デート・ア・ライブ 士道ロールバック   作:日々の未来

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デートアライブ4期おめでとうございます(白目)


第17話 ダブルバトル

「……と、いうわけです……」

「ふ~ん」

 

 二亜と密会しているところを見つかった日から3日後。士道は再び訪れた十香の定期検診に同行していた。

 もちろんだだ付き添いで来たわけではない。捨てられた子犬のような表情で検査室に消えていく十香を見送った後、すぐに琴里に首根っこを掴まれ、フラクシナスのブリーフィングルームへと連行された。

 備え付けのホワイトボードにはでかでかと「第1回 五河士道、妹に隠し事してごめんなさい反省会」と書かれている。

 

『第1回ってことは2回目以降の開催も期待していいのかしら』

(勘弁してくれよ……)

 

 目の前には出荷前の豚を見るような冷たい目で椅子に腰かけている琴里。苛だたしさを見せつけるようにキャンディを噛み砕く姿を見ていると、それだけで胃が痛む気がした。

 ちなみに士道は床に正座している。決して強要されたわけではない。琴里と同じ目線の高さに座ることを本能が勝手に回避したのだ。

 根掘り葉掘り追及されたため、たっぷり1時間ほどかけて今までの道のりを説明し、先ほどやっと()()の話しを終えて、琴里の判断(ジャッジメント)を待っているところである。

 

「はぁ……。鳶一折紙の両親を救うために過去へ行って? そこで戦闘に巻き込まれたと思ったら4月10日にタイムスリップ? いやそれよりも、すでに7人の精霊を攻略してきたって……あんたねぇそんな話」

「あはは、やっぱり信じられない——」

「どうして今まで黙ってたのよ!!」

「そりゃそうなりますよね」

 

 なんとか茶化してやりすごせないか。そんな甘い考えが一瞬にして霧散するほどの剣幕。間違いなく琴里は本気で怒っている。

 だが、渦巻く感情がそれだけではないことを、士道は感じ取っていた。

 

「ごめん……。正直俺も混乱しててさ、上手く状況を伝える自信が無かったんだよ。そんな状態で話をしたところで、頭の良いお前ならまず俺の正気を疑うだろ?」

「何よ、真剣に取り合わないであろう私に責任があるとでも言いたいわけ?」

「そうは言ってないさ。でも考えてみろよ。精霊だのASTだの、そういう裏の事情を全く知らないはずの俺が、いきなり『未来からやってきました』なんて言い出したらどう思う?」

「…………」

 

 琴里は思わず言葉に詰まる。そういった時に自分がどのような反応をするのか、火を見るよりも明らかだからだ。

『確実に中二病の再発と断定されて、それはもう冷たい目を向けてくるでしょうね。今も大概だけど』

(勘弁してくれよ。心の傷は流石に〈灼爛殲鬼(カマエル)〉でも治せない)

『どっかの副指令みたくダメージを快楽に変換出来たらいいのにねぇ』

(何も良くないわ)

 

 少しの間考え込んでいた琴里だったが、やがて諦めたように深い溜息を吐いた。

「普段の態度が裏目に出たってわけね……。えぇ認めるわよ、恐らく信じないでしょうね。でもそれなら、せめて十香を封印した直後にでも教えてくれれば良かったんじゃないかしら?」

「それも説明した通りだよ。前の世界とこの世界とじゃ状況が違いすぎるんだ。下手な情報を共有して取り返しのつかないことにでもなったら、って考えたら、なかなか言い出せなかったんだよ」

「舐めないでちょうだい。フラクシナスはどんな状況にも的確に対処してみせるわ。……って、以前なら胸を張って言えたんでしょうけどね。あんな醜態を晒した後じゃ士道の意見ももっともか……。今回の一件、あんたの頑張りがなければ十香を助けることは確かに不可能だった」

 

 言いながら琴里はそっと目を伏せる。僅かに覗く表情からは、隠しきれない後悔が見て取れた。何年も準備を重ねて華々しくデビュー戦を飾る予定が、既に撤回されているとはいえチーム解散の危機にまで追い込まれたのだ。

