永い後日談のヒーローアカデミア~黒絢を添えて~ 作:アルテリア
「既にこの身体が死んでしまった物ならば、もう死を恐れる事は無いのだ。
生きてる間に守れなかったものを、今度は守れる」と。
最も責任感のある少女は思った。
「この子達には統率する者がいなければいけない。
同じ場所で目覚めた姉妹として、リーダーとして守らなければ。」
最も冷静な少女は思った。
「アンデッドになったからといって死を忘れてはいけない。
誰も死んでしまわない様に、きっちりと作戦を立てていこう。」
最も幼い少女は思った。
「私達はまだ狂ったこの世界で、生きなければならないのだろうか。
せめて狂ってしまわない様に、皆の心を守ろう。」
時はダフネが【Lia Fail】を撃つ数分程前、生徒達がUSJのあちこちに散り散りに飛ばされて少ししたあたりの時点まで遡る。
相澤は相変わらず多数のヴィランを相手に戦闘していた。まだ戦闘が始まって数分であるが、既に10人以上の人間を気絶させていた。
「フッ……!」
首魁と思しき手だらけの人物まで接近できるように道を開き、その道を走り抜け、肘を鳩尾に叩き込もうとした。
だがその腕は敵に届く事なく間に割って入って来た仮面をつけた黒コートの子供に阻まれた。
「……はぁ、エンブリオ。お前が掴んでどうすんだよ。俺の方が掴んだ時にダメージ与えられるだろ」
『これは失礼しました。ですが防げるとわかっていても見ているだけというのは少々流儀に反するのですよ、弔君』
片手で首筋を掻きながらぼやく弔に、防御した体勢のままボイスチェンジャーを通したような機械的な音声で答える。
ボイスチェンジャーを使っているせいで性別も素性も分からないが、肘鉄を片手で難なく受け止めたエンブリオを相澤は要注意として記憶する。
蹴りを入れつつ距離を取り、捕縛布を投げて牽制する。
『おお、布ってこんな速度で投げられるんですね。驚きました』
「敵に褒められても嬉しくないな……それに、当然の如く避けながら言うのは挑発か?」
『まさか、そのような事は決して。私の手駒にそういう芸当が得意なモノはいませんし、それを目的とした手駒を作った事もありませんので』
自分の部下の事を仲間と言わずあくまで手駒と呼ぶエンブリオに相澤は多少の不快感を感じると同時に「手駒にする」ではなく「手駒を作る」という発言に疑問を覚えた彼は牽制を続けながら相手の情報を引き出そうとする。
「……手駒にするではなく手駒を作る、か。随分と悪趣味な言い方をするもんだな」
『ええ、だって
……ほら、まだ眠るには早いでしょう。早く起き上がってそこの人間を無力化しなさい』
エンブリオの言葉に従う様にさっきまで気絶していた筈の敵達が起き上がり始め、相澤に飛び掛かり始める。
知性の無い獣のような動きに相澤は顔を顰めて迎撃する。
『……おやおや、貴方達を理性のないレギオンにしたつもりは無かったのですが……少々弄りすぎましたかね?』
常人ならとっくに気絶していてもおかしくない攻撃を何発も受けても平然と動き続ける敵達とエンブリオの発言を受け相澤は何か細工をしたと理解する。
「お前、こいつらに何をした!?」
『何って……わかりませんか?気絶しない、骨を折られても問題ない、かつ人の姿をしたまま人を超えた身体能力を持つ生物……生物?アレを生物と呼んでいいんですかね?
