地獄の沙汰もキミ次第!   作:歌うたい

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プロローグ:5【合法ショタ爺と違法ロリ婆】

「不良がちょっと良い事するとすげぇ善行に見える現象、そろそろ名前付いても良いよな」

 

 

 つまり普段働かない奴が働くと、偉いよ凄いよと褒めそやされる未来が待ってるのだ。

 ごめん一秒でバレる嘘ついた。やっとかよって顔されるだけだなうん。

 

 なんて刺さる奴には嫌な意味で刺さるモノローグを吐き出しながらも、テクテク歩く。

 今日も地獄は青空だ。三本足の(カラス)とか普通に飛んでるけど。

 

 

 んで、そんなモノローグからして察せられると思うが現在、事務所のヒモニートこと伊達 渚は雑用任務中である。労働中である。

 

 

『ナギィさー、ちょっといい?』

 

『ナギか渚かハッキリしな』

 

『言いやすいからつい。で、今暇? 暇だよね?』

 

『忙し過ぎて磯貝になるぐらいだな』

 

『ん、じゃあちょっと三途の川までお使い行って来て。貝だし丁度良いっしょ』

 

『磯っつってんじゃん。そこ一番抜いたら駄目な要素じゃん』

 

『うっさいよーさっさと行く』

 

『うっす』

 

 

 と、実に複雑な経緯で雑用をする羽目となった訳だ。

 ニートの完全敗北である。いや別に働いたら負けとか思ってねーけど。

 

 まぁ今日の事務所は普段通り閑古鳥が鳴いていたし、たまには身体を動かさないと健康に悪いし?

 べ、別に昨日の自虐が思ったよりダメージ残ってたとかじゃないんだからね!

 

 

「⋯⋯お、そろそろか」

 

 

 ざくりざくりと砂利を蹴りつつ川沿いを歩けば、川端に咲く紅い彼岸花の数が、次第に増していく。

 それに比例して姿を見せるのは、ヒラヒラと飛び交う黒い揚羽蝶の群れだ。

 

 黒い揚羽蝶。別名【地獄蝶】。

 名前の通り地獄にしか生息しない蝶であり、彼岸花の蜜を好物としているからか、彼岸花の群生地である三途の川付近じゃ、そう珍しくもない。

 

 だが地獄蝶達をちらほら見かけ始めたという事は、お使いのゴール地点まで後少し、という目印代わりでもあったのだが。

 

 

「⋯⋯"あのジジイ"、また暴走してなきゃいいけどな」

 

 

 ぶっちゃけ気が滅入る。

 別にちょっとした雑用さえ(だる)いとかで滅入ってる訳じゃない。

 むしろお使いの内容は役人に書類を届けるだけの「ひとりで出来るもんっ」なレベルなんだが。

 届ける役人が出来れば関わりたくない輩なのが、唯一にして最大の問題だった。

 

 

 そんでもって、嫌な予感ってのは大体当たっちゃうのが世の常。

 三途の川のほとりの、『枯れた大樹』の枝の下。

 地獄のカオスをぎゅっと凝縮したような危険人物が、相変わらずの平常運転をかましてらっしゃった。

 

 

「⋯⋯良いのう良いのう、たまらんのう⋯⋯なぁそこのナイスバデーなお姉さんや。地獄に来たばかりで右も左も分からず困り果てとるところ、ちょっと宜しいかのう?」

 

「え、こ、子供⋯⋯? えっと、君は?」

 

「儂かな? 儂は【懸衣王(けんえおう)】という者じゃよ。しかしその名はどうも堅苦しくての、気軽にイオ君とでも呼んで貰えると、儂、超嬉しい」

 

「は、はぁ⋯⋯」

 

 

(⋯⋯うわぁ、やっぱりかよ)

 

 

 はーいお巡りさんこっちです。

 なんて、嫌な予感が大的中な光景に、思わず交番を探したくなるのも致し方なし。

 