 そして何より、五河士道(大好きなお兄ちゃん)を危険にさらしたことを、琴里はずっと悔やんでいた。

 しかしそれでも。否、そうであるからこそ、琴里は立ち止まるわけにはいかない。今度こそ万全の態勢で、誰も傷つかない方法で精霊を封印する。それが人間として、そして精霊として生きる自分の使命だと確信しているのだから。

 

「でもこれからはそう都合よくはいかないわ。フラクシナスが、そして何より五河士道という一個人がDEMやASTの敵として認識されてしまった以上、あんな不意打ち紛いのやり方は2度と通用しない。だからこそ、少しでも情報を共有しておく必要がある。違うかしら?」

「そうだな、それに関しては俺も同意見だよ。でも誰にだってこんな話をできるわけじゃない。だからこそ、まずは琴里にだけ話して判断を委ねようと思ったんだ。正直俺もここまでの事態になるとは想像してなかったしな」

 

 実はここに連れ込まれた際、始めのうちは令音も同席していたのだ。それを「どうしても琴里と2人で話したい」という士道たっての希望から退席してもらい、現在に至る。

 最も信頼する仲間の1人である令音を除け者にすることに対して、当然琴里は不満を口にした。士道も令音くらいにならば聞かれても構わないと思ったのだが、万由里が断固として拒否したのだ。

 時間が無かったので理由を詳しく訊くことはできなかったが、きっと彼女なりの考えがあるのだろう。

 

「それにしても、八舞姉妹に誘宵美九、それに七罪……。話を聞いた限りじゃ、とんでもない厄介者ばかりじゃないの。よくもまぁここまで個性的なのが揃ったものね」

『聞いた士道? この子ったら自分を棚に上げて人様を個性的ですって』

 ケラケラと笑う万由里に対して「お前もな」と心中でツッコミを入れつつ、愛しい仲間たちに思いを馳せる。

 

「そうだな、でもみんな良い子たちなんだよ。今回も必ず救ってみせる」

「あのねぇ、だからなんでもかんでも自分1人で解決しようとするんじゃないわよ。今度こそちゃんとバックアップするって言ってるんだから、少しは私を頼りなさいこのバカ兄」

「そうだったな」

 

 呆れた表情で溜息をつく琴里に指摘され、思わず苦笑を漏らす士道。洗いざらい話すことに恐怖はあったが、終わってみれば随分と心が軽くなった。皆を救いたいという気持ちばかり先行して、自分でも気付かないうちに気負いすぎていたようだ。

 

「まぁいいわ。今までのこと諸々、納得したわけじゃないけど、とりあえずは飲み込んであげる。あんたも苦労してきたみたいだしね」

「ご理解いただけたようで良かったよ」

 

 反省会という名の尋問からやっと解放される。安心した士道はようやく冷たい床での正座をやめると、軽く伸びをして部屋を後にしようとした。

 しかし、これで逃がしてくれるほど、琴里は甘い存在ではない。

 

「もうひとついいかしら」

「どうした?」

「あの時……。一撃でDEMの戦闘部隊を壊滅に追いやった天使。〈雷霆聖堂(ケルビエル)〉、って言ってたわよね。相棒に借りたとか言ってたけど、その相棒とやらはどこにいるの?」

「…………」

『やっぱ突っ込まれるわよねそりゃ。意図的にはぐらかしてたし』

 明らかに声のトーンが下がっている。下手なことを言えば、また琴里の怒りが爆発しかねないが、士道としても今それを話すわけにはいかないのだ。

 

「あー、相棒ね。近くにはいるんだけどな。今はちょっと、その……会えないんだ」

「は? どういうことよ。あのね士道、何度も言ってる通り、ラタトスクは精霊の保護を目的とした組織なのよ。決して悪いようには——」

「いやいや、琴里たちを信頼してないとかそういう意味じゃないんだよ。ただ本当に物理的に会うのが難しいってだけなんだ。いつかきっと紹介するから」

「近くにいるのに物理的に会えないって一体どういうことなのよ!? 意味が分からないわ!」

 

