「不良がちょっと良い事するとすげぇ善行に見える現象、そろそろ名前付いても良いよな」
つまり普段働かない奴が働くと、偉いよ凄いよと褒めそやされる未来が待ってるのだ。
ごめん一秒でバレる嘘ついた。やっとかよって顔されるだけだなうん。
なんて刺さる奴には嫌な意味で刺さるモノローグを吐き出しながらも、テクテク歩く。
今日も地獄は青空だ。三本足の
んで、そんなモノローグからして察せられると思うが現在、事務所のヒモニートこと伊達 渚は雑用任務中である。労働中である。
『ナギィさー、ちょっといい?』
『ナギか渚かハッキリしな』
『言いやすいからつい。で、今暇? 暇だよね?』
『忙し過ぎて磯貝になるぐらいだな』
『ん、じゃあちょっと三途の川までお使い行って来て。貝だし丁度良いっしょ』
『磯っつってんじゃん。そこ一番抜いたら駄目な要素じゃん』
『うっさいよーさっさと行く』
『うっす』
と、実に複雑な経緯で雑用をする羽目となった訳だ。
ニートの完全敗北である。いや別に働いたら負けとか思ってねーけど。
まぁ今日の事務所は普段通り閑古鳥が鳴いていたし、たまには身体を動かさないと健康に悪いし?
べ、別に昨日の自虐が思ったよりダメージ残ってたとかじゃないんだからね!
「⋯⋯お、そろそろか」
ざくりざくりと砂利を蹴りつつ川沿いを歩けば、川端に咲く紅い彼岸花の数が、次第に増していく。
それに比例して姿を見せるのは、ヒラヒラと飛び交う黒い揚羽蝶の群れだ。
黒い揚羽蝶。別名【地獄蝶】。
名前の通り地獄にしか生息しない蝶であり、彼岸花の蜜を好物としているからか、彼岸花の群生地である三途の川付近じゃ、そう珍しくもない。
だが地獄蝶達をちらほら見かけ始めたという事は、お使いのゴール地点まで後少し、という目印代わりでもあったのだが。
「⋯⋯"あのジジイ"、また暴走してなきゃいいけどな」
ぶっちゃけ気が滅入る。
別にちょっとした雑用さえ
むしろお使いの内容は役人に書類を届けるだけの「ひとりで出来るもんっ」なレベルなんだが。
届ける役人が出来れば関わりたくない輩なのが、唯一にして最大の問題だった。
そんでもって、嫌な予感ってのは大体当たっちゃうのが世の常。
三途の川のほとりの、『枯れた大樹』の枝の下。
地獄のカオスをぎゅっと凝縮したような危険人物が、相変わらずの平常運転をかましてらっしゃった。
「⋯⋯良いのう良いのう、たまらんのう⋯⋯なぁそこのナイスバデーなお姉さんや。地獄に来たばかりで右も左も分からず困り果てとるところ、ちょっと宜しいかのう?」
「え、こ、子供⋯⋯? えっと、君は?」
「儂かな? 儂は【
「は、はぁ⋯⋯」
(⋯⋯うわぁ、やっぱりかよ)
はーいお巡りさんこっちです。
なんて、嫌な予感が大的中な光景に、思わず交番を探したくなるのも致し方なし。
片や、身形衣服がしっかり整った、イオと名乗る白髪の少年。
片や、
媒体が違えばオネショタ好き大興奮待ったなしな絵面、ともすれば手錠をかけるべき相手も変わろうってもんだが。
生憎と、しょっぴくべきは少年の方なのだ。
見てれば分かる。ヤベー奴やねん。
「さてさて。郷に入っては郷に従えというように、あの世にもこの世にも従うべき法というのがあるんじゃよ。よってこれより、儂も儂のお務めを行わせて貰いたいんじゃが」
「えっ、きみ、何を言ってるの⋯⋯って、やだちょっと、服を引っ張んないでよ⋯⋯!」
「にょほほ。残念ながらお主の纏うその衣は、お主の罪を形としたもの。さすればあの『
傍から見れば
しかし、残念ながらこいつの言ってる話は本当のことなのである。
スケベ面全開な少年が、地獄政庁の役人であることも。
これの役目が、衣領樹の枝で罪の軽重を量るっていうのも。
例えスケベ心が見え透いていたとしても、三途の川を渡った死者は決まりに従わなくちゃならない。
郷に入らば郷に従う。あいつの言葉をなぞるのはなんか癪だが、地獄ならルール遵守は絶対だ。
「ひっ⋯⋯生皮!? い、嫌よそんなの!」
「そうじゃろうそうじゃろう。であるならば、潔く服を脱ぐのが懸命じゃろうて。さてさて、では早速そのナイスバデーを拝ませて貰うかの⋯⋯」
ルールを破った輩には役人による手痛い罰が下されるのである。
まぁ勿論それは⋯⋯役人にだって当て嵌まるんだけどな。
つー訳で、お裁きの時間です。
