオレにも頼ってくる。

 その範囲は様々で、生活面だけでなく、トレーニングに学業と多岐に渡る。

 

 これもそれだけ心の距離が近づいた証左。良いことだろう。

 気になったのは、オグリの困り事に全く見当がつかなかったことだ。

 

 

「どっちでもいいけど、座りなよ」

「ああ、そうさせて貰う」

「何か飲む?」

「取り敢えず麦茶をジョッキで」

 

 

 オレに促されるまま、オグリはソファに腰を下ろしてそんなことを言った。

 

 確かにジョッキで求められるのは予想してたけどさぁ。

 そんな居酒屋の取り敢えず生でみたいなノリで頼む量じゃないんだよなぁ……。

 

 

 

 

 

―――――

――――

―――

――

 

 

 

 

 

「ごっごっごっごっ……ごくん、ぷはぁ! トレーナーの作った麦茶は美味しいな。香ばしさが素晴らしいぞ」

「……あっ、ああ、うん、そう。おかわりは?」

「頼む」

「お、おう」

 

 

 一息にジョッキの麦茶を飲み干したオグリにおかわりが必要か問うてみると、真面目腐った表情でジョッキを差し出してくる。

 

 す、凄い勢いだった。ダム穴に飲み込まれてく水みたいな勢いでなくなったぞおい。

 これで喉が渇いているわけでもなく、平常運転なのでオレもどんな顔をしていいのか分からない。

 もう食欲に関しては、ウマ娘のオグリキャップじゃなくて、オグリキャップという生き物という次元なんですが、これは。

 

 毎度毎度驚かされてばかりのオレは、何とかボトルに作り置きしてあった麦茶をジョッキに注ぐ。

 なみなみといれてやると、おっとっとと言わんばかりに口元に持っていき、窄められた口でずぞっとお行儀悪く啜る。

 見てて、見てて面白いんだけど、もうちょっとこう、乙女らしい所作を覚えた方がいいと思う。

 いや、もういいや。どうせオレしか見てないし。こういう所も愛嬌だと受け入れよう。

 

 

「それで、相談だか頼みは?」

「ああ、実は今回のレースで貰えた賞金を使いたくてな。だが、どうやって下ろせばいいか分からない。タマに聞いてみたらトレーナーに相談しろと言われたんだ」

 

 

 成程、確かにオレを介さねばどうにもならない話だ。

 

 中央・地方を問わず、レースで獲得した賞金をウマ娘は自由に使えないように制限と制度が強制されている。

 レースで獲得できる賞金は余りにも莫大で、10代の少女達が好き放題に使えるような状況は決して好ましいとは言えないからだ。

 

 将来的な金銭感覚の欠如、社会や人の悪意を知らぬが故の危機管理能力不足。

 大金を持っている、自由に使えるというのはそれだけで何らかの問題に巻き込まれる可能性に繋がる。

 

 実際、過去にやらかしたウマ娘はいる。

 ネズミ講やら新興宗教に賞金を突っ込んだり、詐欺事件に引っかかったり、親やトレーナーとの確執で裁判沙汰になったりと、割と頭の痛くなる歴史があるのだ。

 そうした諸々の問題・危険からウマ娘を守るため、いくつかの門戸が用意された。

 

 まず獲得賞金は学費やら学園側の取り分が引き抜かれた状態で、入学した時点で新たに作られる各々の銀行口座に振り込まれる。

 この口座に振り込まれた金は張本人であるウマ娘、学園における保護者に相当するトレーナー、実際の保護者であっても自由におろせない。

 ウマ娘による申請の後、トレーナーが内容を確認と承認、学園の総務経理に回されて同じく確認と承認、額によっては理事長、中央の委員会などの上層部にも回される形になる。

 

 恐らく、その後もトレーナーであるオレにも知らされていない何らかの手続きやら仕組みがあるものと思われる。

 手間は手間なのだが、こうでもしないと何処で誰が何をしでかすか分かったものではない。汚濁や不正は何処にでも湧く、複数による監視・管理というものは常に必要だ。

 

 

「生活費とかか? 短いスパンでなけりゃ、5万10万くらいだったら即日引き出せるけど」

「それはそれで必要だが、まずはお母さんに仕送りをしたい」

「ああ、成程。それはやっとかないとな」

 

 

 オレの言葉に、オグリはうんうんと頷いた。

 顔に刻まれていたのは、やっと恩を返せるという確かな歓びであった。

 それだけで、オグリがどれほど母親に感謝をしているか分かろうと言うものだ。

 

 尤も、気にしすぎだと思わないこともない。

 親にとって子供は、何時まで経っても子供なものだ。

 まともな大人なら子供に大きな期待などしない。ただ、現状を受け入れてそれでもいいと肯定するか、より良い人生を歩めと口にするかだけ。

 

 

「そう、貴方のやりたいようにしなさい。でも、駄目だと思ったら、いつでも帰ってきなさいね。あ、でも帰ってくる時は連絡を頂戴。お父さんと……うふふふ」

「仕送り? 要らんわ。子供に養われるほど零落れちゃいない。父さんはまだまだ現役だぞぅ! 母さんとの夜の方もな!」

 

 

 オレが無茶をすると決めた後、両親に報告した時にはそんな言葉を貰った。

 

 本当に良い両親の下に生まれたと思ったものだが、最後の一言で台無しである。もう結構いい歳なんだけど。

 いやほんと、息子にシモの話を明け透けにするのはやめて欲しい。両親のそういう話を聞くなんて願い下げなんだよなぁ。

 

 …………話が逸れた。今はオグリの仕送りの方が重要だ。

 

 

「それで、いくらぐらいにする?」

「取り敢えず、半分を考えているのだが」

「…………そうか、そうきたか。状況をようやく理解した」

 

 

 加減しろ、おバカ! いくらお母さんだって、そんな額仕送りされたら腰抜かすわ!

