デート・ア・ライブ 士道ロールバック   作:日々の未来

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サブタイの意味はご想像の通りです。


第9話 変身

 時は1時間ほど遡る。フラクシナスを降りた士道は、家に帰って大人しく待機。なんてことはもちろんなく、天宮駐屯地に向かって足を進めていた。

『んじゃもっかい作戦を確認するわよ? まずはなんとかして基地内に侵入。その後はなんとかして列車に乗り込んで、最終的にはなんとかして十香ちゃんを救出。おーけー?』

「オーケーオーケー完璧だ、ってんなわきゃねーだろ!! お前今『なんとかして』って何回言ったよ!?」

『え、3回ですけど……』

「何『そんなことも分からないんですか?』みたいな顔してんだよ! 俺はもうお前が分からねーよ!!」

『ふっ……女の秘密を詮索するもんじゃ……ないわよ』

「ドヤ顔で決めポーズ取ってんじゃねーよ! お前の秘密を教えてやろうか!? それはお前が超ド級の馬鹿だってことだよ!!」

『んだとこのヤロー!! この作戦のどこに不満があるってのよ!?』

「どこに不満がないか言ってみろおおおおお!!」

 ぜいぜいと息を吐く士道を見て、通行人たちが距離を取るのが分かる。しかし、今はそれどころではなかった。万由里があんまりにも自信ありげに「作戦は任せろーバリバリ」とか言うものだから、具体的な十香救出の方法に関しては士道は今まで全く考えていなかったのである。

 それが直前になって聞いてみれば、出てきたのは生クリームもびっくりのふわふわスカスカな作戦とも言えないようなもの。士道は眩暈のあまり横の電柱にもたれかかろうとした。すると――。

 

「あらあら、立ち眩みですの? わたくしの肩でよければいくらでも貸して差し上げますわ、士道さん」

 

「って狂三!?」

『むっ』

「はい、貴方の狂三ですわよ」

 ふわりと優しく抱きとめられたと思えば、そこにいたのはなんと〈最悪の精霊〉時崎狂三その人だった。漆黒の衣装に身を包み優雅に日傘をさすその姿は、どこかの深窓の令嬢のようである。その眼に怪しい光を灯していなければ、の話だが。

「そんなに警戒しないでくださいな。せっかく良い情報をお持ちしましたのに」

「良い情報?」

「えぇ。きっと役に立つと思いますわ。これから囚われのお姫様を助けに行くつもりなのでしょう?」

「なっ! どうしてそれを……」

「あらあら、乙女に秘密は付き物でしてよ。それに、今はそんなことを気にしている余裕なんて無いのではなくて?」

「うぐっ、確かに……。いやでも俺の個人情報駄々洩れすぎないか?」

 いたずらっぽく片目を閉じてみせる狂三に思わず心臓が高鳴る。さっき似たような台詞を聞いたはずなのに、ここまで差があるのは一体何故なのだろうか。

『ちょっと聞きまして士道さん! この女わたくしのネタをおパクリになりましてよ! あーいやらしいいやらしい』

(今真面目な話をしてるから黙っててくれないか)

『!?』

 一瞬で疑問に答えてくれた万由里を適当にあしらっていると、狂三は何か思いついたような顔をして意味ありげに笑うのだった。

「ふふ、貴方は自分が有名人だということをもっと自覚した方がよろしくてよ。情報というのはDEMの展開している作戦のことですけれど……」

「どうした?」

「いえ、ただ教えるのもつまらないかと思いまして。そうですわね……。情報を提供する代わりに、士道さんの大切なものをいただく、というのはいかがですの?」

「た、大切なもの……?」

「えぇ、えぇ。失ってしまえば2度と戻らない、貴方の大切なもの。士道さんにはそれを捨てる覚悟はありまして?」

 ずいっと顔を寄せられたため、思わずたじろぐ。あまりの妖艶さについゴクリと喉を鳴らしてしまうが、ここで流されたら絶対に碌なことにならない。冷静になれと強く心に刻む士道だった。

『まさか……童貞を!?』

(やかましいわ)

 一瞬で頭が冷えた。わざとなのか素なのか分からないが、素直に感謝するのは癪なのでとりあえず黙っておくことにする。

「……分かった。今すぐは無理かもしれなけど、出来る範囲でなら協力するよ。だから――」

「いいお返事ですわ。では、後で必ずいたしましょう。わたくしとデート」

「俺の命はお前に……って、え? デート?」

「はい。デート。言ったではありませんの。貴方の大切なものをいただくと。時間は全ての生物にとって1番大切なもの。違いまして?」

『ぷっぷー! なーにが命よ全然違うじゃないの! やーい早とちり~』

(てめぇ後で覚えてろよなマジで)

