何とか更新できた。
先週は予防接種のあれなそれで死にかけてたから無理でした。
そして、アオハル杯始まりましたねぇ。
まだ慣れずに全然ステが伸びねぇ。サポカよりも因子が悪いっぽいなぁ。
スピ9はあるけど、スタミナとパワーが揃ってないので何んともかんとも。
そして理事長代理が想像してたキャラとは違うか弱い生き物で笑う。
これは何処かで登場させてキャラ崩壊させなくちゃ(使命感
……そろそろ、タグにキャラ崩壊いれるかぁ。
「こうして青いバラは道行く人々を幸せにしていったとさ、めでたしめでたし。うーん、かわいくて素敵なお話」
「そ、そうだよね……! ライスも大好きなお話なの!」
本番を間近に控えたルドルフがどうしても外せない生徒会の仕事ということでチームでの練習はお休みに。
先のレースでの快勝もあってやる気漲るスズカとオグリは自主練に向かい、マックイーンは勉強をしたいそうなので不在。
手持無沙汰になったオレは、かねてから聞いていたライスの大好きな絵本をお借りして、二人で読書会と洒落込んでいた。
絵本のタイトルは「幸せの青いバラ」。
いわゆる挿絵付きの童話だが、子供向けと侮るなかれ。
情操教育を目的として書かれただけあって、大人が読んでも楽しめたり、身に着けるべき教訓なんかも直接的で分かり易い。
話の内容は暗い要素はありつつも、最後はハッピーエンドで締めくくられている。
周囲にその色から気味悪がられていた青いバラが、ある出会いによって大輪の花を咲かす大団円。
著書とは筆者の魂の切り売りだ。
それは絵本だろうと童話だろうと変わりなく、伝えたい思いというものが必ず存在する。
この絵本から伝わってくるのは、人に頼れる時は頼りなさい、諦めずに続けることに意義がある、幸福というものは人との出会いによって生まれる、と言ったところか。
オレが口にした心からの感想に、ライスは目を輝かせて笑みを浮かべていた。
それがなんであれ、自身の好むものを人が褒めれば嬉しいものだ。気持ちは良く分かる。
「小さい頃にこの絵本を読んでね、ライスもこの青いバラみたいになりたいなぁ、って思ったんだ。なれる、かなぁ……」
「もうなってるさ」
「ふぇ……?」
少しだけ不安を瞳に揺らしながらライスはそんなことを口にして、オレは間髪入れずに答えていた。
何せライスは既にオレを救ってくれているのだから。
出会ったあの時、彼女が勇気をもってかけてくれた言葉はまだ胸の内で燃え続けている。
倒れそうな身体を支えてもらい、肩を貸してもらえるような人との出会いが一生の内に何度あることか。
心の救済は、即物的な幸福よりも遥かに価値があるように思う。
だから、ライスはオレにとっては疾うの昔に青いバラそのものだ。
「じゃ、じゃあ、トレーナーさんは「お兄さま」だね……!」
「えぇ~、そんなぁ? そんなにぃ?」
「うん……!」
冗談めかした言い方を、力いっぱいの肯定で返されて僅かばかりに面を喰らう。
「お兄さま」は話の中の登場人物。
青いバラが大輪の花を咲かすキッカケとなった人物で、
そんな人物と同列に扱われるとは、正直思ってもみなかった。
確かに、最近はライスも明るくなってきた。
出会ったばかりの頃とは異なり、何の因果関係もないままに周囲の不幸を自分のせいだと責めることはもう殆どない。
トレーニングを通じて肉体面のみならず精神面でも成長しているのもあるが、それ以上に周囲の影響も大きい。
自信は周囲に伝染していく。
その点、己の夢を実現するために邁進するルドルフやメジロの名に相応しく在ろうとするマックイーンが良い影響を与えている。
彼女達についていけている事実が自らの実力に対する確かな自信に繋がったようだ。
それでいて気弱さは据置なので、皆そりゃもう可愛がる。
最も年若いマックイーンを差し置いて、チームの末っ子扱いだ。
一人っ子だったライスはそうした扱いを嫌がるどころか嬉しいらしく、素直に受け入れていた。
いい傾向だ。
