アサルトリリィ夢結梨璃、最新作を投稿しました。
絶体絶命の、絶望的な状況で、それでも梨璃を救うために。夢結は、夢結を越えます。

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出来損ないのヒーロー

※ブラウザ版Pixivで読むことをお勧めいたします。

[newpage]

「――ッ、ふぅ……」

梨璃が、覗いていたグングニルから顔を離した。

「お疲れ様、梨璃」

そんな梨璃に飲み物を手渡しながら、そう声をかけると、ありがとうございます、とお礼を言いながら、ペットボトルの蓋を開けて、中のスポーツドリンクを飲み始めた。そして、「お姉様みたいに、なかなか的に弾が当たらないです……」と、力なく私の横に座る。

「それは仕方がないわよ、私も最初の頃は当たらなかったもの」

そう励ますと、「うぅ……、ありがとうございます」と梨璃が私に寄りかかってきた。まだ練習は終わってないのだけど、と言おうと思ったのだけど、あまり根を詰めすぎるな、とは梅の言葉もあるし、多少甘やかすことにする。

今日は一柳隊は非番で、皆買い物に行ったり、猫を見に行ったりと、それぞれ出払っている。

一方の私は、別にそういう予定がある訳でもないし、この前のようにまた梨璃達に迷惑をかけないようにする為にも、自己研鑽に時間を割こうと決めていた。

 そこに、梨璃が「お姉様みたいなリリィに近づくために、色々と教えてください!」……なんて言うものだから、今こうして梨璃に射撃の仕方を教えているのだけど。

 梨璃が撃った後の的についている弾痕を見る。確かに昔よりは当たるようになったとはいえ、まだまだ明後日の方向に飛んでいるものも少なくない。基本的には私も梨璃も前のことが多いから、それほど困ることもないけれど、もう少し精度は欲しいところではある。

「でもそうね、前よりはだいぶ良くはなったけれど、もう少し心を落ち着かせなさい。実戦で響くわよ」

「は、はい! 頑張ります!!」

「それじゃあ、再開しましょうか」

「はい!」

 そう言って、梨璃の射撃練習を再開した。

 それからしばらく経った頃、突如としてヒュージが襲来した鐘の音が鳴り響いた。

「お姉様……!」

「えぇ……」

 今日は非番だからすぐに動くことはないけれど、それでもこの鐘の音を聞くと、緊張してしまう。

 とはいえ、今日の当番は確かアールヴヘイムや、ブリュンヒルデラインも組まれていたはずだから、呼ばれるという事はないと思うけれど、この前みたいな大量強襲の可能性も捨てきれない。

「……大丈夫でしょうか」

 不安そうに外を見つめる梨璃の肩に手を置いて、「大丈夫よ、今日は天葉たちもいたはずだし、きっと」と声を掛ける。本音を言うなら、いの一番に飛び出したいところだけれど、梨璃に余計な心配はかけたくはなかった。

「そうですよね……、きっと……」

 それでも不安そうな表情を浮かべながら、梨璃が言う。まあ、梨璃に「大丈夫」と言っておきながら、私も私で不安なのだけど。でも、あの人たちなら、きっと……。

 

+++

 

 それからまたしばらく経った頃、緊急事態を知らせる鐘がもう一度鳴った。そうしてすぐさま校内放送が入った。

『先ほど現れたケイブの数が、想定より多いため、本日非番のリリィの皆さんも、至急戦闘区域に向かってください』

「お姉様!!」

「えぇ、行きましょう梨璃!!」

 私も壁にかけていたブリューナクを引っ掴んで、まずは誰かいないかと、一柳隊の控室に走る。そして、一柳隊の控室の扉を開けると、やはり今日は非番だからか、中には誰もいなかった。

「ど、どうしましょうお姉様……!」

「ひとまず私たちも戦闘区域に向かいましょう。私から皆に連絡を取ってみるわ」

「お、お願いしますお姉様!!」

 そうして校舎を飛び出して、私と梨璃は二人戦闘区域に向かって走る。その間に、私は梅や神琳さんたちに連絡を取るべく電話をかけて回る。しかし、ヒュージが襲来しているからか、なかなか繋がらない。この分では、一柳隊の皆と合流するには、かなりの時間がかかるだろう。