 

 と、喉元までせり上がってきた科白を何とか飲み下し、平静を装う。

 これはちょっと、オグリの天然ぶりを舐めていた。 

 

 世話焼きなタマちゃんが詳しい説明もせず、オレのところに送り込んできたのは、金に対する頓着のなさを何とかしてや、ということだったらしい。

 

 

「仕送りしたいのは分かった。だけどその前に、賞金と世間一般の話をしよう」

「……? 分かった」

「まず、今回の賞金だけど、いくらぐらいだか知ってる……?」

「…………トレーナーがレース前に言っていたような気がする。だが済まない、覚えていない」

「そうか。まあ次からは気を付けよう。賞金の取り分はオレが5%、学園が15%、オグリが80%。金額に換算するとざっくり三千万です」

「……………………三千円とかでなく?」

「三千万です」

「 そ ん な に 」

 

 

 全く予想していなかったのか、オグリの顔がポカンと緩んでいく。

 もうだるだるのゆるんゆるんで、一筆書きの簡単オグリみたいになっている。なんかゆるキャラみてぇ。

 

 案の定、自分がアーリントンカップでいくら稼いだのか把握していなかった模様。

 大体、三千円の仕送りなんてどれだけ生活の助けになるか。どうするつもりだったんだ、この娘は。

 

 尤も、金を稼ぐのが目的ではない以上、仕方のないことかもしれないが。

 そうした浮世離れした無欲さ(但し食欲は除く)もオグリの魅力かもしれないが、常識程度は身に着けておかねばなるまい。

 

 もう見ていて不安になる天然ぶりだ。このまま行くと人生を失敗しかねない。

 一度でも信頼すると頼るのに躊躇しないのは良い事だとは思うが、相手を選ぶことくらい学ばないととんでもない事態を招く。

 

 オレが守護らねば(使命感)

 

 

「半分は一千五百万だぞ。そんな金額送られてきたオグリはどう思う?」

「腰を抜かしてしまうな……」

「だろ? だから少額を毎月送るようにした方がいいよ。定期振込を組めば忘れることもないし、一々申請しなくて済むしな」

「成程……しかし、どれくらい送ればいいんだ?」

「そうだなぁ。家庭の事情にもよるから何とも言えないが、始めの内は二万三万くらいにしとけばいいんじゃないか?」

「むぅ……でも、お母さんは私を育てるために頑張ってくれた。もっと送った方が……」

「あんまり多いと受け取っちゃくれないよ。親にも意地ってもんがあるからな。どうしてもって言うなら、別に積立でもしたらどうだ? 親が本当に困った時にポンと渡せばいいだろ?」

「積立、そういうのもあるのか。流石はトレーナー、賢いな」

 

 

 オグリは尊敬の眼差しを向けてくるが、オレとしては呆れの方が強い。

 いや、オレが賢いんじゃなくて、オグリが考えなしすぎるだけだと思うよ???

 

 実際、この辺りの問題は親と子の意地の張り合いみたいなところがある。

 親は子にただ健やかに生きて欲しいと願うし、子は親にこれまで育ててくれた感謝として楽に生活して欲しいと願う。

 これらは相反する願いではないが、金が絡むと途端にぶつかり合って意地の張り合いの様相を呈してしまう。

 其処からは互いに手を変え品を変え、相手が折れるのを待つわけだ。大変結構なことである。

 

 世の中には自分の子供を道具のように扱う親もいれば、自分の親を憎しみの対象として見る子もいるが、それはどちらかと言えばマイノリティで健全な親子関係とは言い難い。

 意地の張り合い程度であれば、それは健全な親子関係だ。決して致命的な決裂や破滅に至らない辺りが凄くいい。何時かは笑い話になるだろう。

 

 

「取り敢えず、申請しようか。オグリみたいな娘は多いからな。どっちの申請もパソコンで簡単に出来るぞ」

「そうなのか。では、頼む」

「いや、オグリがやるんだよ。やり方教えてやるからこっち来な。パソコンの使い方も覚えとけ。色々と便利だから」

「そ、そうか……パソコン……パソコン、か。むぅ……」

 

 

 トレセン学園内でもペーパーレスは進んでいる。

 大事に分類されるような事柄でもない限り、各種申請は学園のサーバー上に設けられたWebサイト上からも可能になっている。

 いわゆるイントラネットという奴で外部からアクセスできず、また利用者認証で閲覧を制限されてセキュリティも万全である。

 

