トレーナーさんは眠らない(ガチ)   作:HK416

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つえー、水マブつえー。
雑に地固め、緑スキル三つ、中盤スキル、アンスキ積んで、賢さ盛っただけでばんばかヴァルゴ杯勝ってきてくれた。

そしてデジタン実装。
出来ればダート要因として引きたいんだけど、生活がー!

今回は日常回で。
え? 会長の春天? ミスターシービーも海外行っちゃってる設定なのでカットです(無慈悲



『愉快適悦』

 

 

 

 

 

「ルドルフは凄かったな。まさに圧倒的だ。あの距離では手も足も出そうにない」

「オグリはマイルがベスト、ギリ中長距離までは行けるけど、3200の長距離は流石に厳しいからなぁ」

 

 

 三日前、通年通り京都レース場で開かれたルドルフの春天。

 日本史上二人目の五冠。シンザンに並ぶ偉業は余りにも呆気なく簡単に達成された。

 

 レース展開はスタートをポンと出て終盤まで好位をキープ、直線で他を差し切って2着のサクラガイセンに2バ身半をつけてのゴール。

 映像を確認したが、教科書に載せてやりたくなるほどの見事な好位抜出だった。

 欧州では有り触れた戦法であるのだが、巷ではルドルフ戦法などと呼ばれているのだとか。

 

 波乱もなければ紛れもない。

 遊びもなければ面白味もない。

 ただ強い者が勝つと言う残酷な根本原理と圧倒的な実力差を見せつけるだけの結果。

 

 無論、オレも勝つ為に必要な調整を怠らなかった。

 

 3200を走り切るだけのペース配分の検討。

 当日に至るまで肉体と精神両面における調子の維持。

 デネブメンバーとそれぞれ走らせ、各脚質への対応力と勝負勘の育成。

 何より重要な基礎スペック向上。

 

 これで負けるはずもない。

 他の選手も決して弱くはなかったが、ルドルフが余りにも強過ぎた。

 オレでなくとも、彼女の絶対能力ならば余裕綽々で勝っていただろう。

 

 海外で武者修行を終えたミスターシービーが戻ってきていたのなら、まだ勝負は分からなかったが。

 しかし、既に終わった事柄に対して、IFの可能性を模索するのは余りにも無為で無益だ。

 

 

「……余り嬉しそうじゃないようだな?」

「あー……ルドルフが勝ってくれたのは嬉しいし、よかったと思うよ。だが、それ以上に懸念がなぁ……」

「懸念……?」

 

 

 府中の街中。

 学園から程近い位置にある街道に、オレとオグリはいた。

 街路樹の陰に設置されたベンチに並んで腰かけながら、彼女は此方の表情を覗き込んでくる。

 

 トレーナーは担当の勝利を一番に喜ぶ立場。

 担当が勝ちを重ねるほどに自身の評価もあがれば給料も増える。

 或いは、自身の利益とは全く別の所で、ただ担当の勝利を祝福するもの。

 

 にも拘らず、オレの表情は苦虫を潰したようだったのだろう。

 もう思い出せないが、レース直後も同じ顔をしていたはずだ。

 

 それがオグリにとっては不思議でならないのだ。

 責めてはいない。オレにはオレで考えがある、とは思っているのだろう。そして、それは的を射ている。

 

 今のオレに見えてきた、そして以前のオレも気付いていた皇帝の瑕は、勝利の喜びを掻き消すほどの懸念事項だった。

 

 

「ルドルフさぁ、本気じゃないんだよ……」

「むっ。いくらなんでも酷いぞ、トレーナー。ルドルフが本気でやっていないわけがないだろう」

「いや……言い方が悪かった。本気じゃないわけじゃなくて、()()()()()()()()()()()()()()()()

「……????」

 

 

 オレの言い分にオグリはあんまりだと言いたげに顔を顰め、訂正した言葉にまるでそれの何処に違いが、とばかりに首を傾げた。

 

 これが違うもんなのだ。

 似てはいるが、意味合いも生まれる結果も変わってくる。

 

 それもこれも、ルドルフの受けてきた教育と生まれ持った才気が問題だった。

 

 彼女の家は多角的事業形態のトップ、いわゆる財閥というやつ。それも、日本でも有数の。

 御両親の手腕は見事なもので、先代から引き継いだ立場に胡坐を搔くような真似はせず、事業を拡大するのみに留まらず、政治家とも繋がりを持ち、慈善活動にも精を出す大人物。