「梨璃」

「はい、お姉様!!」

「できる限り私から離れないで。一柳隊の皆が揃うまで、なんとか二人で凌ぐわよ」

「はっ、はい! 頑張ります!!」

 梨璃が必死に頷くのを見て、少しだけ笑ってしまった。いつでも一生懸命で、全力なこの子だからこそ、こんな状況でもなんとかなる気がしてしまう。

 しばらく走り続けると、徐々に爆発音や、発砲音が遠くからに聞こえ始めてきた。もうそろそろ、ヒュージが襲い掛かってきてもおかしくはない。

「梨璃、気を付けて」

「はい!」

 そうすぐ後ろを走る梨璃が頷いた時、その更に後ろでヒュージが茂みから飛び出してきたのが見えた。

「梨璃!!」

「ふぇっ――」

 急いで反転して、そのヒュージに切りかかる。体勢を整え切れていなかったヒュージの弱点に、うまくブリューナクの刃が噛みついて、ひとまず事なきを得た。

「梨璃、気を付けて……来るわよ」

「はい!」

 そう言うのとほぼ同時に、茂みから四体のヒュージが飛び出てきた。どれも小型で、私と梨璃なら手を焼くほどの相手ではなさそうだ。

「行くわよ梨璃!!」

「はい、お姉様!!」

 そうして、私たちはそのヒュージに、それぞれの刃を食い込ませに走った。

 

+++

 

 けれど、そんなヒュージの数は、私たちの戦闘音を聞きつけてか、どんどんと数が増えていく。近くにケイブがあるのか、という程湧き出てくる。こういう時に、一柳隊が揃っていれば、すぐに探しに行くところなのだけど、如何せん二人ではこの数を捌くので手一杯だった。

 そうしてその残党狩りに手を焼いていると、後ろから「きゃっ」という梨璃の短い悲鳴が聞こえた。

「梨璃ッ?!」

 手早く残っているヒュージを片付けて、急いで梨璃に駆け寄ると、梨璃のソックスが破れて、そこから赤い血が滲んでいた。

「すみません、お姉様……でも、私はまだ戦えます!」

 梨璃はそう言うけれど、ただでさえ、その場所以外でも擦り傷や切り傷が目立つのに、これ以上無理に戦わせることはできない。それに、立ち上がる時に、「つ……」と小声で呟いて顔を顰めてもいるし。このままでは梨璃の身が危ない。とはいえ、ここから学院までは距離がある。

「……梨璃、しっかり掴まってなさい」

「え――?」

 梨璃が聞いてくるよりも早く梨璃を抱き上げて、そのままマギに乗って高く跳躍する。ひとまず、ヒュージのいないところへ逃げ込んで、応急手当てをしないといけない。

 宙から見回して、見晴らしの良さそうな森に囲まれた草原を見つけた。そして、そこまで岩場を飛び移って、そこに降り立つ。念のため木の裏で梨璃を下ろして、応急処置を行う。

「すみません、お姉様……」

 少し潤んだ声で梨璃が謝ってくる。

「あの数に囲まれたんだもの、仕方がないわ。けれど、あそこまで捌けたのはあなたのおかげなのだから、それ程気にしなくても良いわ」

「ありがとうございます、お姉様」

 そう言った梨璃が、途端に表情を強張らせた。

「どうしたの梨璃」

「お、お姉様……あれは――」

 梨璃が指す方を見ると、そこには特型ヒュージらしきヒュージが、こちらに向かってゆっくり向かってきていた。

「……梨璃はここにいなさい、私が相手をするわ」

「でもそれじゃ、お姉様が!!」

 飛び出そうとした私に、今までに聞いたことの無いほど震えた声で、梨璃が叫ぶ。そんな梨璃に振り返って言う。

「大丈夫よ梨璃、あなたのことは、私が守るわ」

 そう言って前に視線を戻す。ヒュージは少しずつこちらに向かってきていた。

あのヒュージを、梨璃に近づけさせてはいけない。今、あの子を守れるのは、私しかいないのだ――そう思った時、身体が熱くなる感覚が走った。これはそう、ルナティックトランサーが発動するときの、あの感覚。

「お姉様……っ!!」

 梨璃のそんな叫びで、その感覚が嘘じゃ無いことを確信する。けれど、今までと違うことは、それでも私の内心は驚くほど穏やかだった。もう一度だけ梨璃の方を振り返って言う。

[newpage]