 琴里は鋭い視線で回答を促してくるが、何も言えることなどない。士道が困った表情を浮かべて黙っていると、本日何度目かもわからない溜息を吐いて、先に琴里が折れるのだった。

「はぁ~、なんなのよほんともう……。だったらこれだけは言っておくけど、あの〈雷霆聖堂〉って天使。分かってるでしょうけど、あれは相当にヤバい力よ。よっぽどのことがない限り……いえ、できることなら今後一切使わないで」

 

 そもそも天使と呼んでいいのかも分からない。精霊である琴里ですら畏怖するほどの、異質すぎる気配。

 駄菓子屋で盗み聞きした二亜の言葉が、脳裏にべったりとこびり付いて離れない。

 

 

 

『神の如き力で裁きを下す審判の天使——』

『一個人が持っていていい力じゃないと、あたしは思うけどね——』

 

 

 

 なぜそんな力を兄が持っているのか。

 その力を行使することで、一体どんな災いが降りかかるのか。

 得体の知れない不安感が心の奥底で渦巻いている。琴里はただ本気で士道の身を案じているのだが、当の本人はどこ吹く風といった様子で笑うのだった。

 

「ははは、ヤバいなんて大げさだな。ちょっとでかいビームが出るだけの黒い棒じゃないか」

「あのね、あんたあの攻撃の余波で周囲がどんな影響を受けたか知らないの!? 大気がプラズマ化するほどのエネルギーがそこら中に拡散して、離れてたフラクシナスにだって大きなダメージがね——」

『棒って何よ棒って! せめて槍って言いなさいよね、ほんとは槍でもないんだけど! あとあれはビームじゃなくって〈ラハット——』

 

 信じられないものを見るような目を向けてくる琴里と、ぎゃあぎゃあと喚き散らす万由里。やっと解放されかけていたところに、この追撃は正直堪える。

 何より士道にはこの後大事な予定が入っているのだ。妹の剣幕に追いつめられるふりをしてじりじりと入り口に近付くと、扉が開いた瞬間一目散に逃げ出すのだった。

 

「ちょっと待ちなさい! 士道、話はまだ——」

『あーあ、これ後で絶対怒られるやつよ。大丈夫なの?』

「仕方ないだろ。もたもたしてたら十香の検診が終わっちまう。それに……」

 

 〈雷霆聖堂〉を使用したのは他でもない士道なのだ。その異常性など、今更誰かに言われずとも分かっている。

 フラクシナスの長い通路を駆け抜けながら、士道は先日の会話を思い出していた。

 

 

 

 

 

 

「天使にはそれぞれ固有の能力があるわ。って、こんなこと今更言われなくても分かってるでしょうけどね」

 そう万由里が切り出したのは、彼女が士道の元へ帰ってきてから数日経ったある日のことだった。

「あぁ、そりゃ知ってるけど……それがどうかしたのか?」

「いい機会だから、今のうちに〈雷霆聖堂〉の能力について説明しておこうかと思ってね。いつまたこの力が必要になるか分からないし」

 

 現在2人がいるのは、万由里が作り出した精神世界の中。以前の戦いで自分の力不足を痛感した士道は、ほぼ毎日眠りに落ちた後、夢の中で戦闘のレクチャーを受けているのだった。

 万由里の手にはいつの間にか、彼女の透き通る肌とあまりにも対照的な漆黒の長槍が握られている。士道を鍛えるためだったとはいえ、その槍に()()()()()記憶は今でも鮮明に思い出せるほど、脳裏に焼き付いていた。

 

