ある所に、一人の男がいた。

 彼はかつて、大切な物を全て奪われた男であった。

 しかし、今はそれを取り戻すべく邁進し続けている。

 信頼できる仲間と、新しき力を手にして男は地獄より蘇えった。

 これは大切な物を取り戻すために抗う男の物語。

 その前日譚である。

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 今回はハイスクールDXDの短編となります。
 文字数は4000字程なので、割とあっさりと読めると思います。
 本当はヨルムンガンドの二次創作を書こうとしていたのですが、思ったより手間取っているので息抜きがてらに仕上げたこちらを投稿いたします。
 まぁ、前置きを長くしてもアレなので、この辺りで締めます。


 では、本編をどうぞ。



ハイスクールD×D-Crimson Vendetta

「じゃあな、もう帰ってくんなよ」

 

 そんな捨て台詞と共に、扉は閉められた。

 それを地べたに尻餅をつき、何処か呆然とした様子で見つめている男の子が一人。

 まるで現実が受け入れられないように暫くそうしていたが、やがてこれが事実だと理解したのか傍らに投げ捨てられていたボストンバッグを担ぐと家に背を向ける。敷居を跨ごうとした足が背後から聞こえてきた楽し気な声に一瞬止まったが、直ぐに歩き始めた。

 時刻は黄昏時、本来なら誰しもが家路につく時間帯。

 男の子のような年頃の子供なら、今頃は母親の作ってくれた温かい食事を待っている頃だろう。

 されど、それが叶うことは永遠にない。

 何故なら男の子は、生家を追い出されたのだから。

 

「あっ……!」

 

 薄暗い道をぼんやりと歩いていたので、躓いて転んでしまう。

 今までなら直ぐにでも立ち上がれたけれど、今はそんな気すら起きない。

 

「父さん、母さん……どうしてっ!」

 

 悔し涙がこぼれる。

 そんな男の子の気持ちを察してか、ポツポツと曇天の空から雨粒が落ち始めた。

 雨は徐々に勢いを増していき、やがては土砂降りとなって男の子の身体を冷たく叩く。直ぐにでも雨をしのぐ場所へ移動しなければ風邪をひき、重症化すれば肺炎を患ってしまうと分かっているのに身体に力が入らない。

 いっそのこと、このまま死んでしまうか。

 

(ああ、そうしたら父さんたち悲しんでくれるかな?)

 

 ネガティブな考えが浮かぶ。

 そうして暫く地面に倒れていると、急に降り注いでいた雨が止んだ。いや、雨自体は相も変わらず降り続いているが、何故か自分の真上だけ降っていないのだと男の子は気が付いた。遅れて誰かが頭元に立っているのも分かった。

 

「そんな所で寝ていたら風邪をひくぞ」

 

 のろのろと頭を上げる。

 見上げれば、そこに立っていたのは自分と同じか、少し上ぐらいの少年だった。傘を片手に持ちながら、自分を見下ろしている。その表情は心配しているというよりは、何してんだコイツと言いたげな表情だった。

 

「おーい、聞こえてるか?」

「……放っておいて、下さい。どうせ、誰も心配しないので」

 

 そういって、また地面に伏す。

 何もかもがどうでもいい男の子は、そのまま目を閉じてしまう。強い雨に打たれて体温は大分低下しており、自然と少年の意識は闇へと呑まれていく。

 

「おいおい、このまま放置して何かあったら俺のせいか? はぁ、これも何かの縁か」

 

 ため息を零し、倒れる男の子を肩に担ぎ、少年は帰路へとついた。

 

 

 

 

 

 目が覚めて、最初に見えたのは知らない天井だった。

 そして男の子は自分が上質なベッドの上にいることに気が付く。

 

「ここは……」

「ようやく目が覚めたか」

 

 不意に声を掛けられる。

 上半身を起こし、声のした方へと見ればそこにはあの時の少年が椅子に座っていた。

 

「あの、あなたは……」

「俺の名前は一条光だ。改めて宜しくな、兵藤一誠」

「あっ、はい……え、俺の名前」

 

 自分の名前を呼ばれ、男の子は驚く。

 少なくとも自分は彼に名乗った覚えがなかったからだ。

 