周りのチームから見れば緩み切ったチームなのだろうが、これでも締めるところは締めている。
家族や姉妹のような和やかさはあるが、併走やラップタイム訓練で対抗心を煽り、悩みやいがみ合いが生まれないようにそれぞれとのコミュニケーションを怠らずにおく。
今のところ問題なく回っているチームに内心ホッとしていると、ミーティングルームのドアが控え目にノックされた。
「トレーナーさん、いらっしゃいますか……?」
「いるよー。入って入って」
「失礼します」
「あ、イクノさん……こんにちは」
「おや、ライスさんも。こんにちは」
入ってきたのはマックイーンと南坂ちゃんとこのイクノディクタスだった。
別段、珍しい組み合わせではない。
マックイーンの付き合いは基本メジロ関係者で固まっているのだが、彼女は寮の同室というだけあって一緒にいる場面を何度となく見た。
幼い頃は病気で伏せがちだったと聞いているし、もしかしたらマックイーンにとってはメジロとは関係ないところにいる初めての友人で、特別なのかもしれない。
「トレーナーさん、実は……」
「いいよ(0.2秒)」
「あの、まだ何も言ってないのですけど……」
「話が早くて助かります。ではお言葉に甘えて」
申し訳なさそうに何事かを言おうとしたマックイーンに先んじて、了承の返事をしてしまう。
すると、イクノディクタスは眼鏡をキランと輝かせながら素早くソファに腰を下ろした。
しっかりしていると言うか、ちゃっかりしていると言うか。こんな子を担当出来て、南坂ちゃんも頼もしい限りだろう。
何を言うつもりだったのかは持ち物を見れば聞くまでもなく分かる。
彼女達の手には教科書、ノート、筆箱とお勉強セットが揃っていたから。
以前にマックイーンが質問に来て以来、こうした機会が増えた。
元々勉強嫌いではなかったようだが、かと言って好きというタイプでもない。
好悪以前に学生やメジロの者として恥じぬ成績を、と義務感や使命感で向き合っていたのだろう。
だが、どうやらオレの教え方が合っていたらしく、勉強の楽しさというものを自覚してきたようだ。
頻度は週に二度三度とかなり多いが、此方の様子を伺いながら気になっているので負担は殆どない。
それからオレに思い出すという行為を繰り返させることで、失われた記憶を取り戻させようとしてくれているのかも……。
何にせよ、オレとしても楽しい時間なので、拒む理由はなかった。
「ついでだ、ライスも勉強道具持ってきな。一緒にやろうぜ」
「え……あ、うん、取ってくるね、お兄さま……!」
必要はないとは思うが仲間外れにするのも忍びないので、ライスの勉強も見ることにした。
するとライスは驚きを見せたが、すぐに満面の笑みを浮かべるとミーティングルームを後にする。
基本、オレの担当は成績優秀者が揃っている。
唯一見劣りするのはテストの点数が平均点付近のオグリであるが、あれは勉強が苦手とか頭が悪いのではなく、のんびりとした性格なので問題を解き終わる前にタイムアップしてしまうだけ。
実際、内申点は良い方だ。それとは別に担任から悪意がないとは言え腹の虫を鳴らして授業妨害するのを何とかしてくれませんか、と相談されたが。
それは兎も角、直向きな努力家であるライスはテストの点数も内申点も問題ない。
毎日コツコツやるタイプで、勉強に対して苦手意識を持っていないようだが、分からない部分がないわけでもないだろう。
それに複数人での勉強は集中や効率の観点で言えばそこそこでしかないが、他の存在がそのままやる気に繋がる場合もあるので全くの無意味でもない。
ライスは割と引っ込み思案なところがあるから、こういった経験を積んでおくのも悪くなかろう。
「「……お兄さま?」」
出て行く直前、ライスの漏らした言葉にマックイーンとイクノディクタスは顔を見合わせた。
二人にしてみれば、何のことやら。脈絡の無さすぎて怪訝な表情をする他ない。
オレも思わず苦笑せざるを得ない。
ライスにとってそれだけの人物になっている事実は光栄でさえあったが、今のオレには過ぎた評価でしかなかったのだから。