 2人に対して心底呆れるが、とりあえず声を押し殺しておかしそうに笑みを漏らす狂三に文句のひとつも言ってやりたくなり、士道は口を開く。

「お前なぁ……。絶対わざとだろ」

「くすくす。一体なんのことやら」

「あのなぁ……。はぁ、分かったよ。そんなんでよければいくらでもするから」

「あらあら、そんなのとはひどいですわ。これでもわたくし勇気をふり絞ってお誘いしましたのに」

 一転して今度はしくしくと大げさに泣くふりをすると、1度は散った周囲の視線が再び集まるのを感じて、頬を汗が伝った。

「分かった、分かったから勘弁してくれ!」

「ふふ、士道さんはからかい甲斐がありますわ」

「やっぱり嘘泣きかよ!」

 万由里はそんな狂三の仕草にイラっと来たのか、横から無言でシャドーを叩きこんでいた。このままでは永遠に本題に入れないのでは、と危惧した士道は狂三に先を促す。

「それで? 情報ってのは一体なんなんだよ?」

「えぇ。まずは確認ですけれど、士道さんたちは〈プリンセス〉……十香さんを乗せた列車を追跡、駐屯地から十分離れたところで真那さんが救出した彼女ごと回収、という流れで間違いありませんの?」

「情報が早すぎるだろ……。あぁ、でも列車内にはDEMの魔術師(ウィザード)がうようよしてるらしいから、()()()()忍び込んで陽動でもしようかと思ってな」

『!!』

(嬉しそうな顔するんじゃねえお前がちゃんとした作戦考えないからだろうが)

「なんとかって、何か具体的な方法はありますの?」

「…………」

「あらあら、それは流石に無謀が過ぎるのではなくて?」

「仰る通りです……」

 流石に呆れられてしまったかと心配になったが、どうやらさして気にするほどのことでもなかったようだ。狂三は話を続ける。

「まぁ、それについては大した障害もありませんし、ひとまず置いておくといたしましょう。問題はあちらの用意した列車自体がブラフ、士道さんたちを誘き出すための罠ということですわ」

「なっ! どういうことだ!?」

「言葉通りですのよ。基地内に潜入した『わたくしたち』からの情報によると、どうやら搬送列車は2台用意されているようですの。真那さんは最初から泳がされていて、都合の良い情報を流すための駒として使われたようですわね。そして運ばれていった十香さんは今待機している列車に乗せられた形跡は無い。となれば――」

「1台目で俺たちを引きつけておいて、2台目で十香を安全に運び出す、ってことか……。なんてこった、すぐに琴里に伝えないと!」

「お待ちになって士道さん」

 士道がスマホを取り出しコールしようとすると、狂三が画面の上へそっと手を乗せてきた。意図が分からず、焦りからつい大きな声を上げてしまう。

「どうして止めるんだよ!」

「冷静になってくださいな。敵を誘き出して一網打尽にする作戦なら、DEMは囮の方にも相当の戦力を割くということ。わざわざ自分から戦力を分断してくれるというのなら、こんな好機を逃す手はありませんわよ」

「あえて策に乗るってことか……。でもそれなら、尚更対策を練らなきゃいけないんじゃ――」

「士道さんのお仲間が二手に分かれても十分戦えるくらいの戦力を有している、というのならそれでも構いませんわ」

「ッ! それは……」

 言われてハッとする。確かに今のフラクシナスは万全の状態ではない。否、万全の状態であったとしても、そもそも戦闘に特化していないフラクシナスでは複数展開した相手の対応は難しいだろう。前回の戦いで何もできずに敗北を喫したのがその証拠だ。

(そうか……。どちらにせよ敵の足止めは必要になってくる。下手に動くと却って逆効果……か)

『士道。リスクを負わずに良い結果だけを得ようだなんてぬるい考えが通じるほど、相手は甘くないわ。それに琴里ちゃんも真那も強い子よ。信じてあげてもいいんじゃないかしら?』

 万由里の言うことも最もだ。本来であればこうなった時点で詰み。それをなんとかしようというのであれば、イレギュラーの要素に賭けるしかない。それはつまり、士道のことだ。

