ところで、マルゼンスキーお姉さん強い、強くない???
何か、育成ミスってステータス貧弱なのに、芝と短距離適性Sにしただけで今回のレジェンドレース勝ってくるんだけど、このゲキマブチャンネー。
流石、センスが古くて因子相性が悪いこと以外は完璧と言われるだけの事はあるぜ! この作品でも一番の良い女のつもりで書いてます。
今回は、短めで。
今日どうしても投稿したかったんだ。
スズカ、マックイーン、ライスシャワーの走りを見た翌日。
オレはトレーナー専用の寮にも帰らず、ミーティングルームに居続けた。
スズカの全力の走りを見た瞬間に頭を過ったのは、その馬鹿げた速度と持続の危険性。
学園に入ってから一年近くが経過し、トレーニングを積んでいるのであろうが、それにした所で速すぎた。
まだデビュー前だと言うのに、トゥインクルシリーズ参戦初年度のジュニア級の中には彼女ほどの最高速を叩き出せるものはいないだろう。
その上、まだまだ伸びしろを感じさせるのだから恐ろしい。
最終的に辿り着くであろう実力が、ではない。最終的に辿る末路が、だ。
そもそもウマ娘の脚はガラスの脚と形容されるほどに脆い。
勿論、ただの人間などよりは遥かに頑丈だが、脚を構成する部位から捻り出される力と、接地によって生まれる衝撃に耐えられない。
結果として関節や腱の炎症、筋肉の断裂、そして骨折へと至ってしまう。
はっきり言えば、生き物として歪ですらある。より長く生き、より多くを生み出し、次に繋げるのが生命の本質。
ウマ娘は本来在るべきバランスを度外視して速度を得たとでも言えばいいのか。その様はまるで何者かが“そう在るべし”と定めたか、作り出したかのような気味悪い意図すら感じる。
故障の大半は自滅にも等しく、無事之名バ、安泰是名トレーナーなんて造られた格言もあるほどだ。
そんなわけで、オレはミーティングルームに戻ってからひたすら計算をし続けていた。
ヒントになったのはルドルフの資料に添付されていた一枚の写真。
どうやらかつてのオレは、ルドルフのフォームの改善案を出すに当たり、必要な計算を壁を黒板代わりにしてやっていたらしい。
まあ、効率がいいと言えなくもない。
紙やノートに書き記せば一枚一ページを捲らねばならず、後から遡りたくなった時に手間。
ホワイトボードに描けば、書いて撮って消しての繰り返し。
壁なら広いしいくらでも余白はある。最後に写真を何枚か撮って終わり。壁の塗り直しは時間が空いた時にでもやればいいし。
「失礼するよ、トレーナー君…………おや」
「所詮、ざっくりとした数字をぶち込んだだけだが、これだけ出揃えば十分かな」
「タイミングが悪かったな。こうなっては梃子でも動かない…………仕方ない、椅子を借りて待たせて貰おうか」
スズカの身長、体重、脚の各部位の長さ、筋肉の量と付き方、速度、関節の可動域、ストライドの広さ、その他諸々。
オレの目算、そして録画した映像から出した数字を式にぶち込む。所詮は概算に過ぎないが、それでもある程度指針となる数字は重要だ。
元々、オレはこっちの方を武器にするつもりだったから、こういう計算は得意ですらある。
シンザンから貰った、と勝手に思っている観察力と集中力。
其処からなる対象の状態を察する洞察力にせよ、レースの展開予測にせよ、まるでVRのようにその場に居ない対象がレースに参加しているように見えることにせよ。
オレは自身にとって途方もない武器とは認識しているが、同時に信用ならないとも考えている。
何せ、その原理がオレ自身ですら分からない。頼り切るのは危険すぎる。
無理に理屈をつけるのなら、記憶の中から符号、相似のある映像を無意識の内に引っ張り出して、得ている情報と無意識の内に照合しているといった感じか。
いずれにせよ、原理を確かめる術はなく、オレ以外にそんな人間が存在していない以上、これまでがそうだったと言って、これからもそうだとは限らない。
それでオレ一人が痛い目を見るならまだしも、こちとらトレーナー。
オレのミスで痛い目を見るのは何時だって担当する娘。
その時点で、仮に生まれた時点から持っていたとしても決して信用もしないし頼りもしない。
