ライバルたちを絶望させ、見る者の目を眩ませる。
超光速の粒子。
差は、5バ身――!!
残り、200!
耳障りな実況が、遠くなる。
もう十分だ。
誰かが、脳内で囁く。
うるさい、心地よい声で嘯くな。
もう、流せばいい。
次のレースはあって、当然、そのためのトレーニングだってある。
研究だってしなくてはいけない。
必要ではない疲労を残すなど、愚の骨頂。そんなことは、メイクデビューしたてのウマ娘だってわかっていることだ。
お前が分からないはずがないだろう? アグネスタキオン。まだ、先があるだろう、お前には。
競っているのは、タイムではない。着順に過ぎない。
次を、先を考えるのなら、あとはもう、流すのがベターであり、ベストだ。
これは、決して、最後のレースではない。
余力が残せるのなら、残すのは当たり前だ、考えるまでもない。
そう、考えるまでもない。
もはや、呼吸は激しく乱れ、心拍数も跳ね上がっている。酸素が足りていない。いかにウマ娘といえど、無酸素に近い状態で全力疾走し続けることなど出来ない。有酸素生物の限界と言っていい。
筋肉は苦情を、足の骨は軋みを上げてくる。
話が違う!
全身が、そう訴える。
意識が遠のきそうになる。
あぁ、そうだ。あともう、流せばいい。
そうすれば、うるさい実況も、心地よく聞こえることだろう。
自分の耳に聞こえる、小さくなった歓声だって、きっと、聞こえないほどに小さくなる。
タキオン、タキオン、アグネスタキオン!! と、うるさいのに心地よい声。
おかしいな。
歓声なんてものは、そこまで身体に影響を及ぼすものではないと思っていた。
思い込みによる能力向上など、実証はされていても、大勢に影響を及ぼすことなど無いと思っていたのに。
雑音のような歓声のなかに、聞き知った声が耳に響く。
あぁ、モルモット君・・・
トレーナー・・・
そんなに叫ばなくとも、聞こえているとも。
分かっているとも、全部。
私には、まだまだ多くのレースがあって、トレーニングと研究があって、ウマ娘人生があるんだ。
話が違うと訴える、私の体、わかっているとも。あぁ、存分にわかっているとも。
ここが限界だ。
これ以上は、体が持たないだろう。今、私は最高の走りをしていて、既に2着に圧倒的な差をつけている。
あぁ、だから、わかっているとも。
脚に力がこもる。
これ以上は無理だという本能を、理性でねじ伏せる。
呼吸は千々に乱れている。それでも、フォームは崩さない。軋みを上げる骨と、酸素を渇望する筋肉にムチを入れる。
まだ、行ける。
研究成果は、そう言っている。限界を否定する、自分の肉体の声は信じない。
ここが限界なのだとすれば、ここからなのだ。
視界が白くなってくる。
それでも、残りの距離を、今以上で走り抜ける必要がある。
歓声を送る観客よ、出会ったときと変わらない、いや、少し濃くなったかな? 同じような瞳で私を見るトレーナーよ。
共に行こう、『限界の先へ』――
異次元から現れ、瞬く間に駆け抜けていった。
ライバルたちを絶望させ、見る者の目を眩ませる。
超光速の粒子。
そのウマ娘の名は、アグネスタキオン――