「だぁ〜つぅ〜えぇ〜ばぁ〜⋯⋯────」
「ひょひょひょ⋯⋯む?」
「────キィィィック!!!」
「ぐぼらぺっ!!?」
スケベ心に天罰覿面。
衣領樹の脇から突如、ダイナミックなエントリーをかました小さな人影に、色欲ショタ爺は見事に粛清された。
うーんこれは良い飛び蹴り。
変態の首が180度曲がる程の威力と躊躇のなさ、実にすばらし。弟子入りしたいね。
なんて感心する俺を他所に、ちっこい人影は飛び蹴りだけで済ませず、更にイオの胸倉を引っ掴んで揺さぶっていた。
往復ビンタもセットで。
「こらーっ! いつからっ、おんしがっ、死者のっ、脱衣までっ、やるようになったって、言うんじゃっ!」
「ぼふっ、げひょっ、ぬごっ、ごへっ」
「罪人の衣を剥ぐのはこの【
「まっ、し、死ぬ、ぎ、ギブギブ、ギブアッ⋯⋯ぐほぉぉぉんっ」
きったない断末魔を聞き届けて満足したのか、むふーっと鼻息を鳴らしたちっこい人影。
濡れ羽色の癖のない長髪を翻す彼女は、イオよりも更に幼い見た目をしていた。
少女、どころか、幼女である。
青い綿の生地で出来た法衣を纏っているものの、いかんせんサイズが合ってない。
袖は余りまくってるし、胸元に至っては普通に御開帳してる。ブラジャー代わりの包帯が無けりゃ彼女の方がしょっぴかれていただろう。
雑にぶら下げた首飾りが浮いている。
言動こそ年寄りのそれだが、服装も容姿も、彼女は全てが幼かった。
「ほんにこの爺は⋯⋯ひとが厠に行っとる隙にとんだ狼藉⋯⋯度し難し。ウチは激おこじゃぞい、全く」
「爺の相方役は大変そうだな、エヴァ」
「んむ? おおっ、ナギではないか。元気そうじゃの!」
こっちの呼びかけに、パッチリと大きな薄紫の目が振り向く。
さっきまでの残虐コンボを叩き込んだとは思えないほど、にぱっとした笑顔の何と愛らしいことか。
「いやいや、エヴァの天真爛漫さにゃ霞むって」
「む⋯⋯ひょっとしてそれはウチを子供扱いしとるのか?」
「ははは、まさかぁ」
「んむ。ウチは奪江婆、読んで字のごとくおばあじゃ! 年寄りを子供扱いなぞ、ライオンを猫じゃらしであやすが如く所業ぞ」
「えーえー分かってますとも。あ、これ差し入れのどら焼きな」
「わーい!」
この反応ですよ。
見た目は子供、頭脳も子供。実年齢も実は幼い。
つまりはただのロリである。
ただのロリだが、お姉さんどころかおばあさんぶりたがっているのである。
違法ロリババア。あざとい。だがしかし可愛い。
可愛いは正義なんだって、古事記にも聖書にもポーツマス条約にも書いてある。
まぁ、ただのロリっつっても、人間じゃなくて"鬼"なんですがね。
人間程度じゃ軽ーくぶっ飛ばされる。故にエヴァを怒らせちゃあいけない。
軽い気持ちでやった腕相撲で、真理の扉も開いてないのに片腕持ってかれそうになった三週間前、心に刻んだことだ。
「いやちっとは儂の心配せんかい」
「チッ、生きてたかショタ爺」
「舌打ち!?」
あぁ、ついでだけど。
即死級のコンボ食らってもあっさり息を吹き返したこの、見た目は子供、頭脳は爺、エロへの興味は少年ハートなショタ爺も鬼であるらしい。
「ぬっ、一時間は起き上がれぬようにしたんじゃがの。しぶとい爺じゃ」
「ほんに近頃のガキは冗談というものが分かっとらん。ジジイのちょっとしたお茶目ぐらい見逃さんか」
「なーにがお茶目じゃ、ウチの目が黒い内はおんしのはれんちは許さんぞ! それが先代様との約束じゃもん!」
「チィッ、あの婆め、余計な事を吹き込みおってからに⋯⋯くうう、老い先短い老骨の数少ない楽しみと言うのに」
「む、なんじゃその怨みがましそうな目は。さては仕置きが足りなかったかの、ジジイめ」
「フン、尻の青い小娘がぬかしおる。ええじゃろ、今日という今日は、儂の手でその生意気な青尻を真っ赤に染めてやろうぞ!」
合法ショタ爺、イオこと懸衣王。
違法ロリ婆、エヴァこと奪江婆。
三途の川を渡った死者の罪悪を鑑定する、地獄政庁の役人コンビ。
それが、まぁ、このいがみ合ってるお二人⋯⋯って訳なんだけども。
「⋯⋯なぁ、コントしてるとこ悪いんだけどさ」
「「ん?」」
「あの人、いつまでも放ったらかしは可哀想じゃね?」
「「⋯⋯あっ」」
同時に、政庁にとっても結構なトラブルメーカーであるとかなんとか。
うん。ご覧の通り過ぎてね。うん。