―――――
――――
―――
――
―
「成程、この文法ですか」
「そそ、英語の文法って基本が決まってるから、それを中心に組み立ててけば案外簡単。あとは単語をボチボチ覚えていけば何とかなるよ」
「ふむ、そう考えれば英語よりも日本語の方が難しいという評価も頷けますね」
「表現の仕方が豊富で詩的なところもあるからねー」
勉強会が始まってから暫くして。
イクノディクタスが分からなかったところがあったのは英語だった。苦手というよりも、行き詰ったという印象。
そして真面目で頭も良いが、それほどお固くはない。
思考の柔軟さに乏しさは感じるものの、対人関係や生き方に関する固さはマックイーンの方がよっぽどだ。
会話をしていてもノリがいいし、真面目な表情のまま茶目っ気を魅せたりと、顔立ちの良さだけでなく愛嬌もある。
彼女が相部屋だったのはマックイーンにとっても、そして担当になったのは南坂ちゃんにとって幸運であったと素直に思う。
「でもこういうの、南坂ちゃんには聞かないの? あいつだって勉強できないわけじゃないでしょ」
「南坂ちゃんさんにも聞きますよ。ただ、今は色々とお忙しいので……あ、いえ、トレーナーさんが暇そうにしているという訳ではなく……」
「あー……アイツ、レースやトレーニングばっかじゃなくて、音楽やダンスの関係で外部の人と打ち合わせとかしてるみたいだしなぁ」
「この前も、私達の専用曲を用意して下さいまして」
「えぇ……何それ、すご……こわ……」
レース後のウイニングライブで使用される曲は種類がいくつかあるものの、年に何度か更新される汎用曲が基本。
ただ例外的に、個人のために作詞・作曲された専用曲というものもある。
そういった曲はG1で特定回数を勝利したり、ファン数が一定を超えたウマ娘のみが与えられる。
それを出走前の担当のために人数分用意するとか、恐るべし南坂ちゃんのコネと交渉術……!
何が凄いって、南坂ちゃんなら担当した娘には期待値に関わらず同じ行動をするだろうということ。
そりゃレースよりもライブの方が好きなのは知っていたが、此処までするとか完全に気が狂ってる。どんだけ頑張ったんだよ、アイツ。
オレが思わずドン引きしていると、イクノディクタスも困ったように微笑んでいた。
それだけで彼女と南坂ちゃんの間にどれだけの信頼が育まれてきたのか分かろうというものだ。
聞いた話では、イクノディクタスはトレセン学園に来て直ぐに屈腱炎を発症しているようなので、南坂ちゃんが八方手を尽くしたのかもしれない。
そして、他のカノープスの面々も似たような思いを抱いているであろうのは察するに余りある。
色々と拗らせて、自分の事で手一杯だった南坂ちゃんが、ねぇ。
オレとしても、他者から信頼を勝ち取れるようになった後輩に、感動に近い思いを抱かずにはいられなかった。
「ところで話は変わりますが、少しお聞きしたいことが……」
「うん? なになに? 何でも聞いて?」
南坂ちゃんとのあれこれは、其処で一旦終わり。
イクノディクタスには大切だからこそ明確に語らず、胸の内にしまっておきたいのだろう。
何とも可愛らしくもいじらしい思いを踏み躙るわけにもいかず、同時に何を聞きたいのか気になったので乗っておく。
彼女が視線を向けたのは、少し離れたマックイーンの背中。
はて、一体何を聞きたいのか、と考えていると、イクノディクタスはキラリと眼鏡を輝かせて鹿爪らしく頷いた。
「マックイーンさんですが、野球好きですよね……?」
「気付いてしまったか……」
イクノディクタスは仲睦まじくティーカップに紅茶を注ぎ、お茶請けのクッキーを用意しているライスとマックイーンには届かない声音でそう告げた。
実のところ、オレもハッキリとは分かっていないし、直接聞いてもいないのだが、同じ疑惑を抱いている。
それらしい素振りは何度となく見てきたのだ。恐らく、彼女も同様だろう。
ミーティングルームに置いてあったスポーツ新聞で野球の欄に目を通していたり。