「……分かった。あっちのことは琴里たちに任せておこう。俺は俺で算段を考え直さないとな」

「微力ながらわたくしもお手伝いいたしますわ。デートの約束もあることですし」

 いつの間にかスマホの画面を離し、代わりに士道の手を握る狂三。そんな彼女に感謝しつつも、1つの疑問が浮かんだ。

「……どうしてそんなに協力してくれるんだ? この前会ったばかりの良く知らない奴なんかのために」

「会ったばかり……。そう、ですわね。あのとき助けていただいたことですし、そのご恩返し、ということではいけませんの?」

「いや、結局助けられたのは俺の方だったじゃないか」

「そんなこと、大した問題ではありませんわ。ただ、わたくしの正体を知っていて普通に接してくる方がどんな酔狂な人物なのか、興味がありますの」

『旦那、士道の旦那。こいつ絶対旦那にほの字ですぜ。擦り切れるまで使った後はボロ雑巾みたいに捨ててやりましょうよぉぐへへ』

(情緒不安定すぎるだろお前……。さっきの真面目な顔が見る影もないぞ。というか狂三になんか恨みでもあるのか?)

 狂三は何故か少し言い淀んでいたようだったが、今深入りすべきことでもないと判断し、士道は気持ちを切り替えた。集中するべきなのは十香の救出と、その方法についてだ。

「そんな大したことじゃ無いと思うんだけどな……。でも助かるよ。じゃあ早速だけど頼みがあるんだ――」

 

 

 

 

 

 

 真那のIDを使い天宮駐屯地に侵入した士道は、狂三のナビゲーションのもと、搬送列車の待機している地下区画を目指していた。道中は狂三が闇に紛れ進路の安全確認をしてくれているので、今のところ大きな戦闘もない(時折前方から短い悲鳴が聞こえることはあったが)。

 潜入ミッションということで最初はかなり緊張していた士道だったが、思いの外スムーズに進んでいるため今は雑談できるほどの余裕を取り戻していた。話題に上がったのは真那のことだ。

「しかし驚きましたわ。まさか真那さんが士道さんの妹だったなんて」

「あぁ、俺も覚えてるわけじゃないんだけどな。でもなんとなく分かるんだよ、あいつが本当の妹だってこと」

「ふ~ん。美しき兄妹の絆、というわけですの」

「な、なんだよ……。そりゃ狂三は真那とは随分と因縁があるようだけど、頼むからあんまり手荒なことはしないでくれよな。お前らが戦う姿なんて見たくない」

「あちらから手を出してこないというのであれば、わたくしが戦う理由もありませんわ。それよりも、真那さんのことは分かってもわたくしのことは分かりませんの……?」

「え? それって……」

 いきなり出てきた言葉の意味が分からず目を向けると、そこには不安そうな顔をして佇む狂三の姿があった。いつもの自信にあふれた態度ではなく、今までに見たことのない儚げな雰囲気を纏っている。思わず目を奪われ無言になっていると、狂三はふっと表情を崩し、いつもの様子に戻っていた。

「なーんて、冗談ですわよ。士道さんたらすぐに騙されてしまうんですもの。からかいがいがありますわ」

「お、お前なぁ……」

「さ、到着いたしましたわ。ここが天宮駐屯地のプラットホームですわよ」

 そう言う狂三の視線の先、曲がり角から少し顔を出して見てみると、そこには巨大な空間が広がっていた。奥の方には銀色の車体が威圧感を放って鎮座している。

「あれが搬送列車か……。列車ってより新幹線みたいな見た目だな。状況はどうなってる?」

「新幹線よりももっと速いですわよ。時速は400km近いとか。1台目、囮の方は既に出発しているようですわね。乗っているのは真那さんとバンダースナッチ18機、それにエレン・メイザース」

「ッ! そうか、エレンはあっちに乗ったのか」

「予想通りですわね。とはいえ気は抜けませんわよ。こちらにもジェシカ・ベイリーを含めた20人近いDEM魔術師がいるんですもの」

「あぁ、分かってる。それと、十香は間違いなくこれに乗ってるんだな?」

「えぇ、それも確認済みですわ。見た限りでは先頭車両に運び込まれたようですわね。そこに直接乗り込めれば楽なんですけれど」

 現在士道たちがいるのは最後尾車両付近の通路だ。ホーム内はいかついワイヤリングスーツを着た魔術師たちが慌ただしく走り回っており、物陰に潜伏している士道たちがバレずにそこまで移動するのは現時点だと不可能に近い。焦る雰囲気を察したのか、狂三が肩に手を置いてきた。