 

「梨璃、私はあなたのシュッツエンゲルよ、信じて。それに、今の私は、あの頃の私ではないわ」

 

[newpage]

 そう言い残して、私は特型ヒュージに向かって走り出した。その心の中に、今までのようなヒュージに対しての恨みや、美鈴様への悔恨の念はなかった。ただひたすら、梨璃を助けることだけを考えていた。

――梨璃、見守っていて頂戴。

 そう考えながら、ヒュージの目の前で飛び上がって、ブリューナクを振り下ろす。

「はァ――!!」

 鈍い音が響いて弾き返されてしまうが、それでももう一発、さらにもう一発と反動を活かして叩き続ける。何とか今は梨璃に意識を向けないようにさせる事が重要だった。

 煩わしそうに唸り声をあげて、ヒュージが腕を振り上げて、そんな私に殴りかかってくる。それをブリューナクの腹で受け止めるも、受け止めきれずに地面に叩きつけられてしまう。

「……くッ!!」

 それでも私は立ち上がって、また再びヒュージに向かって攻撃を続ける。どうにかして、この最悪な状況を断ち切らなければならない。そして、美鈴お姉様を亡くした時のようなことは、もう二度と見たくはない。だからこそ、私はこのヒュージを倒し切らなければならない。その一心で、刃を振るい続けた。

 

+++

 

「っ…………」

 そうしてもうどれくらい経っただろう。我ながら、特型ヒュージ相手によく戦えている方だと思っている。きっとこうして戦えているのも、何度も戦ってきている経験があるからこそだとすごく思う。けれど、もうそろそろブリューナクも、私自身も限界だった。

 けれどそれは、ヒュージもそうだった。あともう数発攻撃を弱点に入れる事ができれば、ヒュージももう倒しきれそうだった。

「……相手が、悪かったわね――ッ!!」

 地面に突き刺していたブリューナクをもう一度引き抜いて、構え直す。マギクリスタルコアが弱々しく光りだす。これが本当に最後だ。

 もう何度目かの跳躍をして、攻撃を続けて破れたヒュージの外殻の割れ目に向かって、思い切りブリューナクを振り下ろす。乾いた、何かが割れる音が響いて、そのヒビがさらに広がる。この幅なら、もう一度叩き込む事ができれば、倒せる、と言う確信が生まれる。

 けれど、ヒュージも死力を尽くして攻撃をしてくる。消耗してヒビが入っているブリューナクで攻撃を受けることはできないから、見切ってかわす。そして、もう一度叩き込む隙を見計らう。

 ヒュージもヒュージで、最後の抵抗をするかのように、攻撃の手をなかなか緩めてはくれない。けれど、どこかで必ず隙が生まれる――そう信じて、ひたすら攻撃をかわし続ける。

待ちに待ち続けて、いよいよその瞬間が訪れた。

 私の回避の動きに、とうとう追いつけなくなったヒュージが、体勢を崩した。それを見逃さず、もう一度跳躍をし直して、そのヒビに狙いを素早く定めた。

「これで――終わりよッ!!」

 全力を尽くしたブリューナクの重い一撃は、ヒビに入り込み、ヒュージを貫いた。そして、急いで飛び上がって、ヒュージから離れる。

「ウグオオオォォォ……」

 まるで悲鳴を上げるかのような唸り声をあげて、ヒュージは崩れ落ちた。そのヒュージが動き出すことは、もう二度となかった。

「終わった……のね……」

 ブリューナクを地面に刺して、そう呟く。そして、そのまま崩れ落ちたい衝動を抑えて、梨璃のいる方に、足を引き摺りながら向かう。

「お姉、様……!!」

「梨璃……っ」

そう梨璃の名前を呼びながら、私は梨璃に抱きかかえられるように抱きしめた。

「梨璃、私……私……っ!」

言いたいことが上手くまとまらない。けれど、そんな私を梨璃が優しく抱きしめ返してくれた。そして優しい声で言う。

「大丈夫です、私はここにいますから……!」

「あっ…………あっ……」

 梨璃を守れた。それだけで本当に良かった。そう思ったら、涙が出てきた。

「お姉様、本当にありがとうございます。また、お姉様に護ってもらっちゃいました」

「……全く、あなたって子は――」

 何か言おうとして、もうそれが限界だった。何もかも気が抜けてしまって、梨璃に倒れ込んだ。

「お姉様ッ?!」

 そんな梨璃の叫びも遠くなっていく。けれど、梨璃の温みはずっとそばにあるような、そんな感覚が、なんだかすごく安心した。

 