「能力って言うと、〈灼爛殲鬼〉の治癒の炎とか〈刻々帝(ザフキエル)〉の時間操作とか、そういう不思議な力のことだろ。〈雷霆聖堂〉にもなんかあるのか?」

 士道がそう問いかけると、万由里は待ってましたと言わんばかりに「ふふんっ」と鼻を鳴らしながら胸を張る。

「よくぞ訊いてくれたわ。この天使には『審判』に『再生』、それに『束縛』とか色んな力があるけど……。1番の特徴はやっぱり『破壊』ね」

「『破壊』……? 物を壊すっ力てことか? それなら精霊は誰でも持ってそうな気がするけど」

「ちっちっち。この子をそんじょそこらの天使と一緒にしちゃいけないわ。実際に使ったあんたなら分かるでしょ? 僅かな魔力で発動したにも関わらず、空に穴をあけるほどのあの威力。これはそう……『消滅』って言った方がしっくりくるかしらね」

 まるで虫取り網でも振り回すように、身の丈以上の武器をブンブンと回して見せる万由里。心臓に悪いのでやめてほしい。

 

「相手の防御力や能力に関係なく、立ちはだかる全てを存在ごと消してしまう。それが〈雷霆聖堂〉の力。この子の前では分厚い岩盤だろうが鉄壁の随意領域(テリトリー)だろうが、大した意味は成さないの」

「…………」

「……言うなればブルー○イズを並べて高笑いする相手にエク○ディアを叩きつけるような——」

「いや理解はしてるから。びっくりして声でなかっただけだから。しかも微妙に分かりづらいし」

「そう? まぁでも安心なさいな。今のあんたじゃ霊力が少なすぎて、そこまでの力を引き出すことは不可能だから」

「霊力不足って……。精霊を2人も封印してるんだぞ? それでも足りないってのかよ」

「全然よ。実際前回は〈雷霆聖堂〉があんたの()()()()()()無理やり霊力に変換したから、ようやく発動できたんだもの。ま、本来の威力に比べたらだいぶお粗末だったけどね」

「あー、それであの時腕が無くなったのか。てっきり攻撃の反動で吹き飛んだのかと思ってた」

 

 あの時は直後に意識を失ったので痛みを感じる暇も無かったが、目が覚めてから腕がないことに気付いた時の衝撃はかなりのものだった。もっとも、当時の士道は更に大切なものを失ったことを知り、すぐに記憶の彼方へ消えていったのだが。

 大事な人が突然消えてしまった時のことを思い出し、少しだけ胸を締め付けられる士道を見て、万由里は愛おしそうに微笑んでいた。

 

「まともに使おうと思ったら、そうねぇ……。あと4人くらい封印すればいいかしらね」

「順調にいけば美九辺りか。……その前に使おうとしたらどうなる?」

「基本的には発動しないわ。でも以前説明した通り、霊力は使用者の願いによって変化するもの。前みたくあんたが本気で『使いたい』と願えば、不完全でも顕現はしてくれるでしょうね……ただ——」

「俺の腕が喰われる、か」

「腕とは限らないわ。でも身体や精神、どこかしらに必ずダメージを受けることは覚悟してちょうだい。あとは持っている霊力を全部強制的に攻撃力へ変換するから、一時的に私とのリンクも切れる……ってのはまぁ、よく知ってるわよね」

「……あぁ、そうだな。あんな思いはもうごめんだ」

「んん? ほほぉ~、士道君は万由里ちゃんとお話しできないのがそんなに悲しいのかなぁ~?」

「当たり前だろ。もうどこにも行くな」

「っ!! さ、さーて休憩終わり! トレーニングの続きでもしましょうかね! まずは父さんを超えた(スーパー)トラ○クスになれることろまで——」

「いやそれ失敗形態だろ! あー……それにどうやらタイムアップだ」

「あら、もうそんな時間なのね」

 