 仕事机の上からノートパソコンを持ってきて、ちょいちょいと手招きするとオグリは渋い表情ながらもオレの隣に移動してきた。

 裕福な家庭で育ったとは言い難いオグリにとって、パソコンも携帯も完全に未知の技術(オーバーテクノロジー)であろうが、現代社会で使えないのはヤバいって。

 

 急なトレーニング内容の変更なんかも、携帯を持っていなければ伝えるのに一苦労。

 こっちの都合もあるのでこうやって慣れさせ、何とかスマホを持って貰おうという腹積もりもあった。

 

 

「そうそう、そこをクリックして」

「クラッカー……? 何処に? 食べるのか……?」

「お腹空いてんの???」

 

 

 本当にパソコンなんて触れたこともなかったのだろう。

 悪戦苦闘するオグリへの説明に、オレも四苦八苦しながらも申請を進めていく。

 必要情報の入力するのに、両手の人差し指でキーボードを叩くオグリの姿は随分と微笑ましい。

 

 苦笑交じりにそれを横目に眺めながら、オグリの想いは届けども金は受け取られないだろうと確信していた。

 

 なぜ確信できるのかと言えば、オグリのお袋さんと顔を合わせたことはないが、電話越しに話しているからだ。

 というかオグリだけではなく、チームメンバーの親御さんには全員挨拶済みである。

 

 本来、そんな真似をするトレーナーは稀。

 根本的にトレーナーは保護者ではなく、ビジネスパートーナーや同僚に近い関係性。

 家庭の事情に首を突っ込んでゴタゴタに巻き込まれるのはゴメン、というのは何らおかしい考え方ではない。

 

 ただ、個人的にはやっておきたかった。

 大事な娘さんを預かる以上、最低限こちらからが何者かを明かしておかなければ納得できなかった。

 

 何よりも、オレの現状は外からでは把握できない。

 例え、相手の不安を煽る結果になろうとも明かしておくのが筋。

 その結果、担当を変更するように要求されたとしても、娘の将来を憂う親の反応として至極当然で、反論せずに受け入れるつもりであった。

 

 全ては杞憂に過ぎなかったが。

 そんな状態で娘の担当をするなと憤慨されるどころか、逆にオレ自身の心配をされてしまうほどで。

 そりゃこんな優しい親の下で育てられたのだから、彼女達の優しさも思い遣りも大きく育つわけである。

 親御さんの反応はそれ以外にも様々であったが、最終的には娘の判断を信じ、オレに任せるという結論に集約した。

 

 そして、会話の中から家庭環境や経済状況はおおよそではあるが把握できた。そして、その人柄も。

 

 ……マックイーンの御両親との会話から察するに、メジロ家はオレの現状を把握しているらしく、自分の知らないところで調べられている恐怖も味わった。 

 いや、メジロ家はこの業界とも関わりが深い。恐らく、理事長が先んじて情報を回したのだろう。きっと、多分、恐らく、メイビー。

 

 

「……ふぅ、全て入力したぞ、トレーナー」

「ほいさ。んじゃ、送信、と」

 

 

 最後に入力情報に不備がないかを確認し、送信ボタンを押す。

 これで明日にでも総務経理が動いてくれる。近い内にオレへと連絡が入る筈だ。

 

 オグリの要望通り、問題なく指定した金額が仕送られる。

 だが、それをどのように使うかは、オグリのお袋さん次第。

 

 人柄から考えるに、きっとオグリへの仕送りとして生活用品でも買って寄越すに違いない。

 金をそのまま返されてはオグリも気落ちするだろうが、形を変えて送られたのなら気付きすら与えられない。

 

 やや強引な手法ではあるが、これは卑怯なのではなく人生経験で一枚上手であるだけ。

 

 お袋さんは生活を切り詰める必要もないまま、難しかった娘への仕送りを気兼ねなく行い。

 オグリは確かにお袋さんの生活の助けになれている。

 

 正にwin-winだ。

 そうなるように、願っておこう。

 

 

 

 

 

―――――

――――

―――

――

 

 

 

 

 

「お母さんが色々と送ってきてくれた。笠松のお菓子もある。皆で食べよう」

「まあ、こんなお菓子もあるのですわね。これは鮎の形の御饅頭、かしら……?」

「こっちは栗羊羹とカステラの、サンドイッチ、かな……?」

 

 

 後日、考えていた通りにオグリのお袋さんからは仕送りがあった。

 生活用品と思っていたのだが、仕送りの九割が食料品だったのは笑ったが。

 

 笠松の銘菓を片手にミーティングルームを訪れたオグリの様子から察するに、自分の仕送りが使われているとは思っていないようだった。

 

 

「じゃあ、私はお茶を入れますね」

「――――くっ」

「どうかしたのか、トレーナー君?」

「いや、何でもない。ちょうどいいや、オレも休憩するから一個ちょーだい」

 

 

 まあ、オレも特に何か言葉にするのは止めておく。

 あくまでオレの予想は予想であって、現実でも事実でもない。

 仮に当たっていたとしても、当人には言わぬが花というものだ。

 

 

 

 

 


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