あくまでも使い勝手のいい道具、という認識に留めておかないと全てが破綻しかねない。
「…………この場所、君の匂いはやはり落ち着くな。生徒会室よりもしっくりくる」
「しっかし、ルドルフが来てくれてよかったぁ」
「…………ッ!」
「オレの手が入っているなら、ルドルフはオレの歩んできた道にある轍そのもの。これ以上の参考資料はない」
「むっ……何だ、そういうことか……はぁ、君と居ると肩透かしとぬか喜びばかりだ。マルゼンスキーも言っていたが、酷い男だよ、全く」
その点、シンボリルドルフという現世代最強にして、オレが育てたと思しき彼女が来てくれたのは心強い。
いや、来てくれたというのは正しくないか、傍に居てくれると言った方が正しいだろう。
スズカ、マックイーン、ライスが帰った後に、彼女の走りを見た。
凄まじい、その一言しか浮かんで来なかった。
彼女の走りは何処を切り取っても高い能力で纏まっている。
ウマ娘に与えられる戦法、脚質は大きく四つ。
最初から最後まで先頭に立ち続ける逃げ。スズカがこれに該当する。
逃げウマ娘の後を追う形で、バ群の前方の位置をキープする先行。マックイーンやライスは此処。
序盤はバ群の後方辺りに位置し、中盤終盤で徐々に速度と位置を上げて最後の瞬発力で抜き去る差し。
差しよりも更に後方、最後尾辺りから一気に先頭まで躍り出る追い込み。
得意とするものはそれぞれ違い、得意に合わせてトレーナーが伸ばすか、問題がある場合は別の走り方を提示して矯正、或いは強制する。
よって、精々が出来るのは一つか二つくらいのものだが、多分彼女はやろうと思えば全部できる。
それほどまでに何処を切り取っても高い地力で纏まっている。
速度、持久力、瞬発力、反射神経、判断力、知力、精神力などなど。
特化した走りを見せる者にはそれぞれ及ばない部分もあるが、総合では大きく突き放す。そんなイメージだ。
テンからの大逃げだろうが、最後尾からの追い込みだろうが思いのまま。
得意は芝の中長距離と言ったところだが、適性が多過ぎる。やろうと思えば短距離だろうがダートだろうがいけるんじゃないかアレ?
余りの万能振りにちょっと引いた。彼女の天性を良い事に、そんな風に伸ばした過去のオレにドン引きした。
ただ、嬉しかったのは彼女がこれまでレース、訓練中に一切の怪我をしてこなかった事実。
フォームの改善によって各部にかかる負担を僅かずつに減らしながら、速度を維持することにさえ成功すれば、資料を参考にすれば怪我無くスムーズに行ける。
図らずも、最大の難関が最初に立ちはだかっている状態であるが、分かっているのなら精神的には楽だ。
「しかし、こりゃ暫くスズカ達に付きっ切りになりそうだ」
「私はそれでも構わないが…………しかし、こうなると傍目から見れば会話が成立しているのに、全くしていないのは相変わらずか……む? ……ふむふむふむ」
「ルドルフには改めて謝っとかないとな、あと礼も」
「……謝罪も礼も不要だよ。君は私のトレーナーで、私は君の愛バだ…………そ、それに私は君がす、す、す――――」
「ルドルフのトレーニングは話を聞きつつ一緒に考えて、ある程度は自分でやって貰うしかない、か」
「ふ、ふふふ、いかん。いかんな。性急すぎる上にマルゼンスキーにも申し訳が立たない。正々堂々としなければ。決して怖気づいたわけではない。うむ、決して」
今日は全員揃ったら、その辺りから相談していこう。
オレ個人の死力も重要であるが、それよりも遥かに効果も大きく、効率が良いのは集団の微力なのだから。
まず差し当たってはスズカ達の今後。
詳細は詰めなくてもいいから大まかな年間スケジュールを立てよう。
マックイーンとライスは入学したばかり。今年一年はフォーム改善と基礎能力の向上に費やす。二人も不満はあるかもしれないが異論はないだろう。
「失礼します…………あっ」
「ルドルフ会長…………まあ、私達を担当してくださるなら、当然ですね」
「あ、あわわ……こ、こんにちは」
「やあ、話は彼と理事長から伺っている。チーム……には人数が一人足りないが、
「――――む」
(い、いきなりマウント取ってきますわね、この方)
「よ、よろしくお願いしますっ」
問題はスズカだな。