 誰も触れていないはずの士道の首が、何かに締め上げられるように狭窄していく。現実世界の身体の状態が反映されているのだ。

「また十香ちゃんが布団に潜り込んできたのね。いいわ、今日はこれでおしまい。早く行かないと抱きしめ殺されちゃうわ」

「昨日はあばらが軋んでたからそれとなく注意したんだけど、今回は首に来ちゃったかー」

「抱きつく場所じゃなくて、力加減を教えてあげた方がいいんじゃない?」

「それは最初から言ってる」

「そりゃそうか」

 

 

 

 

 

 

 〈雷霆聖堂〉の力を要約すると、

①当たれば勝ち確

②使用すると自分にも大ダメージ

③使用後は霊力スッカラカン+万由里がしばらく行動不能

④他にもおっかない能力がいろいろ

ということらしい。

 自傷ダメージが大きいのに霊力不足で回復できないというのは正直、高威力だけというメリットに見合っていないような気がする。

 だが戦力が敵に大きく劣る現状では、やはりいざという時に使う必要があるのだろう、というのが2人の共通認識だった。

 デメリットを可能な限り抑えるために、使用するのは基本的に誰かが側にいる時だけ、という取り決めもしてあるが、果たして〈雷霆聖堂〉が必要なほどの窮地に、そんな余裕があるのかどうか。

 結局のところ、その時になってみないと分からないのだった。

 

「さて、と。とりあえずどうしたらいい?」

『まずは末端でもいいからフラクシナスのシステムにアクセスできる場所を探して。1度中に入ってさえしまえば、私ならどんなセキュリティでも突破してみせるわ』

「おっかねえなぁ……。よし、それなら資料室だ。あそこなら俺でも入れたはず」

 

 琴里との会話をかなり強引に切り上げてしまったが、幸い追ってはこないようだ。艦内は常に監視カメラが作動しているため、捕まえようとすれば簡単にできるはずなのだが、そこまでする必要はないと判断したのだろう。他の職員とすれ違うこともなく、士道は資料室に到着した。

 

 一般に「資料室」と呼ばれるもののイメージからはかけ離れた、世間には出回らない超高性能なPCがいくつも並べられ、フラクシナスの関係者なら誰でも利用できるフリースペース。それがこの場所だ。

 政界や金融業界など、ここからなら相当グレーな情報にも簡単にアクセスすることができ、誰が補充しているのかドリンクバーやスナック菓子も置いているため、ネカフェ代わりに使うクルー(中津川)もいるくらいだ。

 部屋の中を見渡し、ハッキングするのに適当な場所に当たりを付ける。

(この辺でいいか)

『えぇ。入口や監視カメラから見えにくくて、かつ人が近付いてくればすぐに視認できるベストポジション。流石ね、伊達に長いこと童貞やってないわ』

(黙ってろ)

 

 椅子に座り、軽く深呼吸して速くなり始めた鼓動を落ち着ける。PCは起動してあったので、すぐにでも行動を起こせそうだ。

『準備ができたら私の「本体」をPCに近付けて』

(鍵のことか。……これでいいのか? おお)

 ポケットから取り出した花飾りの鍵をディスプレイの前に持ってくると、温かさと僅かな光を発生させながら形状を変えていく。数秒ののち光が消えると、先端がUSBポートに変形していた。

 

(どうやってサーバーに入り込むのかと思ってたけど、こんなこともできるのか。やるじゃないか)

『ふふん、それほどでもあるわね! もっと褒めてくれてもいいのよ?』

(すごいなー憧れちゃうなー。こんな有能なやつ今まで見たことないぜ)

『うむ。くるしゅうないぞよ』

(最早できないことの方が少ないじゃん。誇らしくないの?)

『あぁ~たまらねぇぜ』

(その上めっちゃ美人とかずるいよ。ビジュアルモンスター。モナリザ)

『あっ、ちょっとイクッ!』

(これ容量どのくらいなんだ?)

『8MB』

(ざっっっこ!!)

 

 キレて実体化して襲い掛かろうとする万由里をなんとか収め、改めてPCに向き直る。

『じゃあ行ってくるわ。ハッキング中は私の意識をサーバー内に飛ばして作業するから、しばらくはお別れね』

(何か手伝えることはないのか?)