食堂で昼食に洒落込んだ時も、テレビのニュースで野球の試合結果が流れた時だけ箸を止めたり。
チラリとしか見えなかったが、スマホのロック画面の壁紙が野球選手っぽい誰かになっていたり。
別段、野球好きであることに問題があるわけでもあるまいに。
スポーツ選手が別競技の誰かのファンなんてよくある話。
其処に何某かの
ただ、オレと彼女が気になっていたのは、それを隠そうとしているところだ。
野球の話を何となしに振ってみても、一瞬だけ目を輝かせるのだが次の瞬間にはおろおろと狼狽してはぐらかす。
好きなら好きで公言すればいいものを、何に対して気を遣っているのやら。
そういった精神状態は、オレはトレーナーとして、イクノディクタスは友人として望ましくないと思っている。
今までは隠したがっているようなので触れずにおいたが、冷静に考えてみれば何を隠す必要があるのか。
「――――という建前ですが。ぶっちゃけマックイーンさんがどんな風に応援するのか、私、気になります」
「オレも気になる。別に恥ずかしがるような趣味じゃないし、隠している方が逆に精神衛生上よろしくない。よし、ちょっと手伝ってくれる? ごにょごにょ」
「ふむふむ、成程。お任せ下さい」
何も知らずに鼻歌交じりにお茶を用意しているマックイーンを尻目に、オレはそそくさと用意を進めていく。
もう完全に悪戯小僧の気分で、イクノディクタスの眼鏡はさっきから煌めきっぱなしだ。それにしてもこのウマ娘、ノリノリである。
それから暫く経って――――
「どうぞ。今日は茶葉も私のお気に入りですわ」
「ほう、紅茶は詳しくありませんが、良い香りですね」
「会長さんが持ってきてくれたクッキーもあるから、どうぞ」
「では、早速。頂きます」
「オレももーらいっとぉ」
ゆっくりと湯気が立ち上るカップが人数分配られ、全員がソファに座って休憩と言う名のお茶会が始まった。
マックイーンはソーサーとカップを手にして口元に運ぶ。優雅さを感じるほどに洗練された所作だ。
その隣でライスは両手でカップを挟むように持って、ふーふーと紅茶を冷ましている。
何かと対照的な二人だが、こうして並ぶと姉妹のようだ。
尤も、本来なら年下であるはずのマックイーンが姉、年上であるはずのライスが妹なのだが。
そんな二人を余所に、カップに手も付けもせず、オレとイクノディクタスは目を合わせて頷き、無言で立ち上がる。
「ピリリリリリリッ!!!」
「イ、イクノさん、どうしましたの急に?!」
「こ゛っこ゛ま゛でも゛って゛こ゛ーい゛ユ゛・タ゛・カ゛ー! こ゛っこ゛ま゛でも゛って゛こ゛ーい゛ユ゛・タ゛・カ゛ー!」
「ピーッピッピッピーピッピッピッ♪ ピーッピッピッピーピッピッピッ♪」
「ふぇ……?!」
「んぐ、こ、これは……」
「ばーっばばばばっ! はい、わっしょいわっしょい! ばーばばばばっ! わっしょいわっしょい! はい! ホームラン! はい! ホームラン! じょうがいじょうがいホームラン!」
「ピーッピリリリピッピッピ♪ ピーッピリリリピッピッピ♪」
「んぐひぇ、んふ、んふふふふ――――ハッ?!」
「……???????」
「これはもう決まりだな」
「ピーーーーーーーーーーーーっ♪」
渡してあったホイッスルを器用に吹き鳴らすイクノディクタスと阪神の私設応援団の真似をするオレ。
突然の出来事にライスは首を傾げるばかりであった。何が起こっているのか分からない、これが普通の人の反応。
マックイーンは笑いを堪えようとして堪えきれず、口元を押さえて俯いた。これは本物の球場で応援団を見た事のある人の反応だろう。
オレとイクノディクタスの思惑に気付いたのか、マックイーンはハッとした表情をするがもう遅い。
「と、と、と、突然なんなのですの?」
「ピーーーーーーーっ♪」
「いや、なんかマックイーンが野球好きみたいだから、ちょっと試してみただけ」
「あっ、ホームランって言ってたから、野球の応援なんだ……」
