地獄の沙汰もキミ次第!   作:歌うたい

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プロローグ:4【相談事務所役員共】

「⋯⋯渚、疲れた」

 

 

 地獄の空とて晴れがあれば雨も曇りもあるように、朝昼あれば夜もある。

 夕暮れ迎えた事務所の、広いリビングのソファの上。

 夜もまだなのに早くも睡魔が混じった呟きが投げかけられた。

 

 

「はいはいお疲れさーん。つっても、案件はおタマさんのだけだろ。んなに疲れる事あったか?」

 

「⋯⋯渚には分からない苦労が、ある」

 

「やったった感出してるとこ悪いが、ばっちり昼寝も挟んでたやろがい」

 

「⋯⋯労働は、それだけで、疲れた気になる」

 

「引き篭もりがゲームオタクが何言ってんだか。ブラック会社務めの方々に助走つけて殴られんぞ」

 

「無職の渚に言われたくない」

 

「正論の倍返しはお止めくださいリコリスさま」

 

 

 休日のリーマンみたくゴロゴロしながら、何世代も前の携帯ゲーム機をピコピコやってるジャージ姿は、まさに堕落の極み。

 ったく怠け者はこれだから。

 おっと頭に刃のブーメラン刺さったから抜いとこ。

 

 

「渚」

 

「ん?」

 

「今日は、現世でいう土曜日。日、月、火の土曜日。七番目」

 

「そんで?」

 

「七番目。つまり、怠惰の日。だから私、ゴロゴロしなくちゃいけない」

 

「理論飛躍し過ぎ案件ですねこれは」

 

 

 無駄に「キリッ」とか擬音が付きそうな顔とセットで告げられた、この『怠惰の日』。

 リコリスいわく、これはいわゆる【七つの大罪】を一週間に当てはめたものであり、彼女にとっての一日の行動指針らしい。

 

 つまり、傲慢の日は傲慢に過ごし、怠惰の日には怠惰に過ごす。

 今日は土曜日、だから怠惰を実行してるんだとか。

 

 うん。だから何、って話だ。

 人の宗教に口を出す趣味は無いが、ただ単にわがままを通す為の免罪符だろこれ。

 

 

「で、結局俺にどうしろと」

 

「労って。あと、ご飯作って。お腹、すいた」

 

「リコリスは働き者で偉いなぁ」

 

「うん。お腹すいた」

 

「うんじゃねーよ。完全にメインそっちじゃん。『暴食の日』は金曜日じゃないのかリコリスさんや」

 

「⋯⋯大は小を兼ねる。つまり、土曜は金曜を兼ねる」

 

「新しい方程式誕生させんのやめーや」

 

 

 やっぱり免罪符じゃねーか。

 つーか曜日に関係なく、基本的に怠惰と暴食しかしてないじゃん。

 傲慢もちょっとした専門知識で浅いマウント取ってドヤるくらいだし、強欲はゲームのレアドロップ粘るくらいだ。

 憤怒っつってもプンスコって感じで、もはや憤怒(笑)ってレベルだし。

 色欲なんざ見たことないんですが。

 こっそり期待してた日々を返せよ。まだ期待してなくもなくなくないけど。

 

 

「お腹すいた⋯⋯」

 

「もう少ししたら火鈴が帰って来るだろ。それまで我慢な」

 

「火鈴⋯⋯どこに行ったの?」

 

「おタマさんの転生書類渡しに地獄政庁に行ったんだろ。ついでに買い物して帰るとも言ってたな。つか、書類書いた張本人がなんで忘れてんだ」

 

「空腹のせい」

 

「いわれなき罪を擦るな」

 

 

 家事の一手を担う火鈴が居ないからか、リコリスの怠惰に拍車が増す。

 主が動きたがらないからこそ、メイドの火鈴がせっせと政庁まで足を運んでるんだろうに、こやつめ。

 

 ちなみにリコリスがキッチンに立つ事は、火鈴に禁止されているらしい。

 メイド猫いわく、地獄に地獄を作るから、とのこと。

 あの時の火鈴、ガチで青褪めてたな。むしろ逆に興味を惹かれてるなんてこと、なくもなくなくなくないけど。

 