『ふふ、大丈夫よ。あんたは大船に乗ったつもりで待ってなさい。あ、一応作業の進行状況はモニターに表示しておくから』

(そりゃありがたいけど……誰かに画面を見られたら怪しまれないか?)

『その辺も抜かりなし。エンターキーを1回押すとダミー画面に切り替えられるから、いざってときは使ってちょうだい』

(流石だな。じゃあ……頼んだぞ。みんなの未来はお前の働きにかかってるんだ)

『えぇ。内通者の情報をばっちり見つけてきてやるから期待してなさい。それじゃ……プラグイン! マユリ.EXE!』

(トランスミッション! あ、USBの上下逆だわ)

『ズコーっ』

 

 なんとも気の抜けた声を上げながら、万由里は電子の海に消えていくのだった。

 

 

 

 

 

 

「さて、と……。()()()()()()()とはいえ、相手は世界最高峰のセキュリティ。気合い入れてかからないとね」

 人間の脳を遥かに超えた容量と処理速度で構築された電脳空間。そこから必要な情報を見つけ出すのは、砂漠に落とした1粒の石ころを見つけるのにも等しい。

 敵の顕現装置を無理やりハッキングする時とは違い、システムを破壊せず、さらに痕跡を残さないように進んでいくのは、正に至難の業だ。

 

「とはいえ文句は言ってられないわよね……。時間もあまりないだろうし、何より私と離ればなれになって、士道が泣いてるかもしれない。お目当てのものを見つけてさっさと帰りましょう」

 

 無限とも思える広大な0と1の世界を、万由里の意識は光の速さで移動していく。しかしそんな環境の中でも、彼女は正確に情報を読み取っていた。

 使い方次第で世の中をひっくり返せるような情報や、個人のプライバシーを著しく侵害するような情報。触れるどころか本来は目にすることさえ許されないようなデータが、道中にはごろごろ転がっていたが、今必要なのはそんなものではない。

 

「『婚活 必勝法』『エロゲ 最新作』『女上司 踏んでほしい』……クルーたちの検索履歴かしら。世界レベルのPCを使って調べるのがコレってのも泣けてくるわね……。っと、あれは?」

 ふと視界の端に違和感を感じ、立ち止まる。万由里の目に飛び込んできたのは、目的の情報でもなければ世界を動かすような大それたものでもない。だが、ある意味()()ではトップレベルに重要な情報だった。

 

〈五河士道のすべて~これを見ればあなたも士道マイスター~ ポロリもあるよ〉

 

 

 

「…………」

 

 

 

「……………………」

 

 

 

「………………………………!!!!」

 

 

 

 そのデータに触れた瞬間。

 万由里の意識は一瞬で別の空間に飛ばされた。

 

 飛んだ先は、それほど広くない球状のエリアの中だった。壁面には異常を知らせるように「WARNING! WARNING!」と赤く表示されている。

 そしてその中央には、メカメカしい霊装のようなものを身に纏った、白い髪の少女が浮かんでいた。

 

 

 

「こんにちは。フラクシナスの管理システム兼セキュリティシステム〈MARIA〉です。早速ですが侵入者は排除します」

 

 

 

「やっべ! 罠だこれ!!」

 

 

 

 

 

 

 一方その頃、士道も危機的状況に直面していた。

 

「やあ士道君。こんなところで何をしているんですか?」

「……か、神無月、さん」

 

 万由里が電脳空間へ旅立った後、ディスプレイには〈マユリチャン2 裏切り者の謎〉の表示とともに、チープな音楽が流れ始めた。ご丁寧に万由里と思しき少女がビルの上に立つドット絵も添えられている。

 「エグゼじゃないじゃん」と胸中でツッコミを入れながらも、タイトル下の「達成率2%」という文字で作業の進行状況を伝えてくれているのだと気付き、安心したのも束の間。

 フラクシナスの副指令、神無月恭平が資料室に姿を現したのだ。

 