 直接会ったことがない以上、その為人(ひととなり)は推し量る他ないが、多くの成功を積み上げていることを考えれば、知能面でも人格面でも抜きん出ているのは疑う余地がない。

 

 そんな御両親が、娘であるルドルフに何を望んだのかは定かではないものの、家の名に恥じぬ教育を施してきたのは分かる。

 目上目下問わずに人心を掌握する話術。分野を問わない知識の数々。トレセン学園に入る以前から話題となる走行能力。

 どれも最高の環境で、最高の教師から教育されなければ身につかないものだ。

 

 そうした教育の中で、恐らく御両親はこう言っているはずだ。

 

 “本心はどうあれ、常に余裕と共にあれ”と。

 

 そのものでなくとも、似たような意味の言葉は必ず口にしている。

 見ても聞いてもいないのに何故そんなことが分かるのかと言えば、頂点に立つ者として必ず求められる心構えだからだ。

 

 頂点(トップ)が右往左往している姿を見れば、下にいる者、付いていく者は不安に駆られる。

 不安に駆られれば統制が乱れる。統制が乱れれば各々が最善を求めて自身の考えに沿った最善を動き、群れは瞬く間に烏合の衆へ。

 待ち構えているのは大損害、最悪は自他を巻き込んだ壮大な自滅。其処はどの分野であっても変わりはない。

 

 ルドルフの常日頃見せている外向けの態度を見れば分かる。

 まあ、それはいい。必要な教育であると認めるところ。教育自体に問題はない。

 

 問題があるとするのなら、ルドルフ自身の才気が他と隔絶していたことだ。

 これまでルドルフ自身の問題で、苦戦している様を見た事がない。恐らく、過去のオレも同様だろう。

 勉強は学園で常にトップ。レースにおいても苦しい表情を見せることさえしない。生徒会長としての仕事やその他諸々も同様。

 だから、当人の意識はどうあれ、本当の意味で本気を出したこともなければ、自身の本気がどういったものなのかをまるで理解できていない。

 

 常に本気である必要など何処にもない。

 勝てる相手には勝てる分だけの力量を発揮すればいいだけであるが、ただの一度も本気を出したことがないのでは話が変わる。

 手を抜いていいのは不測の事態に備えて、本気を自在に引き出せる者のみ。

 でなければ、流れを決める分水嶺、ぎりぎりの瀬戸際で必ず競り負け、相手の実力を見誤った時に立て直しがきかなくなる。

 

 これまで重ねてきたルドルフの勝利は、見ている者が考えるよりも薄氷の上に成り立っている。

 限りなく実力が近しい者と競り合った場合、逆に実力に開きがあった者が実力以上の性能を発揮した場合、驚くほどあっさりと負けるだろう。

 

 それでは世界と戦りあえない。

 それでは彼女の目指す“絶対”には程遠い。

 

 

「そういうものか……でも、トレーナーなら何とか出来るんじゃないか?」

「そう信じてくれるのは嬉しいけど、こればっかりはなぁ」

「……むぅ」

 

 

 全幅の信頼を向けてくるオグリに、ルドルフへの悩みすら後回しにしてしまうほど心配になる。

 確かに、信頼を得られるように努力はしていたのだが、短い付き合いでこれとは。

 純朴なのは結構だし、それがオグリの魅力なのだろうが、これでは誰かにころっと騙されそうで不安なことこの上ない。

 

 まあ、ルドルフの瑕に関しては、何もできないのが正直なところ。

 人か、状況か。いずれにせよ、これまで培ってきたものを一瞬で出し尽くすような経験が必要。でもなければ、ルドルフの本気を引き摺り出せない。

 

 残念だが、現状そんな人物はトレセン学園には存在しない。

 ワンチャンありそうなのはマルちゃんだが、トゥインクルシリーズを卒業してしまっていて状況が整わない。

 

 文字通りの八方塞がり。

 いっそ海外に挑戦すれば何らかの出会いもあるのだろうが、現状のまま向かいたくはなかった。

 その癖を矯正してからでなければ、何も得るもののない詰まらない敗北を繰り返しかねないからだ。

 

 とはいえ、泣き言ばかりも言っていられない。

 担当の夢を叶え、より高い位地へと押し上げるのがオレ達の仕事。可能性のありそうなものは、何でも試すべきだ。

 

 今のところ考えているのが、これまで通りに併走を増やすことだ。

 特にオグリとライスとの併走、それだけでなく模擬レースの数も増やす。

 オレの担当の中で、この二人は特に手を抜くことを知らず、常に一生懸命走っているからだ。

 