「悪いが荷物を調べさせてもらった。何せ、丸一日も寝ていたからな」

「そ、そうですか……丸一日!?」

 

 まさか自分がそんなに眠っていたと思わず、兵藤は素っ頓狂な声を上げる。

 

「ああ。お前を保護した後、一先ず俺の家に運んだんだ。そして着替えさせてからベッドに放り込んだが、一晩経っても目覚める気配がない。幾ら保護したとは云え、流石に誘拐と間違われたら困るから家の住所を荷物から調べた」

「家に……行ったんですか?」

「電話だと誤解されると思ったからな、直接赴いたが……随分とおかしな家だな?」

「っ!」

 

 兵藤は思わず、シーツを強く握りしめる。

 その様子に気が付きながら、一条は話を進める。

 

「話をしたら両親は驚いたが、何故かお前の兄貴が声を掛けると落ち着ついた。いや、あれは冷静さを取り戻したと言うよりも、まるで心配しなくなったように感じられた。聞くが、あれは本当にお前の兄貴か?」

「あんな奴、俺の兄貴なんかじゃない!!」

 

 激昂した様子で、兵藤は怒鳴っていた。

 

「成る程。聞かせてくれるか、お前の説明を」

「……俺には、兄弟なんていなかった」

 

 ぽつりぽつりと、兵藤は話を始めた。

 元々、兵藤家には子供は自分一人しか居なかった。少なくとも幼稚園児だった頃は、家族は自分と両親の三人だけだった。しかし小学校に入学した頃、気が付けば家に見知らぬ男児が居座るようになっていた。最初は近所の子か、親戚の子供なのかと考えていたが、まるで我が物顔のように暮らす男児に疑問を抱いた。

 そして両親に問うと、不思議そうにこう言った。

 

“何言ってるの、貴方のお兄ちゃんじゃない”

 

 最初、理解できなかった。

 今まで存在していなかった兄とやらが、突然現れたのだから。しかし両親に聞いても、近所の友達や学校の先生に幾ら訊ねてみても誰もがアレは自分の兄だと口にしていた。

 意味が分からなかった。

 まるで、ひどい悪夢でも見せられている気分だった。

 そして兄の存在を皮切り、兵藤の日常は徐々におかしくなっていった。

 先ず両親が兄を大切に扱うようになり、自分のことをぞんざいにし始めた。幾ら学校でいい成績をとっても決して褒めてはくれず、まるで興味がないかのような態度を取った。次に親しかった友人たちも一人、また一人と自分の傍から離れて兄の周りにいるようになった。決して悪いことをした訳ではないのに、誰も一緒に居てくれなくなった。そして先生までもが同じように変わり、誰も自分のことを相手にしない。

 まだ子供の頃に殴り掛かったこともあったけれど、それも目を合わせただけで一歩も動けなくなってしまった。まるで蛇に睨まれた蛙のように、兄から感じられる異様なまでのプレッシャーに敗北してしまった。

 そうして孤独に苛まれながら六年間を過ごしてきたと、兵藤は語った。

 

「成る程。それで、ついに家出を決意したのか?」

「家出じゃない。俺は家を……追い出されたんだ」

 

 小学校を卒業し、春になれば中学生となる。

 そうしたら新しい友達を作ろうと考えていた矢先、両親からとんでもない話をされた。

 

“一誠、あんた他県の学校に行く準備は出来てるの?”

 

 何のことか分からなかった。

 それが兄の暗躍によるものだと、後になって兵藤は気が付いた。どうやら兄は家から自分を追い出すために、他県の全寮制の学校に入学させる準備をしていたのだ。しかし気が付いた時には後の祭りとなり、昨夜ついに家を追い出された。

 

「お前は反対しなかったのか?」

「したさ。けど、誰も俺の言い分を聞いてくれない」

「調べものをしてくる。それでも食って休んでおけ。後、トイレは階段を降りて下にある」

 

 話を聞き終えると、そう言って一条は部屋を後にした。

 一人残された兵藤は、部屋の机の上に置かれた食事を取り、言われた通りに休んだ。

 

 

 

 

 

「おう、戻ったぞ」

 

 一条が帰ってきたのは、1時間ほど後のことだった。

 彼は手にしていた書類のようなものを、兵藤の座るベッドへと放り投げた。

 