「急いては事を仕損じる、ですわよ士道さん」

「そうだな……。今はタイミングを待つしかないか。それより狂三、1台目が出発済みって話だけど、あの件は――」

「安心してくださいまし。既に仕込みは済んでおりますわ。……でも、良かったんですの? いくら真那さんが危ないとはいえ、士道さんだって安全なわけでは……」

「いいんだ。エレン・メイザースがどれだけ危険なやつかってのは俺が良く知ってる。対策しすぎて悪いことなんてないさ」

「……そのお願いを大人しくわたくしが聞くとも限りませんのに?」

 探るような目線を送ってくる狂三。士道はあえてそれには応えず、車両に目を向けたまま時崎狂三という少女のことを考えた。

 前の世界でも常々気にはなっていたのだ。彼女の真意はどこにあるのか、彼女はなぜ事あるごとに士道を手を貸してくれるのか。封印した霊力の回収だけが目的なら、今の士道を助ける理由は無いはずだ。

 だが考えたところで答えが出る訳でもない。

(いつか話してくれる日が来るのかな……)

 それならば、士道の言うべきことは1つだけだ。

「狂三が今までどんな思いで生きてきて、どんな目的で戦ってるのかを、俺は知らない」

「…………」

「最悪の精霊とか何人殺してきたとか、知ってるのはそういう話ばっかりだ」

「なら――」

「でも! それでも、俺はお前を信じる。信じたいと思ってるから今こうやって一緒にいるんだ。だからたとえ裏切られたとしても後悔なんてしない。ただそれだけだよ。……はは、理由になってないな、こんなの」

「……。心の底からお人好しなんですのね、士道さんは。そこまで言われたからには、わたくしも期待を裏切る訳にはいきませんわ」

「……ありがとう。恩に着るよ」

「対価はしっかりといただきますわ、覚悟しておいてくださいな」

 そう言う狂三の声色は優しくて、どこか寂しげなものを含んでいた。

 

 それっきり会話は無くなったので、確認作業に没頭する。どういう訳か今回の作戦にASTはほとんど関与していないようだ。気付けば人の出入りがほとんどなくなり、見張りを勤める最後の1人が列車に乗り込むのが見えた。それを確認したのと同時、モーターの駆動音が響き渡る。

 ホームに人の姿はない。出ていけば監視カメラに映ってしまうだろうが、今が最大のチャンスであることに間違いなないだろう。

 そう判断し走り出そうとしたところで、一発の銃弾が足元に撃ち込まれた。

「止まりなさい! 貴方たちそこで何をして……って、精霊!?」

「あらあら、見つかってしまいましたわね」

 銃口をこちらに向けて立つのは細身で20台半ばくらいの女性。士道にとっていくらか馴染みのある、ASTのワイヤリングスーツに身を包んだその人物には見覚えがあった。以前資料で見かけたことがある、確か折紙の直属の上司だったはずだ。

「くそっ! こんなときに……!」

 列車の方を伺うと、既にゆっくりと動き始めている。このままではあと数秒も経たないうちに視界から消え去ってしまうだろう。

「士道さん、行ってくださいまし」

「狂三、お前も――」

「こちらのお方がそうはさせてくれないようですわね。あの身のこなし、なかなかの手練れのようですわ。すぐに増援も来るでしょうし、わたくしは足止めに回るといたしましょう」

 見れば先ほどの女性はCR-ユニットを展開し、巧みな体捌きと分厚い随意領域(テリトリー)で狂三の銃弾を防いでいる。

「ッ! すまん、後は任せた!」

 迷っている暇はない。士道は身を翻すと、列車に向かって一直線に駆け出す。後ろからはAST隊員の制止を促す声と銃声が聞こえてくるが、その中でも狂三の透き通った声はよく響いた。

 

「1つ聞き忘れておりましたわ! 士道さん、ナイトの免許は無事に取れまして?」

 

 それはこの世界で狂三と初めて出逢ったときに交わした言葉だ。こんなときまで冗談を飛ばす余裕のある狂三に苦笑しつつも、士道は自信に満ちた声でそれに返した。

「おかげさまでな! これから初仕事に行ってくるよ!」

 狂三の返事は待たない。士道の脚は既にトップスピードまで加速しているが、ホームの中頃を過ぎた列車に間に合うかは微妙なところだ。だというのに、万由里は嬉々とした声で士道に語りかけてきた。

『いよいよ戦闘開始ね。いっちょ気合い入れて「アレ」やりましょうよ!』

「ったく、しゃーねぇな!」

 返す士道の声にも焦りの色はない。ポケットから銀色のカードを取り出すと、口元へ持っていき起動コードを音声入力する。

 ――要は想像力の問題よ。『強い自分になりたい』『こういう力を使いたい』、そういう願いによって霊力はいかようにも変化する。

 ――あんたにまず必要なのは身体強化、強い自分をイメージして実行すること。

 万由里との特訓を思い出す。力を使うには強い自分を想像するのが効率的だ。天使での戦闘経験しかない士道は悪戦苦闘しながらも、1つの答えに辿り着いた。

 参考にしたのは、命を賭した戦いに身を置き悪を成敗する伝説の戦士。非日常的な存在でありながら日常で触れることができる、この上ない理想像。それが――。

 