 特にライスは明確な目標があると必ずオレの予想を上回る結果を出してくる。

 単独でのタイムを測定した場合と模擬レースでのタイムを測定した場合では、後者の方が良い結果を出す。

 

 精神は肉体を凌駕する、と言うが、彼女の場合はそれがデフォルト。

 火事場のバカ力を自分の意思で引き出せるようなものだ。

 

 恐らく、ライスに対して覚えた不安はその辺りに起因しているのだろう。

 よく考え、よく見て導いてやらなければ、その末路は悲惨なものとなる。

 ルドルフとライスを足して二で割ればちょうどいいくらいなのだが、世の中巧くいかないものだ。

 

 ルドルフはライスから本気を出すとはどういうことなのか。

 ライスはルドルフから手を抜くことの意義と意味を学んで欲しい。

 

 尤も、そう簡単にはいくまいが。

 互いに自身の欠けている部分に気付いておらず、オレが口を出したところで話が拗れるだけ。

 二人とも真面目なので、真面目に取り込んで調子を崩すだろう。

 

 

「そういうわけだから、ルドルフにもライスにも言わないでくれ」

「そうか、トレーナーがそう言うなら仕方がないな…………あ、来たぞ」

「もっとゆっくりでも良かったのに。おーい、こっちこっち」

 

 

 もともと人との距離感が近いオグリだが、デネブの面々とは一層に近い。まるで、新たに出来た家族のように慕い、敬っている。

 同じチームの仲間として、何もしてやれないもどかしさを感じオグリは歯噛みしているようだった。 

 

 そうこうしていると、ようやく待ち人がやってきた。

 街道を此方に向かって歩いてくる人物は、今し方まで話題になっていた私服姿のルドルフだった。

 

 

「ふぅ……すまない、遅くなった」

「別に今日くらいはゆっくり休んでた方がよかったんじゃない?」

「そうだぞ、ルドルフ。レースが終わったばかりなのに。私のことなら心配せずとも大丈夫だ。トレーナーも居てくれるからな」

 

 

 オレ達の前に到着するなり息を吐いたルドルフの表情には疲れが滲んでいた。

 当然だろう。ウマ娘が一度のレースで消耗するエネルギーは計り知れない。

 

 最低でも一週間はトレーニングなど以ての外。

 本来であれば、出掛けるのも控えて休養に努めて貰いたいところであったが、オレとオグリが出掛けると聞いてどうしてもと付いてきたのだった。

 

 

「い、いや、うら若き男女が二人きりで出掛けるなど、何か手違いがあってはいけないからな」

「どういう意味だ???」

 

 

 信用ねー……。

 ルドルフの考えているような手違いなんて起こすつもりはないんだけどなぁ。

 

 オグリも頭の上にハテナマークを浮かべまくっているし、そんな雰囲気にすらならないだろう。

 そもそも、オレはオグリを恋愛対象にも性欲の対象にも見ていない。手を出しかねない、と思われていただけでかなりショックだ。

 と言うか、ルドルフと二人きりで出掛けてるんだけど、それはいいんですかねぇ……?

 

 

「お、オホン……それはそうと、今日はオグリキャップの携帯を買いに行くのだったな」

「正直、持ちたくはないのだが……京都レース場でやってしまったからな」

 

 

 オレの視線に気付くと、ルドルフは頬を染めながら咳払いを一つしてから話題を変える。一体、何を照れているのやら。 

 

 それは兎も角として、今日街へと繰り出したのはオグリの携帯を買うためだ。

 以前から携帯を持つように勧めていたのだが、オグリが嫌そうな顔をするので強引に持たせようとはしなかったのだが、そうもいかなくなった。

 

 理由は単純。

 このおのぼりさんと来たら、京都レース場で食べ物を買いに行ったまま迷子になってくれやがったのである。

 

 結果、オレは応援をスズカ達に任せて京都レース場を駆けずり回る羽目になり、ルドルフのレース振りを見ることは叶わなかった。

 まあ、それはいい。現状では生で見たところで覚えていられないし、親御さんから預かっているオグリの身の安全には換えられない。

 

 ただ、毎回毎回、よく知らない土地で迷子になられては身も心も持たない。

 かと言って犬じゃあるまいにリードを付けて連れ回すわけにも行かず、最低限連絡を取れてアプリで互いの場所が分かるように携帯を持ってくれと懇願した次第だ。

 かなり渋々であったがオグリも反省はしていたらしく、何とか納得してくれた。

 