まあ一応生命体は使われてるからセーフですかね。そんな感じの物をご存じないのですか?』
相澤は理解できないという様に首を振る。そんな生き物に覚えはない、とでも言いたげなジェスチャーに少し苛立ったようにエンブリオが弔の方を向く。
弔はまた首を掻き、気だるげに答えた。
「……はぁ……答えてもらえないからって俺に振るのはやめろ。ぶっちゃけて言うとお前の言い方じゃ伝わらないんだよ。
こいつが今操っているのはアンデッド或いはゾンビと呼ばれる存在だ、生物というよりは怪物の方が呼称としては近いからな」
『なんという事でしょう。まさかの生物呼びがいけなかったんですか。アレを生物と呼ばなければ何と呼べばいいのですか?』
「怪物だろ」
『辛辣ですねぇ……』
弔に冷たい対応をされたせいで目に見えて肩を落とすエンブリオに毒気を抜かれつつも相澤は身動きが取れないようにアンデッドと呼ばれた敵を縛る。
それを見て取った弔がエンブリオに問いを投げる。
「全く、先生が信頼してるからお前に手駒を頼んだのにあっさり手駒がやられてるじゃん。
何でもっと強いの連れてこなかったんだよ?」
『手持ちの素材を利用するより効率的だったので貴方が集めた人間を利用しましたが、時間が無かったので付け焼刃の理性を付けたホラーしか作れなかったのですよ。
お陰でブラウン管テレビみたいに脆いクソザコホラーになってしまいました。
……それに』
相澤が話している二人に捕縛布を投げる。
だがまっすぐに飛んで行ったその布は突如として空中で動きを止め、エンブリオが振り向きざまに腕を振った次の瞬間に細切れにされた。
『ここには私がいますので。
もっとも、実戦は久しぶりなので多少腕が落ちてるかもしれませんがね』
袖から極細の繊維、【単分子繊維】がその姿を見せた。相澤はその繊維が布を切断したのだろうと予測し、その鋭利さを警戒する。
特殊繊維入りの捕縛布を容易く切り裂く繊維など警戒対象以外の何物にもならない。
『あ、脳無は温存しててくださいね?万が一があっては困りますから』
「……うるさいなぁ、言われなくても分かってる。此処はお前に任せればいいんだろ?オールマイトが来るまでにそいつを殺すか何とかして無力化しとけ」
『はいはーい、了解しました。未来の帝王殿の仰せのままに』
目の前で交わされる会話から敵が死柄木を旗頭として活動していて、脳無と呼ばれる者が隠し玉である事が分かったが、相手は相澤を潰す気で来るらしい。
その場合あの切れ味の高い繊維をどうにかする事が先決だと読み、相澤はインファイトでの接近戦を挑む。
エンブリオが接近を拒むように振るった繊維を回避し肉薄する事で腕を振るいにくくする。
『なるほど、長物相手に間合いを詰めるのは確かに有効ですね』
エンブリオは繊維を投げ捨てて相澤の腹部を狙った掌底を片足を踏み出しながら左足を後ろに引いて半身になる事で受け流し、腰や足の動きで発生した運動量を余すことなく腕に伝え掌底に集めてカウンターを返す。
俗に言う中国拳法の技の一つ【発勁】と呼ばれる技術であり、エンブリオが成したカウンターは全体的に武術の心得のある人間の動きである、と接近戦に直接関係する個性ではない故に自身の身体を鍛えて敵を倒して来た相澤はその一撃で理解した。もう片方の手のひらで防いだが、発勁の衝撃が肩にまで響き、右手の橈骨に今すぐ使えなくなるほどではないが、ひびが入った事を相澤は直感する。
(発勁か……重心の移動から足から腕までの力の伝達まで無駄がない。武器を持っているし体格や無理に距離を詰めない戦い方から徒手格闘はあまり得意ではないと踏んだが……こいつ、格闘戦までこなしやがる。
震脚や身体の使い方から中国拳法は一通り修めてると考えた方がいいか?