一見物静かでストイックに見えるが、その実、闘争心が凄まじい。
本音を言えば、トゥインクルシリーズへの出走を見送って、一年はみっちりフォームの改善に費やしたいのだが、納得しないだろう。
そんでもって闘争心は在る癖に、精神的に脆い部分がある。参加を先延ばしにするとどんどんメンタルが崩れかねない。
シリーズ参加者を二人抱えることになった挙句、参加するレースを選びつつスズカのフォーム改善を行っていく必要がある。
まあ、いけるか。資料を参考にすれば記憶はなくとも、三冠バを生み出した過程は何より貴重な情報だ。そして何より、一人ではないというのは心強い限り。
「ま、負けませんからっ」
「いきなりの宣戦布告か。頼もしいよ、サイレンススズカ。私も先達として――……ん? いや、意味合いが違うのか」
「それは、どういう……」
「……いや、気にしないでくれ、メジロマックイーン。ふふ、少しだけマルゼンスキーの気持ちが分かった気がする。成程成程、なかなか面白い」
「……?」
「そうだな、此処は敢えて――――私も負けるつもりはない。その覚悟はしておいて欲しい」
「……っ」
よーし、ざっくり概算は終了。
当面はストライドを広げて、ピッチを下げる方向で行こう。
本来、歩幅を少なく歩数を増やす走法は筋肉と関節への負担を下げるものだが、ウマ娘に限っては別だ。
骨の強度が強い故、おかしな接地をしない限りは瞬間的な負荷には極端に強く、速度の関係で一度に生み出される衝撃も極端に強い。
いっそのこと歩数を減らしていった方が最終的な負荷は軽くなる。
「それは兎も角、トレーナーさんは、何を……と言うよりも、我々に気付いてらっしゃいませんの?」
「壁に直接……」
「す、凄い量……頭、ぐるぐるしてきそう……」
「ああなると誰にも止められなくてね。自分から此方の世界に帰ってくるのを待つしかない。無理に止めるなら殴るくらいしないと駄目だろう」
その後は、あの凄まじい最高速維持能力を更に高める方向で鍛え、同時に先頭を維持するための運動能力とは別の技能を学ばせる。
現時点ではルドルフの方が圧倒的に上だが、一年後、二年後には分からない。
速度に関する天性においては、明らかにスズカの方が上。他の要素はルドルフが上。
どちらかにだけ肩入れするつもりはないが、どちらも面白いことになりそうだ。
既にオレは現状を楽しみ始めていた。
オレは自分が成長する実感を得るよりも、他人が成長していく姿を見る方が好きだ。
恐らく、理由などないのだろう。オレは昔からそうだった。
思わず漏れそうになる笑いを堪えながら、インクを使い切ったマジックペンを
音からホールインワンを確信して、皆が来るまで待とうと振り返ると――――
「やあ、戻ってきたかな?」
「ほぎゃぁ!?」
――――もうなんか全員居た。
全く、全然、これっぽっちも予測していなかったので、思わず後ろに下がって壁にぶち当たった挙句に変な声が出た。汚い高音という感じ。
この娘ら、気配を消すのがウマ過ぎないか? ウマ娘だけに。もしくは、ウマ娘は全員忍者だった???
オレの声を聴いて、誰もが口元を押さえるか、俯いている。
「ふ、く……君は、いつもいつも周囲を和ませるのが、ふ、ふふ……」
「す、凄い声、う、ふふ……」
「ふぐぐっ、ど、何処からそんな声出しますの……」
「んふっ、ふふ……ご、ごめん……なさい……ふふ……」
ああ、20代の半ばと言うのに笑わせるのではなく笑われるのは流石に恥ずかしい。
何とか、何とか威厳を、大人としての尊厳を維持しなくては……!
「よく来たな。じゃあミーティングを始めるか。お茶出すよ」
「いや、真面目腐った顔をしても無意味だぞ」
「誤魔化せてませんわよ?」
ルドルフとマックイーンの突っ込みに、全員の腹筋が崩壊した。
和やかな笑い声を上げてくれるのはいいのだが、オレの羞恥は高まっていくわけで頭を掻くことしかできない。
…………くそぅ、次は笑わせてやるからなぁ!
……おや!? ションボリルドルフの ようすが……!
おめでとう! ションボリルドルフは マウントルドルフに しんかした!
トレ「これ目出度いか?」
マック「お、落ち込んでおられるよりはよいのでは……?」
会長「ムフー」
スズカ「むむむ」