 その最中にルドルフも割って入ってきて、一緒にという流れになった訳だ。

 オレとしては応援してやれなかった、オグリはそんな状況を作り出してしまった負い目もあって、断る理由もなかったためこうなった。

 

 

「さて。では、このまま携帯ショップに?」

「ああ、そのつもり……その後は、飯でも食いに行く?」

「行こう」

「「お、おう……」」

 

 

 オレの提案に、オグリは0.2秒ともはや喰い気味に乗ってくる。

 その食欲旺盛振りに何度となく見てきたはずのオレもルドルフも、どもってしまうほどだった。

 

 

「よし、では行こう――!」

「あ、待つんだオグリキャップ。そちらではないぞ」

「そ、そうなのか。済まない、道案内を頼めるだろうか」

「あいよ」

 

 

 意気揚々と一歩を踏み出したオグリであったが、残念ながら一歩目から目的地とは逆方向だった。

 ルドルフの指摘にオグリは足を止めると、照れたように頬を掻く。

 その姿は微笑ましいの一言で、オレもルドルフも微笑みを漏らす他ない。

 

 オグリに求められるまま、三人一列になって携帯ショップへの道を進んでいく。

 

 

「悪かったな。春天、応援できなくて」

「そう何度も謝らなくていい。気遣ってくれるのは嬉しいが、オグリキャップを放置していれば私は君をどう思っていたか。君らしくていいじゃないか」

「そうか、ならいいけど。また私のトレーナーとしての自覚が足りないと言われるかと思ってさ」

「それについては、今日の方が問題だな。全く、二人きりで出掛けるなど……」

「えぇ……だってルドルフとも行ったじゃん。ならいいじゃん」

「全く……鈍感め」

 

 

 一体、何が不満だと言うのか。

 応援できなかったことよりも、今日のお出掛けの方が問題だったらしい。

 うーん、相変わらずルドルフの情緒から何から分からん。別に携帯を買いに行くくらい、問題などないだろうに。

 

 しかし、オレの困惑を余所に、ルドルフは歩きながらも尻尾を使ってペシペシと尻を叩いてくる。

 然程怒ってはいないが、不満たらたらなのは明らかだった。

 

 久し振りに新たな皇帝戦隊の追加戦士が現れた。

 プンスコルドルフである。以前のギャン切レルドルフに比べれば全然マシだが、何とか学園に戻るまでに機嫌を直して貰わねば……!

 

 

「ルドルフはどっか行きたいとこないの?」

「ん? 何だ、御機嫌取りでもしてくれるのかな?」

「んー、まーそんな感じ」

「そうかそうか、そんなにも私を……ふふっ、悪くない気分だ。流石は私のトレーナー君だ……ふむ。とは言え、すぐには思いつかないな」

 

 

 オレの提案は予想外だったのか、ルドルフは一瞬だけ目を丸くすると、次の瞬間には口元を緩めて顔を覗き込んでくる。

 

 否定も肯定もしない曖昧な答えに、ルドルフはより一層笑みを深めた。

 そして、今度は尻ではなくオレの手首辺りに尻尾を巻き付ける。御機嫌取りが功を奏したと見てもいいだろう。

 ウマ娘にとって尻尾は耳と同様に感情がよく表れる部分だ。しかし、これをどう解釈すべきか。単純な喜びだけでなく、執着も含まれているような気もするが。

 

 ルドルフ当人は尻尾の動きに気付いていないらしく、行きたい場所を考えるように顎に手を当て、天を仰いでいた。

 なに、まだまだ時間はある。急かす必要はないだろう。

 

 

「……………………じゅる」

「こらこらオグリ、前を見て歩きなさいよ」

「あうぅ、済まない。あのたこ焼き屋が美味しそうだったから……」

「ふ、ははっ、相変わらずの強食自愛ぶりだ。素晴らしい限りだよ」

 

 

 街道にあったたこ焼き屋に目を取られ、そして匂いに釣られてどんどん歩幅が狭くなっていくオグリ。

 その頭を掴み、無理やり前を向かせて歩かせる。こんなことだから迷子になるんだよなぁ。

 

 そんな様子に、ルドルフは堪えきれずに笑い出す。

 強食自愛の意味は確か、しっかり食事をとって健康に気を遣うこと、だったか。

 うーん、どう考えてもオグリは暴飲暴食だと思うんだが、水を差すこともないので黙っておくことにする。

 

 さて、今日はどんな一日になることやら。

 不安と悩みは尽きないが、色々と面白可笑しい日常を予感させるには十分な滑り出しだった。

 

 

 

 

 

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