「今日は司令と一緒だと伺っていたのですが。もう用事は済まされたので?」

「は、はい! そうなんですよ。十香の検査が終わるまで暇だから、どこかで時間をつぶせないかな~と思って。はは……」

「そうだったんですか。確かにここは暇つぶしに最適ですからね。流石は士道君、この艦のことをもう理解してらっしゃる」

 神無月は喋りながらもどんどんと近付いてくる。やがてPCをはさんで士道の向かい側に立つと、少しだけ困ったような表情を浮かべた。

 

「ただ、アカウントが制限されているとはいえ、ここのシステムは普段使いするにはちょっと優秀すぎるんですよ。悪いんですが士道君、ちょっとだけログを調べさせてもらってもいいですか?」

「え!?」

「あぁ、別に士道君が悪いことをしているんじゃないかと疑っているわけではないんですよ。ただ意図せず良くない情報にアクセスしていないか心配で」

「い、いやー! 大丈夫だと思いますけどね!」

 

 思わず声を上擦らせながら視線を逸らしてしまう。まさかこんなに早く誰かに見つかるとは思っていなかったのだ。

 そして普段と違う士道の様子を、副司令ともあろう者が見逃すはずもない。

 

「ん? 何か焦ってます?」

「そんなことないですけど!? 俺を焦らせたら大したもんですけど!!」

「はぁ……。その割に少し汗が滲んでいるような……」

「さっきまでここでドラゴンフラッグしてたせいかな!? いやーきつかったなあ!!」

「あの最強の筋トレをこの椅子で!? 筋力とバランス感覚半端ないですね……。まぁそれは置いといて、今はPCを確認をさせてください。……一応訊きますけど、何もやましいことはしていないんですよね?」

「はい……」

 

 流石に誤魔化し切れない。

 観念した士道は、万由里の残してくれたダミー画面とやらに全てを託し、エンターキーを素早く押して席を空ける。

「どれどれ、それじゃあちょっと失礼して……こ、これは!!」

 神無月の横からディスプレイを覗き込むと、そこには誰もが見慣れた検索エンジンが映し出されていた。

 そして検索ボックスには短い単語が2つ。

 

 

 

 

 

〈金髪ロング エロ画像〉

 

 

 

 

 

(万由里いいいいいいいいいい!!)

 

 

 

「なるほど……。焦っていた理由はこれですか」

「納得しないで!?」

「しかし不可解ですね。士道君!」

「はいっ!?」

「私の知る限り、あなたの性癖に『金髪ロング』なんてものは無かったはずです」

「他の性癖は知ってるみたいな言い方!!」

「性癖はそう簡単に変わるものではありません。そう、私が確固たるMであるように……」

「知らねぇよ!? いや知ってるけども!」

「もしも性癖に大きな変化があったとすれば、その原因はそう……出会い」

「!?」

「ここ最近で、士道君の心を大きく動かすような出会いがあった。……違いますか?」

「そ、それは……」

「そして私は、その人物に心当たりがあります」

「なっ!?」

「驚かなくてもいいでしょう。心を鷲掴みにするほど美しい金髪ロングなんて、1人しか思い当たりませんから」

「神無月さん、あんたまさか……!」

「えぇえぇ士道君、分かっていますとも」

 

 

 

 

 

「私でしょう?」

 

 

 

 

 

「俺の周りはバカばっか!!」

 

「照れなくてもいいんですよ。大丈夫、私は理解があります」

「俺にはねぇよ!」

「もう画面の中で満足する必要はないんですよ? さぁ、共に新しい扉を開きましょう」

「いやあああ!! 誰か助けてえええええ!!」

 

 

 

 士道と万由里。

 世界の命運を賭けた、2人の戦いが始まった。




デートアライブ5期おめでとうございます!

まさか1年も投稿できないとは思っていませんでした。
休んでいる間に誤字報告やメッセージをくれた方、ありがとうございます。

今後も気を長くしてお付き合いいただければ幸いです。
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