 

 

「『変身ッ!!』」

 

 

 

 ――かつて士道が憧れた、ヒーローの姿だった。

 身体の表面に白色のラインが走り、そこから広がるようにワイヤリングスーツが展開、全身を覆いつくす。どうやら正常に起動できたようだ。顔全体を装甲が覆っているにも関わらず五感が研ぎ澄まされ、身体能力が大幅に向上するのが分かる。体が軽くなり、羽でも生えたような気分だった。

 因みにデバイスの起動コードは本来自分の所属と名前を入力しなければならないのだが、妹の名前で変身するヒーローは嫌だと万由里が駄々をこねたので、変更済みである。力の扱いに長けているから魔力や霊力で動いている物ならばある程度ハッキングできる、と豪語する彼女の力の使い道に多少言いたいことはあったが、この件に関しては士道の悪乗りもあったので良しとした。

(これなら!)

 強く踏みしめた足から巨大な推進力が生まれ、一気に加速した士道は列車に追いつき、最後尾車両の展望デッキに飛び乗った。呼吸を整え後ろを振り向くのと、非常事態を告げるアラームが鳴り響くのは同時だった。既に時速数百キロに達した列車からはホームの様子は見えないが、恐らくすぐにでも大量のAST隊員たちが増援に駆けつけることだろう。

(狂三……無事でいてくれ)

『心配する相手が違うでしょうが。あの子は大丈夫だから今は自分のことに集中しなさい。さっきの騒ぎでこっちも警戒態勢のはずよ』

(分かってる。十香、今行くからな……!)

 

「くっ! 1人逃したか! こちら日下部、増援はまだなの!?」

 AST隊長日下部燎子は歯噛みした。今回の作戦から外されたことで苛立ちつつも、心のどこかではDEMの実力を評価していたのだ。だからこそ同じように荒れる部下たちを宥め、ひとまずは大人しくしているようにと言いくるめた。

 それが念の為と思って見回りに来てみれば、あろうことか基地内に精霊の侵入を許すなどという前代未聞の大失態。奴らの警戒能力はザルなのかと叫び出したい気分だったが、それは後だと頭の中の冷静な自分が語りかけてくる。代わりに列車に警戒するようにと告げようとして、回線が無断でプライベートチャンネルに変更されていることに気付き、結局キレた。

「あらあら、ふたりきりはお気に召しませんの? もっと楽しみましょう」

「どこが2人よこの化け物が! わらわらと虫みたいに湧いてきやがって、あんたらの目的は何!? まさか仲間を取り返しに来たとでもいうの!?」

 全ての対応がうまくいかない苛立ちから思わず悪態を吐くも、目の前の精霊は飄々とした様子でこちらの攻撃を躱し、代わりに通路を覆い尽くすほどの弾幕を放ってくる。燎子の進路を塞ぐように立ち回っているのは明らかだ。

「わたくしに仲間などおりませんわ。仮に居ても危険を冒してまで助けに行くなんて考えられませんわね」

「だったらさっきの奴はなんなの!? 適当なこと言ってないで今すぐそこをどきなさい!」

 ここにはもうすぐ増援が到着する。となればこの場は仲間たちに任せて列車を追うのがベストだと判断するも、実行するのは不可能に近い状況だ。

 そもそも、と根本的な疑問が反芻する。常に2人セットの〈ベルセルク〉を除いて精霊同士が接触するなど今まで聞いたことがない。何か別の狙いがあるのだろうか。

「申し訳ないのですけれど、ここを退く訳には参りませんの。そういう約束ですので」

「約束だと!? 人間ですらないお前らが一体誰と手を組むってのよ! なんの目的で!?」

 少しでも気を逸らせられればと苦し紛れの質問攻めをしてみるも、答えが返ってくると期待した訳ではない。しかし、予想に反して聴こえてきた言葉に燎子は耳を疑った。

 

「貴女も無粋ですわね。殿方が大切な女性のために命を懸けているんですのよ? 手を貸すのにそれ以上の理由が要りまして?」

 

 からかっている訳でもふざけている訳でもない。そうするのが当然、というようなナイトメアの言葉に、燎子はしばらく言葉を失った。

 呆然とする彼女の横を、銀色の影が弾丸のようなスピードで追い越していった。




長くなったので2話に分けました。
次回は初陣です。
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