 片や、身形衣服がしっかり整った、イオと名乗る白髪の少年。

 片や、白絹(しらぎぬ)を一枚纏っただけの、スタイルの良い女性。

 

 媒体が違えばオネショタ好き大興奮待ったなしな絵面、ともすれば手錠をかけるべき相手も変わろうってもんだが。

 生憎と、しょっぴくべきは少年の方なのだ。

 見てれば分かる。ヤベー奴やねん。

 

 

「さてさて。郷に入っては郷に従えというように、あの世にもこの世にも従うべき法というのがあるんじゃよ。よってこれより、儂も儂のお務めを行わせて貰いたいんじゃが」

 

「えっ、きみ、何を言ってるの⋯⋯って、やだちょっと、服を引っ張んないでよ⋯⋯!」

 

「にょほほ。残念ながらお主の纏うその衣は、お主の罪を形としたもの。さすればあの『衣領樹(えりょうじゅ)』の枝に引っ掛けて、その罪の重さを測らねばならん。服が無理であるなら、代わりにお主の生皮を剥いで測るのが決まりとなっとるんじゃが⋯⋯ええんかのう?」

 

 

 傍から見れば幼気(いたいけ)なボーイがお姉さんにねだってるだけだが、会話の内容はただの脅迫だった。

 

 しかし、残念ながらこいつの言ってる話は本当のことなのである。

 スケベ面全開な少年が、地獄政庁の役人であることも。

 これの役目が、衣領樹の枝で罪の軽重を量るっていうのも。

 

 例えスケベ心が見え透いていたとしても、三途の川を渡った死者は決まりに従わなくちゃならない。

 郷に入らば郷に従う。あいつの言葉をなぞるのはなんか癪だが、地獄ならルール遵守は絶対だ。

 

 

 

「ひっ⋯⋯生皮!? い、嫌よそんなの!」

 

「そうじゃろうそうじゃろう。であるならば、潔く服を脱ぐのが懸命じゃろうて。さてさて、では早速そのナイスバデーを拝ませて貰うかの⋯⋯」

 

 

 ルールを破った輩には役人による手痛い罰が下されるのである。

 まぁ勿論それは⋯⋯役人にだって当て嵌まるんだけどな。

 つー訳で、お裁きの時間です。

 

 

 

「だぁ〜つぅ〜えぇ〜ばぁ〜⋯⋯────」

 

「ひょひょひょ⋯⋯む?」

 

「────キィィィック!!!」

 

「ぐぼらぺっ!!?」

 

 

 スケベ心に天罰覿面。

 衣領樹の脇から突如、ダイナミックなエントリーをかました小さな人影に、色欲ショタ爺は見事に粛清された。

 

 うーんこれは良い飛び蹴り。

 変態の首が180度曲がる程の威力と躊躇のなさ、実にすばらし。弟子入りしたいね。

 

 なんて感心する俺を他所に、ちっこい人影は飛び蹴りだけで済ませず、更にイオの胸倉を引っ掴んで揺さぶっていた。

 往復ビンタもセットで。

 

 

「こらーっ! いつからっ、おんしがっ、死者のっ、脱衣までっ、やるようになったって、言うんじゃっ!」

 

「ぼふっ、げひょっ、ぬごっ、ごへっ」

 

「罪人の衣を剥ぐのはこの【奪江婆(だつえば)】のお役めぞ! おんしは枝に服を干すだけじゃろ! 遂にボケたか懸衣王!」

 

「まっ、し、死ぬ、ぎ、ギブギブ、ギブアッ⋯⋯ぐほぉぉぉんっ」

 

 

 きったない断末魔を聞き届けて満足したのか、むふーっと鼻息を鳴らしたちっこい人影。

 濡れ羽色の癖のない長髪を翻す彼女は、イオよりも更に幼い見た目をしていた。

 

 少女、どころか、幼女である。

 

 青い綿の生地で出来た法衣を纏っているものの、いかんせんサイズが合ってない。

 袖は余りまくってるし、胸元に至っては普通に御開帳してる。ブラジャー代わりの包帯が無けりゃ彼女の方がしょっぴかれていただろう。

 