「わ、私が野球観戦なんて。そ、そ、そそそんなはしたない真似をするはずが……!」
「いや別に、はしたなくなんかないでしょ。応援なんてこんなもんだぞ。レースだって変わらんだろ?」
「ピッピッピーっピピ♪」
目をあちこちに彷徨わせながら、必死で誤魔化そうとするマックイーン。
そんなの恥ずかしがることもあるまいに。
何も知らないライスの反応とは雲泥の差だった。誤魔化そうとしても無理がある。
ライスは目を丸くして困惑するばかりで、今ようやく合点が行ったところ。
「うっ、うぅ~~~~~~~~~~」
「ほら、認めてごらん? マックちゃんは野球が好き、それを恥ずかしがらなくていい。君は立派なやきうのお嬢様だ」
「ぐむ、ぐむむむっ…………はあ、もう分かりましたわ! そう! そうです! 私は野球が大好きですわ! これで満足ですの?!」
「ピリリリリリリリリリリッ♪」
「イクノさん、もうそれは結構ですわ!」
「おっと、これは失礼しました」
顔は真っ赤で涙目になりながら、ようやく観念したのか半ばヤケクソ気味にマックイーンは自身の趣味を認めた。
その姿に、イクノディクタスは一仕事終えたとばかりに額の汗を拭って清々しい笑みを浮かべている。
この子、オレが言うのもあれだが、結構いい根性してるなぁ……。
「別にオレ等の前で我慢する必要ないって。人に迷惑かけてるわけじゃないんだしさぁ」
「そ、それはそうかもしれませんが……あんな大声で応援するような真似は、私のイメージには、それにメジロの者として……」
「気にする必要はありませんよ。その程度のことで私は見方も接し方も変えるつもりはありませんし、無理に隠そうと我慢している方が友人としてよほど気になります」
「イクノさん……」
「ライスだって別に変には思わないだろ?」
「うん! 野球はよく分からないけど、誰かを応援できるのは凄く素敵なことだと思うよ!」
「トレーナーさん、ライスさんまで……」
好きなものを好きと言えない環境は、それなりにストレスが溜まるものだ。
メジロの看板を背負っている以上、自身のイメージを優先したくなる気持ちは分かる。だからと言って我慢する必要は何処にもない。
オレ達の前でくらい、本来の自分を押し殺さなくてもいい。出来るだけ自然体で、出来るだけ気を楽にしていて欲しい。
イクノディクタスとライスは友人、ライバルとして。オレはトレーナーとして、そう望む。
何でも卒なく熟すマックイーンのこと、誰にも悟られることなくストレス発散くらいは出来るだろうが、そこはそれ。
壁を作って一歩引かれてしまうくらいなら、嫌われるのを覚悟の上で此方から壁に穴を開けて歩み寄るまで。信頼関係とはそうして培っていくものだ。
「うぅ……分かりました。そこまで仰って頂けるのであれば……ですが! 他の方々には絶対に広めないでくださいね!」
「分かった、約束する」
「仕方ありません。嫌がるのであれば、無理強いは出来ませんね」
「しーっ、だね。分かった、絶対に言わないよ……!」
「んもぅ……皆さんには敵いませんわ」
唇を尖らせながら告げたマックイーンは、彼女らしからぬ拗ねた表情を浮かべていたが、年相応の反応をしていた。
普段の彼女もまた偽らざるマックイーンそのものであったのだろうが、こうした面を見せてくれるのをより一層距離が近づいたようで嬉しいやら楽しいやら。
この貴重な一瞬を忘れてしまったとしても後から思い出せるように、こっそりと手帳に記しておく。
『マックイーンは野球好き。でもイジり過ぎないように』
こうしてオレ達の日常は変わらずに過ぎていく。
覚えていられない辛さと不甲斐なさはあるが、誰かの心に何かが残るのなら、実感が伴わずとも構わない。
自分だけが輪の外側にいるような疎外感は消えないが、なにそれで事実が消えるわけではない。恐れなど知らぬと前へ進んでいくだけだ。
どうか、この日常が長く続いていきますように。
彼女達の弾けるような笑い声を聞きながら、オレはそう願わずにはいられなかった。