「おかえり、なさい」

「早速だが兵藤、喜べ。お前に兄貴はいない」

「えっ!?」

 

 一条の言葉に、兵藤は驚く。

 今まで誰一人として信じてくれなかったのに、どうしてと思う。

 

「お前の兄を名乗る奴は抜けているな。病院にはお前の出産記録しかなかった。暗示か、それに類似する能力を使って兵藤の家に潜り込んだんだ。どうしてお前自身を両親と同じように自分の支配下に置かなかったかは分からないが。」

「じゃあ、本当に……」

「義兄ならぬ偽兄だな。それで、どうするんだ?」

「え、どうするって。アイツの嘘を暴いてやる――!」

「これまで誰一人としてお前の主張に耳を傾けなかったのにか? その偽兄の狙いが何かは分からないが、アイツはお前から立場を奪い取り家から遠ざけようとしている。断言してやるが、例え一矢報いようと包丁を片手に挑んだところで、お前は奴に傷一つ付けることは出来ず返り討ちにされるだろう」

 

 確かに一条の言う通りだろう。

 兵藤の偽兄を名乗る男の目的は分からないが、兵藤を孤立させようとしていたい。催眠術でも使ったかのように兵藤の周囲から味方を奪っていきのだ、ここで戻れば犯罪者に仕立て上げられる可能性もあった。

 

「……じゃあ、俺はどうしたらいいんだ」

「お前の前に示されている道は二つ」

 

 そういって一条は指を二本立てて見せる。

 一条は静かに、兵藤に残された選択肢を提示する。

 

「一つ目、諦めること。もう両親との絆を取り戻すことも、故郷の地を二度と踏みしめられないことも受け入れる。そうして遠く離れた地で生活するが、例え名前や経歴を偽ろうと本当の意味で幸福を手にするのは難しいだろう」

「……二つ目の、選択は?」

「もう一つは、抗うこと。今は未だ雌伏して時の至るを待ち、そして時が満ちた暁には牙を剥いて戦いを挑む。奪われたものを必ず取り戻すのだと心に誓い、決して諦めることなく、どれだけ傷付き倒れても立ち上がり続ける」

 

 好きな方を選べ、と最後に付け足す。

 前者は偽兄の影に怯えながら生きねばならず、後者はいつ終わるとも分からない戦いに身を投じることになる。

 

「俺は、喧嘩したことなんてない」

「それなら安心しろ。この俺が面倒を看てやる」

「あんたに習えば、勝てるのか?」

「それは覚悟と素質次第だな。お前が諦めない限り、俺は協力を惜しまない」

「だったら、俺は戦う!」

 

 確固たる決意を胸に、兵藤は告げる。

 その瞳には、燃え盛る炎のような強い覚悟が灯っていた。

 

「良いだろう。改めて言うが、過酷だぞ」

 

 そういって一条は右手を差し出す。

 そこへ自らの手を叩きつけるように、兵藤は強く握った。

 

「ああ、やってやる!」

 

 ここに契約は交わされた。

 

 本来であれば、最強の赤い龍と称される男の未来は今はもうない。

 

 もはや本史の結末へと回帰することは、誰にも叶わないだろう。

 

 だが、主人公とは力を奪われたからとて、資格を失う訳ではないのだ。

 

 壇上から一度は退いたとしても、ヒーローは再び舞台へと舞い戻ってくる。

 

 あらゆる運命が複雑に絡み合い、未来へと紡がれていく。

 

 全てはこれより四年の後、闘争の渦たる悪魔の街より幕を開ける。

 

 さぁ、逆襲劇を始めよう。

 

 




 短いですが、如何でしょうか。
 内容的には何番煎じだよ、となってしまう転生者により居場所を奪われてしまった兵藤一誠の物語の序章になります。前回のBLEACHもそうですが、今回のも前から設定は練っているが、書き切るほど時間も気力もないので短編という形を取っています。
 希望があれば、書こうとは思いますが。

 閑話休題。
 作中、病院の記録という部分がありますが、本当の所は知りません。軽くしか調べていないので、本当に病院で出生記録が残っているのかは分かりません。それはご了承ください。

 最後に今回は私の作品を読んでいただきありがとうございます。
 もし縁があったのなら、また私の作品を読んでいただけたら幸いです。

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