小柄だが筋力はそこらの一般人よりずっとある。さっきから個性を抹消しているはずだが、何一つ変わらねぇ。これで素の身体能力って事か)
単分子繊維を捨てた事で再び防がれなくなった捕縛布を投げて捕まえようとするが、ここでエンブリオが初めて仕掛けてきた。
『ずっと受け身で戦うというのもつまらない物ですからね。今度は私が攻めに行きますよ』
布を躱しながら相澤の拳が届かないギリギリまで近づく。
そこで立ち止まり、周囲の縛られていたヴィランを自分の周囲に集めて左手を強く握り込んだ。それに呼応するように敵の身体が乱雑に丸められ、骨の折れた端が所々から飛び出た血の滴る棘玉が作り上げられる。
相澤は目の前で起こった人間の尊厳を鼻で笑うような行動に憤りを感じる。
その視線を知ってか知らずか、エンブリオは話し始めた。
『私の能力を一つ開示しましょう。
こちらでは「個性」と呼称されている特殊能力が存在していますが、私のそれは原理が多少異なるようでして。
一般的にESP、と呼ばれるものですが、その中でも私はテレキネシスに秀でています。その辺の物体を高速で投げ飛ばす事も出来れば、こんな風に丸めて潰す事も出来ます。
残念ながら生物には使えませんがね』
「チッ……胸糞悪い奴だ。既にその球体を構成してる奴は元々死んでいるから関係ないって事かよ」
舌打ちをする相澤に不思議そうにエンブリオは首を傾げる。
『いえ、私だって即席とはいえ自分の作品をこういう使い方するのは嫌いですよ?
ただ纏めた方が攻撃範囲が広がるのでそうしているだけです。だってこんな使い方してもパーツさえ残ってれば勝手に修復してくれますしね。
急造品でもその辺りの生命力は素直に認めてあげたいところです』
「……イカれてやがるな、お前」
嫌悪感を表すように相澤は顔を顰めて吐き捨てた。エンブリオは首を振ってその言葉に答える。
『ええ、イカれていますよ。
悲しいかな、私はとうの昔に全部壊れてしまったのです。
きっと、私達はわかり合えない。生きてきた常識が違い過ぎたのですから。
私は貴方を殺しに行く、貴方は私を止めに行く。それだけが今の私達の関係を表すのですから』
そう言ったところで流星の如く一つの閃光が山岳ゾーンの方向に流れて行った。
ダフネが撃った【Lia Fail】だ。僅かに顔を閃光の通った軌跡に向けて、微かに笑いを漏らす。
『
それでは、こちらも終いにしましょう』
その言葉と共に左手の拳を弾くように広げ、肉や骨の散弾が周囲にばら撒かれる。
味方にも飛び火しそうな一撃だ、と相澤は思いながら自身に向かってくる散弾をある時は叩き落とし、ある時は身を翻して回避する。
だが、気づけば散弾は左手を掲げたエンブリオを中心として相澤を逃がさない様に球状に回り始めていた。それらは地面に接触する度に地面を抉り取り、その破片を壁として取り入れていく。
次第に周囲の地面が割れ、大量の瓦礫が球形の壁へと集まっていき、彼女の手のひらの上に渦を形成した。
クラス「サイケデリック」の持つ敵味方関係なく巻き込む最凶の切札、元来は特化スキルである【破壊の渦】。
それが自己流にアレンジされ規模が強化された一撃はまさしく「破壊」の言葉が似合う瓦礫の渦となり、次第に一点へと収束し次の瞬間、圧力から解放され弾けるように力を受けた瓦礫達はエンブリオのいた場所を中心に、器用にも弔達を避けるように弾けた。
更新が遅れてしまい大変申し訳ありませんでした。
今回は初めて三人称視点の書き方をしたので文の構成に手間取ってしまいました。
ESPの暴力。
エンブリオさんはネクロマンサーですがESPが使えますから、これくらいの事はできるでしょう。
ぶっちゃけこれを書いてる時にどこかの学園都市一位が頭をよぎりました。やってる事空気を圧縮してるあの人と同じですね。
これに追加して絶対回避持ちってマジっすか。
自分で書いといてアレですけど、相澤先生がこれ喰らって無事でいられるんですかね。
次回、オールマイト、参戦(の予定)