 雑にぶら下げた首飾りが浮いている。

 言動こそ年寄りのそれだが、服装も容姿も、彼女は全てが幼かった。

 

 

「ほんにこの爺は⋯⋯ひとが厠に行っとる隙にとんだ狼藉⋯⋯度し難し。ウチは激おこじゃぞい、全く」

 

「爺の相方役は大変そうだな、エヴァ」

 

「んむ? おおっ、ナギではないか。元気そうじゃの!」

 

 

 こっちの呼びかけに、パッチリと大きな薄紫の目が振り向く。

 さっきまでの残虐コンボを叩き込んだとは思えないほど、にぱっとした笑顔の何と愛らしいことか。

 

 

 

「いやいや、エヴァの天真爛漫さにゃ霞むって」

 

「む⋯⋯ひょっとしてそれはウチを子供扱いしとるのか?」

 

「ははは、まさかぁ」

 

「んむ。ウチは奪江婆、読んで字のごとくおばあじゃ! 年寄りを子供扱いなぞ、ライオンを猫じゃらしであやすが如く所業ぞ」

 

「えーえー分かってますとも。あ、これ差し入れのどら焼きな」

 

「わーい!」

 

 

 この反応ですよ。

 見た目は子供、頭脳も子供。実年齢も実は幼い。

 つまりはただのロリである。

 ただのロリだが、お姉さんどころかおばあさんぶりたがっているのである。

 

 違法ロリババア。あざとい。だがしかし可愛い。

 可愛いは正義なんだって、古事記にも聖書にもポーツマス条約にも書いてある。

 

 まぁ、ただのロリっつっても、人間じゃなくて"鬼"なんですがね。

 人間程度じゃ軽ーくぶっ飛ばされる。故にエヴァを怒らせちゃあいけない。

 軽い気持ちでやった腕相撲で、真理の扉も開いてないのに片腕持ってかれそうになった三週間前、心に刻んだことだ。

 

 

 

「いやちっとは儂の心配せんかい」

 

「チッ、生きてたかショタ爺」

 

「舌打ち!?」

 

 

 あぁ、ついでだけど。

 

 即死級のコンボ食らってもあっさり息を吹き返したこの、見た目は子供、頭脳は爺、エロへの興味は少年ハートなショタ爺も鬼であるらしい。

 

 

「ぬっ、一時間は起き上がれぬようにしたんじゃがの。しぶとい爺じゃ」

 

「ほんに近頃のガキは冗談というものが分かっとらん。ジジイのちょっとしたお茶目ぐらい見逃さんか」

 

「なーにがお茶目じゃ、ウチの目が黒い内はおんしのはれんちは許さんぞ! それが先代様との約束じゃもん!」

 

「チィッ、あの婆め、余計な事を吹き込みおってからに⋯⋯くうう、老い先短い老骨の数少ない楽しみと言うのに」

 

「む、なんじゃその怨みがましそうな目は。さては仕置きが足りなかったかの、ジジイめ」

 

「フン、尻の青い小娘がぬかしおる。ええじゃろ、今日という今日は、儂の手でその生意気な青尻を真っ赤に染めてやろうぞ!」

 

 

 合法ショタ爺、イオこと懸衣王。

 違法ロリ婆、エヴァこと奪江婆。

 三途の川を渡った死者の罪悪を鑑定する、地獄政庁の役人コンビ。

 それが、まぁ、このいがみ合ってるお二人⋯⋯って訳なんだけども。

 

 

「⋯⋯なぁ、コントしてるとこ悪いんだけどさ」

 

「「ん?」」

 

「あの人、いつまでも放ったらかしは可哀想じゃね?」

 

「「⋯⋯あっ」」

 

 

 同時に、政庁にとっても結構なトラブルメーカーであるとかなんとか。

 

 うん。ご覧の通り過ぎてね。うん。

 

 

 

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