 

「渚の髪って⋯⋯青いね」

 

「藪から棒過ぎてビビるわ」

 

「とても、青い」

 

「⋯⋯地毛の癖に奇跡的なカラーリングしてますよ、えぇ。それがなに?」

 

「⋯⋯美味しそう」

 

「青は食欲減退の色ってことご存知か」

 

「⋯⋯⋯⋯」

 

「おいやめろ口開けたまま寄りかかってくんな怖い怖い恐い!」

 

 

 空腹が限界点まで届いたのか、目のハイライトを無くしたリコリスにベアハグをキメられてしまった。

 巨乳美少女と密着出来るとか、マジ色欲到来っすわーと鼻の下伸ばせたのならどれほど良かったでしょう。

 切り分けた果実の片方になるどころか、丸ごと飲み込まれる未来しか見えねぇ。

 

 

「バターで炒めたら⋯⋯大体美味しい説⋯⋯立証の、時」

 

「ならせめてバターとフライパン用意しろや!」

 

「いやーでもバターソテーの決め手って、実際は塩胡椒か醤油だと思うよリコ様」

 

「!?⋯⋯⋯⋯一理あり過ぎて、真理」

 

「納得の深度が、魚すら泳がん深海レベルな件⋯⋯って、おいちょい待て」

 

 

 あまりに自然な合流、俺じゃなきゃ見逃しちゃうね。

 しかし、救いの手に縋らない渚くんではない。

 すかさず有能メイドに視線でヘルプを訴えた、のだが。

 

 

「続けて、どうぞ」

 

「止めて、どうぞ」

 

 

 満面の笑みとサムズアップって、時と場によっては最高の煽りだよね、ふぁーっく。

 

 

 

 

 

 

◆ ◇ ◆ 

 

 

 

 

 さて。

 

 暴食モンスターと化したリコリスもにっこりとなるほどの、質と量が釣り合った夕食を戴きましたところで。

 複数の男女が屋根の下、腹ごなしにヤるこたぁひとつだよなぁ?

 

 

 

「料理洗濯掃除なんでもござれ! 相談所の有能枠、メイドの火鈴!」

 

「昼寝間食サボりは任せて。相談所の顔役。カウンセラーのリコリス」

 

「人間養われてなんぼ! 相談所のヒモニート、伊達 渚!」

 

「「「三人揃って、三途の川先相談事務所員共!!」」」

 

 

 ごめん五秒でバレる嘘ついた。

 

 そうだね、決して戦隊のノリを引き摺った名乗りをする事じゃないよね。

 こんな戦隊が日曜の朝に放送されようもんなら、俺が民放局をぶっ壊すわ。清き一票待ってます。

 

 

「うん、ばっちし。これからはこうやって名乗っていこうね」

 

「どこがばっちしなのか小一時間問い詰めたいんですがそれは」

 

「えーでもノリノリだったじゃん」

 

「やけくそに決まっとるだろがい!」

 

 

 自虐するには内容が目も当てられねぇよ。

 せめて相談所の雑用とかお茶汲みとかにしてくれと。

 悲しみが過ぎて、もはやなんでこれやる流れになったかさえ忘れたわ。

 

 

「なぁなぁ。やっぱ相談所の客増やすなら、妙ちきりんな名乗り作るよか、チラシなり何なりの宣伝を考える方が建設的じゃね?」

 

「でも最初に『いっそ戦隊モノみたいに名乗るとこどーよ』って言い出したのナギだったよね」

 

「うむ、火鈴よ。何故人の眼が前に付いてるかをご存知でない? 常に未来を見る為ぞ」

 

「首が後方まで回る理由をご存知でない? 過ちを繰り返すのはただの怠慢だよナギ君」

 

「ひぐぅ」

 

 

 忘れたかったのに。

 逃げ足さえも全力で掬う火鈴に、ぐうの音どころかひぐぅの音が出ちまった。

 

 