 

「ん……」

 次目が覚めた時、そこはもう外ではなく、どこかの部屋に寝かされていた。

「あっ、お姉様、おはようございます」

 そんな声がしてその方を向くと、朧げながら、すぐ隣で、同じように横たわっている見慣れた桃色の髪がぼやけて見えた。

「梨璃……、ここは……」

「百合ヶ丘の医務室です、すぐに先生を呼んできますね――」

 そうベッドから出て行こうとする梨璃の服の裾を、なんとなくつまんでみる。すると、梨璃は何も言わずに、また布団の中に入ってきた。

 そんな梨璃に、「ねえ……梨璃」と呼びかけてみる。「はい、なんですかお姉様」と優しい声で梨璃が答えてくれる。それが少しだけ嬉しかった。そして何気なしにこんなことを聞いてみる。

「……少しぐらい、あなたのシュッツエンゲルらしいところ、見せられたかしら」

 すると梨璃はすぐに、「はい、すごくかっこよかったです!」と答えてくれた。

「そう……なら良かったわ……」

 そう呟いて、私はまた目を瞑った。本当にシルトが梨璃でよかった、そんなもう何度も思っている事を、改めて思いながら。

 

+++

 

「んぅ――くっ……」

 身体の痛みで目を覚ました。見回すと、カーテンの隙間から、太陽の光が漏れてるのが目に入った。そして、私の横には、梨璃が気持ちよさそうな寝顔を浮かべていた。そんな梨璃の手をそっと握って、また梨璃に心配をかけてしまった、と反省する。

 確かに梨璃を守る為だったとはいえ、もう少し冷静に考えれば、距離はあっても撤退できない距離ではなかったし退くと言う判断もできたはず。けれど、そこでそうしなかったのは、冷静さを欠いてしまっていたということ。精進しなければならない。

「ん……あ……おねえさま……おはようございます」

 なんだか間延びした声で言いながら、梨璃が目を覚ました。

「えぇ、おはよう梨璃……っ」

 そう言い終わらないうちに、梨璃がぎゅっと抱きしめてきた。

「梨璃?」

「えへへ……明日お姉様が目を覚まさないんじゃないか、と思ったら眠れなかったんです……。だからすごく安心しました」

 顔を埋めてくる梨璃に、まったく、と呟きながらも、そっと頭を撫でる。

「でも、また梨璃には心配をかけてしまったわね……」

「私こそ、またお姉様に助けて貰っちゃいました」

 あはは……と少し恥ずかしそうに頬を掻く梨璃を見て、何だか少し言いたくなってしまった。

「あなたは一人で無茶しすぎなのよ、少しぐらい私を頼りなさい」

すると、梨璃も負けじと「それはお姉様もです! またルナティックトランサーを使うなんて、どうなるかと思ったんですよ?!」と言い返してきた。

仕方が無かったでしょう、それはあなたが――、そう言おうとして、ぐっと我慢して、その代わりに 「梨璃の分からず屋」と柄でも無いことを言って目を瞑る。梨璃も梨璃で、「お姉様なんかもう知りません!!」と言って、布団の中に潜ったのが動きで分かった。けれど、私も梨璃も、繋いでいた手を離そうとはしなかった。そんな朝を、梨璃と迎えた。

 

 

 そのあと梨璃から聞いた話なのだけど、私が倒したあのヒュージが機能停止したあと、襲撃してきていたヒュージたちが、一斉に撤退を始めたのだそうだ。

 そして、そんなヒュージを不思議に思った他のレギオンの子達が、原因を探っている途中で、私をおぶってなんとか歩いていた梨璃を見つけて、百合ヶ丘まで運んでもらった――そう言う経緯で、私たちはなんとか助かった、と言うわけらしい。

 一通り梨璃と私の検査が終わって、医務室から出ると、そこにはいつものように、一柳隊の皆が集まって、やいのやいのと声をかけてきた。皆無事のようで安心したのだけど、楓さんからの猛攻が、いつも以上に酷かったのは、ここだけの話。……梨璃は私のものだと、何度言ったら分かるのかしら、楓さんは。

  


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