「でも真面目な話、この相談所の現状ヤバくないか? おタマさんだって三日ぶりの相談客なんだろ? 閑古鳥が鳴くどころかヘビメタ歌いまくってるレベルじゃんよ」

 

「ヘビメタ云々はよくわっかんない例えだけど、まぁ、良くはないかなぁ。転生先の相談ってのがそもそも需要少ないってのもあるけど」

 

「⋯⋯だよなぁ。相談の中身も、実際は相談っていうより、世間話みたいなもんなんだろ? "上がり"までの暇潰し的な」

 

「そだねぇ。だから普通に宣伝してもビミョーだと思うにゃー」

 

 

 気を取り直して本題に戻ってみたが、この議題はどうも前途多難っぽい。

 "三途の川先相談事務所"の看板の下で居候してる手前、繁盛というワードが無縁なほどに客が少ない現状は、なかなかにヤバいのだが。

 

 かといって物語の主人公みたいに、打開策をバチッと閃ける訳じゃない。そういう輩はみんな異世界に招待されてるって古事記に書いてあった。

 

 つまりは俺のような職なしチートなし記憶なしな男は、あーでもないこーでもないと、顔付き合わせて地道に悩むしかないのである。

 

 が、しかし。

 そんな俺達よりも、更に難しそうに唸ってる輩が居た。

 

 

「ぐぬぬ⋯⋯また全滅した⋯⋯即死呪文ばらまく雑魚は⋯⋯もはや雑魚じゃない⋯⋯」

 

「おいオーナー。おめーが会話混ざらんでどーする」

 

「渚⋯⋯いま、わたしはとっても忙しい」

 

「怠惰の日どこ行ったコラ」

 

 

 我らが室長は、俺や火鈴が悩む裏で、レトロゲームの難易度に悩んでらっしゃったよ。

 普段眠そうな紅い目が、こういう時ばっかりは爛々と輝いてた。

 

 

「大丈夫。なるように、なる」

 

「うん、そういう台詞はせめて画面から目を離して言おうな」

 

「ゲームは、一分一秒が、闘いなの」

 

「ゲームは一日一時間という言葉をご存知か」

 

 

 

 何故本来なら一番悩まなきゃいけない立場の奴が一番余裕ぶっこいてんのか、コレガワカラナイ。

 

 けど、これがリコリスという少女だ。

 ぼーっと怠惰してるか、腹空かせてるかが平常運転。

 無表情で天然で、ちょっと遠出するのにもおんぶを求めるくらいの、筋金入りの面倒臭がり屋。

 

 

「はぁ⋯⋯」

 

 

 リコリスにやる気を出させる方がよっぽど難題なんだろう。

 三ヶ月も一緒に暮らせば、良い加減諦めがつく。

 全く、そんな面倒臭がりな癖に⋯⋯なんで俺みたいな記憶喪失者を拾ったんだか。

 それが一番、よく分からない。

 

 

 

「なんとかなりゃ良いけどな」

 

「どーかな。ま、そのうち相談ブームとか来ることをお祈りしときますかー」

 

「なんて限定的な神頼みだよ。神様もびっくりだわ」

 

「神頼みなんてそんなもんだよ。じゃ、将棋でもやろっか。そろそろナギの黒星を五十の大台に載せたげなきゃね」

 

「いじめかっこ悪いぞ火鈴⋯⋯そっち飛車角抜きでオナシャス!」

 

「ナギも大概かっこ悪いぞー」

 

 

 と、一件真面目なポーズはしてみましたけども。

 相談事務所役員共は、基本的にどいつもこいつも楽観主義だ。

 俺もリコリスに負けず劣らず、働かないに越したことなし主義者であるし。

 

 

「また⋯⋯全滅⋯⋯⋯⋯ぐすっ」

 

「あの、火鈴先生。ちょっとぐらい手心を加えてくれやしませんかね⋯⋯」

 

「だが断る。ライオンは弱い獲物を狩るのにも全力出すっていうじゃん?」

 

「猫が何を言うか」

 

 

 そんなこんなで。

 三途の川先相談事務所は、今日も穏やかな一日を見送ったのだった。

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